木走日記

場末の時事評論

「シンゾーの法則」〜コネのある方が昇進が早い分、『無能レベル』に陥るのも早い

 読者のみなさんは、「ピーターの法則」という組織構成員の労働に関する社会学の法則をご存じでしょうか。

 フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』から。

ピーターの法則
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

ピーターの法則とは組織構成員の労働に関する社会学の法則。

能力主義の階層社会に於いて、人間は能力の極限まで出世する。すると有能な平構成員も無能な中間管理職になる。
時が経つに連れて人間は悉く出世していく。無能な平構成員はそのまま平構成員の地位に落ち着き、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされる。
その組織の仕事は、まだ出世の余地のある、無能レベルに達していない人間によって遂行される。

南カリフォルニア大学教授の教育学者ローレンス・J・ピーター(Laurence.J.Peter)により自著 『THE PETER PRINCIPLE』の中で提唱された。 日本では1969年、『ピーターの法則―〈創造的〉無能のすすめ―(ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル 田中融二訳)』 がダイヤモンド社より出版された(2003年再販の新訳は渡辺伸也)。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87

 なるほど、「無能な平構成員はそのまま平構成員の地位に落ち着き、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされる」ですか。

 「その組織の仕事は、まだ出世の余地のある、無能レベルに達していない人間によって遂行される」ですか。

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 シュールな学説やね(苦笑

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 これって、「適材適所」とか「社長の器」とか「部長の度量」とかいう表現とも通じるモノがあるのでしょうか、まあ興味深い学説であります。

 零細企業事業主の不肖・木走から言わせていただくと、まあこの学説ですが半分肯定的で半分否定的ってところでしょうか。

 若いのに急に出世してある地位で完全に落ち目に転じちゃった知人などを何人も見てきましたので、能力以上の地位についちゃって「地位につぶされる」ってのはありますよね、そういう意味で能力以上に出世しすぎると不幸だと言う面では頷けるのであります、で頷けないのは日本の会社とか組織って、この学説が前提としているそんなきれいな能力主義じゃないだろうという、リアル日本の現実はこの学説の前提条件である完全な能力主義がそんなにきれいには成り立たないと思うのであります。

 経営者の関係者が縁故で出世して、しかも無能なのにまわりが一生懸命補佐して本人はのうのうとしている、なんて例は腐るほどあるのがコネ縁故社会日本の悲しき実態なのであります(苦笑

 世襲して無能な社長なんて日本じゃごろごろいますでしょ(苦笑

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●安倍「プッツン」辞任を「ピーターの法則」で「解き明かす」『夕刊フジ』〜本体(産経新聞)以上に剛気なメディアだ(爆)

 で、今日の夕刊フジ3面のおもしろい記事から。

ピーターの法則とは〜プッツンを解き明かす
「有能な人間も出世するにつれ無能になる」

 相次ぐ不祥事の末、突然、政権を放り出した安倍首相。参院選の惨敗でも総理のイスにしがみつき、政界を大混乱に陥れた。入院しても、「KY(空気が読めない)のおぼっちゃま」のレッテルははがしようもない。一気に首相までのぼりつめたものの、トップになって空中分解した安倍氏に何が起きたのか。その行動を明確に解き明かすのが、「ピーターの法則」。サラリーマン社会でも適用する、脅威の法則の中身とは?

 ピーターの法則は1968年、米国の教育学者ローレンス・J・ピーター博士が提唱した。
<<「人間は、ある階層で機能しなくなるまで(=『無能』になるまで)昇進し、無能なレベルに達すると昇進が止まる。結果、組織全体が時間と共に無能化する>>(「ピーターの法則」=ダイアモンド社)
 能力を発揮した人間はどんどん出世するが、いずれは能力の限界に達し、成果を上げることができなくなり、組織全体が無能になるということだ。
 そして。この法則には(1)階層構造を持つ組織(階層社会)である(2)その組織(社会)で、人はある階層の役割をうまく果たすと一つ上の階層に”昇進”する−という2つの前提がある。
 安倍氏官房副長官時代、小泉首相福田官房長官を強力にサポートし、拉致問題に代表されるように、メディアを通じた国民へのアピールにも優れ、人気や信頼度は圧倒的に高かった。
 幹事長就任(=昇進)後も、総選挙での自民の絶対安定多数確保の成功、もち代廃止、党候補者公募制導入など存分に実力を発揮した。首相就任前は一政治家として間違いなく優秀だった。
 その勢いで戦後最年少の首相に就任(=昇進)した途端、郵政造反組復党から始まり、税調会長の公務員宿舎愛人問題、行革相の架空事務所費計上問題、農水相の自殺、年金記録問題、防衛相の原爆発言、赤城農水相の事務所費問題と不祥事が噴出した。
 しかし、どの不祥事に対しても即断即決できずに問題を先送りし、首相(=トップ)として欠かせないマネジメント、危機管理の『無能』ぶりが浮き彫りになってしまった。安倍氏にとって、明らかに能力を超えたポストだったといえる。
 「ピーターの法則」日本語版の翻訳を担当した高校英語教諭、渡辺伸也氏(47)は「首相としての安倍さんは、大変残念ですが、この法則でいうところの『無能レベル』以外の何物でもありません。身体的にボロボロになり、精神疾患を病んでしまうといった病理学的観点からも、まさにピッタリ当てはまるといっていいでしょう」と語る。
 また、ピーターの法則を利用して企業マネジメントを実践する米グロービス経営大学院客員准教授。堀内浩二氏(40)も「欧米企業では”マネジメントライン”と”スペシャリストライン”を明確に分け、ポストに捉われない自己実現を社員に提案します。政治家だからといって単に上を目指すのではなく、自分の本質を生かすためのポジションとして首相に就任できる人が現れない限り、安倍さんと同様、本人も国民も不幸な事態が今後も起こるでしょう」と警鐘を鳴らす。
 現時点で「有能」な人間でも、各階層で評価され出世するにつれ、いずれは無能レベルに到達するというスパイラルからは、決して逃れることはできないという「ピーターの法則」。組織に生きるサラリーマンにも身につまされる話だが、あなたの職場は大丈夫か!?

