木走日記

場末の時事評論

なぜ小泉容疑者は働いている様子もないのに家賃を支払ってこれたのか?

 私は46歳の小泉容疑者とは同世代であり、彼がかつてソフトウエア会社に就職歴があり同業であったこともふくみ、同じ時代を社会に揉まれて過ごしてきた人間として、今回の凶行を犯した彼を人ごととして捉えにくいです。

 同情とかではなく彼を今回の凶行に至らせた真の理由が知りたいです。

 今日は本件を取り上げてみます。



●小泉容疑者、報道各社に犯行声明メール〜犯行動機は「ペット処分され腹立った」

 読売新聞電子版速報記事から。

小泉容疑者、読売新聞にメール…「今から自首する」

 小泉毅容疑者が警視庁に出頭する約2時間前の22日午後7時すぎ、読売新聞東京本社に「元厚生次官宅襲撃事件について」というタイトルで「最初から逃げる気は無いので今から自首する」と書かれたメールが届いた。

 警視庁は内容から、小泉容疑者本人が書いた可能性が高いとみて調べている。

 メールには「今回の決起は年金テロではない」「34年前、保健所に家族を殺された仇討ちである」と記述。「私はマモノ(元官僚)1匹とザコ(マモノと共生しているやつら)1匹を殺したが、やつらは今も毎年、何の罪の無い50万頭ものペットを殺し続けている」などと続け、犯人であることを示唆する内容になっている。

 名前や住所の欄には何も書かれていなかったが、メールアドレス欄に書かれていた大手プロバイダーの無料メールアドレスには、「決起」をローマ字にしたとみられる「kekki」が使われていた。同様のメールは複数の報道機関に届いている。

 「元厚生次官宅襲撃事件について」とのタイトルで読売新聞東京本社に送信されたメール(表現は原文通り)

 今回の決起は年金テロではない!

 今回の決起は34年前、保健所に家族を殺された仇討ちである!

 私はマモノ(元官僚)1匹とザコ(マモノと共生しているやつら)1匹を殺したが、やつらは今も毎年、何の罪の無い50万頭ものペットを殺し続けている。

 無駄な殺生はするな!!!

 無駄な殺生をすれば、それは自分に返ってくると思え!

 <日本警察の捜査能力に疑問>

 ・私は左利きである。(吉原の妻に聞けば分かること)

 ・私は靴ひもタイプを使ってない。

 ・吉原の妻に使った凶器は山口を殺した包丁を使用した。

 ・山口の件では最初に出てきたのは剛彦である。

 最初から逃げる気は無いので今から自首する。

 以上

(2008年11月24日03時16分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081124-OYT1T00051.htm?from=main2

 各報道に寄れば、新聞では朝日・読売に、TV局では、日テレ、TBS等のHPサイトに同様のメールが送られていたようです。

 今回の犯行動機が「34年前、保健所に家族を殺された仇討ち」、つまりかわいがっていたペットの犬を保健所に処分されたことへの恨みであったことを表明しているようですが、このような凶行を起こすにはにわかには信じがたい動機なのでありますが・・・

 朝日記事によれば、彼が小学生の頃、父親によると野良犬を保健所に処分してもらったのは事実のようです。

「ペット処分され腹立った」 小泉容疑者、出頭時に語る
2008年11月23日18時46分

(前略)

 山口県柳井市に住む父親によると、小泉容疑者が3歳ぐらいから小学2年か3年まで飼っていた白い犬は病気で死んだ。その後、家に来る茶色い野良犬を飼うようになったが、自宅で営んでいた駄菓子屋の客や周囲の人によくほえるため、保健所に処分してもらった。息子には相談しなかったという。

 「息子は『いやだ』と言っていた気がする。そのことを根に持っていたのかもしれない」と父親は話した。

http://www.asahi.com/special/08022/TKY200811230084.html

 ・・・



●数学が得意で温厚な、地元では頭のいい学生だった容疑者

 彼は決して馬鹿ではなかったことは、彼の生い立ちをつづる朝日記事にくわしいです。

大学中退、職を転々、元同級生「人相一変」 小泉容疑者
2008年11月24日3時4分

 小泉毅容疑者は高校卒業まで山口県柳井市で過ごした。少年時代を知る人の多くが「おとなしい子」と話す。柳井市に住む父親(77)も「けんかをするような状況になれば逃げるような子だった」という。

 小学校から高校まで同級生だった男性(47)は、逮捕された小泉容疑者をテレビで見て驚いた。「面影はあったが、人相がまったく変わっていた。ふてぶてしい態度は当時からは想像できない。何があったのか……」

