木走日記

場末の時事評論

本当に日本人に「自画自賛症候群」が広まっているというのか?〜あまりにも表層的主観報道であり悪意すら感じてしまう東京新聞記事

 さて今回は東京新聞の「近ごろ日本を覆う「自画自賛」症候群は何の表れか」と題する興味深い記事について検証いたしましょう。

 まずは言葉の意味を整理しておきます。

自画自賛

【意味】自画自賛とは、自分のした行為や自分自身を褒めること。自画自讃。「自我自賛」と書くのは間違い。

自画自賛の語源・由来】
自画自賛は、東洋画の詩歌・文章に由来する。
東洋画では、その絵画に関した詩文を記すこと、また詩文そのものを「画賛」「賛」と言い、普通は他人に書いてもらう。
自分で書いた絵に「賛」を書き入れることを「自画自賛」「自画賛」といい、自画自賛の絵画の中には、他人からも立派な作品と評価されているものがあり、現代のように悪い意味で使われていたとは限らなかった。
東洋画での「賛」に「褒める」の意味は含まれないが、「賛」の漢字自体には「褒める」の意味もあるため、「自慢」のような悪い意味で使われるようになったと考えられる。

語源由来辞典より
http://gogen-allguide.com/si/jigajisan.html

 うむ、自画自賛とは本来東洋画において「自分で書いた絵に「賛」を書き入れること」を意味し、必ずしも「現代のように悪い意味で使われていたとは限らなかった」とのことです。

 30日付け東京新聞記事から。

近ごろ日本を覆う「自画自賛」症候群は何の表れか

2014年7月30日

 近ごろ、本屋に立ち寄ると、気恥ずかしくなる。店頭に「日本人はこんなにすごい!」という「自画自賛本」が平積みにされているからだ。この国から「奥ゆかしい」とか「謙虚」といった感覚が急速に消えていっているように感じる。だが、そうした違和感を口にすると、どこからか「自虐だ!」という悪罵が飛んできそうだ。いったい、これは何の表れなのか。日本社会の美徳が崩れてはいないか。 (荒井六貴、林啓太)

(後略)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014073002000150.html

 記事全文は有料扱いなので関心のある読者は是非直接リンク先でお読みください。

 うむ、店頭に「日本人はこんなにすごい!」という「自画自賛本」が平積みにされていることをもって、「日本社会の美徳が崩れてはいないか」と問題提起しているわけです、「そうした違和感を口にすると、どこからか「自虐だ!」という悪罵が飛んできそうだ」との皮肉を交えつつです(苦笑)。

 このように朝日や毎日や東京などのリベラル系メディアによる「日本批判」「自虐」系記事は、すぐに海外に拡散されます。

 本記事も早速31日付け朝鮮日報記事に取り上げられます。

日本社会に広まる「自画自賛症候群」、背景に韓中の成長

日本は今「『自画自賛』症候群」
放送・出版界、日本の優越性を強調…天皇制・靖国神社も賞賛
原発事故や周辺国の勢力拡大に余裕のなさ露呈」

東京=車学峰(チャ・ハクポン)特派員

朝鮮日報朝鮮日報日本語版

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/07/31/2014073101564.html

 記事は「日本人はたとえ表面上だけであっても、謙虚さを失わないことを「最高の美徳」としてきた」との文章で始まります。

 日本人はたとえ表面上だけであっても、謙虚さを失わないことを「最高の美徳」としてきた。この謙虚さは経済力と共に、世界で日本が尊敬される重要な要素でもあった。ところが、その日本の美徳が急速に失われようとしている。世界で日本は最も優れていて、最も尊敬される国だと触れ回る「『自画自賛』症候群」が日本社会に広がっているためだ。

 記事は「日本の優越性を強調する内容の中には、とんでもないものも多い」としつつ「イギリス在住の日本人が書いた『日本はイギリスより50年進んでいる』という本」の内容に触れていきます。

 「嫌韓・嫌中」書籍を相次いで出してきた日本の出版各社は最近「日本はなぜ美しいのか」「日本は世界から尊敬されている」「世界が絶賛する日本人」「日本人に生まれて良かった」といった類いの本を競い合うようにして出している。日本の優越性を強調する内容の中には、とんでもないものも多い。イギリス在住の日本人が書いた『日本はイギリスより50年進んでいる』という本は「イギリスに住んでみたら、日本は天国だった」という内容になっている。著者は「イギリス人は肥満だが、日本人はスリムだ」「ロンドンには慢性の交通渋滞があるが、東京はそうではない」といったことを日本が優れている根拠として挙げている。

 「日本の優越性を証明するためなら外国人も動員する」としてNHK BS放送のバラエティー番組にまで触れています。

 日本の優越性を証明するためなら外国人も動員する。人口3万人という小国サンマリノ共和国の駐日大使であるマンリオ・カデロ氏が書いた『だから日本は世界から尊敬される』は、天皇制や靖国神社に対し賛辞を並べ立てている。経済専門家らもこれに加わり、『そして日本経済が世界経済の希望になる』『負けない日本企業 アジアで見つけた復活の鍵』『もしも日本が消えたなら』といった本を出版している。

 NHK BSは毎週『cool japan発掘! かっこいいニッポン』という番組で、外国人による「日本賞賛リレー」を放送している。日本テレビテレビ朝日はバラエティー番組にも外国人を多数出演させ、日本が住みやすい国であるということを強調している。

