木走日記

場末の時事評論

IAEA基本安全原則を守ることができない国に原発再稼働する資格はない

 大飯原発を再稼働する旨の野田首相の会見がなされました。

 現時点で日本は原発を再稼働する資格はあるのか、ここは原点に戻って考えてみたいです。

 ここに独立行政法人原子力安全基盤機構が邦訳したIAEA基本安全原則のPDFファイルが公開されています。

IAEA基本安全原則(IAEA Safety Fundamentals)
http://www.jnes.go.jp/content/000013228.pdf

 ここには国際的に守られるべき原子力発電施設の安全に対する基本的な10の原則が定められています。

 一番目の原則がこれです。

原則1:安全に対する責任

安全のための一義的責任は、放射線リスクを生じる施設と活動に責任を負う個人または組織が負わなければならない。

 原発の安全の一義的責任は事業者が負わなければならないとはっきりと明言されています。

 安全の取り決めをするのに一番にその責任の主体を定義するのは当然ですが、はたして東京電力福島第一原発事故の責任を一義的に負っていると言えるでしょうか。

 東京電力の会長、社長、経営幹部、社員、あるいは東電に莫大な融資をしてきたメガバンク、株主、東電及び関連するステークホルダー達の誰一人、責任追及がなされていません。

 逆に政府は東電を破産させず税金を投入して救済してしまいました、責任の所在はますますあいまいになり、税金と電気料金値上げにより、国民と東電利用者だけが尻拭いをさせられています。

 この国の政府・事業者はIAEA基本安全原則の第一の原則「安全に対する責任」から守っていないのです。

 再稼働をして将来(おそらく野田さんはもう総理大臣にいないでしょう)、万が一事故が起きた場合、誰がどう責任を取るというのでしょうか?

 原則の2番目。

原則2:政府の役割

独立した規制機関を含む安全のための効果的な法令上及び行政上の枠組みが定められ、維持されなければならない。

 この国で「独立した規制機関を含む安全のための効果的な法令上及び行政上の枠組みが定められ、維持され」てこなかったのは明白です。

 規制を受ける電力会社も、規制する原子力安全・保安院経産省の管轄で「独立した規制機関」とはとても言えなかったのは、「全電源喪失」の可能性を否定してきたザル検査が今回の事故を誘引したことでも自明です。

 その反省から真の独立した規制機関を作らねばなりませんが、国会では関連法案審議すらいまだ進んでいません。

 第二の原則「政府の役割」もまったく守られていません。 

 原則の3番目。

原則3:安全に対するリーダーシップとマネジメント

放射線リスクに関係する組織並びに放射線リスクを生じる施設と活動では、安全に対する効果的なリーダーシップとマネジメントが確立され、維持しなければならない。

 今回の福島第一原発事故において、「安全に対する効果的なリーダーシップとマネジメントが確立され、維持」されたとはお世辞にもいえません。

 政府も認めている通り、事前に想定していた事故対策マニュアルはほとんど役に立ちませんでした。

 原則の4番目。

原則4:施設と活動の正当化

放射線リスクを生じる施設と活動は正味の便益をもたらすものでなければならない。

 10万を越える避難民が発生し多額の賠償費用が予想される中、この地震国、日本で原子力発電が「正味の便益をもたらす」施設とはたしていえるのか、この原則も極めて疑わしいものです。

 原則の7番目。

原則7:現在及び将来の世代の防護

現在及び将来の人と環境を放射線リスクから防護しなければならない。

 逆に福島の現状は「現在及び将来の人と環境を放射線リスクから防護」することに失敗したと表現してよいでしょう。

原則8:事故の防止

原子力または放射線の事故を防止及び緩和するために実行可能な全ての努力を行わなければならない。

 はたして各電力会社で、「事故を防止及び緩和するために実行可能な全ての努力を行わ」れてきたと言えるのでしょうか。

 一部の学者が東北地方の巨大津波の発生可能性を指摘してそれを東電・保安院側に勧告していたにもかかわらず、東電。保安院側は具体的対策を怠ってきました。

 最後に9番目の原則。

原則9:緊急時の準備と対応

原子力または放射線の異常事象に対する緊急時の準備と対応のための取り決めを行わなければならない。

 福島第一事故の教訓を生かし、最新の科学的知見も取り入れて、「原子力または放射線の異常事象に対する緊急時の準備と対応のための取り決め」は行われているのでしょうか。

 万が一原発放射線漏れ事故があった場合、地元民には誰がいつどうやってどこに避難誘導するのでしょうか。

 IAEAはどちらかといえば原発推進の国際機関です。

 そのIAEAの安全原則ですら、上記のように事故は必ず起こるものとして定められているのです。 

 それなのに野田首相は「事故は起こらない」と言い切るのです。

 ・・・

 ここは原点に戻りましょう。

 原発事故の責任を誰も取らない、独立した規制機関が機能していない、原発施設と活動が正味の便益をもたらしていない、などなど、
現状の日本はIAEA基本安全原則をほとんど守ることはできていません。

 基本的な安全原則を守ることができない国に原発再稼働する資格はあるのでしょうか?



(木走まさみず)