夕刊フジ 2007年9月26日AB総合版 3面より

 うーん、さすがフジ産経グループの異端児『夕刊フジ』でありますね。

 記事のリード(導入)部分。

 相次ぐ不祥事の末、突然、政権を放り出した安倍首相。参院選の惨敗でも総理のイスにしがみつき、政界を大混乱に陥れた。入院しても、「KY(空気が読めない)のおぼっちゃま」のレッテルははがしようもない。一気に首相までのぼりつめたものの、トップになって空中分解した安倍氏に何が起きたのか。その行動を明確に解き明かすのが、「ピーターの法則」。

 「相次ぐ不祥事の末、突然、政権を放り出した」だの「KY(空気が読めない)のおぼっちゃま」だの、「トップになって空中分解」だの、言いたい放題ですな(苦笑

 うーん、しかし、こたびの安倍「プッツン」辞任を「ピーターの法則」で「解き明かす」とは、さすが夕刊フジであります、本体(産経新聞)以上に剛気なメディアだ(爆)。

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●「シンゾーの法則」〜コネのある方が昇進が早い分、『無能レベル』に陥るのも早い

 ピーターの法則の前提は夕刊フジ記事にあるとおり、(1)階層構造を持つ組織(階層社会)である(2)その組織(社会)で、人はある階層の役割をうまく果たすと一つ上の階層に”昇進”する−という2つであります。

 しかし、日本のコネ社会では(2)の”昇進”の条件は能力主義に付け足すことに、縁故での”昇進”もあるのであります。

 我らが安倍首相も世襲議員であることを忘れてはならないでしょう。

 上記夕刊フジ記事は、安倍さんは実力で若くして戦後最年少の首相に就任したが、そこで実力不足が露呈してこの法則でいうところの『無能レベル』に陥ったと、単純に図式化して安倍プッツン辞任を「ピーターの法則」に当てはめていますが、日本の政界などそんなきれいな実力主義だけでは描けるモノではないでしょう。

 安倍さんが中間管理職としてのトレーニングもろくにしないで一気にトップまで上り詰めちゃったのは、間違いなく彼の実力だけでなく、コネ縁故といった別の力学が働いたからだと考えます。

 彼が世襲議員の中でも、祖父を総理大臣に持つ「政界サラブレッド」と呼ばれる良血であったことが、彼の出世のスピードをより速めたことは想像にかたくありません。

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 「ピーターの法則」は実力主義社会を前提にしています。

 実力社会においては、無能な平構成員はそのまま平構成員の地位に落ち着き、有能な平構成員は中間管理職の地位へと「昇進」します。

 そして、無能な中間管理職はそのまま中間管理職の地位に落ち着き、有能な中間管理職はさらに上位の管理職の地位へと上り詰めていきます。

 そして今回の安倍さんのように、やがては実力以上の職位に付き『無能レベル』に陥ります。

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 日本の政界のような縁故・世襲・コネといったものが「実力」と同等に、いやときにそれ以上にモノをいう世界では、「ピーターの法則」は少し変えたほうがよいでしょう。

 ちょっと「シンゾーの法則」を考えてみました。

 「シンゾーの法則」は実力主義+コネ縁故社会を前提としています。

 コネ社会においては、無能なコネのない平構成員はそのまま平構成員の地位に落ち着き、有能な平構成員、もしくはコネのある平構成員は中間管理職の地位へと「昇進」します。

 そして、無能なコネのない中間管理職はそのまま中間管理職の地位に落ち着き、有能な中間管理職、もしくはコネのある中間管理職はさらに上位の管理職の地位へと上り詰めていきます。

 そして今回の安倍さんのように、やがては実力以上の職位に付き『無能レベル』に陥りますが、コネのある方が昇進がより早い分、『無能レベル』に陥るのもより早いのです。

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 今回の安倍さんの不幸を説明するには、「ピーターの法則」よりも「シンゾーの法則」のほうが個人的にはスッキリするのでした。

 彼は不幸だったと思います、中間でのトレーニングがされないまま彼の持つ実力だけでなく彼の持つコネクションにより不幸にも準備もできないまま実力以上の地位に駆け足で上り詰めてしまったと、私には思えるからです。



(木走まさみず)