木走日記

場末の時事評論

日本外務省の動画に「加害国である日本が『援助国』のふりをしている」(韓国メディア)に反論する〜重要な事実を無視して好き勝手に歴史を歪曲しているのは韓国メディアのほうである

 日本の外務省が、第二次世界大戦後に日本は平和国家に変わってアジアの繁栄と平和に貢献し、複数の国々の建設を積極的に支援したという2分ほどの広報動画を制作、米ニュース専門局「CNN」や動画共有サイト「ユーチューブ」の外務省公式動画チャンネル(mofachannel)などで流し始めました。

 この動画以下で確認できます。

戦後国際社会の国づくり:信頼のおけるパートナーとしての日本

https://www.youtube.com/watch?v=2FGtPJnyw0Q

 さてこの動画に、例によってお隣の国韓国が猛反発、「新たな歴史歪曲(わいきょく)」(朝鮮日報)、「戦争加害国が『援助国』のふり」(ハンギョレ新聞)と大騒ぎであります。

朝鮮日報
「韓国の繁栄は日本のおかげ」日本政府の広報動画が物議
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/03/25/2015032500602.html

ハンギョレ新聞】
浦項製鉄所の設立を支援し韓国の経済成長を助けた」日本外務省の動画が問題に
http://japan.hani.co.kr/arti/international/20088.html

 さて彼らは何を怒っているのでしょうか。

 朝鮮日報の当該箇所を抜粋。

 日本の侵略に対する補償として支払った資金を、まるで善意の政府開発援助(ODA)資金かのように装っており、新たな歴史歪曲(わいきょく)との声も上がっている。

 うむ、侵略戦争の補償金を支払っただけなことを「まるで善意の政府開発援助(ODA)資金かのように装って」いるというわけです。

 記事は、動画は多数のアジアにおける日本のODA事業の事例を挙げていると説明が続きます。

 日本政府は「戦後国際社会の国づくり:信頼のおけるパートナーとしての日本」という2分間の動画で、「1951年のサンフランシスコ平和条約により、国際社会に復帰した日本は、1954年のミャンマーを皮切りにいち早くアジア各国への経済を開始」したと宣伝、ソウル地下鉄1号線、浦項総合製鉄所、昭陽江ダムの写真を入れた。また、中国・北京−秦皇島間鉄道、スリランカコロンボ湾拡張、ミャンマー・バルーチャン水力発電所、タイ東部臨海工業開発なども代表的なODA事業の例として挙げている。

 韓国の「浦項製鉄所は1965年の韓日基本条約に伴う対日請求権資金を投入して建設されたもの」であり、「まるで日本が自発的に支援したかのように誤解させる」と批判します。

 しかし、浦項製鉄所は1965年の韓日基本条約に伴う対日請求権資金を投入して建設されたものだ。それにもかかわらず、日本は動画で「各国の経済インフラ整備をODAにより支援し、アジアの発展の基礎を築いた。これにより日本企業を含む多くの民間投資を促進し、持続的な経済成長をもたらした」とナレーションを入れている。まるで日本が自発的に支援したかのように誤解させるものだ。

 ハンギョレ新聞もほぼ同様の論調です、記事の結びだけ抜粋。

 どの国も自国の業績を外国に積極的に広報しようとするが、この動画の場合、戦後のアジア経済成長が日本の開発援助によるという歪曲された認識を植えつける可能性がある点が問題として指摘されている。特に、1968年に浦項製鉄所の設立の場合、対日請求権資金の一部が転用された事実を度外視したまま、加害国である日本が自ら「援助国」のふりをするのは行き過ぎた行為との指摘もあり得る。

 この動画は、戦後における自国の成果を積極的に広報することにより、過去の歴史議論を希釈させたい安倍晋三政権の広報戦略の延長線上にあるものと思われる。

 「戦後のアジア経済成長が日本の開発援助によるという歪曲された認識」

 「1968年に浦項製鉄所の設立の場合、対日請求権資金の一部が転用された事実を度外視」

 「加害国である日本が自ら『援助国』のふりをするのは行き過ぎた行為」

 とのことであります。

 ・・・

 ふう。

 なぜ他国の外交PR動画に、ここまで激しく反発するのか、理解しがたいのですが、これですね、事実に基づいた批判ならまだよろしいですが、今回も重要な事実を無視して好き勝手に歴史を歪曲しているのは韓国のほうなのであります。

 史実を丁寧に検証・トレースしておきましょう。

 そもそも韓国は、浦項総合製鉄所建設のために、米国からの借款につとめます。

 しかし世界銀行(IBRD)研究員(英国人ジャッペ博士)が‘韓国の総合製鉄所事業は経済的な妥当性がない’という報告書を出したために、 韓国の総合製鉄所は成功の可能性がない、とアメリカから借款を断られます。

 そこで韓国は窮余の策として、日本との国交正常化で受けた対日請求権資金を用いることを考え、朴大統領もそれを積極的に支持いたします。

 ところが対日請求権資金3億ドルのうち、当時使って残った金額は7370万ドルだけなのであります。

 これでは予定建設費用に全く足りません。

 そこで純粋なODA開発援助として日本政府は日本輸出入銀行を通して5000万ドルを借款して、手を差し伸べているのです。

 このあたりの事情は、他ならぬ当事者である当時の浦項製鉄所の韓国側責任者・現ポスコの朴泰俊名誉会長が、中央日報のインタビューで明言しています。

新日鉄の支援なしに今日のポスコはない」朴泰俊名誉会長
2008年03月26日19時07分
http://japanese.joins.com/article/939/97939.html?sectcode=&servcode=

 金だけではありません。

 日本はその技術力を惜しみなく韓国に提供したのです。

 上記インタビューで朴泰俊名誉会長は、日本の技術支援がなければ「今日の浦項製鉄はなかった」とまで言い切っています。

−−初期は見通しが暗かったというが。

新日鉄の稲山嘉寛会長(87年逝去)に絶対的に依存した。 朴正煕(パク・ジョンヒ)大統領の製鉄立国執念と稲山会長の全幅的な支援がなければ、今日の浦項製鉄はなかったはずだ。 苦労の末、73年6月9日に浦項1高炉で初めて溶解鉄があふれ出た。 それは一つの‘事件’だった。 浦項製鉄職員全員の血と汗の結晶であり、大韓民国が工業国家として第一歩を踏み出した瞬間だった」

 ・・・

 まとめます。

 本当は、資金の出所が「侵略戦争の補償金」であるか、開発援助(ODA)金であるかなどは、些末なことであります。

 しかし、浦項総合製鉄所建設の資金が「侵略戦争の補償金」である対日請求権資金だけで賄われたのだから、「加害国である日本が自ら『援助国』のふりをするのは行き過ぎた行為」(ハンギョレ新聞)という批判は、いかにも針小棒大な歴史的事実の歪曲であります。

 事実は、確かに浦項総合製鉄所建設資金に対日請求権資金の残金が使用されました。

 しかしそれでは建設費用が全然足りなかった。

 不足分5000万ドルは日本政府が開発援助しているのです。

 従って、日本外務省のPR動画は全く「新たな歴史歪曲」(朝鮮日報)には、あたりません。

 今検証した通り、「日本の侵略に対する補償として支払った資金を、まるで善意の政府開発援助(ODA)資金かのように装っており、新たな歴史歪曲(わいきょく)」(朝鮮日報)との批判は、まったく事実無根です。

 いちいち、このレベルで事実検証して反論しなければならないところが、疲労感いっぱいで溜息しかでませんが、事実は事実として反論しておきます。

 ふう。



(木走まさみず)