木走日記

場末の時事評論

 凶悪な少年事件において保護者の責任はどこまで問われるべきなのか?〜森永卓郎氏が佐世保殺害事件の加害女子父親に対し厳しく非難

 佐世保事件、逮捕された少女の父親が謝罪文を発表いたしました。

 朝日新聞記事より全文をご紹介。

佐世保事件、逮捕された少女の父親の謝罪文(全文)
2014年8月3日19時52分

 殺人容疑で逮捕された少女の父親が代理人の弁護士を通して発表した謝罪文(全文)は次の通り。

佐世保事件、容疑少女の父「おわびの言葉見つからない」(8/3)
     ◇

 今回、私の娘が起こした事件により、何の落ち度もないお嬢様が被害者となられたことについては、お詫(わ)びの言葉さえ見つかりません。

 人生の喜びや幸せを経験する時間を奪われ帰らぬ人となったお嬢様の苦しみと無念さ、お嬢様を愛(いと)しみ育てられたご両親様及びご親族様が受けた衝撃と悲しみの深さを深慮し、胸が張り裂ける思いでいっぱいです。事件後、その思いが頭を離れることは一秒たりともありません。本当に申し訳ございませんでした。

 また、この事件により、社会に多大なるご不安・ご迷惑をお掛けし、捜査当局その他関係各位にご面倒をおかけしていることを深くお詫び申し上げます。

 未(いま)だご遺族様へ直接の謝罪ができていない段階で、社会に対して私の心情を申し上げることについては、逡巡(しゅんじゅん)しておりました。しかし本件が社会的反響の多い大事件であることを重く受け止め、事件から1週間が経過せんとする現時点で、加害少年の父親として、今後ご遺族様に対して、せめて道義的な責任を直視した対応をさせていただく決意であります旨、私の心情を披瀝(ひれき)させて戴(いただ)きます。

 今は私自身生きる自信さえ喪失しかけておりますが、私の命をもってお詫びしても償うことはできないものと捉え、特にご遺族様に対しては、そのご心情を十二分に配慮しつつ、適切な時期・方法において、謝罪・補償等、私の力の及ぶ限り誠意ある対応をしていく所存です。

 複数の病院の御助言に従いながら、私たちでできる最大限のことをしてまいりましたが、私の力が及ばず、事件が発生したことについては、誠に残念でなりません。

 どんな理由・原因があるにせよ娘の行った行為は、決して許されるべきものではありません。本件については本当に申し訳ございませんでした。重ねてお詫び申し上げます。

http://digital.asahi.com/articles/ASG834J2FG83TOLB007.html

 今回の大変痛ましい事件はいろいろな側面を有しているとは承知していますが、中でも、当ブログも息子・娘、ふたりの子供を持つ父親ですが、このような特異と言える事件が起きたときの親の責任とはいったい何なのか、その責任があるとしてそのとり方とはどうあるべきかを、深く考えさせられる事件であります。

 この一週間、この父親に対するメディアからの圧力は相当なものがあったようです。

 時系列が前後しますが、例えば1日のTV放送において評論家の森永卓郎氏が加害女子生徒の父親に対し「凄くアンフェア」と非難しております、この放送時点で父親の謝罪文は公表されていないことに留意しつつ、ライブドアニュース記事から。

2014年08月01日19時55分
森永卓郎氏が「ミヤネ屋」で、佐世保同級生殺害事件の加害女子生徒の父親に対し「凄くアンフェア」と非難
http://news.livedoor.com/article/detail/9105145/

 記事より森永氏の発言部分を抜粋。

「私はね児童相談所に問題があったのかも知れないですけど、もっと大きな責任はやっぱり加害生徒の父親にあると思うんですよ」

「これだけ大きな事件になっているのに未だに父親が会見も開いてないし、取材も受けてないし、被害者に対する謝罪言ってない釈明もしてないっていうのはどうしても納得できないんですね」

「何故こういうことが起こったのか、一番事情を知っているのが父親のはずなんですよ。子供を育てる親というのはそのぐらいの強い責任があると私は思うんです」

「それを黙ったままっていうのは、私は凄くアンフェアだと思います」

「いや、だって普通に考えてね、自分のお母さんが亡くなってですよ、たった半年で若い女性と再婚するって言ったら子供はどう思うかっつったら、普通だったら『ふざけるな』って思うのが多分普通の感情だと私は思いますけどね」

 この放送時点で父親の謝罪文は公表されていなかった点は留意すべきですが、「自分のお母さんが亡くなってですよ、たった半年で若い女性と再婚するって言ったら子供はどう思うかっつったら、普通だったら『ふざけるな』って思うのが多分普通の感情」との発言部分は、「もっと大きな責任はやっぱり加害生徒の父親にあると思う」との発言の説明にもなっているものと思われます。

 森永氏の発言は「若い女性と再婚」部分など少々父親に対する感情的な非難とも受け取れるのですが、それはともかく父親に対する非難のひとつに、少女をマンションに一人暮らしさせていた事実がメディアではよく取り上げられています。

 父親の謝罪文にも「複数の病院の御助言に従いながら、私たちでできる最大限のことをしてまいりました」とありますが、一人暮らしは医師も了承していたとのことです。

 4日付け読売新聞記事から。

加害少女別居、医師から「父親に命の危険」助言
2014年08月04日 08時42分

 長崎県佐世保市の県立高1年の女子生徒(15)が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された少女(16)の父親は、実家で少女から金属バットで殴られ重傷を負ったため、少女をマンションに一人暮らしさせていたことがわかった。

