木走日記

場末の時事評論

日本の政権にとって農水大臣の職はまさに「鬼門」である理由

「私がいくら説明しても分からない人は分からないということで、農林水産大臣の辞表を出してきた。安倍総理大臣からは『農業関係の仕事を大変よくやってくれた。引き続きできればやってほしい』ということだったが、私はもう自分で決めたので、政府から外れるということを申し上げてきた。安倍総理大臣も了承してくれた」

「全部説明できたし、法律に触れることはないということは安倍総理大臣も分かってくれた。これから農政改革をやるときに内閣に迷惑を掛けてはいけないということで、みずから辞表を出した」

 うむ、西川公也という政治家が「いくら説明しても分からない人は分からない」と、まるで捨て台詞のような啖呵(たんか)を切って、農林水産大臣を辞任しました。

 今この政治家の献金疑惑をいろいろ調べてまとめていますが、確信犯に近いたちの悪い事実がごろごろ出てきます、近日当ブログでまとめてエントリーしたいと考えます。

 さて今回は、この西川某という政治家が典型ですが、歴代政権もふくめてなぜ日本の農水大臣は就任期間が短いのか、この興味深い事実について検証したいと思います。

 ・・・

 1978年7月5日に農林水産省が発足以来、この37年間で今回の林芳正氏はのべ49番目の農林水産大臣となります。

■表1:歴代農林水産大臣(時系列)
中川一郎
渡邉美智雄
武藤嘉文
亀岡高夫
田澤吉郎
金子岩三
山村新治郎
佐藤守良
羽田孜
加藤六月

佐藤隆
羽田孜
堀之内久男
鹿野道彦
山本富雄
近藤元次
田名部匡省
畑英次郎
加藤六月
大河原太一郎

野呂田芳成
大原一三
藤本孝雄
越智伊平
島村宜伸
中川昭一
玉澤徳一郎
谷洋一
谷津義男
武部勤

大島理森
亀井善之
島村宜伸
岩永峯一
中川昭一
松岡利勝
赤城徳彦
若林正俊
遠藤武彦
若林正俊

太田誠一
石破茂
赤松広隆
山田正彦
鹿野道彦
郡司彰
林芳正
西川公也
林芳正

※臨時代理大臣と総理大臣兼務は除いてます。

 1978年7月5日から2015年2月24日現在まで約37年間、日数にして13383日の間で49人です。

 一人当たりの平均在任期間はわずか273日間、約9か月であります、在職の平均が一年と持たない短命なのが、日本の農林水産大臣なのであります。

 参考までですが農業大国と呼ばれるアメリカの農務長官ですがこの37年間で11人であります。

■表2:アメリカ農務長官(1977年1月23日 - 現職)

氏名 就任日と在職期間 大統領
ロバート・S・バーグランド 1977年1月23日 - 1981年1月20日 ジミー・カーター
ジョン・R・ブロック 1981年1月23日 - 1986年2月14日 ロナルド・リーガン
リチャード・E・リング 1986年3月7日 - 1989年1月21日 ロナルド・リーガン
クレイトン・K・ヤイター 1989年2月16日 - 1991年3月1日 ジョージ・H・W・ブッシュ
エドワード・R・マディガン 1991年3月8日 - 1993年1月20日 ジョージ・H・W・ブッシュ
アルフォンソ・M・イスパイ 1993年1月22日 - 1994年12月31日 ビル・クリントン
ダニエル・R・グリックマン 1995年3月30日 - 2001年1月19日 ビル・クリントン
アン・M・ヴェネマン 2001年1月20日 - 2005年1月20日 ジョージ・W・ブッシュ
マイケル・O・ジョハンズ 2005年1月21日 - 2007年9月20日 ジョージ・W・ブッシュ
10 エドワード・T・シェーファー 2008年1月28日 - 2009年1月20日 ジョージ・W・ブッシュ
11 トム・ヴィルサック 2009年1月20日 - 現職 バラク・オバマ

 一人当たりの平均在任期間は1265日間、約42か月であります。

 現職のトム・ヴィルサック農務長官にいたっては在職7年目に突入しています。

 別にアメリカだけではありません、例えばG8の各国とも、農業政策にはしっかりとした国策を有しており、ここ10年国際会議では各国の利害がもろにぶつかり合う外交戦が展開されてきています、各国にとり農業担当閣僚は重要ポストであり国際会議での発言力をキープするためにも2年以上の長期在職が一般的なのであります。

 これでは、世界に向かって日本の農相なんて発言力を持てるはずがありません、日本の農相なんて誰がやってもやらなくても何の役にもたっていないことを証明しているようなモノなのであります。

(参考エントリー)

2007-09-03 2年半に10人も農相をコロコロコロコロ替えるステキな国家ニッポン
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070903

 さて、日本の戦後の農業の衰退は、すべてを政治の責任とするわけにはもちろんいきませんが、しかし歴代政権が一貫した農業政策が取れてこれなかったこともまた事実であり、担当大臣が1年持たずにコロコロ変わるということもその要因のひとつとして挙げられるでしょう。

