木走日記

場末の時事評論

小泉首相は8.15靖国参拝に行きたければ行けばいい〜福田康夫氏は総裁選に出馬しないなら出馬しなくていい

●自民総裁選、福田氏不出馬の見方〜朝日新聞

 朝日新聞記事から・・・

自民総裁選、福田氏不出馬の見方 東京大会出席せず
2006年07月20日03時04分

 福田康夫官房長官は28日に都内で開かれる自民党東京ブロック大会に出席しない意向を固め、党東京都連に伝えていたことが19日分かった。同ブロック大会は9月の党総裁選をにらみ、「ポスト小泉」候補を招いて政策を聞く場と位置づけられている。福田氏が出席し、総裁候補としての意欲を表明するかどうかが注目されていたが、欠席により総裁選には出馬しないとの見方が党内で強まってきた。

 同大会には、安倍官房長官、麻生外相、谷垣財務相、与謝野経済財政相と福田氏が出席を要請されていた。外遊中でビデオ出演となる麻生氏を含め、福田氏以外は出席を決めている。

 福田氏は各種世論調査の支持率で安倍氏に次いで2番手につけている。ただ、総裁選への態度を明確にしないことから、党内では安倍氏独走の環境が整いつつあるとの見方が強まっている。

http://www.asahi.com/politics/update/0720/001.html

 福田康夫官房長官は28日に都内で開かれる自民党東京ブロック大会に出席しない意向を固め、党東京都連に伝えていた」ために「欠席により総裁選には出馬しないとの見方が党内で強まっ」たそうであります。

 社説にまで福田出馬待望論を打った朝日新聞ですが、もはやあきらめ半分の記事でありますね。

 笑えるのは、首相の靖国参拝に反対の立場である福田康夫氏の総裁選出馬に一番ご執心なメディアと言えば、実は朝日でも毎日でもなく、昨年来ナベツネさんの鶴の一声で靖国参拝反対に寝返った(?)読売新聞なのは有名な話ではあります。

 読売新聞はこの前までけなげに福田氏出馬を後押しする記事を載せておりました。

ポスト小泉で「安福対決」期待、7割超す…ネット調査

 読売新聞社が行った「ポスト小泉」に関する第1回ネットモニター調査で、安倍官房長官福田康夫・元官房長官の「安福対決」に期待が膨らんでいることがわかった。安倍氏には「改革姿勢」、福田氏には「安定感」を感じる人が多く、テレビ好きな人ほど、「安倍首相」を望んでいるという結果も出た。

 ■安福対決

 次の首相として最もふさわしいと思う人を、自民党の5人の中から選んでもらったところ、安倍氏が44%でトップ。福田氏26%が続き、麻生外相5%、谷垣財務相4%などだった。同じ森派安倍氏と福田氏が自民党総裁選で対決することについては、「期待する」75%、「期待しない」24%だった。

 出馬が確実な安倍氏の支持者では、「期待する」が64%で、「期待しない」も33%あった。一方、出馬するかどうかはっきりしない福田氏支持者では、「期待」が80%に達し、出馬への期待感が強く表れた。

 (後略)

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6100/news/20060624i5w4.htm

 最近は福田援護記事を見かけないところをみると読売もあきらめたのかな(苦笑

 ・・・

 しかしなんだかなあ、首相の8.15靖国参拝の動向を待っているのか、世論や党内情勢における自分への期待感の高まりを見極めているのか、よくわからないですが、この福田康夫という男は、つくづく煮え切らない人だなあ。

 不肖・木走は靖国参拝凍結派であります。

 昨年来当ブログにおいてもこの小泉首相靖国参拝問題は何度も取り上げてきましたが、私のスタンスとしては、小泉首相靖国参拝しようがしまいがそれは本来どうでもいい個人の問題、しかし日本が60年以上前の戦争の負のイメージを煽られることは外交戦略上得策ではないから、ここは靖国参拝外交問題にしないためにも日本は日本の意志で首相の靖国参拝を凍結すべき、小泉さんは頑固一徹だからいくら周りが騒いでも靖国参拝は止めないだろうからここは日本の成熟した民主主義を内外に示すためにも、小泉さんは参拝するのはやむを得ないが次期首相は靖国参拝しない人が望ましい、といった感じです。

 つまり靖国参拝凍結派の私にとって、靖国参拝反対という政策一点に限り福田さんは次期総理候補として好ましい候補であり、一時はそれなりに期待しておりました。

 しかしです。

 福田康夫氏のこの煮え切らない態度はどうでしょう。

 戦略だか戦術だかわかりませんが、一国の首相、一億二千万の民をたばねて政(まつりごと)の長として最高権力と責任を担う人が、こんな意志表示をしない、やる気を示さない人ならば、そんな人はこちらから願い下げなのです。

 福田康夫氏は総裁選に出馬しないなら出馬しなくていい!

