木走日記

場末の時事評論

恐るべき世論調査の法則『支持率20%はこの国の政権のイベント・ホライゾン』〜それを越えたら生きて生還したモノはいないことを徹底検証

 さて、26日付け読売新聞紙面では、読売が実施した全国世論調査結果を一面で掲載しています。

内閣支持が最低43%…不支持49%、初の逆転
2015年07月26日
http://www.yomiuri.co.jp/feature/TO000302/20150726-OYT1T50098.html?from=yartcl_popin

 ほぼ各社の世論調査結果が出そろいましたが、安倍内閣の支持率が急落、内閣発足以来最低(40%前後)を記録し、不支持率が支持率を逆転、もしくは均衡したという結果で、ほぼ世論調査の結果が一致しています。

(参考記事)

内閣支持、最低の40.1%=安保法案「説明不十分」7割−時事世論調査
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201507/2015071700568

 さて、内閣支持率が急落した安倍政権ですが、今回は少し脱線しまして、歴代政権の内閣支持率の推移と最低支持率と政権転覆の相関に関して徹底的に数字で検証いたしましょう。

 さいわい時事通信社は調査開始した1960年7月以来内閣支持率を55年間毎月報じております、統計的分析をするには一番扱いやすいので、この時事通信社世論調査の数字に基づいて過去55年間のこの国の歴代政権について検証していきます。

 さて検証作業は徹底的につまりダラダラ続きますのでお時間がない読者は後半の「■まとめ」まで読み飛ばしていただいてけっこうです。

 では、まいりましょう。

 ・・・



■過去10年内閣支持率推移徹底検証〜小泉政権と第一次・第二次安倍政権に共通している特徴

 さて、過去10年(2005年8月〜2015年7月)の内閣支持率の推移を徹底検証しましょう。

 この国には過去10年には自民系と民主系の8つの政権がありました。

 在職期間と最低支持率でまとめてみます。

政権 (在職期間) 最低支持率 (最低支持率記録年月)
小泉政権 (2001.05〜2006.09) 34.0% (2002.04)
安倍政権(1) (2006.10〜2007.09) 22.6% (2007.08)
福田政権 (2007.10〜2008.09) 15.6% (2008.09)
麻生政権 (2008.10〜2009.09) 13.4% (2009.09)
鳩山政権 (2009.09〜2010.05) 19.1% (2010.05)
菅政権 (2010.06〜2011.08) 12.5% (2011.07)
野田政権 (2011.09〜2012.12) 17.3% (2012.11)
安倍政権(2) (2013.01〜       ) 40.1% (2015.07)

 10年間で8つの政権とは、この国の政権がいかに短命であるのか嘆かわしいことでありますが、それはともかく10年間8政権の毎月の政権支持率120カ月をいっきにトレースいたしましょう。

 まずは小泉政権19か月。

小泉政権
2005年1月,40.6
2005年2月,36.5,●最低(この期間における最低支持率、以下同様)
2005年3月,37.9
2005年4月,39.6
2005年5月,42.3
2005年6月,40.4
2005年7月,38.0
2005年8月,39.9
2005年9月,53.5
2005年10月,53.5
2005年11月,53.2
2005年12月,51.2
2006年1月,49.7
2006年2月,43.2
2006年3月,47.1
2006年4月,43.9
2006年5月,44.5
2006年6月,40.6
2006年7月,41.6
2006年8月,39.4
2006年9月,43.2

 うむ、5年5か月に及ぶ長期政権の末期なわけですが、期間最低支持率は2005年2月の36.5%であります、小泉政権、実は5年5カ月に在職期間中の最低支持率も2002年4月の34.0%であります、安定した支持が最後まで続いていたんですね。

 次、第一次安倍政権12か月。

★第一次安倍政権
2006年10月,51.3
2006年11月,51.4
2006年12月,41.9
2007年1月,40.7
2007年2月,34.9
2007年3月,34.7
2007年4月,40.6
2007年5月,28.8
2007年6月,28.8
2007年7月,25.7
2007年8月,22.6●最低
2007年9月,25.5

 うむ、最低支持率は、お腹を痛めておやめになる前の月、2007年8月の22.6%でありました。

 次、福田政権12か月。

★福田政権
2007年10月,44.1
2007年11月,41.3
2007年12月,40.1
2008年1月,34.5
2008年2月,32.5
2008年3月,30.9
2008年4月,27.6
2008年5月,19.9
2008年6月,19.1
2008年7月,21.1
2008年8月,23.6
2008年9月,15.6●最低

