木走日記

場末の時事評論

コネと賄賂の悪習が跋扈(ばっこ)している中国の病院事情

 今回は知り合いの中国人から日本ではちょっと想像もつかない中国の病院事情を聞きましたので、その興味深い話を読者に開陳したいです。

 在日10年のS君は日本の企業で働いているバリバリのITエンジニアでありまして34才独身、日本語もたいへん流暢な好青年であります、山東省は青島市近郊の出身であります。

 彼が休職して2ヶ月間帰国して11月初旬に日本に戻ってきました。

 久しぶりに彼と東京の中華料理店で会食したときに聞いた話です。

 2ヶ月前彼が急遽帰国したのは、彼の父親が入院したからでした。

 病名は肺がん、しかもかなり進行している末期がんだとのことでした。

 聞けば母親も病弱だそうで、一人っ子の彼が急ぎ帰国したわけです。

 親思いの彼は小さな一般病院から青島市にある有名ながん専門の総合病院に父親を入院させようと手配します。

 まず、この病院は入院するのにものすごい待ち行列がたえずできていて、入院するのに半年待ちとかが普通なのだそうです。

 しかし共産党幹部や有力な医師の紹介状があれば、すぐに入院が可能なのだそうです。

 S君にはそのような強力なコネはなかったのですが、幸いなことに従兄弟がその病院でたまたま働いていたので、裏から従兄弟に手を回してもらい、父親はすぐに入院できました。

 入院できても安心できないのが中国の病院です。

 病院内の父親のベッドで付き添いをするS君でしたが、なんと入院から一週間、父親は一切の検査も治療も受けられないで、まったく病院から放置されていたのだそうです。

 S君は日本で長く働いていて最近の中国の病院事情に疎かったわけです、病院内に働いている従兄弟に相談したところ、すぐに主治医などに金を渡すように言われたそうです、つまり賄賂ですね。

 S君いわく、その賄賂が半端じゃないのです、まず主治医には数万元、そして麻酔医、レントゲン技師、看護師などに、その格に応じた賄賂を何人にもばらまかなければならなかったそうです。

 驚いたことに賄賂を渡したその日から、父親の扱いは180度変わりました、主治医が来て初めて問診、レントゲンなどの各種検査が始まり、点滴が投与され始めたそうです。

 父親の症状は末期の肺がんですから、残念ながら余命もいくばくでも無いのでしょうが、S君としては最善の治療を最後まで受けさせたい思いだったのでしょう。

 こうしてその地域の最も信頼できるがん専門の総合病院で父親を入院、治療させることができたのでした。

 しかし中国では日本と違って保険はありません、中国の医療機関では保険はきかず、事実上、自由診療なのです。

 S君は賄賂と高い医療費で日本で働いて貯めた貯金をほぼ使い切ったそうです。

 「お父さんには申し訳ない言い方だけど余命少しの末期がんでなければあの病院に入院させ続けることは僕には経済的にできないことです」

 ・・・

 これから中国は、世界最大の高齢化大国になることが予測されています。

 もちろん中国政府はこうした医療体制を社会問題ととらえ、改善を急いでいるわけですが、これは根が深い問題だと感じます。

 コネがなければなかなか入院できない総合病院。

 入院できても賄賂を渡さなければ、たとえ重症でも一週間も放置される患者。

 S君の話を聞いて考えさせられました。

 すべての医療機関がこのようなひどい状況ではないとは思いますが、中国の上海に滞在する日本人の友人からもほぼ同じような病院事情を聞いています。

 中国の病院事情、ここまでコネと賄賂の悪習が跋扈(ばっこ)しているとは知りませんでした。



(木走まさみず)