『子ども・若者白書』徹底検証〜内閣府分析「自己評価が低く、将来を悲観している」は暗すぎないか?
先頃内閣府が公表した『子ども・若者白書』の一部内容がたいへん興味深いのです。
2013年11〜12月に日本、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンでインターネット調査を実施し、各千人程度から回答を得ています、日本では1175人が回答したそうです。
この日本を含めた7カ国の満13〜29歳の若者を対象とした意識調査の結果が、本当に日本の若者たちの意識が他国と全然違うのに驚き、そしていろいろ考えさせられました。
今回はこの『子ども・若者白書』の内容を読者とともに徹底検証していきたいです。
少し長いエントリーになりますが、グラフ中心に構成してみました。
お時間の許す範囲でお付き合いください。
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さて、内閣府の「子ども・若者白書について」の公式サイトはこちら。
子ども・若者白書について
(旧青少年白書)
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/hakusho.html
で「特集 今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの〜」はこちらでレポートが確認できます。
特集 今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの〜
はじめに
日本の将来を担う子どもたちは,我が国の一番の宝である。子どもたちの命と未来を守り,無限の可能性に満ちたチャレンジ精神にあふれる若者が活躍する活力にみちた社会を創り上げていかなければならない。
かけがえのない「今」を生きている子ども・若者が,自分や家族,社会に対してどのような思いを抱いているのかを的確に把握することが重要。
日本を含めた7カ国の満13〜29歳の若者を対象とした意識調査(我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成25年度))の結果からみえる,日本の若者の意識の特徴を,自己認識,家庭,学校,友人関係,職場,結婚・育児の6つの項目から分析し,子ども・若者育成支援施策に対する示唆を考察。http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26gaiyou/tokushu.html
以下調査項目別に国際比較結果をグラフで示しますが、日本が最上位の場合赤で、最下位の場合青で見やすくしてみました、レポートの公式説明と当ブログの寸評を付けて、まずは調査結果をすべて確認していきましょう。
なお公式説明は全体的に日本の若者に否定的な厳しい評価が下されている傾向が強いので、当ブログの寸評は日本の若者たちを励ます意味も込めてつとめて明るく(苦笑)前向きに肯定的にまとめてみます。
■1.自己認識(1)自己肯定感
諸外国と比べて,自己を肯定的に捉えている者の割合が低い。
【木走寸評】
「自分自身に満足している」「自分には長所がある」ともに最下位の日本なのであります。
うむ、謙虚でよろしい、冷静に自分を見つめておりうぬぼれてはいないのであります、まだまだ自分は発展途上であると、向上心を持っていると評価できます。
■1.自己認識(2)意欲
諸外国と比べて,うまくいくかわからないことに対し意欲的に取り組むという意識が低く,つまらない,やる気が出ないと感じる若者が多い。
【木走寸評】
「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」が最下位、「つまらない、やる気が出ないと感じたこと」があるのが最上位の日本なのであります。
成功する可能性の低い事項には関わらない、若いうちからしっかりリスクヘッジする癖がついております、そして「つまらない」ことには正しくクールに状況を分析・評価ができているのであります。
■1.自己認識(3)心の状態
諸外国と比べて,悲しい,ゆううつだと感じている者の割合が高い。
【木走寸評】
「ゆううつだと感じた」割合がダントツ最上位の日本であります。
真面目な日本の若者たちは正しく、自身を憂い、友を憂い、社会を憂い、国を憂いているのでしょう。
■1.自己認識(4)社会規範
諸外国の若者と同程度かそれ以上に,規範意識を持っている。
【木走寸評】
ここだけ表形式が変わっているのですが、注目すべきは「他人に迷惑をかけなければ、何をしようと個人の自由だ」の割合です、他国平均に比べて日本は半分なのですね、これこそ世界トップの治安が維持されている日本の国民性の証でありましょう。
■1.自己認識(5)社会形成・社会参加
社会問題への関与や自身の社会参加について,日本の若者の意識は諸外国と比べて,相対的に低い。
【木走寸評】