 もっと真摯に日本国の首相になるんだという決意と覚悟を持った他の人のほうがよろしいでしょう。

 プチリベラルな私ですが福田康夫氏には正直失望いたしました。



小泉純一郎の「8・15靖国参拝」の深層〜「日経NETプロの視点」から

 19日付けの清水真人編集委員による日経ネット「日経NETプロの視点」は良記事でありました。

小泉純一郎の「8・15靖国参拝」の深層(7/19)
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/shimizu2/index.html

 「首相・小泉純一郎終戦記念日の8月15日、靖国神社参拝に踏み切る気配を強めている」との読みから、「5年越しの「8・15参拝」断行となれば、日中関係はもちろん、ポスト小泉にも重大な影響を及ぼすのは間違いない。 」とする同記事ですが、圧巻は就任1年目の8.13参拝にまつわる中国を巻き込んだ首相官邸内外での各氏の攻防の生々しい描写であります。

 長いですが該当部分を引用しましょう。

(前略)

01年、「8・18」から「8・13」へぶれた真相

 小泉が終戦記念日靖国参拝を目指していた01年8月に時計の針を巻き戻す。


 「日中激突を避けるにはどうすればいいか」。官房長官福田康夫は前駐中国大使の谷野作太郎に相談した。2人は小学校の同級生。野球で谷野が投手、福田が捕手でバッテリーを組んだ間柄だ。谷野は外務省を動かし、「どうしても参拝するなら終戦記念日をやり過ごし、せめて3日は我慢してほしい」と「後ろ倒しの8・18参拝」を望む中国側の感触をつかんだ。福田は小泉の10月訪中を中国が受け入れることを見返りに、「8・18参拝」での軟着陸に向けて動き出した。


 中国は小泉訪中を受諾した。その際は小泉が盧溝橋の抗日戦争記念館を訪問し、歴史認識をその場で表明するよう提案。「来年は靖国に参拝しないことも明言して欲しい」とも要請してきた。日本側は「参拝見送りなど約束しようがない」と渋ったが、盧溝橋訪問と1995年の村山富市首相談話の線で歴史認識を表明するプランは受け入れた。一連の折衝は正規の外交ルートで進み、小泉にも報告が上がった。


 日本側が最後に出した注文は「8・18参拝の直後に小泉訪中受け入れを公表して欲しい」だった。参拝日時で小泉が公約を曲げて譲歩する代わりに、中国が小泉訪中を受け入れるという外交ディールの担保を明確にし、小泉が国内向けに説明しやすくする狙いだった。ただ、ここで中国側が難色を示した。「訪中は受け入れるが、参拝直後の公表はこちらの国内が持たない」。この情報も小泉の耳には入っていた。


 小泉最側近の政務秘書官飯島勲は「15日参拝」を確信し、11日の土曜日から休暇に入っていた。10日夜には15日参拝を前提に小泉が何度も手を入れた「首相所感」を最終的に仕上げ、小泉にも「15日参拝」の方針で変わりがないことを念押しし、郷里の長野県に帰っていた。一方、福田は「18日参拝」を前提とした「首相談話」の準備を独自に進めていた。「所感」と「談話」、異なる2種類の文書が存在していた。首相官邸の中枢で全く違う参拝計画が並走していたのだ。


 ここで独自に動き出したのが幹事長だった山崎拓だ。15日参拝による中国の猛反発を懸念し、元幹事長・加藤紘一を誘って土曜日の11日夜、首相公邸に向かった。2人で小泉を説き伏せる決意だった。政権発足後初めて、YKKトリオが顔をそろえた。長時間、参拝見送りを説いた加藤は小泉の決意が固いと見るや、最後は「15日回避」での説得に切り替えた。「後ろ倒しでは15日を挟んで騒動が続き、収拾不能になる。前倒しがいいが、14日では姑息過ぎる」。加藤が勧めたのは「13日参拝」だった。


総裁選へ沈黙守る福田康夫と神経戦

 1人熟考した小泉が「13日参拝」を決断したのは当日だった。仰天した福田はすぐに中国外務省高官に電話で連絡を取った。宿直係だった別の首相秘書官から「官邸内の様子がおかしい」と急報を受けた飯島も長野から自分の車を飛ばしてとんぼ返りするはめになった。午後4時、小泉は靖国へ向かう支度に入り、福田が「首相談話」を発表した。「15日の参拝は差し控え、日を選んで参拝を果たしたい」。後ろ倒しを前提にこしらえた談話をあわててそのまま発表したから、こんな妙な下りが残っていた。