 こうした動きに火を付けたのは安倍晋三首相であると批判致します。

 こうした動きに火を付けたのは政界だ。安倍晋三首相は「美しい国、日本」「この国に生まれたことを誇りにできるようにしたい」という言葉を口癖のように言い続けている。

 記事は東京新聞記事の「この国から『奥ゆかしい』とか『謙虚』といった感覚が急速に消えていっているように感じる」との内容と日本人大学教授による「日本が圧倒的な経済力と技術力を誇っていた時代には謙虚さがあったが、大震災や原発事故、韓国・中国の台頭で余裕がなくなった」の分析で結ばれています。

 東京新聞は30日「近ごろ日本を覆う『自画自賛』症候群は何の表れか」という記事で「近ごろ、本屋に立ち寄ると、気恥ずかしくなる。店頭に『日本人はこんなにすごい!』という『自画自賛本』が平積みにされているからだ。この国から『奥ゆかしい』とか『謙虚』といった感覚が急速に消えていっているように感じる。だが、そうした違和感を口にすると、どこからか『自虐だ!』という悪罵が飛んできそうだ」と書いた。新潟青陵大学大学院の碓井真史教授は「日本が圧倒的な経済力と技術力を誇っていた時代には謙虚さがあったが、大震災や原発事故、韓国・中国の台頭で余裕がなくなった」と分析した。恵泉女学園大学の高橋清貴特任准教授は「日本の自画自賛は周辺国に対する隠れた優越意識をあらわにしたもの」と話している。

 ふう。

 日本のリベラル系メディアが日本もしくは日本人を「自虐的」に自己批判する記事を掲載、それに韓国メディアが飛びつき拡散させていく、メディアリテラシー的にはいつもの「日本批判」報道拡散パターンであります。

 それにしても東京新聞の報じるところの「近ごろ日本を覆う「自画自賛」症候群」であるとか、朝鮮日報の「日本社会に広まる「自画自賛症候群」、背景に韓中の成長」記事の指摘ですが、本当に現在の日本人に「自画自賛症候群」が広まっていると言えるのでしょうか。

 たしかに本屋では「嫌韓本」や「嫌中本」と並んで「日本は世界から尊敬されている」という類(たぐい)の本が並んでいます、もちろん売れるから並んでいるのでしょう。

 しかしその現象をもってのみで、日本人に「自画自賛症候群」が広まっていると言い切るこれら記事の分析には、違和感を禁じえません、なんとも表層的な分析であり先に日本人批判ありきの「自虐的」分析なのであります。

 正確な統計情報と国際比較資料に基づいて、現在の日本の若者の気質について科学的に検証致しましょう。

 資料として、先頃内閣府が公表した『子ども・若者白書』の内容を取り上げます。

 2013年11〜12月に日本、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンでインターネット調査を実施し、各千人程度から回答を得ています。

 この日本を含めた7カ国の満13〜29歳の若者約7000人を対象とした意識調査の結果は、当ブログでも一か月前にエントリーで取り上げています。

2014-07-03 『子ども・若者白書』徹底検証 編集
■[社会]『子ども・若者白書』徹底検証〜内閣府分析「自己評価が低く、将来を悲観している」は暗すぎないか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20140703

 そこに顕われている日本人の若者の意識は「自画自賛症候群」とは真逆のものであります。

■1.自己認識(1)自己肯定感

諸外国と比べて,自己を肯定的に捉えている者の割合が低い。



【木走寸評】
 「自分自身に満足している」「自分には長所がある」ともに最下位の日本なのであります。
 うむ、謙虚でよろしい、冷静に自分を見つめておりうぬぼれてはいないのであります、まだまだ自分は発展途上であると、向上心を持っていると評価できます。

 国際比較において「自己肯定感」が最下位なのが日本の若者であります。

 対して「自国に対する認識」において日本の若者の意識が興味深いのです。

■4.自国に対する認識

自国人であることに誇りを持っている割合は,諸外国と同程度。

自国のために役立つことをしたいと思っている割合は,諸外国と比べて相対的に高い。


【木走寸評】
 素晴らしいですね、自国人であることに誇りを持っている割合もまあまあですし、自国のために役立つことをしたいと思っている割合は最上位です。

 ちなみに参考までに日本のどんな点に誇りを持っているのか、詳細はこちら。

 うむ「治安」に「歴史」「文化」「芸術」「科学技術」「自然」と並んでいます。

 多くの若者が「自国人であることに誇りを持っている」のであり、「自国のために役立つことをしたいと思っている割合」は七カ国国際比較において最高の割合を示しています。 

 ・・・

 まとめます。

 この内閣府が行った若者意識国際比較調査においては、少なくとも日本の若者に「自画自賛症候群」が広まっている兆候は全く見られません。

 それどころか 調査結果は真逆であり、「自分自身に満足している」「自分には長所がある」ともに最下位の日本なのであります。

 自己評価では謙虚に冷静に自分を見つめておるのに対し、多くの若者が「自国人であることに誇りを持っている」のであり、「自国のために役立つことをしたいと思っている」意識も国際比較において最高なのであります。

 多くの日本人は日本の「治安」「歴史」「文化」「芸術」「科学技術」「自然」などに誇りを持っているだけなのであり、「自国のために役立つことをしたいと思っている」わけであり、このような意識を持っている国民が多ければ、「日本は世界から尊敬されている」という類(たぐい)の本が売れるのは当然なのではないでしょうか。

 それらの本が並んでいるのを、日本人の謙虚さを失った「自画自賛症候群」が広がっていると、単純な分析で一刀両断で切り捨てる東京新聞の表現は、あまりにも表層的主観報道であり悪意すら感じてしまいます。

 日本人には「自画自賛症候群」など広まっていないのです。



(木走まさみず)