 中3で担任だった山根定治さん(73)は「数学がよくできて、学年でトップ級だった。いつもニコニコしていて、同一人物とは思えない」と振り返った。

 高校時代のクラブ活動は囲碁・将棋だった。別の同級生も「温厚で目立たないタイプだった」と話す。特に数学を熱心に勉強していたという。

 卒業後は、佐賀大の理工学部に進んだ。当時を知る名誉教授によると、成績は「平均よりも上」だったが、一般教養の英語の授業を受けず、専門に本格的に取り組む前に中退。サークル活動などにも参加せず、「友だちも多くなかったように思う」と話す。同じ学年だった男性(47)は「1人で授業をうけていることが多かった。目立たず、悪そうではなかったが、まじめに授業に出席していたわけでもない」と振り返った。

 父親によると、その後、東京のコンピューターのソフトウエア製作会社に就職したが、数年で辞めた。このころ、横浜で宅配便のアルバイトを経験したという。

 職を転々とする息子をみかね、父親は十数年前、つてを頼って広島市アイスクリームメーカーに就職させた。

 だが、まもなく退職し、10年ほど前に再び上京。その後は、実家から連絡を入れても、ほとんど返事がなかったという。

http://www.asahi.com/national/update/1124/TKY200811230184.html

 「数学がよくできて、学年でトップ級だった」(中学担任)

 「温厚で目立たないタイプだった」(高校同級生)

 成績は「平均よりも上」(佐賀大学教授)

 これらの発言から、少なくとも大学進学までの彼は、数学が得意で温厚な、地元では頭のいい学生、という人物像が浮かび上がります。

 その後、大学を中退、「東京のコンピューターのソフトウエア製作会社に就職したが、数年で辞めた。このころ、横浜で宅配便のアルバイトを経験」、職を転々とする息子をみかね、父親がアイスクリームメーカーに就職斡旋するもまた退職、ここ10年は実家から連絡を入れても音信不通とのことでありました。

 ・・・



●そして現在の彼からは「温厚さ」は消え去った

 そして現在の彼からは「温厚さ」は消え去っています。

 朝日新聞記事から。

「うるさい」壁たたき、刃物で脅迫も 小泉容疑者
2008年11月24日9時0分

 「いつも怒っていて怖い人だった」。広島市のアパートに住んでいた女性(39)は、十数年前に隣人だった小泉容疑者の印象を話す。

 女性が自室でテレビを見たり友人と会話をしていたりすると、壁をたたき、時にはチャイムを鳴らして「うるさい」と文句を言ってくる。大家によると、「自転車をパンクさせられた」と騒いだこともあった。騒音トラブルに刃物で脅したため、退去させたという。

 現在のさいたま市北区のアパート2階に住み始めたのは98年8月。間近で見てきた住民らによると、ここでもトラブルは絶えなかったようだ。

 入居直後、同じアパートの住民3人を自室に呼び、「物音がうるさい」と問いつめた。真下の部屋に入居した人たちは、3人続けて短期間で退去した。大家の男性(55)は「その後、小泉容疑者の真下の部屋にはだれも入居させないようにした」と明かす。

 隣のアパートに住む男子学生(20)は半年ほど前、郵便局員を追い返す姿を見たことがある。近くの民家の男性(68)は「近寄らないほうがいいね、と妻と話していた」。別のアパートの男性(31)も「いつもどなっているような感じで、かかわりを持ちたくなかった」と話した。

 国勢調査の調査員に「こんなものいらねえんだ」と調査用紙を突き返す。水回りの修理に訪れた水道工事業者に命令口調で話す。困り果てた大家が連絡をとろうとしても、いつも留守番電話。腹に据えかねて「出て行け」とメッセージを残しても、反論はなかった。大家は「実は小心者なんだな」と思ったという。

 働いている様子も、職を探している様子もない。それでも、家賃は毎月きちんと支払う。丸刈りに野球帽をかぶり、いつもうつむいて歩く。近所の中学生があいさつしても返事はない。周りの人たちには、人との接触を避けているように映った。

 その小泉容疑者が大家に一度、激高して電話をかけてきたことがある。2年ほど前、山口県の実家に大家側から電話をかけた直後。興奮した口調で「てめえ、このやろう」「親は関係ないだろう」とどなり続けたという。
http://www.asahi.com/national/update/1124/TKY200811240004_01.html