 飯島は13日参拝を福田の策謀だと激怒した。政権を支える両雄は不倶戴天の関係に陥った。福田は「後ろ倒し」を目論んでいたわけだから、13日参拝は寝耳に水だったのだが、もはや修復不能。04年に福田が長官職を投げ出すまで暗闘が続いた。中国は小泉の10月訪中は受け入れたが、「前倒し」では靖国参拝を容認する流れにならず、厳しい批判を浴びせてきた。日中関係の危機管理は可能と小泉に進言した加藤も外務省チャイナ・スクール出身のメンツを失い、官邸とのパイプは途絶する。


 一連の経緯を知る外務省高官は後に小泉にたずねた。「なぜ8・18日参拝−10月訪中のディールで着地させなかったのですか」。小泉は即答した。「中国は俺の訪中受諾をすぐに公表はできないと言ったじゃないか」。こちらが参拝日時で中国の要望通りに譲歩した後で、中国は訪中問題で梯子を外すのではないか――小泉はそんな一抹の疑念に土壇場でこだわったと言うのだ。電撃的な北朝鮮訪問を断行した際のリスクを恐れない思い切りとはまるで違う。中国への警戒感は極めて強い。

(後略)

 当時の真相をルポしたすばらしい記事ですが、特に以下の記述は興味深いです。

 日本側が最後に出した注文は「8・18参拝の直後に小泉訪中受け入れを公表して欲しい」だった。参拝日時で小泉が公約を曲げて譲歩する代わりに、中国が小泉訪中を受け入れるという外交ディールの担保を明確にし、小泉が国内向けに説明しやすくする狙いだった。ただ、ここで中国側が難色を示した。「訪中は受け入れるが、参拝直後の公表はこちらの国内が持たない」。この情報も小泉の耳には入っていた。

 建前はともかく中国政府も小泉靖国参拝を組み込んだ外交ディールを冷静に検討していた様子が「訪中は受け入れるが、参拝直後の公表はこちらの国内が持たない」との中国側の発言からもうかがえれます。

 8.13に二日前倒ししての靖国参拝は、結果としてはご承知のとおりであります。

 「中国は小泉の10月訪中は受け入れたが、「前倒し」では靖国参拝を容認する流れにならず、厳しい批判を浴びせてきた。日中関係の危機管理は可能と小泉に進言した加藤も外務省チャイナ・スクール出身のメンツを失い、官邸とのパイプは途絶する。」

 ・・・

 記事の結語はこうです。

 その小泉流に公然と異を唱え、アジア外交の立て直しを訴える福田。総裁選出馬に関しては依然、沈黙を守り続ける。果たして小泉が「8・15参拝」を敢行しても決起しないのか。小泉は官房長官安倍晋三を「後継指名」する流れをつくってきた。あえて内外に激震を走らせる参拝に踏み切るとすれば、洞が峠の福田をまるで「出てこい」と挑発する意図にも見える。安倍も出馬表明は8・15以降に先送りした。ポスト小泉政局の底流で小泉と福田の息詰まる神経戦が続いている。(文中敬称略)

 「あえて内外に激震を走らせる参拝に踏み切るとすれば、洞が峠の福田をまるで「出てこい」と挑発する意図にも見える」と清水真人編集委員は結んでいますが、さてどうでしょうか。

 ・・・



小泉首相は8.15靖国参拝に行きたければ行けばいい

 私は先ほども申しましたが、福田氏はもはや総裁選出馬していただかなくてよいと判断しています。

 小泉首相が8.15靖国参拝を強行しようとしまいと、福田氏の決断が遅れたことによる人心離れはもはや取り返しがつかないでしょう、政治的には致命的なジャッジ・ミスであったと判断しています。

 福田氏不出馬を前提に仮定すれば、そうなれば今の自民党内そして世論の支持率からするとポスト小泉レースは一気に安倍氏有利の情勢となるでしょう。

 ・・・

 ところで、前々回のエントリーでもご紹介しましたが、日本テレビが行った最新の世論調査の結果では、小泉総理の8月15日靖国参拝については、6割近く(57.8 %)が反対しています。

[ 問14] 小泉総理が、8月15日に、靖国神社に参拝するかどうかが取り沙汰されています。あなたは、小泉総理が今年8月15日に靖国神社を参拝した方がよいと思いますか、思いませんか?

