木走日記

場末の時事評論

日本の経常収支速報値について徹底検証〜日本の場合やはり経常収支の黒字は素晴らしい理由

経常収支は一国の国際収支を評価する基準のひとつで、「貿易収支」「サービス収支」「所得収支(第一所得収支)」「経常移転収支(第二所得収支)」の4つから構成されます。
「貿易収支」はモノの輸入と輸出の差額から算出。「サービス収支」はサービス取引を表す。「所得収支」は対外直接投資や証券投資の収益で、「経常移転収支(第二所得収支)」は政府開発援助(ODA)のうちの医薬品など現物援助を表す。従って経常収支は次の式であらわすことになります。

経常収支(a) = 貿易収支(b) + サービス収支(c) + 所得収支(d)

さて14日の財務省の発表によれば、昨年度1年間の日本の経常収支は、19兆4144億円の黒字でした。

黒字額が5年ぶり減少(前年度より2兆7605億円減少)した理由は、エネルギー価格の高止まりで輸入額が伸びた一方、輸出が伸び悩んだことで、貿易収支の黒字額が7068億円と、前の年度に比べて3兆8000億円を超える大幅な減少になったためです。

一方、海外との利子や配当のやり取りを示す「第一次所得収支」は、日本企業が海外の子会社から受け取る配当が増えたことなどから、21兆652億円の黒字と過去2番目の黒字額になりました。

(関連記事)

昨年度の経常収支 黒字額が5年ぶり減少
2019年5月14日 11時44分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190514/k10011915381000.html

財務省のサイトでは国際収支の今回速報値がCSVファイルで公開されています。

国際収支の推移
6s-1-2 国際収支総括表【年度・半期】
6s-2-2 サービス収支【年度・半期】
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm

『6s-1-2 国際収支総括表【年度・半期】』をもとに我が国の経常収支の推移を数値で見てみましょう。

■表1:経常収支の推移(単位:億円)

年度 経常収支(a) 貿易収支(b) サービス収支(c) 所得収支(d)
平成8年度 73,709 87,601 -68,393 54,501
平成9年度 131,632 136,920 -64,152 58,864
平成10年度 143,495 160,965 -65,335 47,865
平成11年度 136,050 138,892 -60,398 57,557
平成12年度 135,804 117,226 -53,653 72,231
平成13年度 113,998 93,558 -54,991 75,431
平成14年度 131,449 119,243 -55,635 67,841
平成15年度 178,305 135,054 -39,001 82,252
平成16年度 192,342 138,639 -43,014 96,717
平成17年度 194,128 110,677 -36,604 120,055
平成18年度 218,865 121,176 -39,317 137,005
平成19年度 243,376 136,862 -45,960 152,474
平成20年度 106,885 26,683 -35,561 115,763
平成21年度 167,551 80,250 -31,812 119,113
平成22年度 182,687 80,332 -25,155 127,511
平成23年 81,852 -22,097 -28,210 132,158
平成24年 42,495 -52,474 -40,280 135,248
平成25年度 23,929 -110,455 -34,330 168,714
平成26年 87,031 -66,389 -27,728 181,147
平成27年 182,957 2,999 -13,140 193,098
平成28年 216,686 57,863 -13,779 172,602
平成29年度 221,749 45,396 -4,567 180,920
平成30年度(P) 194,144 7,068 -6,378 193,454

(P)は速報値
財務省公開資料より『木走日記』作成

見やすいようグラフ化してみます。

■図1:経常収支の推移(単位:億円)
f:id:kibashiri:20190519140840p:plain
財務省公開資料より『木走日記』作成

経常収支(a)は貿易収支(b)の増減に連動する形でアップダウンをしております。

日本の貿易収支(b)は、平成20年度当たりから輸出が振るわず輸入が拡大する赤字が拡大し、平成25年度には14兆4000億の巨大赤字となり、同年度の経常収支(a)の黒字も2兆3900億にまで縮小、このままでは経常収支(a)も貿易収支(b)の巨大赤字に引っ張られ「赤字化」するのではないかと、経済評論家がざわつきましたが、グラフでも確認できるように貿易収支(b)翌年度から回復基調になり、経常収支(a)も20兆円前後の黒字になっております。