 日本の農水大臣職が短命である要因は大きく2つあると考えます。

 そもそも日本の政権は諸外国に比べて短命であり、なおかつしょっちゅう内閣改造して大臣を乱発乱造しているわけです。

 戦後70年間で戦後処理の東久邇宮内閣から現在の第2次安倍内閣まで、のべ35の内閣が発足されています。

 つまり内閣の平均寿命そのものが約2年しかもたないのが日本の政権なのです、その短い期間の中で内閣改造を何度もすれば、担当大臣職の寿命も短くなるのは自明なことです。

 つまり日本の農水大臣職が短命である要因のひとつは、明らかに日本の悪しき政治風土にあります。

 国民にはまったく不必要なのに「大臣様乱造のため」の政治家による政治家のための無駄な内閣改造、これによりただでさえ諸外国に比べて短命の政権なのに担当大臣の在任期間はさらに短くなるわけです。

 さて日本の農水大臣職が短命である要因の二つ目ですが、そもそも農水大臣職だけがとびぬけて短命であるわけではないことは今述べたばかりですが、それでも各大臣の中で一番回転率がいい(苦笑)のが農水大臣職であるのもまた事実です。

 なぜか農水大臣に就任した政治家は、就任早々不祥事に直面し、職をまっとう出来ず辞任したり退任したりするケースが極めて多いのです。

 このため、マスメディアからは陰で「鬼門」「呪われたポスト」と呼ばれているぐらいです。

 象徴的なのは実は第一次安倍内閣です。

 ご承知の通り、第一次安倍内閣は2006年9月26日- 2007年9月26日(366日)、わずか1年でありました。

 しかしその間臨時も合わせればなんと7人も農水大臣が入れ替わったわけです。

■表3:農林水産大臣(第一次安倍内閣

氏名 就任日 在職日数 備考
初代 松岡利勝 2006年9月26日 234日 なんとか水問題・在任中自殺
2代 若林正俊 2007年5月28日 4日 臨時代理
3代 赤城徳彦 2007年6月1日 62日 事務所費問題・バンソウコウ
4代 若林正俊 2007年8月1日 26日 環境大臣兼任
5代 遠藤武彦 2007年8月27日 8日 補助金不正
6代 甘利明 2007年9月3日 1日 臨時代理
7代 若林正俊 2007年9月3日 24日

 松岡利勝氏は事務所費問題などで国会で追及を受け、在職中に自死いたしました。

 臨時代理大臣をはさんで就任した赤城徳彦氏は、やはり事務所費問題が追及され2か月で退任となります、バンソウコウ記者会見をご記憶の読者もいますことでしょう。

 さらに兼任大臣をはさんで就任した遠藤武彦氏にいたっては就任早々補助金不正問題が発覚して、わずか8日間つまり一週間で退任です。

 最後に就任した若林正俊氏は臨時を含めてこの内閣で三度目の農水大臣となりましたが、就任わずか23日後には、安倍首相そのものが体調不良を理由に総理大臣を辞任、安倍内閣は倒れるのでございます。

 参考までに今回の第二次安倍内閣農林水産大臣をおさえておきます。

■表4:農林水産大臣(第二次安倍内閣

氏名 就任日 在職日数 備考
初代 林芳正 2012年12月26日 615日 内閣改造に伴う
2代 西川公也 2014年9月3日 172日 政治献金問題
3代 林芳正 2015年2月23日 ???日

 初代の林芳正氏は在職日数615日と安定していた(2年もたってないのに目立って安定しているように見えること自体どうにもこうにもですが(苦笑))だけに、内閣改造しちゃって胡散臭い西川公也氏に替えたのがダメダメだったわけです。

 今回林芳正氏に戻したのは、まあ安倍人事としては無難だったわけですね。

 ・・・

 まとめます。

 今検証してきたとおり、歴代政権にとりコロコロコロコロ替わる農水大臣の職は、まさに「鬼門」でありまして、安倍政権にとってもまさに農水大臣の職は「鬼門」であるわけです。

 当ブログとしては、なぜ農水大臣に不祥事が多いのか、今回退任した西川某が体現していますが、それは補助金漬けの日本の腐った農業政策と関係していると考えます。

 日本の「農水族」と言われる政治家たちは、当然農業関係者と深い関係があるわけで、当然彼らから個人・団体・あるいはパーティー券購入といったいろいろな形の政治献金を受けるわけです。

 ところが日本の腐った農業政策は、農業関係者に助成金をばらまくのが主要な政策ですから、当然ながら「農水族」政治家たちの立場からすると、献金受けた支持者たちに国から助成金がばらまかれるという構図になっているわけです。

 そんな政治感覚のずさんな政治家がうかつにも「農水大臣」の職に就くと、それまで当然のようにしていた杜撰な金銭管理がメディアなどにより、白日のもとににさらされるわけです。

 補助金漬けのぬるま湯の胡散臭い業界にどっぷりはまった異常な金銭感覚が、たまたま大臣になったことで表出しているだけなわけです。

 この問題、実は根はそうとう深いと思われます。



(木走まさみず)