木走日記

場末の時事評論

目くるめく朝鮮半島の「義挙」と「テロ」について〜北朝鮮の主張が日本人に筋の通った「正論」感を与えている件

 9日付け朝鮮日報記事によれば、北朝鮮が「今回の米大使襲撃がテロならば伊藤博文を暗殺した安重根もテロだろうが」と言い放ったそうであります。

(参考記事)

米大使テロ:「襲撃犯=安重根」 北の主張を韓国政府が非難
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/03/09/2015030900609.html

 記事より当該部分を抜粋。

 これに先立ち、北朝鮮の対南宣伝機関、祖国平和統一委員会は、書記局報道という形で、キム容疑者の襲撃について、「米帝の戦争策動に反対する義による行動がテロならば、日帝朝鮮侵略に反対し、伊藤博文を処刑(暗殺)した安重根反日愛国志士の義挙も日本反動が冒とくしているようにテロと呼ばなくてはならないのではないか」と指摘した。

 うむ、北朝鮮の主張は、要は今回の米大使を襲撃したキム容疑者はテロリストではなく米帝の戦争策動に反対する「義士」なのであり、それは日帝朝鮮侵略に反対し、伊藤博文を暗殺した安重根反日愛国志士がテロリストではないのと同等である、と言いたいようです。

 うーむ、「今回の米大使襲撃がテロならば伊藤博文を暗殺した安重根もテロだろうが」との主張ですが、なんだろう、この裏返せば筋の通ったと思える「正論」感は。

 ・・・

 北朝鮮の主張は単純化すれば、「米帝の戦争策動に反対」「日帝朝鮮侵略に反対」などの彼らの信じる「大義」「正義」実現のための対米対日「暴力行為」は「愛国志士」「義士」が行う正しい「義挙」であるということです。

 これに対する韓国政府の反論は朝鮮日報によればこうです。

 「北朝鮮が明らかな暴力行為である今回の事件を義による行動だとして、独立の志士による義挙に例えたことは、愛国烈士の高貴な犠牲を汚すものであり、痛嘆を禁じ得ない」

 うむ、今回の今回の米大使襲撃は「明らかな暴力行為」であり、「独立の志士による義挙」とは違うでしょということです。

 韓国政府の主張は単純化すれば、「米帝の戦争策動に反対」などと主張する今回の対米「暴力行為」はテロであり、「日帝朝鮮侵略に反対」などと主張した対日「暴力行為」は「愛国志士」「義士」が行う正しい「義挙」であるということです。

 一方我々日本人の立場では「米大使襲撃もテロだし伊藤博文暗殺もテロ」となります。

 「米大使襲撃は義挙、伊藤博文暗殺も義挙」(北朝鮮)と「米大使襲撃はテロ、伊藤博文暗殺は義挙」(韓国政府)の主張の違いで、北朝鮮側はテロと義挙を使い分ける韓国政府に対して、「米大使襲撃がテロなら伊藤博文暗殺もテロになっちゃうだろが」と批判したわけですが、結果、日本の主張「米大使襲撃もテロだし伊藤博文暗殺もテロ」とシンクロしてしまったわけです。

 結果、北朝鮮の主張は我々日本人に筋の通ったと思える「正論」感を与えているわけです。

 うむ、興味深いことです。

 「正義の暴力行為」=「義挙」、「不正義の暴力行為」=「テロ」

 「義挙」と「テロ」、このふたつの概念は当然ながら「正義とは何か」によって、その立場によって「正義」「不正義」が決定するわけでありますね。

 ふう。



(木走まさみず)