 どうやら近年の彼はすっかり近所でも有名なはた迷惑なトラブルメーカーと成り下がっていたようです。

 この記事で私が注目したい点は2点。

 まず一点は記事冒頭の、

「いつも怒っていて怖い人だった」。広島市のアパートに住んでいた女性(39)は、十数年前に隣人だった小泉容疑者の印象を話す

 この女性の発言です。

 広島市とありますので、おそらく父親が就職斡旋した広島のアイスクリームメーカー勤務時代となりましょう。

 十数年前とありますから、現在46歳の彼がおそらく30代前半の頃のことなのでしょう。

 つまり彼は、30代前半のころにはすでに、「温厚さ」を失い周囲から「いつも怒っていて怖い人だった」と印象を持たれるまでに性格を豹変させていたことになります。

 おそらく20代前半の大学を一般教養の英語の授業を受けず、専門に本格的に取り組む前に中退した頃から、その後の「東京のコンピューターのソフトウエア製作会社に就職したが、数年で辞めた。このころ、横浜で宅配便のアルバイトを経験」した30代前半のこの10年間の中で彼はその性格をゆがめていったのだろうと推察されます。

 ・・・



●なぜ小泉容疑者は働いている様子もないのに家賃を支払ってこれたのか?

 もう一点、この朝日記事で私が注目したいのは以下の記述です。

 働いている様子も、職を探している様子もない。それでも、家賃は毎月きちんと支払う。丸刈りに野球帽をかぶり、いつもうつむいて歩く。近所の中学生があいさつしても返事はない。周りの人たちには、人との接触を避けているように映った。

 「野球帽をかぶり、いつもうつむいて歩く。近所の中学生があいさつしても返事はない」とはすっかり内向した彼の閉ざされた精神状態がそうさせていたのでしょうが、それはさておき、「働いている様子も、職を探している様子もない」のに「家賃は毎月きちんと支払う」とは不思議と言えば不思議な話です。

 考えられる可能性は、

 ・親からの仕送りがあった
 ・預貯金があって食いつないでいた
 ・世間の知らない別の収入があった

 等があるわけですが、まず仕送りは考えづらいです。

 一連の報道に寄れば彼の実家は決して裕福ではなくましてここ10年は音信も途絶えがちだったことから46歳の彼がこの歳まで実家から仕送りを受けてきたとは考えづらいし、そのような報道も見あたりません。

 次に、預貯金があって食いつないでいた可能性も低いと思われます。

 報道が正しければ、常識的に見て大学中退後に職を転々としていた彼が貯金を増やすほどの収入を得ていたとは考えづらいですし、ましてやここ10年さいたまで同じアパートに居たわけですからその間無職だとすると、そうとうな預貯金ではないと食いつなぐことは不可能です。

 であれば、世間の知らない別の収入があったということが一番可能性としてはしっくりしています。

 では、近所から「働いている様子も、職を探している様子もない」と見られつつ、彼が収入を得る方法はあるのでしょうか。

 一番現実的に私が考えると、ソフトウエアのエンジニアだった彼が、SOHOといいますか在宅勤務で自宅のPCでプログラム開発を手伝っていたという推測です。

 時間管理ではなく、成果物に対する報酬という受託契約であれば、それこそ家に閉じこもり夜中であろうと好きな時間にPCの前でプログラミングしていれば、腕がよければ生活費ぐらいは稼げますし、近所から「働いている様子も、職を探している様子もない」と見られていても不思議ではありません。

 彼が「物音がうるさい」とアパートの住人にクレーマーしていたことも、自宅で仕事をしていたとすれば、ある程度頷けるのであります。

 もしこの私の推測が正しいのならば、彼と受託契約をしていたソフトハウスを当たれば確認はすぐにできることでしょう。

 もしかしてこの不況で仕事が出なくなったことなどがきっかけとなり、自暴自棄的に今回の犯行に及んだのかも知れません。

 一連の犯行声明メールを報道機関に送った行動や自ら自首したことなどから、彼はその動機を幼いときのトラウマである「34年前、保健所に家族を殺された仇討ちである」に、結果的に結びつけたのであり、本当はどんな動機であっても良かったのかも知れません。

 ・・・

 では、逆にもし私の上記の推測が間違っていて実際に彼は本当に無職であった場合、「働いている様子も、職を探している様子もないのに家賃は毎月きちんと支払ってきた事実」をどう説明すればいいのでしょうか?

 一つの仮定に過ぎませんが、もし彼にスポンサーが付いていたとしたら、そしてそのスポンサーが何らかの理由により厚労省事務次官の命を狙う必要があり、その実行犯として幼いときのトラウマを有する彼を今回の凶行に走らせるようにしくんでいたとしたらどうでしょうか。

 わずかですが、彼は単独犯ではない可能性が出てくると思います。

 ・・・

 本件では一人の容疑者が自首して、単独犯か複数犯か、かえって動機も含めてわからないことが多くなりました。

 しかし現時点でペットへの復讐という彼の動機を鵜呑みにして単独犯と決めつけることは危険だと思います。

 その意味で、小泉容疑者が働いている様子もないのに家賃を支払ってきた事実は、今後しっかりと検証すべき重要な鍵を握っているのではないかと思います。



(木走まさみず)