「社会現象が変えられるかも知れない」も日本が最下位であります。
正しく現実的なのです、自分一人で社会を動かせるなどと空想的妄想はしないのであります。
■1.自己認識(6)自らの将来に対するイメージ
諸外国と比べて,自分の将来に明るい希望を持っていない。
【木走寸評】
「将来への希望」「40歳のとき幸せになっている」ともに最下位です。
うーん、日本の若者はリアリストが多いのですね、冷静な分析力を保持していると言えましょう。
■2.家族・家庭生活
親からの愛情に対する意識は,日本の若者と諸外国とで大きな差はない。
一方で,家族といるときの充実感や家庭生活の満足度は,相対的に低い。
【木走寸評】
同じ最下位でも親からの愛情はまあ他国と大差ないですが、「充実感」は群を抜いての最下位であります。
これも自己認識と同じですね、己を厳しく評価するのと同様の物差しで家族を評価しているのでしょう。
■3.友人
友人関係への満足度,安心感は,いずれも諸外国と比べると相対的にやや低い。
【木走寸評】
うむ、友人への視線も冷静ですね、厳しいのです(ちょっとほめ続けるのがつらくなって来ました(苦笑))
■4.自国に対する認識
自国人であることに誇りを持っている割合は,諸外国と同程度。
自国のために役立つことをしたいと思っている割合は,諸外国と比べて相対的に高い。
【木走寸評】
素晴らしいですね、自国人であることに誇りを持っている割合もまあまあですし、自国のために役立つことをしたいと思っている割合は最上位です。
ちなみに参考までに日本のどんな点に誇りを持っているのか、詳細はこちら。
うむ「治安」に「歴史」「文化」「芸術」「科学技術」「自然」と並んでいます。
■5.学校
学校生活への満足度は,諸外国と比べると相対的にやや低い。
【木走寸評】
現実を正しく見つめているのです、これも向上心のあらわれでしょう。
■6.職場
職場への満足度は,諸外国と比べて低い。
■7.結婚・育児
早く結婚して自分の家庭を持ちたいと思っている意識が,欧米諸国と比較して相対的に高い。
一方で,40歳になったときに,結婚している,子どもを育てている,というイメージを持っている者の割合は,諸外国と比較して相対的にやや低い。
【木走寸評】
結婚はしたいけど自分が結婚できるかは自信がないってことですね、謙虚です。
以上であります。
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まとめです。
「日本の若者は自己評価が低く、将来を悲観している」
内閣府は「若者の自己肯定感を育むため、家庭・学校・地域が一体となって子どもや若者を見守り支える環境づくりを進めるべきだ。役に立ちたい若者には、具体的な社会参加に関する教育も必要」と分析しています。
いかにもお役所的なまとめ方ですが、今回の調査結果の否定的な側面ばかり強調されている感じがしてしまいます、肯定的要素も含めてもう少し掘り下げた分析はできないのでしょうか?
こういう日本にとって暗い分析をするとすぐに社説にて飛びつくメディアがいるので困ったものです。
17日付け朝日新聞社説から。
(社説)若者の意識 「どうせ」のその先へ
2014年6月17日05時00分「『自虐史観』を植えつけられて、若者が自国に誇りを持てなくなっている」
こう熱心に主張される向きには、まずは安心して頂きたい。
閣議決定された今年の「子ども・若者白書」は、日本、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの計7カ国で、13〜29歳の男女約千人ずつを対象に昨年実施したインターネット調査の結果を掲載した。
「自国人であることに誇りを持っている」と答えた人の割合は、日本が70%。米国、スウェーデン、英国に次いで高く、「自国のために役立つと思うようなことをしたい」は55%でトップだった。一方「他人に迷惑をかけなければ、何をしようと個人の自由だ」は42%。他国平均は約8割なので極端に低い。
調査で若者意識すべてをつかめるわけではないが、気になるのは「自分自身に満足している」と回答した人の割合が日本は46%で最下位だったことだ。他の6カ国は7割を超える。
日本人であることの誇りが、自分自身への満足を大きく上回るという日本だけのこの傾向をさて、どう考えたらいいのか。
いまを生きる子どもや若者の意識からは、目に見えない、この社会の「気分」を感じ取ることができる。正解はない。ただ、基調には「どうせ」が漂っているように思えてならない。
「自分の将来に明るい希望を持っている」(62%)、「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」(52%)、「社会をよりよくするため、社会における問題に関与したい」(44%)、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」(30%)。すべて日本が最下位だ。