 うむ、2008年9月に15.6%と最低支持率を記録して辞職と相成りました。

 次、麻生政権12か月。

★麻生政権
2008年10月,38.6
2008年11月,38.8
2008年12月,16.7
2009年1月,17.8
2009年2月,16.4
2009年3月,17.6
2009年4月,25.2
2009年5月,26.3
2009年6月,24.1
2009年7月,16.3
2009年8月,16.7
2009年9月,13.4●最低

 うむ、福田政権同様、おやめになる月に13.4%と最低支持率を記録しております。

 さて、民主党政権となります、鳩山政権8カ月。

★鳩山政権
2009年10月,60.6
2009年11月,54.4
2009年12月,46.8
2010年1月,47.1
2010年2月,35.7
2010年3月,30.9
2010年4月,23.7
2010年5月,19.1●最低

 やはりおやめになる月に19.1%と最低支持率を記録しております。

 次、菅政権15か月。

★菅政権
2010年6月,41.2
2010年7月,31.8
2010年8月,36.0
2010年9月,45.6
2010年10月,39.2
2010年11月,27.8
2010年12月,21.0
2011年1月,21.3
2011年2月,17.8
2011年3月,18.9
2011年4月,20.5
2011年5月,21.9
2011年6月,21.9
2011年7月,12.5●最低
2011年8月,13.3

 やめる前の月に12.5%と最低支持率を記録されています。

 そして野田政権16か月。

★野田政権
2011年9月,50.1
2011年10月,42.2
2011年11月,35.5
2011年12月,32.4
2012年1月,28.4
2012年2月,24.9
2012年3月,27.4
2012年4月,21.7
2012年5月,23.3
2012年6月,24.3
2012年7月,21.3
2012年8月,19.8
2012年9月,23.4
2012年10月,23.4
2012年11月,17.3●最低
2012年12月,18.2

 やはり、やめる前の月に17.3%と最低支持率を記録されています。

 最後に安倍現政権31か月。

★第二次安倍政権
2013年1月,54.0
2013年2月,61.4
2013年3月,61.4
2013年4月,62.1
2013年5月,60.2
2013年6月,57.4
2013年7月,53.6
2013年8月,54.2
2013年9月,61.3
2013年10月,55.8
2013年11月,56.6
2013年12月,47.1
2014年1月,52.6
2014年2月,53.7
2014年3月,48.1
2014年4月,50.1
2014年5月,51.1
2014年6月,51.0
2014年7月,44.6
2014年8月,43.5
2014年9月,50.7
2014年10月,47.9
2014年11月,45.5
2014年12月,45.4
2015年1月,47.2
2015年2月,47.4
2015年3月,47.7
2015年4月,45.6
2015年5月,48.0
2015年6月,45.8
2015年7月,40.1●最低

 ・・・

 さて直近120カ月、8つの政権の支持率をトレースいたしましたが、検証した通り、

 小泉政権と第一次・第二次安倍政権を除いては、すべて最低支持率20%を割り込み「玉砕」と相成っております。

 この10年歴代政権で支持率20%割れというこえてはいけない一線を越えてしまった5つの政権はすべて内閣崩壊という「玉砕悲劇」を一年以内に迎えています。

 最初に支持率20%割れしてから政権が「玉砕」するまで、福田政権4か月、麻生政権9か月、鳩山政権0か月、菅政権6か月、野田政権4か月と、例外なく1年以内に政権は倒れています。

 例外として、小泉政権と第一次・第二次安倍政権においては共通して支持率20%割れを起こしていないわけです。

 ・・・


■過去55年内閣最低支持率徹底検証〜恐るべき法則『支持率20%はこの国の政権のイベント・ホライゾン

 さて、時事通信社世論調査を始めた1960年7月以降の55年間で上記のようなデータの徹底検証をした結果、表にまとめてみました。

 55年間26政権はこちら。

内閣 (在職期間) 最低支持率 (最低支持率記録年月)
池田内閣 (1960.07〜1964.10) 31.1% (1964.07)
佐藤内閣 (1964.11〜1972.06) 17.3% (1972.06)
田中内閣 (1972.07〜1974.11) 10.6% (1974.11)
三木内閣 (1974.12〜1976.12) 19.4% (1976.12)
福田内閣 (1977.01〜1978.11) 22.7% (1978.06)
大平内閣 (1978.12〜1980.06) 20.9% (1979.10)
鈴木内閣 (1980.08〜1982.11) 15.8% (1982.11)
中曽根内閣 (1982.12〜1987.10) 24.7% (1987.04)
竹下内閣 (1987.11〜1989.05) 04.4% (1989.05)
宇野内閣 (1989.06〜1989.07) 10.1% (1989.07)
海部内閣 (1989.08〜1991.10) 27.5% (1989.08)
宮沢内閣 (1991.11〜1993.07) 10.3% (1993.07)
細川内閣 (1993.08〜1994.04) 46.2% (1994.04)
羽田内閣 (1994.05〜1994.05) 40.9% (1994.05)
村山内閣 (1994.06〜1995.12) 28.1% (1995.11)
橋本内閣 (1996.01〜1998.07) 23.4% (1998.07)
小渕内閣 (1998.08〜2000.03) 19.4% (1998.11)
森 内閣 (2000.03〜2001.04) 09.6% (2001.04)
小泉内閣 (2001.05〜2006.09) 34.0% (2002.04)
安倍内閣(1) (2006.10〜2007.09) 22.6% (2007.08)
福田内閣 (2007.10〜2008.09) 15.6% (2008.09)
麻生内閣 (2008.10〜2009.09) 13.4% (2009.09)
鳩山政権 (2009.09〜2010.05) 19.1% (2010.05)
菅政権 (2010.06〜2011.08) 12.5% (2011.07)
野田政権 (2011.09〜2012.12) 17.3% (2012.11)
安倍政権(2) (2013.01〜       ) 40.1% (2015.07)

