木走日記

場末の時事評論

「特許で中国を支配する日本」(中国紙)は本当なのか?〜日本の技術貿易収支を徹底検証


 30日付けRecord China記事から。

特許で中国を支配する日本=中国経済の「栄養」を吸い上げる国家モデル―中国メディア
Record China2012年09月30日16時58分

2012年9月29日、北方網は記事「中国の特許における日本企業の比率は25%に=有形資産を上回る価値」を掲載した。

尖閣問題をきっかけとして中国では日本製品ボイコットが呼びかけられたが、日本企業の製品は想像以上に中国社会の隅々にまで入り込んでいることが知られる契機ともなった。グローバリゼーションの世界において、ボイコットは現実的な選択肢ではない。だがそれだけではない。目に見えない特許という形で日本企業はしっかりと中国に食い込んでいる。その価値は工場などの有形資産を上回るものだという。

11年、中国での発明特許申請数が多い企業上位50社のうち15社が日本企業だ。また11年末時点で中国で登録されている特許69万件のうち日本は15万件、約4分の1を占めている。たんに数が多いだけではない。核心部分の権利を抑えており、中国企業の自主開発にとっては高いハードルになっているという。

日本といえば、「失われた20年」という言葉もあるとおり、長らく経済停滞に苦しんでいる。しかしながら今もまだ最先端の技術を持っていることは間違いない。その理由の一つに特許を通じて、高成長する中国から栄養を吸い上げていくという日本の「国家利益モデル」があるという。(翻訳・編集/KT)

http://news.livedoor.com/article/detail/7001073/

 中国の北方網が「中国の特許における日本企業の比率は25%に=有形資産を上回る価値」という記事を掲載し、「中国で登録されている特許69万件のうち日本は15万件、約4分の1を占め」、「たんに数が多いだけではない。核心部分の権利を抑えており、中国企業の自主開発にとっては高いハードルになっている」と報じています。

 「特許を通じて、高成長する中国から栄養を吸い上げていくという日本の「国家利益モデル」がある」と、日本のことをあたかも中国の寄生虫のように表現しているのが微笑ましいのです。

 コピー天国と揶揄されている中国ですが、先端技術の多くを日本をはじめ欧米先進国に押さえられているのもまた事実なのであります。

 今回はこの特許使用料など「技術貿易」について検証してみましょう。

 ・・・

 国際貿易において他国から特許使用料などを徴収することを技術輸出、逆に他国に特許使用料を支払うことを技術輸入といいますが、日本はアメリカに次いで世界第二位の技術輸出大国であります。

 またOECD加盟諸国の中で「技術貿易収支倍率」(技術輸出/技術輸入の割合)は日本が一位、つまり技術貿易黒字国なのであります。

 そのあたりに触れている10日付け韓国聯合ニュース記事から。

韓国の技術競争力 OECD加盟国中最下位
2012/09/10 10:54 KST

【ソウル聯合ニュース】韓国の技術競争力が経済協力開発機構OECD)加盟国中、低い水準であることが10日、分かった。

 米国と日本、英国、ドイツなどは蓄積した基幹技術をもとに、技術貿易で黒字を記録しているが、韓国は赤字だ。

 OECDと金融投資業界、韓国産業技術振興協会などによると、2010年の韓国の技術貿易収支倍率は、0.33でOECD加盟国で統計を出している25カ国中最下位だ。技術貿易収支倍率は、技術輸出額を技術輸入額で割ったもので、数値が低いほどその国の技術競争力が低いことを意味する。

 韓国の技術輸出額は、33億5000万ドル(約2620億円)で、輸入額(102億3000万ドル)の3分の1にも満たず、技術保有の面での脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りになった。

 一方、主要先進国は技術貿易で強さを見せた。

 倍率が最も高かったのは日本の4.60で、韓国の14倍だ。世界最高の技術輸出国である米国は、1.46で、韓国の4.4倍だ。

 貿易規模が小さいエストニアを除いた順位をみていくと、日本に次いで2位がノルウェー(2.07)、3位がスウェーデン(1.98)、4位がイギリス(1.81)、5位がオーストリア(1.57)、6位が米国(1.46)、7位がドイツ(1.21)だった。

 韓国の投資証券会社関係者によると、韓国は基幹技術開発より特許権を買いそれを再加工することに集中しているため技術貿易収支で赤字になってしまうと説明し、「先進国のように技術を総合的に保護・育成する統合機関が必要だ」と指摘した。

http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2012/09/10/0200000000AJP20120910001100882.HTML

 うむ、2010年の韓国の技術貿易収支倍率は、0.33でOECD加盟国で統計を出している25カ国中最下位であり、逆に最も高かったのは日本の4.60で、韓国の14倍であることを報じています。

 なぜこういうことになるかといえば、「韓国の投資証券会社関係者によると、韓国は基幹技術開発より特許権を買いそれを再加工することに集中しているため技術貿易収支で赤字になってしまうと説明し、「先進国のように技術を総合的に保護・育成する統合機関が必要だ」と指摘」されているそうです。

 さて、総務省・統計局の発表によれば、2010年の我が国の技術貿易は以下のとおり。

http://www.stat.go.jp/data/sekai/07.htm

 ご覧のとおり、技術輸出総額2兆4,366億円に対し、技術輸入総額5,301億円、約1兆9,000億円の黒字であり、「技術貿易収支倍率」(技術輸出/技術輸入の割合)は4.6倍の輸出超過となっております。

■図2:日本の技術貿易収支(対世界全体)

輸出:24,366億円 輸入:5,301億円 技術貿易収支倍率:4.60

 日本は2010年度において技術大国アメリカを含む全ての国との個別貿易において黒字になっています。
 対アメリカ、対ヨーロッパ、対韓国、対中国と国別にグラフで数値を確認いたします。

■図3:日本の技術貿易収支(対アメリカ)

輸出:8,623億円 輸入:4,027億円 技術貿易収支倍率:2.14

■図4:日本の技術貿易収支(対ヨーロッパ)

輸出:3,213億円 輸入:1,077億円 技術貿易収支倍率:2.98

■図5:日本の技術貿易収支(対韓国)

輸出:879億円 輸入:15億円 技術貿易収支倍率:58.60

■図6:日本の技術貿易収支(対中国)

輸出:3,411億円 輸入:24億円 技術貿易収支倍率:142.13

 韓国聯合ニュース記事に補足いたしますと日本と韓国の2国間の技術貿易収支に限れば、日本から見ると輸出:879億円、輸入:15億円、技術貿易収支倍率は58.60倍と開きが出ます。

 事実上技術貿易においては日本から韓国へ一方的な輸出傾向になると言ってよいでしょう。

 また、中国「北方網」の記事に補足いたしますと、「特許を通じて、高成長する中国から栄養を吸い上げていくという日本の「国家利益モデル」がある」との指摘ですが、今検証したとおり、日本中国2国間では日本から見ると輸出:3,411億円、輸入:24億円、技術貿易収支倍率:142.13倍と確かに一方的ですが、日本の場合、中国だけでなくアメリカやヨーロッパからも特許使用料が発生しており、中国の割合は14.0%にすぎず、日本の技術貿易輸出国はアメリカの35.4%が一位である事は指摘しておかなければなりません。

 別に日本は中国だけ狙った「寄生虫国家」というわけではないのです。

 今回は、「特許で中国を支配する日本」(中国紙)は本当なのか?、具体的数値で検証いたしました。



(木走まさみず)