木走日記

場末の時事評論

「中国の空母、その最大の目標は尖閣諸島の奪還だ」(韓国紙報道)について海自OB氏の意見を求める〜「今日の極東情勢の心情的ねじれ具合を象徴している記事構成が興味深い」

 27日付けレコードチャイナ記事によれば、中国・環球時報は記事「中国空母の最大の目標は日清戦争で占領された尖閣諸島の奪回だ」を掲載したそうです。

中国の空母、その最大の目標は尖閣諸島の奪還だ―韓国紙
配信日時:2014年7月27日 22時32分

2014年7月26日、環球時報は記事「中国空母の最大の目標は日清戦争で占領された尖閣諸島の奪回だ」を掲載した。

7月25日は日清戦争勃発120周年の記念日。中国各地で記念式典が開かれているほか、メディアでも屈辱の歴史を振り返る記事が掲載されている。また、日清戦争の最中に日本が尖閣諸島編入閣議決定したことから、中国では尖閣諸島日清戦争で奪われた領土との認識も広がっている。

韓国紙・毎日経済は日清戦争120周年記念式典の開催は中国が国恥を忘れていないことを示していると論評。中国はすでに初の空母を就役させたが、その最大の目標は日清戦争で奪われた尖閣諸島の奪還だと指摘している。(翻訳・編集/KT)

http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=91720

 遼寧(りょうねい)は、中華人民共和国ソビエト連邦で設計された航空母艦ヴァリャーグの未完成の艦体を入手し、航空母艦として完成させたものであります。2012年9月25日、正式に就役、基準排水量:55,000t、全長305.0mの「軽空母」であります。

 うむ、「中国空母の最大の目標は日清戦争で占領された尖閣諸島の奪回だ」とは穏やかならぬ記事なのでありますが、そもそもこの中国空母の能力とはどのようなものなのか、日本に取りどの程度軍事的脅威となるのか、当ブログは軍事的な知識は全くの素人でありますが、今回は当ブログが懇意にさせていただている海自OB氏に電話にて意見を伺いました。

(木走)「中国の空母、その最大の目標は尖閣諸島の奪還だ」この環球時報の記事を読んでの率直な感想を・・・
(海自OB氏)日清戦争勃発120周年の記念日にブチ上げた国威高揚的記事であろうと感じた。正直まともに実現性を論じる価値はあまりないのではないか?
(木走)海自として中国空母「遼寧」の戦闘能力についてはどう評価しているのか?
(海自OB氏)過大評価も過小評価もなく冷静に分析していると考えていい。そもそも中国海軍自身「遼寧」を「練習空母」と位置づけている。将来はともかく現状はパイロットの離着艦練度や航空母艦操舵練度が未熟であり、実戦配備できる状況にはないだろう
(木走)空母「遼寧」の現状の実力では尖閣諸島奪還は不可能であると判断して良いのか。
(海自OB氏)そもそも軽空母一隻のみでの尖閣奪還など中国軍も計画していないだろう。
(木走)では中国による尖閣奪還の現実的なシナリオはどのように想定されるか?
(海自OB氏)あくまでも個人的想定だが、軍事的には正規軍ではなく、民間の漁船団、武装海上警察の「海監」や「漁政」の船団を前面に立て、正規軍である中国海軍東海艦隊のフリゲート艦数隻がその後方で陣形を成す、そして上陸行為も正規軍ではなく一部の中国人漁民、実は元人民解放軍特殊部隊員などなのだが、の上陸や、武装警察の上陸が可能性としては一番想定しやすいだろう。
(木走)正規の軍を全面には立てないと?
(海自OB氏)中国軍はアメリカ軍との直接衝突を一番恐れているはずだ。正規軍を投入すれば展開によってはアメリカ軍との衝突リスクを高めることになる。
(木走)ズバリ中国による尖閣奪還の可能性は高いのか?
(海自OB氏)可能性の話はすべきでないだろう。日本としては、そのような衝突が起こらないように外交努力をしつつ、日米同盟を基軸に防衛力整備に真摯に努めることが肝要だと思う。 

 うむ、海自OB氏にはお忙しい中電話による取材に対して素人にも解りやすい解説をしていただき深謝いたします。

 電話取材の後の雑談で海自OB氏の指摘が興味深かったのです。

 この記事構成が今の極東情勢の雰囲気を象徴しているというのです、中国メディアの「中国の空母、その最大の目標は尖閣諸島の奪還だ」との報道に対し、韓国メディアが即座に「日清戦争120周年記念式典の開催は中国が国恥を忘れていないことを示している」との論評をしている点であります。

 北朝鮮と対峙しているはずの韓国が米韓・日米の軍事同盟から心情的に乖離するかのように北朝鮮支援国である中国への同調するかのような感情が垣間見えるような記事構成だとの、指摘であります。

 中国紙の記事自体は現時点では非現実的なブラフに過ぎないと思われますが、そのようなブラフ記事を積極的に取り上げる韓国紙の報道姿勢にこそ、今日の極東情勢の心情的ねじれ具合を象徴しているように感じられる、というわけです。

 ふう。



(木走まさみず)