木走日記

場末の時事評論

IAEA調査団にハッキリ駄目出しされた東京電力の危機管理能力〜「東電には不具合を迅速に突き止める能力とそれに対応する能力がない」

 東京電力福島第一原子力発電所廃炉に向けた取り組みを調べていた国際原子力機関IAEA)の調査団(団長はファン・カルロス・レンティッホ核燃料サイクル・廃棄物技術部長)は22日、増え続ける汚染水の管理が「最大の難題」として、より信頼性の高いシステムを採用するよう求めた報告書の概要版を日本政府に提出いたしました。

 さっそく各メディアが一斉にこれを報道しております。

福島第一「最大の難題」は汚染水管理…IAEA
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130422-OYT1T01165.htm
福島第1原発汚染水問題 IAEA調査団、報告書案を政府に提出
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20130423-00000630-fnn-bus_all
汚染水問題「戦略見直すべきだ」 IAEA調査団長指摘
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130422/dst13042219500008-n2.htm
汚染水「最大の課題」 IAEA原発廃炉検証
http://www.minpo.jp/news/detail/201304238009

 うむ、福島第一では、地下水流入で汚染水は毎日400トンずつ増加しています。タンクと地下貯水槽の保管容量は約33・1万トンですが、貯蔵量は現在で約28万トンを越えており残り約5万トンしか余裕はありません、このうち、貯水槽は、これは地下を掘り込み漏水防止用のシートを三重に敷いているのですが、汚染水の漏えいが発覚し使用できなくなっております。

 敷地内で汚染水に満たされた1000トンタンクが延々と続いているのを視察したファン・カルロス・レンティッホIAEA調査団団長が、「福島第一の最大の難題は汚染水管理」(読売記事)であり、「汚染水問題の戦略を見直すべきだ」(産経記事)と鋭く指摘したのも当然なのではありましょう。

 レンティッホ団長は、「汚染水の量を減らすためには、原子炉建屋などへの流入ルートをふさぐことが唯一の方法」(福島民報記事)との認識を示していますが、東電によれば現場の放射線量が高く地下水流入を止めることは現時点で全く実現の目処が立っていないのであります。

 日本のメディアは何故か注目していませんが、IAEA調査団の会見で注目すべきは、かなり明確な言葉で東京電力の危機管理能力が駄目出しされていることです。

 「(東電は、)不具合を迅速に突き止める能力と、対応する能力が必要だ」(フジテレビ・FNN記事)

 この「不具合を迅速に突き止める能力」とそれに「対応する能力」が「必要だ」というIAEA調査団のわざわざの発言は、現状ではその能力が東京電力にないことを、暗に強調しているわけですね、これは国際機関の専門家からの小学生でもわかるレベルでの、東電への駄目だし・警鐘と判断してよいでしょう。

 少なくとも汚染水処理においては、東電は不具合を突き止める能力とそれに対応する能力が無いとIAEA調査団に駄目だしされているわけです。

 ・・・

 この福島第一における放射能汚染水の対処問題での東京電力の対応のゆるさ・まずさ・いいかげんさに関して、重大な警鐘を鳴らしている大学教授の科学的問題提起を示しておきましょう。

 そもそもですが、福島第一原発事故の復旧作業においては、まず事故を起こした原子炉を十分に安全になるまで大量の水で冷やし続けることが肝心です。

 東電は溶融した260トンの核燃料を取り除くことが可能になるまで放射能レベルが低下するには8年かかるとみていますが、米スリーマイル島原発事故では核燃料を取り出すまでに10年以上かかっています、同事故では原子炉1基で部分的なメルトダウン炉心溶融)が起きたが、核燃料の量は福島第一原発の5分の1程度でした。

 冷却作業が完了する時期がいつになるか、東電は現時点で正確な工程表は示せていませんがこれからも長い月日を要することは間違いありません。

 原子炉を冷却した大量の水は当然ながら放射能汚染されますから、除染処理をしない限り海など外部に投棄することはできません。

 そこで東電は一度原子炉冷却に使用した放射能汚染水を、除染処理を施しながらサイクリックに何度も再利用することにより、放射能汚染水が増えることを防ぐことを計画していました。

■図1:放射能汚染水を、除染処理を施しながらサイクリックに何度も再利用(計画)

 しかしこの理想的な除染計画はご存知のとおり現在破綻しています。

 冷却している原子炉に地下水が毎日400トンも流れ込み、汚染水が増え続けているからです。

 そこで東電は大量に流れ込んでくる地下水の一部(αトンとしておきましょう)を冷却水として使用しつつ、結果として一日当り400トンの高濃度汚染水を溜め続けることに結果としてなりました。

■図2:流入する地下水を利用しながら冷却、発生する高濃度汚染水はタンクに溜め込む(現状)

 東電の説明によれば、一つあたり1000トンのタンクが2日半でいっぱいになるという状況であり、高さ十数メートルある容量1000トンのタンクを施設内に次々に増築するも、汚染水の量はすでに27万トンに上り、敷地内にタンクを設置できる限界が2年後に来る、仮にタンクを増やし続けても、あと2年で汚染水があふれる状況にあります。

