木走日記

場末の時事評論

経済規模2.5%のギリシャがユーロ圏の将来を左右する

 27日付け朝日新聞記事から。

ギリシャ、警官も政府に抗議 給与削減に反対

 ギリシャ政府の財政緊縮策を批判する長さ30メートルの幕が26日、アテネ中心部の丘に掲げられた。デモを鎮圧する側の警官たちが、給与削減に反対して掲げたという。

 財政危機に陥っているギリシャへの追加融資に向け、欧州委員会国際通貨基金IMF)、欧州中央銀行(ECB)の代表が今週、アテネを訪れる。財政赤字を減らすよう求められているギリシャ政府は、21日に新たな策を発表したが、景気がさらに冷え込むとして、国民からは反発の声が上がっている。

 26日にはアテネ市内の地下鉄や路面電車が終日ストに入り、中心部は激しい渋滞に陥った。28、29の両日にはタクシー労組が48時間ストの予定で他の公共交通機関に拡大される可能性もあり、市民生活や観光業への影響は深刻だ。

http://www.asahi.com/international/update/0926/TKY201109260560.html

 うむ、財政破綻(デフォルト)を回避するためのギリシャ政府の財政緊縮策に対し、ついに警察も政府に抗議を始めたと報じる朝日記事でありますが、アテネ市内では、地下鉄、路面電車、タクシーとあいつぐストで公共交通機関がマヒ状態の模様です。

 財政緊縮策で公務員人件費を圧縮、さらにあらゆる物に増税、ただでさえ所得減少に伴う経済萎縮の中、住民の不満が爆発しあいつぐストにより工場閉鎖や商店閉鎖、唯一ともいえる収入源である観光業にまで交通機関麻痺による打撃を与えていますギリシャは今、完全に負のスパイラルと突入、経済状態は日に日に悪化しているように映ります。

 観光業以外これといった産業を有しないのに労働者の実に1/3が公務員であるという「社会主義的」体質のこの小国では、政府の債務残高が膨らみ、借金返済がもはやEUや国際機関の支援無しには不可能になりつつあり、支援無ければ来月の公務員給与が払えないという金欠状態にギリシャ政府は陥っています。

 上記記事のとおり、アテネでは政府による緊縮財政に反対するデモやストライキが頻発し、ストで飛行機の発着に影響が出る事態にもなっています。

 タクシーもストライキで動いていません。

 賃金カットや公務員のリストラ、増税個人消費は低迷し、街には失業者やホームレスも増えています。

 公共の図書館は数多く閉鎖され、教師の給与削減のため、学校は午後1時に終わっています。

 国外に脱出する人も後を絶ちません。

 今年で景気後退は3年目となり、5.5%のマイナス成長と経済収縮の速度も増しています。

 下記の日経記事によれば、08年に7%台だった失業率は今年4〜6月には16.3%に上昇、29歳以下の若年層は32.9%に達し、財政危機が深刻化する前に比べ、自殺率は2倍になっています。

これで分かる ギリシャ・欧州不安の今
http://www.nikkei.com/biz/focus/article/g=96958A9C93819499E0E0E2E3878DE0E0E2EBE0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;dg=1;p=9694E3E6E2E7E0E2E3E2E0E7E3E5

 ギリシャの経済は崩壊しつつあり、莫大な政府債務の利払いだけで来年度の国家予算のおよそ4分の1が消える見通しです。

 400億ユーロの未徴収の税金を取り立てる徴税官たちの大半はストライキ中だし、改革派ほとんど進んでいないにもかかわらず、激しい反発を買っています。

 国有財産の売却はいつまでたっても具体化せず、銀行では預金の取り付け騒ぎも起き始めています。

 EUIMF国際通貨基金)がさらに80億ユーロの資金を融通しなければ、公務員の来月の給料が払えなくなる状態です。

 このままではギリシャがデフォルトに陥ることは間違いないでしょう。

 ・・・

 事態はなぜここまで悪化してしまったのでしょうか。

 いろいろな要因が挙げれますでしょうが、結果的にひとついえることは「そもそもギリシャには統一通貨ユーロに参加する資格は無かったのではないか」という点です。

 ユーロ参加国は、「財政赤字GDP比3%以内」、「政府債務残高GDP比60%以内」という財政規律を順守する義務を負います。

 ギリシャの現状はこの財政規律を遵守する義務を守るなどほど遠い状況です、各指数は急速に悪化してきました。

安定成長協定(財政規律) ギリシャ
財政赤字額がGDP比3%以内(3%を超えると制裁を科す) 12.7%
政府債務残高(公的債務残高)がGDP60%以内 113%

