木走日記

場末の時事評論

予言しましょう、ここを守れなければ自民党政権は必ず崩壊する〜アベノミクスの目指すべきはGDP成長だけではダメな理由を統計データで徹底検証してみる

 さて、安倍政権発足以来ほぼ一本調子で株価は上昇、円安も進み2年半振りに1ドル90円も視野に入ってきました、明らかに市場は安倍さんの唱える経済政策アベノミクスに対して好印象を持っているのでしょう、新聞各社の政権支持率もまずまず、多くの国民もアベノミクスによるデフレ脱却の期待を日に日に高めているのではないでしょうか。

 アベノミクスによれば、10.3兆円の国費を投入した大胆な財政支出をし、実質GDPを2%押し上げ一気にデフレ脱却、60万人の雇用創出を実現、

 「三本の矢」と呼んでいる財政投入する3ポイントは以下のとおりです。

・復興・防災(3.8兆)
・成長による富の創出(3.1兆)
・暮らしの安心・地域活性化(3.1兆)

 気になる財源は建設国債で5.2兆、残り5.1兆は税収増などの差分など自民党はいろいろと説明を試みていますが、まあ大半は赤字国債発行に頼ることになるでしょう。

 さてデフレを脱却してGDPを押し上げると意気込む安倍政権ですが、私も期待を込めて見守りたいと思っています。

 その上でですが、過去の統計データを徹底的に検証し、自民党政権時代のいざなぎ景気超えと言われた好景気(2002年ー2007年)に起きていたことを分析、安倍政権に「目指すべきはGDP成長だけではダメな理由」を掲示し、当時と同じ愚を繰り返したら自民党政権は必ず崩壊すると、警鐘を鳴らしておきたいと思います。

 ・・・

 なお、本エントリーでは以下のサイトで公開されている公的機関によるデータをソースとしています。

財務省 法人企業統計
http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/index.htm
国税庁 民間給与実態統計調査結果
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm
・世界経済のネタ帳
http://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html

 さて、日本の戦後最長の好景気は、2002年2月から景気回復期に入って、2007年10月まで、実に69カ月間も好景気が続いたと後に認定され、それまでの過去最長だった「いざなぎ景気」の57カ月を、丸1年も上回る新記録だった「いざなぎ越え景気」でありました。

 自民党の政権でいいますと、小泉政権(5年)、安倍前政権(1年)あたりの時代と重なっています。

 さてこの時期の日本企業の経常利益総計の推移を見てみましょう。

■表1:企業経常利益総計の推移(1996−2010)

企業経常利益総計(兆円)
1996 27.8
1997 27.8
1998 21.2
1999 26.9
2000 35.9
2001 28.2
2002 31.0
2003 36.2
2004 44.7
2005 51.7
2006 54.4
2007 53.5
2008 35.5
2009 32.1
2010 43.7

■図1:企業経常利益総計の推移(1996−2010)

 見やすいようにグラフ上で「いざなぎ越え景気」の期間を紫色で示しました(以下のグラフにても同じ)が、ご覧いただいたとおり、この期間で企業経常利益総計は、2002年の31.0兆から2007 年の53.5兆にほぼ右肩上がりに伸びていたことが見て取れます。

 ピークは2006年の54.4兆で日本の企業収益は戦後最高値を記録します。

 確かに統計データからはこの期間で日本経済が好景気であったことを示しています。

 もうひとつの指標である日本の実質GDPの推移を見てみましょう。

■表2:日本の実質GDPの推移(1996−2010)

実質GDP(兆円)
1996 467.3
1997 474.8
1998 465.3
1999 464.4
2000 474.8
2001 476.5
2002 477.9
2003 486.0
2004 497.4
2005 503.9
2006 512.5
2007 523.7
2008 518.2
2009 489.6
2010 511.8

■図2:日本の実質GDPの推移(1996−2010)

 ご覧の通り日本の実質GDPも、2002年の477.9兆から2007年の523.7兆へと一本調子で拡大しています。

 図1と図2のふたつのグラフを重ねてみれば企業経常利益の増減と実質GDPの増減がほぼ連動していることがわかります。

■図3:企業経常利益総計とGDPの推移(1996−2010)

