木走日記

場末の時事評論

日本はアメリカの「グレート・ギャツビー・カーブ」に追従してはならない〜アメリカ主導のネオリベ政策とは決別すべき

 2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンが15日付けでニューヨークタイムズ紙(NYT)に興味深いコラムを載せています。

 記事の図を紹介。

The Great Gatsby Curve

http://krugman.blogs.nytimes.com/2012/01/15/the-great-gatsby-curve/?smid=tw-NytimesKrugman&seid=auto

 このグラフの横軸はジニ係数、社会における所得分配の不平等さを測る指標であり「不平等の尺度」で0から1の間の小数値になり、0ならば完全な所得平等を示し1に近づくほど格差が顕在している社会で、社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4であると言われています。

 図で見る限りアメリカは近年急速に0.4に近づいていることが理解できます。

 一方、縦軸には所得の世代間の弾力性の指標が使われています、これは父親の収入が1%上昇するとその子供の予想される収入にどの程度影響するかを示す指標で、この数値が高いほど格差が次世代に渡り固定化している、すなわち社会的流動性が低くなっていることを示します。

 この縦軸においてもアメリカは近年急速に社会的流動性(social mobility)が失われつつあることが示されています。

 近年、アメリカは急速に所得格差が拡大され、なおかつそれが固定化されつつあることをこの図は示しており、アラン・クルーガー大統領経済諮問委員会議長は、図中の赤いカーブで示されたこのアメリカにおける社会的流動性の低下を「グレート・ギャツビー・カーブ」と名付けています。

 図で見るとアメリカのほかにもともと階級社会である英国も社会的流動性が低いことがわかりますが、近年日本も横軸のジニ係数においては英仏並にじりじりと係数を上げており、0.3を超えていることが見て取れます。

 アメリカ合衆国では「アメリカの夢(アメリカン・ドリーム)」がまさに夢物語として過去のものになりつつあるということです。

 低所得の家庭に生まれた子供が最も裕福なアメリカ人になる機会は100に1つしかありません。

 反対に、豊かなアメリカ人の「後継者」の22%は豊かなままに留まることが可能です。

 一方、中流階級の子供たちは、両親の生活水準よりも下の水準になる方が(39.5%)、収入段階が上昇する(36.5%)場合よりも多いということです。

 今アメリカでは日本以上に中流家庭の崩壊が進んでおり、まさに「1%の勝者と99%の敗者」という構図に近づいているということでしょう。

 アメリカにおいて格差の固定化が進行している原因のひとつは、市場原理主義の経済思想に基づき、低福祉、低負担、自己責任を基本として小さな政府を推進してきた「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策にあると指摘されています。

 富裕層や大企業に対する行き過ぎた減税も、税と社会保障による富の再配分効果を決定的に弱めてしまい、また世界的規模のグローバル競争は企業に労働者の所得を押さえ込む「正当な理由」を提供してきました。

 日本がアメリカの轍を踏まないためには、日本政府は国家の意思として二つの政策を断固打ち立てなければなりません。

 ひとつは税と社会保障による富の再配分の確立と、もうひとつは幼年期少年期の教育・福祉等の徹底的な機会平等の実践です。

 歴史を紐解けば、生まれながらに将来の可能性が固定される「不平等」な階級固定社会は、必ず衰退をしています。

 社会全体を向上させるような活力が生まれないからです。

 今アメリカの経済構造は瀕死の状態だといえます。
 アメリカが主導してきた「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策はその限界性を明確に露呈し始めています。
 格差を生みそれを固定化する「新自由主義」(ネオリベラリズム)的政策から決別すべきです。
 日本は「グレート・ギャツビー・カーブ」に追従してはなりません。
 アメリカの後を追うことは地獄への道です。



(木走まさみず)