「どうせ」は便利だ。高望みしなければ、失望せずに済む。低成長時代に適合した、「幸せ」な生き方だとも言える。
だが、「どうせ」が広がると、本来は自分たちの手でかたちづくっていくはずの社会が、変わりようのない所与のものとして受けいれられてしまう。
人は社会のなかで役割を担い、そのことを通じて人に認められたいという欲求を満たし、生きている実感を手にできる。「どうせ」な社会はおそらく、その機能を持ち得ないだろう。
「どうせ」なんかじゃない。
彼らよりも長く生きている「大人」がそれを示せるかどうかが、まずは問われている。「そんなキレイゴトじゃ、どうせ何も変わらないんだよ」で、片付けてしまわずに。
なんで子供白書への論説の切り口が『自虐史観』なんだか、よくわかりませんが。
朝日の論説室では若者意識のキーワードを「どうせ」とみたようです。
「どうせ」ねえ。
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ふう。
例えば現状に満足していないことは「自己評価が低い」と否定的に捉えることは可能ですが、「向上心のあらわれ」と肯定的に解釈することも可能です。
私はこの日本の若者たちの意識には、日本人特有の美徳である謙虚さと「被統治能力」の高さが現れているのだと分析します。
東日本大震災のとき、被災された東北の人々が略奪や暴動もほとんどなく、互いに力を合わせて寄り添い助け合っている姿が、欧米メディアで称賛されたことを思い出してください。
アメリカメディアなどはハリケーン「カトリーナ」のときに起きた自国の略奪や暴行と自虐的に比較する論調が多かったです。
ネットでも海外掲示板サイトで「日本人は誠実で忍耐強い誇り高き人々」といった称賛の言葉で溢れていました。
中でも一番は、東日本大震災で、津波で流された5700個もの金庫が警察に届けられ、23億円近い現金が持ち主に返されたことには、欧米のメディアがこぞって驚いていました。
例えばイギリスの新聞「デイリーメール」は、「イギリスが略奪に頭を抱えているなか、日本人の誠実さが証明された」と自己批判を交えながら絶賛しています。アメリカのオンラインニュースサイトも「災害の後は略奪がつきものだが、日本ではその逆のことが起きている」と報じていました。
Honest Japanese return $78million in cash found in earthquake rubble
By DAVID GARDNER
UPDATED: 17:54 GMT, 17 August 2011
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2027129/Honest-Japanese-return-78million-cash-earthquake-rubble.html#ixzz1VJRn7Twr
Japan Earthquake: Ethical Residents Return $78 Million From Rubble
http://www.huffingtonpost.com/2011/08/18/japan-earthquake-ethical-_n_930808.html?ncid=webmail1
「やはり日本人のガバナビリティは、ずば抜けて高いのだ」といったコメントもありました。
ガバナビリティー【governability】
国民が自主的に統治されうる能力。被統治能力。
http://kotobank.jp/word/%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC
ガバナビリティは日本では「統治能力」と誤った使い方をされることが少なくないのですが、その正確な意味は逆で「統治されうる能力」すなわち「被統治能力」のことです。
「被統治能力」つまり支配される能力であり、日本では「従順さ」のようなイメージから「社畜」などの負のイメージが連想されがちですが、欧米での使われ方はかなり肯定的な正のイメージです。
海外では、日本人のガバナビリティの高さは、3.11での被災された人々への称賛という形で再認識されましたが、それ以前から日本の治安の良さ、人々の礼儀正しさなど、が議論される際にこの言葉がしばしば使われていました。
一方で日本人は「統治能力」、リーダーシップを取ることは苦手と指摘されています。
考えてみれば被災地でも誰かがリーダーシップを発揮するというわけでもなく、みなが互いに助け合うことがごく自然に発生していたと思われます。
海外から尊敬の念を集めている日本国民のこの謙虚さとガバナビリティの高さは美徳といっていいでしょう。
「他人に迷惑をかけること」を認めない社会規範意識の高さや「自国のために役立つことをしたいと思っている」人の割合の高さは、日本の治安の良さにも通じる美徳なのであり、そのあたりをもう少し肯定的に捉えたいです。
読者のみなさんはどのような感想を持たれましたでしょうか?
(木走まさみず)