 このうち最低支持率が20%割れした政権は半分強の14政権。

内閣 (在職期間) 最低支持率 (最低支持率記録年月)
佐藤内閣 (1964.11〜1972.06) 17.3% (1972.06)
田中内閣 (1972.07〜1974.11) 10.6% (1974.11)
三木内閣 (1974.12〜1976.12) 19.4% (1976.12)
鈴木内閣 (1980.08〜1982.11) 15.8% (1982.11)
竹下内閣 (1987.11〜1989.05) 04.4% (1989.05)
宇野内閣 (1989.06〜1989.07) 10.1% (1989.07)
宮沢内閣 (1991.11〜1993.07) 10.3% (1993.07)
小渕内閣 (1998.08〜2000.03) 19.4% (1998.11)
森 内閣 (2000.03〜2001.04) 09.6% (2001.04)
福田内閣 (2007.10〜2008.09) 15.6% (2008.09)
麻生内閣 (2008.10〜2009.09) 13.4% (2009.09)
鳩山政権 (2009.09〜2010.05) 19.1% (2010.05)
菅政権 (2010.06〜2011.08) 12.5% (2011.07)
野田政権 (2011.09〜2012.12) 17.3% (2012.11)

 これらの内閣の崩壊時期と最低支持率記録時期を比較すると、興味深いことに直近10年で検証した法則が1政権を例外に見事に成立しております。

 すなわち、任期途中で死去された小渕内閣を除いては、一度20%割れするとその一年以内に内閣は確実に倒れていることがわかります。

 そして悲惨なのは小渕内閣を除いては、やはり転がる石のように支持率は低迷し続け辞任する直前月(またはその前月)に最低支持率を記録し内閣が倒れているわけです。

 最初に20%割れしてから1年近く粘る森政権のような猛者(もさ)もいれば、20%割れしたその月に政権を潔く手放した三木政権まで、末期を迎える時間には政権により差がありますが、池田内閣以来過去55年のこの国の政権は、一度20%割れすると余命一年ないことがわかります、最近の政権も例外ではありませんです。

 ・・・

■まとめ

 過去55年この国の26の政権についてその内閣支持率について検証いたしました。

 結果、任期中に死去された小渕政権を例外とすれば次の事実が成立します。

 1.一度20%割れした政権は余命1年ない。
 2.一度20%割れした政権は、その後末期までの期間に差はあるものの、ころがる石のように支持率は低下していき、最後最低支持率を記録して末期を迎える。

 この宇宙には光でさえ吸い込まれる「ブラックホール (Black hole)」があります。そしてブラックホールの周りにはここから先は近づいたら最後、二度と戻ることはできない「事象の地平面 (event horizon)」があります。

 ところで実際のブラックホールはもしそれがある程度大きいと、そばを航行中のロケットの宇宙飛行士はそれに気付かず「事象の地平面 (event horizon)」を越えてしまうことがあるそうです。

 そこに明確な線が見えているわけでもない、ですがいったん超えてしまえば後はブラックホール中心の特異点に吸い込まれていくだけです、どうあがこうとこちら側に戻ってくることは不可能なのだそうです。

 過去55年のデータで検証するかぎり、支持率20%も「事象の地平面 (event horizon)」に似ているかも知れません。

 この55年歴代政権で支持率20%割れという「事象の地平面 (event horizon)」を越えた政権はすべて内閣崩壊という「ブラックホール (Black hole)」に吸い込まれています、生きて生還したモノはいませんです。

 ・・・

 安倍政権の支持率の今後については予断を許しませんが、一つだけ言えることは、支持率40%前後を確保している現状から、さらに支持率が半減するような事態になれば、恐るべき法則『支持率20%はこの国の政権のイベント・ホライゾン』が発動するやもしれません。



(木走まさみず)