木走日記

場末の時事評論

この国の給与の官民格差1.5倍以上は極めてアンフェアである理由〜人事院の「主要な民間企業」の給与の動向は実態とかけ離れている

 7日付け日経新聞記事から。

河村市長に「賃上げ勧告尊重を」 名古屋市人事委員長
2014/11/7 3:05

 名古屋市河村たかし市長が、職員の今年度の給与を引き上げるように求めた市人事委員会の勧告を拒否する方針を明らかにしたのを受け、人事委の栢森(かやもり)新治委員長は6日、河村市長と会い、改めて勧告を尊重するよう求めた。ただ、河村市長は考えを変えない方針を示し、議論は平行線をたどった。

 河村市長は一律に給与を上げる勧告を拒否する一方、代案として行政職員の平均年収605万円を下回る職員の給与を上げ、同水準以上は下げる考えを示している。栢森委員長は「(代案は)全般的な給与水準の引き上げとならず給与勧告の尊重とはならない」との考えを説明した。

 栢森委員長は「市長は職員のトップでもある。市長のために仕事をする意欲が失われる」と語り、職員の士気を保つためにも勧告尊重を求めた。河村市長は「給与を引き上げるのは企業の一部。子どもの貧困が広がっている問題もある」と語り、公務員の給与を一律に上げるべきではないという考えを再び強調した。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFD06H1O_W4A101C1CN8000/

 さて「行政職員の平均年収605万円」が適正なのか、安いのか、高いのか、議論の分かれるところであります。

 そういえば、BLOGOSにて地方公務員の年収が下落している記事が話題になりました。

K.K.2014年11月08日 22:59
地方公務員の年収平均値(基幹統計調査結果)
http://blogos.com/article/98330/

 失礼してエントリーより当該部分を抜粋。

以下、平均額と勤続年数、5年前・10年前の調査との比較ですが・・・

一般行政職:6|338|000円(22.1年)△47.2万円、△78.5万円
教育職(小中学校):6|795|000円(22.5年)△92.4万円、△103.6万円
警察職:7|321|000円(20.1年)△81.8万円、△148.7万円

・・・と、なります。

なんか・・・すさまじく下落していることがわかります。

http://blogos.com/article/98330/

 さて、ここで取り上げられている地方公務員の平均給与と、民間企業の平均給与を比較致しましょう。

 正確をきすために、ここでは国税庁が毎年実施して調査結果が公表されている『民間給与実態統計調査』の数値を用います。

 ちなみに直近の『平成25年分民間給与実態統計調査結果』は以下に公開されています。

平成25年分民間給与実態統計調査結果について
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2014/minkan/index.htm

■表1:地方公務員給与と民間給与(年収)の推移

一般行政職 教育職(小中学校) 警察職 民間
平成15年 7123000 7831000 8808000 4439000
平成20年 6810000 7719000 7990000 4296000
平成25年 6338000 6795000 7321000 4136000

 うむ、確かに地方公務員の給与の減額ペースは大きいのですが、民間平均給与に比べてもともと平成15年時点で、一般行政職で1.60倍、教育職で1.76倍、警察職で1.98倍もの「高給」であったものが、平成25年にはそれぞれ、1.53倍、1.64倍、1.77倍に、官民格差が少しだけ減じただけとも捉えることができます。

 官民格差は図にすれば一目瞭然です。

■図1:地方公務員給与と民間給与(年収)の推移

 このような比較をする場合、国税庁の民間データには「正規」だけではなく「非正規」が含まれるから、当然民間給与は低く計算されるわけですが、それでは国税庁のデータの民間給与を「正規」と「非正規」分けて直近25年のデータをグラフ化してみましょう。

■図2:地方公務員給与と民間給与(年収)の比較【平成25年】

 なんといいますか、民間平均給与413.6万を「正規」(473.0万)と「非正規」(167.8万)に分けてグラフ化いたしますと、ますます給与の官民格差があからさまに現出いたしますです。

 当ブログはこの統計データだけでもって、地方公務員平均給与を民間平均まで一気に引き下げるべきという論には与しません。

 しかしながら、税金で賄われる公務員の給与のベースアップ(ダウン)は、少なくとも納税する側すなわち民間企業のそれに準じて客観的経済指標に基づき決定されなければならないと考えています。

 日本において地方公務員の給与と民間の給与に1.5倍以上の格差が開いてしまっている現状は、過去においてお世辞にも「客観的経済指標」に基づいて公務員給与が決定されてはこなかったことに起因するわけです。