ここ10年の我が国の貿易収支(b)の推移を見れば、残念ながら高度成長期以降恒常的に黒字を維持し日本の経常収支の黒字化と経済成長を支えてきた力強さはなくなりました。

貿易収支(b)の代わりに現在の日本の経常収支の黒字を支えているのは所得収支(d)であることは一目瞭然であります。

30年度速報値で見ても経常収支(a)194,144億円の内訳は、貿易収支(b)7,068億円、サービス収支(c)-6,378億円、所得収支(d)193,454億円であり、経常収支(a)の黒字をほぼ所得収支(d)だけで支えていることが見て取れます。

グラフでも日本の所得収支(d)の黒字はほぼ右肩上がりに増加しております。

海外への投資によるもうけから海外からの投資によるもうけを引いた所得収支(d)が増加しているのは、単純に日本の海外資産が増えておりそこからの収益も増えていることを示しています。

財務省のサイトで確認すれば、平成29年末の段階で我が国の海外資産は1,012兆円4310億円、海外負債は683億9840億円であり差額の328兆4470億円が我が国の海外純資産となります。

平成29年末現在本邦対外資産負債残高
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2017.htm

現在日本はこの29年度末の数値で27年連続で世界最大の債権国となっております。

(参考記事)

27年連続・・・日本は世界最大の債権国「失われた20年なんて大嘘だ」=中国
http://news.searchina.net/id/1660080?page=1

さて今一度『図1:経常収支の推移(単位:億円)』に着目しますと、サービス収支(c)が地味に右型上がりに改善していまして、その赤字額は平成8年の-6兆8,393億円から平成30年には-6,378億円まで減少しており、来年度にはわが国初のサービス収支(c)の黒字化も予想されています。

財務省サイトの『6s-2-2 サービス収支【年度・半期】』からサービス収支の内訳をグラフ化してみましょう。

■図2:サービス収支の推移(単位:億円)
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財務省公開資料より『木走日記』作成

外国人旅行者の増加にともない、ここ5年で我が国の旅行収支は黒字となり、その黒字額は、前の年度より4700億円余り増え、2兆4890億円と過去最大の黒字になりました。

昨年の来日旅行者も3119万人2000人で過去最高更新しています、また来年は東京オリンピック効果も期待できるので、旅行収支黒字が過去最高を更新し、結果わが国初のサービス収支(c)の黒字化が確実視されているわけです。

(参考記事)

2018年のインバウンドは3119万人2000人で過去最高更新。自然災害などの影響も12月までに回復
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1164905.html

まとめます。

経済学的には、経常収支の黒字、赤字は一指標にすぎなくそれ自体の数値のもつ意味は善悪ではありません。

しかし、日本の場合やはり経常収支の黒字は素晴らしいと言えるでしょう。

ひとつは、1000兆円を越える日本政府の借金です。財政赤字が巨額で借金額も巨額なのに、日本政府が破産せずにその信用度が国際的に極めて高いのは、日本政府が借金している相手が日本人から借りているからです。

もし日本の経常収支が赤字に陥りその赤字が続くと、対外純資産がマイナスになり、日本全体として外国から借金することになりますから、仮定の話ですが、日本政府も外国人から借金せざるを得なくなりますが、外国人から借金をしようと思うと、高い金利を払う必要が出てくるでしょう。破産するかもしれない政府に喜んで金を貸してくれる外国人投資家は少ないからです。

多くの債務国が陥ってしまうこの悪夢のような信用失墜から、日本が安心して距離をもっていられるのはやはり経常収支の恒常的な黒字が大きいのです。

もうひとつ、経常収支の黒字は素晴らしいと言えるのは、少子高齢化が進みつつあることです。

将来徐々にですが「現役世代が高齢者の介護をしている割合が増え、製造業で働ける人が減少する」国になってしまう可能性は大きいです。

それは輸出が激減し輸入が激増することを意味し、貿易収支(b)はさらに悪化し巨大な赤字が常態化する可能性があります。

輸出が減って日本が輸入する外貨がなければ、現在、日本が経常収支黒字で外国から稼いでいる外貨は、対外純資産の増加となって外国に貸し出されていますから、将来に渡り所得収支(d)の黒字をなんとか維持できれば、国家としては計算上、海外資産を担保(減らして)に輸入することができるわけです。

今回は日本の経常収支の速報値について検証いたしました。



(木走まさみず)