(1) 思う 31.0 %

(2) 思わない 57.8 %

(3) わからない、答えない 11.2 %

 しかしながら私の読みはこうです。

 小泉首相は8.15靖国参拝に行きたければ行けばいいでしょう。

 中国や韓国はお決まりのように猛反発するでしょうが、実は両国政府ともとうに首相の8.15靖国参拝は折り込み済みの筈です。

 9月に引退する小泉首相にすれば就任時の公約「8.15靖国参拝」を実現することは悲願でありましょうし、日本の総理大臣が他国の干渉により方針を変えたりはしないという証を示す意味でもよろしいでしょう。

 で、この8.15小泉靖国参拝靖国参拝支持派の安倍氏にかならずしも不利には働かないでしょう。

 最近の安倍氏靖国参拝に関する慎重発言から深読みすれば、安倍氏は総理大臣に就任しても靖国参拝を自重する気配が濃厚であるとの見方があるわけです。

 私もおそらく安倍氏は『靖国に行く権利を持っているがそれを行使しない』というスタンスを取るのではないかと期待しています。

米外交の課題と展望――ジョセフ・ナイハーバード大学教授に聞く(5/17)

 (前略)

カ−ドは日本が握っている――日米中関係と靖国問題

――小泉純一郎首相による靖国神社参拝を発端として、日中関係の悪化がとまらない。

「東アジア全体の安定を考えれば、日米中の三角関係を安定させることが望ましい。日米関係はとても良好で、米中も良い状態だ。しかし、日中関係だけは良くない。この三角関係を安定させた上で、経済繁栄を続けることが3カ国にとっても利益になるはずだ」

「いわゆる靖国問題については、日本が決めることで、それは米国でも中国でもない。しかし、日本の友人として言えば、靖国への参拝は日本を傷つけているといわざるを得ない。日本の友人として、米国はそれを告げるべきだ。私見を言えば、『私は靖国に行く権利を持っているが、それを行使しないことを決めた』と日本の首相が言えるのではないか。そうすれば、『靖国に行かない』というのは首相自身の決定ということになる。それによって、歴史カードを中国の手から取り上げることができる」

「中国はこの靖国問題に焦点を当てることで、アジアにおける日本のソフトパワーを減退させることに成功している。アジア各国を(日本が軍国主義を採用していた)1930年代に連れ戻しているのだ。もし、日本の首相がこの靖国カードを机の上から取り上げて、ポケットに入れてしまえば、中国からこの歴史カードという武器を取り上げることができる」

 (後略)

http://www.nikkei.co.jp/neteye5/sunohara/index.html

 彼は知日家でかつ知略家でありますから、靖国参拝問題で揺れている日本国内の微妙な空気をよく知っています。

 ですから、その言い回しは絶妙で、まず、「いわゆる靖国問題については、日本が決めることで、それは米国でも中国でもない。」とし、日本の保守派に配慮するように靖国は日本の問題であり他国が干渉すべきではないという前提を示します。

 彼の主張は明快で、「私見を言えば、『私は靖国に行く権利を持っているが、それを行使しないことを決めた』と日本の首相が言えるのではないか。」という提案に凝縮しています。

 彼の論は、「靖国への参拝は日本を傷つけているといわざるを得ない」という視点の上に構築されているのは興味深いところです。

■[メディア]アメリ国粋主義者の小数意見まで報道する朝日記事の問題点〜百家争鳴・玉石混合の米国内の靖国論は冷静に分析していこう より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060516

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 いつまでも煮え切らない福田康夫氏は総裁選に出馬しないなら出馬しなくていいでしょう。

 小泉首相は8.15靖国参拝に行きたければ行けばいいでしょう。

 そしてポスト小泉になる人は、今名前が出ている候補ならば誰であれ(おそらく安倍さんなのでしょうが)、政治政略、戦術として首相になったら『靖国に行く権利を持っているがそれを行使しない』というスタンスを取る可能性が高いでしょう。

 私は、国際外交は「しなやかに、したたかに」が基本であると思っています。

 「しなやかに」国際世論が同調してくれるような、一貫性を持った信義と行動原理や主張を展開しつつ、あらゆる可能性を睨みながら「したたかに」多様な選択肢を担保しておくべきです。

 その意味でポスト小泉は福田氏でなくても『靖国に行く権利を持っているがそれを行使しない』というスタンスを取っていただくことを私としては期待します。

 私の考えは以上ですが、この問題、読者のみなさまはいかがお考えでしょうか。



(木走まさみず)