 父親はバットで襲われた後、少女に医療機関の精神科を受診させており、医師から「父親に命の危険がある」と助言されていたという。

 父親の代理人弁護士が3日、長崎市内で報道陣の取材に応じた。弁護士によると、少女は3月2日、佐世保市の実家で父親の頭部を金属バットで殴った。けがは「命にかかわるもので、死ぬ可能性も十分あった」という。父親は原因がわからず、同月から二つの精神科病院で少女に治療を受けさせた。医師に相談した際、「同じ屋根の下で同じように寝ると、命の危険がある」と助言を受け、事件現場となったマンションに、4月から少女を一人暮らしさせた。一人暮らしは医師も了承していたという。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20140804-OYT1T50005.html

 うむ、父親は「同じ屋根の下で同じように寝ると、命の危険がある」と医師から助言を受けていたようです。

 小学6年の時に給食に漂白剤や洗剤を混入させた件、ネコを解剖していた件、そしてこの父親を金属バットで殴って大けがを負わせていた件、本件では予兆のような事件が起こっており、それらシグナルを正しく予防処置に結び付けられなかったことが悔やまれるわけですが、長崎地検は、家裁送致前の捜査段階での精神鑑定を実施する方針を固めた模様です。

 2日付け日経新聞記事から。

容疑の少女を精神鑑定へ 佐世保高1殺害
2014/8/2 12:53
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG0103T_S4A800C1CC0000/

 ・・・

 本件ではその犯行の猟奇性から注目を集めているわけですが、少年事件とその保護者の責任について、まず法的責任について押さえておきましょう、下記リンク先法律事務所の説明が解りやすいやすいので引用。 

少年事件と保護者の損害賠償責任

責任能力を持たない未成年者は、第三者に損害を与えても、その損害を賠償する責任を負いません(民法712条)。その場合、未成年者の監督義務を負う親権者(両親あるいは一方の親)が監督義務を尽くしていない場合は、未成年者が第三者に与えた損害につき、賠償する責任を負担することとされています(民法714条1項)。

未成年者は、個人差はありますが、一般的には12歳くらいに責任能力を持つようになるとされています。

とすると、13歳以上で、責任能力が備わる未成年者が第三者に損害に与えた場合、原則、未成年者本人が損害賠償責任を負い、親権者は責任を負わないことになります。しかし、親権者である親が、通常、果たすべき監督義務を果たしていないため、損害が生じたといえるような場合には、未成年者と共に、親も損害賠償責任が認められることもあります(最高裁昭和49年3月22日第二小法廷判決)。

実際には、被害者が、未成年者に対し、損害賠償請求をする訴訟を提起して認容判決を得たとしても、未成年者には資力がないため、賠償金を回収できる見込は乏しいといえます。片や、親としては、子どもの抱える金銭上のトラブルは、子どもの将来のため、早期に解消しておきたいと考えられるようです。これらの事情を踏まえた上、相当額の賠償金を親が負担して示談をするケースが多いと思われます。

http://keiji-shohaku-law.jp/junior03.php

 うむ、「13歳以上で、責任能力が備わる未成年者が第三者に損害に与えた場合、原則、未成年者本人が損害賠償責任を負い、親権者は責任を負わない」とすれば、本件容疑者は年齢的には該当するわけですが、「しかし、親権者である親が、通常、果たすべき監督義務を果たしていないため、損害が生じたといえるような場合には、未成年者と共に、親も損害賠償責任が認められることもあります」とのことです。

 精神鑑定の結果、責任能力が問えない場合でもこの父親は謝罪文にて「特にご遺族様に対しては、そのご心情を十二分に配慮しつつ、適切な時期・方法において、謝罪・補償等、私の力の及ぶ限り誠意ある対応をしていく所存です」と、「私の力の及ぶ限り誠意ある対応をしていく」と明記されています。

 ・・・

 まとめます。

 森永卓郎氏はTV番組において、本件では父親に大きな責任があると発言いたしました。

 ポイントは犯行に及ぶまでに、小学6年の時に給食に漂白剤や洗剤を混入させた件、ネコを解剖していた件、父親を金属バットで殴って大けがを負わせていた件、本件では予兆のような事件が起こっており、これらを精神鑑定の結果も踏まえて、医学的にどう鑑定されるかという点にかかっていると思われます。

 本件容疑者は人格障害者である可能性が指摘されていますが、精神病質なのか仮精神病質なのかが問われることになります。

 精神病質の原因と考えられているのは前頭葉の障害であるとされ、健常者の脳波とはまるで違う脳波を見せます、これは遺伝病だとされる意見が主とされています。

 このケースならば父親が果たすべき監督義務にも限界があったことでしょう、道義的責任を問うことよりも治療方法・治療措置が適切に取られたのかが焦点になります。

 逆に、家庭・周囲環境や障害に因る心身の衰弱によるものなどによる、精神病質に似た性格異常は仮精神病質(偽精神病質)とされ、精神病質とは識別されます。

 このケースならば父親が果たすべき監督義務が大きく問われることになりましょう。

 今回の事件の誘引として、容疑者が仮精神病質を持つにいたった過程に、家庭環境がどこまで因果関係が認められるのか、その中で父親が果たした(あるいは果たさなかった)役割はいかなるものか、慎重に鑑定する必要があります。

(参考サイト)

精神病質

精神病質(せいしんびょうしつ、英: psychopathy、サイコパシー)とは、反社会的人格の一種を意味する心理学用語であり、主に異常心理学や生物学的精神医学などの分野で使われている。その精神病質者を英語でサイコパス (psychopath) と呼ぶ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85%E8%B3%AA

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 凶悪な少年事件において保護者の責任はどこまで問われるべきなのか?

 極めて重い社会的テーマであります。
 
 今回の事件で読者のみなさんはどのような考えをお持ちなのでしょうか?



(木走まさみず)