 地方公務員給与のひとつの基準となる国家公務員給与は、人事院が「主要な民間企業」の給与の動向を反映して「勧告」することになっています。

 ちなみに上記国税庁調査から平成8年からの民間給与の推移をグラフ化いたします。

■図3:民間給与(年収)の推移【国税庁調査】

 グラフはほぼ右肩下がりです、ご承知のとおり民間給与はこの18年間ほぼ下がり続けてきました。

 ところが人事院勧告で用いられる「主要な民間企業」の給与は、まったく異なる動きをしています。

 ここに人事院が採用している「主要な民間企業」の給与では、昭和35年から平成22年の間、実に一度も「賃金の上昇率(定昇込み)」がマイナスにはなっていないというのです。

 それらを公的資料からまとめられたサイトがありますので、失礼して当該サイトを引用ご紹介。

 人事院勧告で出ていた数字から。

国家公務員の給与改定の推移
http://www.soumu.go.jp/main_content/000101396.pdf

■民間の給与の推移 賃金の上昇率(定昇込み)

年度 西暦 民間賃上率(定昇込み)(%)
昭和35年 1960年 8.7
昭和36年 1961年 13.8
昭和37年 1962年 10.7
昭和38年 1963年 9.1
昭和39年 1964年 12.4
昭和40年 1965年 10.6
昭和41年 1966年 10.6
昭和42年 1967年 12.5
昭和43年 1968年 13.6
昭和44年 1969年 15.8
昭和45年 1970年 18.5
昭和46年 1971年 16.9
昭和47年 1972年 15.3
昭和48年 1973年 20.1
昭和49年 1974年 32.9
昭和50年 1975年 13.1
昭和51年 1976年 8.8
昭和52年 1977年 8.8
昭和53年 1978年 5.9
昭和54年 1979年 6.0
昭和55年 1980年 6.74
昭和56年 1981年 7.68
昭和57年 1982年 7.01
昭和58年 1983年 4.40
昭和59年 1984年 4.46
昭和60年 1985年 5.03
昭和61年 1986年 4.55
昭和62年 1987年 3.56
昭和63年 1988年 4.43
平成元年 1989年 5.17
平成2年 1990年 5.94
平成3年 1991年 5.65
平成4年 1992年 4.95
平成5年 1993年 3.89
平成6年 1994年 3.13
平成7年 1995年 2.83
平成8年 1996年 2.86
平成9年 1997年 2.90
平成10年 1998年 2.66
平成11年 1999年 2.21
平成12年 2000年 2.06
平成13年 2001年 2.01
平成14年 2002年 1.66
平成15年 2003年 1.63
平成16年 2004年 1.67
平成17年 2005年 1.71
平成18年 2006年 1.79
平成19年 2007年 1.87
平成20年 2008年 1.99
平成21年 2009年 1.83
平成22年 2010年 1.82


 このデータを素直に信じると、民間企業は一度も給料が下がっていないということになります。しかし、実際はそんなわけがありませんね。

 公務員と比べると民間のデータは豊富ですが、他の資料では下がっているものが見えます。これは正社員比率の引き下げなどいろいろと考えられそうですけど、まず人事院の調査対象が特殊です。

"民間賃上率は厚生労働省調査による主要企業である"

 ひとくちに主要企業と言ってもよくわからないですね。たぶん企業の隆盛によって増えたり減ったりもあるでしょう。極端な話、倒産した企業は主要企業にはなりようがありません。

民間の給与の推移 賃金の上昇率(定昇込み) 人事院調べ : 千日ブログ 〜雑学とニュース〜 より抜粋
http://1000nichi.blog73.fc2.com/blog-entry-2771.html

 このような実態を伴わない民間企業の「賃金上昇率」を基準に過去国家公務員の給与は引き上げられてきたわけです。
 その国家公務員の給与をひとつの基準として地方公務員の給与が決定されてきましたから、上述のような1.5倍以上の給与の官民格差となっているわけです。
 ・・・

 まとめます。

 繰り返しますが、当ブログはこの統計データだけでもって、地方公務員平均給与を民間平均まで一気に引き下げるべきという論には与しません。

 しかしながら、税金で賄われる公務員の給与のベースアップ(ダウン)は、少なくとも納税する側すなわち民間企業のそれに準じて客観的経済指標に基づき決定されなければならないと考えています。
 日本において地方公務員の給与と民間の給与に1.5倍以上の格差が開いてしまっている現状は、過去においてお世辞にも「客観的経済指標」に基づいて公務員給与が決定されてはこなかったことに起因するわけです。
 極めてアンフェアであると言えます。


(木走まさみず)