 ・・・

 さて、この小泉政権と安倍前政権時代の戦後最長と言われた「いざなぎ越え景気」でありますが、多くの国民に取りまったく実感がない「好景気」として印象が薄いのです。

 この期間、実は一部大企業にその益はとどまり、それ以外の中小企業や一般庶民には「好景気」の果実がまったく還元されなかったのです。

 それどころかこの期間「好景気」にもかかわらず民間会社の平均給与は下がり続けています。

 国税庁が公開しているいくつかのデータで検証しましょう。

■表3:民間平均給与の推移(1996−2010)

平均給与(万円)
1996 460.8
1997 467.3
1998 464.8
1999 461.3
2000 461.0
2001 454.0
2002 447.8
2003 443.9
2004 438.8
2005 436.8
2006 434.9
2007 437.2
2008 429.6
2009 405.9
2010 412.0

■図4:民間(1996−2010平均給与の推移)

 ご覧のとおり、この国の民間平均給与はほぼ一貫して下がり続けています、「好景気」の期間でも2002年の447.8万から2007年には437.2万とほぼ右肩下がりで給与は落ちています。

 2006年の54.4兆で日本の企業収益は過去最高益を記録していたにもかかわらず同時期民間平均給与は上がるどころかむしろ下がっているのです。

 2つのグラフを重ねればそのコントラストが明らかです。

■図5:企業経常利益総計と民間平均給与の推移(1996−2010)

 企業収益は過去最高益であるにもかかわらず平均給与は下がり続けました、多くの国民に取りまったく実感がない「好景気」だったことが統計データで裏付けられました。

 この「好景気」の期間で起こっていたことをもう少し細かいデータを分析して検証を深めてみます。

 実は「企業収益は過去最高益であるにもかかわらず平均給与は下がり続け」たと先ほど表現しましたが、「好景気」の期間中、企業規模による従業員所得格差が急拡大しています。

 財務省の公開データより2002年−2007年の資本金規模別の平均給与の推移表を見てみましょう。

■表4:企業規模別平均給与の推移(2002−2007)

千万以上 2千万以上 5千万以上 1億以上 10億以上
2002 339.5 362.7 376.9 413.1 544.9
2003 313.1 356.4 356.8 412.3 532.8
2004 330.4 353.9 357.4 409.7 536.9
2005 337.3 329.8 358.5 409.2 542.9
2006 308.1 347.1 350.0 404.5 546.0
2007 309.0 347.2 351.6 406.6 545.7

 2002年と2007年の数値に注目してみてください、例えば資本金千万以上の零細企業では339.5万から309.0万と年収で30万以上減じていますように中小零細企業ではすべての階層で給与が減っていますが、10億以上の大企業従業員の給与だけはわずかですが上回っています。

■図6:企業規模別平均給与の増減(2002−2007)

 まとめです。

 企業収益の中に占める賃金の比率すなわち労働分配率を日本の企業は低めてきました。

 政府統計を分析すると、02年以降の景気回復は、就労人口で全体のわずか7.5%に過ぎない大企業によって牽引されていたことがわかります。

 そして、この7・5%の人たちに限れば、実は平均給与の減少の動きはにぶいのです。

 しかしこの輸出企業を中心とした大企業は利益をこの国の市場に還元することなく内部留保してしまいます、その額は現在300兆に届かんとしています。

 一方、92.5%の労働者が働く中小零細企業では、もはや以前のような高い労働分配率は維持できなくなっています、現代社会の「所得の二極化」「格差社会化」が「好景気」でかえって進む背景がここにあります。

 アベノミクスGDP経済成長重視でデフレ脱却を目指すこと自体は私は支持します。

 しかし前回の「好景気」のようにその成長による配分が一部大企業のみに集中し、多くの国民に還元されず、アベノミクスがこの国の「所得の二極化」に拍車を掛けるだけだとすれば、国民の支持を急速に失うことでしょう。

 デフレ脱却できても国民の所得が増えなければそれはただの悪政インフレになりかねません。

 国民の所得アップ、ここを守れなければ自民党政権は必ず崩壊すると予言しておきます。

 今回は、アベノミクスの目指すべきはGDP成長だけではダメな理由を統計データで徹底検証してみました。



(木走まさみず)