 そもそもギリシャはユーロ加盟時にも統計数値を水増ししてなかばごまかして加盟したわけですが、その後も政府による粉飾統計が続き、今回のギリシャ危機もきっかけは政権交代による統計数値粉飾発覚に端を発しています。

 ドイツなど経済強国と同一の通貨ユーロを持つことは、小国は財政規律を厳しく守らなければ、ユーロ参加後は独自の通貨政策はできませんから今回のように財政悪化するとその国の国債は見るも無残に狙い撃ちされることになります。

 ギリシャ問題の深刻さは、財政規律を守れていないのは何もギリシャだけではなく、ポルトガル、イタリア、アイルランド、スペイン、ギリシャを含めてPIIGSといわれる国々も実は財政は深刻であり、ギリシャが破綻すれば次はどの国がデフォルトするか、市場からシビアに狙い撃ちされるドミノ現象が危惧されているわけです。

 ・・・

 ギリシャはユーロ圏(16カ国)に属していますが、ユーロ圏全体では世界最大市場であるアメリカに肩を並べる巨大経済市場であります。

国名 GDP(US10億ドル) 政府債務残高GDP比(%)
アメリ 14657.80 101.1
ユーロ圏 12208.78 85.1
日本 5458.87 212.7

財務省統計資料より
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.htm

 表で見れば一目瞭然ですが、実はユーロ圏全体の財政状態でありますが、国の借金の指標である政府債務残高GDP比では、アメリカや日本よりも健全な数値を維持しています。

 ティモシー・ガイドナー米財務長官が指摘するように、ユーロ圏は無一文なわけではなく、小国ギリシャの危機を回避する資本を十分に供給できるのです。

 ユーロ圏16カ国のGDPを表と図にまとめます。

国名 GDP(10億USドル)
ドイツ 3315.64
フランス 2582.53
イタリア 2055.11
スペイン 1409.95
オランダ 783.29
ベルギー 465.68
オーストリア 376.84
ギリシャ 305.42
フィンランド 239.23
ポルトガル 229.34
アイルランド 204.26
スロバキア 87.45
ルクセンブルク 54.95
スロベニア 47.85
キプロス 23.17
エストニア 19.78
マルタ 8.29
合計 12208.78


 ユーロ圏全体で12208.78(US10億ドル)な中でギリシャGDPは305.42(約30兆円規模)であり、わずか2.5%の規模であります。
 50の州からなる米国に例えれば、ギリシャウィスコンシン州当りの規模に相当いたします。

 47都道府県からなる日本に例えれば、520兆円の2.5%は広島県(12兆円)の規模に相当します。

 米国である州がデフォルトに陥ったとすれば、連邦政府が建て直しに協力することでしょう、日本においてもどこかの都道府県
がデフォルトに陥りそうになれば、国として再建策を講じることでしょう。

 ギリシャ危機はユーロ全体規模から見れば、アメリカの小規模な州、日本の中堅の県の破綻ぐらいの規模感覚なのであり、本来はユーロ圏で十分対処可能な範囲なのであります。

 アメリカや日本よりも実質的には財政規律がまだ保たれているユーロ圏が本気でギリシャ危機に対応するならば、ギリシャ経済の規模からしてこの危機を回避することは十分可能なのにもかかわらず、ユーロ圏が同一通貨の経済共同体にしかず、それぞれの国の意思がこの問題で統一されていないことが最大の問題なのであります。

 ギリシャ救済の鍵は経済優等生ドイツが握っていると見てよいでしょう。

 ドイツ国民が「ユーロ圏」のギリシャをドイツの税金で救済することを、「同胞を救うためよし」とするか、「税金で外国を救う必要なし」とするか、「1つのヨーロッパ」という理想を追い求めてきた、EU、そしてユーロ圏には最大の試練となりましょう。

 もしドイツがギリシャを見捨てるならば、理想は崩壊しユーロ圏が崩れだすという世界にとっても日本にとっても不愉快な混乱が始まるかもしれません。



(木走まさみず)