 さて、ここで当然ながら地下に亀裂が入り大量の地下水が流入している原子炉建屋ですが、流入だけではなくて逆に、高濃度汚染水の地下への流出は全く無いのか、という、当たり前の工学的疑問がおこるわけです。

 例えば河口湖の水位が最近下がって話題になっていますが、河口湖の水位が下がっているのは、河口湖への水の流入量が河口湖からの流出量よりも少ないから結果として水位が下がっているだけです。

 同様に毎日400トンの汚染水をタンクに溜め込んでいる事実だけでは、原子炉建屋への地下水の流入量から建屋から汚染水の流出量を引き算した結果が400トンであることを示しているに過ぎません。

 つまり一定量(βトンとしておきましょう)の高濃度汚染水の流出が発生している可能性は否定できません。

■図3:実は汚染水が一定量流出している可能性がある(推測)

 この推測は決して非科学的ではないし、逆に土木工学的には流出が0リットルで全く無いことのほうが考えづらいでしょう。

 そして現に海洋環境学を専門にしている大学の教授が、実は汚染水は漏れ続けているのではないのかと、まさにこの問題を科学的に問題提起をしているのです。

 3月25日付け共同通信記事から。

【福島第1原発の現状】セシウム17兆ベクレル海へ流出か 原発港湾内濃度から試算

東京電力福島第1原発の港湾内で海水の放射性セシウムの濃度が下がりにくい状態が続いていることに関し、汚染水の海への流出が止まったとされる2011年6月からの約1年4カ月間に、計約17兆ベクレルの放射性セシウムを含む汚染水が海に流れ込んだ恐れがあるとの試算を、東京海洋大神田穣太 (かんだ・じょうた) 教授がまとめた。
 東電は、11年4月に1週間で意図的に海に放出した汚染水に含まれる放射性物質の総量を、約1500億ベクレルと推計しているが、その100倍以上に当たる。
 神田教授は「現在も地下水や配管を通じて流出が続いている可能性がある。すぐに調査すべきだ」と指摘。これに対し東電は「11年6月以降、大規模な汚染水の流出はない」とした上で「放射性物質を拡散させない対策をしているため、港湾内の濃度が下がらないのでは」と反論している。
 神田教授によると、港湾内の放射性セシウム137の濃度は、11年6月〜12年3月にかけて下がったが、12年4月以降は下落傾向が鈍くなった。
 東電が発表した11年4月のデータを基に、港湾内の海水の44%が1日で湾外と入れ替わると推定。11年6月1日〜12年9月30日の放射性セシウム濃度になるには、計約17兆1千億ベクレルが新たに流出したことになるとした。1日当たり81億〜932億ベクレルとなる。
 (2013年3月25日、共同通信
http://www.47news.jp/47topics/e/239528.php

 この神田教授の「現在も地下水や配管を通じて流出が続いている可能性がある。すぐに調査すべきだ」との指摘に対し、東電は「11年6月以降、大規模な汚染水の流出はない」とした上で「放射性物質を拡散させない対策をしているため、港湾内の濃度が下がらないのでは」と反論、今日に至るまでまったく調査しようとはしていません。

 たとえ漏れている現場が放射能が高くて人が踏み込めなくとも、漏れているかどうか科学的に検証可能の方法があるのにもかかわらず、結果を検証しようとする努力を怠っているのです。

 例えば、2年前に東電自身が実験した(そのときは失敗してしまいましたが)方法です。

 11年4月4日付け当時の日経記事から。

福島原発、汚染水止まらず 入浴剤使い出元確認へ
2011/4/4 10:34 (2011/4/4 12:01更新)

 東京電力は4日午前、福島第1原子力発電所2号機のタービン建屋近くの立て坑に乳白色の入浴剤を投入した。取水口近くのピットから放射性物質に汚染された水が海に流れ出ており、吸水性樹脂などを使って止水を試みたが効果が出ていないため、汚染水の出元を調べることにした。

(後略)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG04007_U1A400C1MM0000/

 2年前、汚染水が海洋に漏れ出しているかどうか、当時東京電力バスクリン、それも目立つ緑色ではなく地味で目立たない乳白色のほうを、投入して確認しようとしています、これは入浴剤を使用すると稚拙な手法のためか結果的には失敗しています。

 バスクリンではなく、土木現場で漏水チェックに用いている、漏水調査用生分解性蛍光トレーサー染料を適切に使用すれば、漏水の有無は正確に確認できるはずです。

水文調査・漏水調査用生分解性蛍光トレーサー染料(錠剤)
http://www.technointer.com/GroundwaterEquipments/equipments/ProductsDetail/TracerDyes/DyeTablets.html

 このような簡単な検証手法があるにもかかわらず、なぜ東京電力は神田教授の「現在も地下水や配管を通じて流出が続いている可能性がある。すぐに調査すべきだ」という重要な問題提起に真摯に応えようとはしないのでしょうか。

 まさに、IAEA調査団の指摘どおり、東京電力には、「不具合を迅速に突き止める能力」とそれに「対応する能力」がない、と言えるのではないでしょうか。




(木走まさみず)