木走日記

場末の時事評論

嗚呼!!落日の『日の丸デジタル家電』を統計検証〜2年という短期間で出荷数が58%も落ち込んだという驚くべき事実

 26日付け日経新聞記事から。

白物がデジタルを逆転 今年の家電出荷額
炊飯器など高機能志向 メーカー・量販、戦略転換
2012/12/26付

 2012年の国内家電市場でエアコンや冷蔵庫といった白物家電の出荷額がデジタル家電を10年ぶりに逆転する見通しになった。薄型テレビやDVDレコーダーなどで急激な価格下落が続く一方、白物家電では消費者の高機能志向が根強い。「理美容家電」など新市場も誕生している。メーカーは白物を稼ぎ頭とする戦略を打ち出し始め、量販店では売り場の見直しが進んでいる。

(後略)

http://www.nikkei.com/article/DGXDASDC25002_V21C12A2EA1000/

 うむ、「2012年の国内家電市場でエアコンや冷蔵庫といった白物家電の出荷額がデジタル家電を10年ぶりに逆転する見通し」となり、「白物家電では消費者の高機能志向が根強い」、「「理美容家電」など新市場も誕生」、「メーカーは白物を稼ぎ頭とする戦略を打ち出し始め」ているとのことです。

 記事タイトル「白物がデジタルを逆転」も含めてこの記事の構成のひとつひとつは事実に基いていますが、私はこの日経記事の統計データの解釈と記事の説明に大いに違和感があります。

 今回はこの日経記事が参照している一次ソース資料を徹底検証してみたいと思います。

 まずデジタル家電の過去の出荷数は『電子情報技術産業協会』が統計データを公開しています。

一般社団法人電子情報技術産業協会
http://www.jeita.or.jp/japanese/index.html

 一方白物家電の過去の出荷数は『日本電気工業会』が統計データを公開しています。

一般社団法人日本電気工業会
http://www.jema-net.or.jp/

 この2つのサイトから、2000年1月からのデジタル家電の月別の出荷数推移を洗い出し、あわせてデジタル家電白物家電の年別の出荷数推移をまとめてみたいと思います。

■本エントリーで統計検証するサイトとデータファイル一覧
一般社団法人電子情報技術産業協会
http://www.jeita.or.jp/japanese/index.html
一般社団法人日本電気工業会
http://www.jema-net.or.jp/
2000年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2000.pdf
2001年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2001.pdf
2002年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2002.pdf
2003年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2003.pdf
2004年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2004.pdf
2005年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2005.pdf
2006年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2006.pdf
2007年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2007.pdf
2008年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/pdf/minsei2008.pdf
2009年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/2009/
2010年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/2010/
2011年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/2011/
2012年民生用電子機器国内出荷統計
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/2012/
家庭用電気機器 出荷・在庫(各種エクセルファイル)
http://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/ka02.html

 まずデジタル家電の月別推移を見てみましょう。

■表1:デジタル家電月別出荷数推移(単位:億円)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年計
2000年 1095 1426 2028 1447 1296 1668 1642 1410 1841 1616 2036 2685 20189
2001年 1252 1554 2083 1494 1418 1671 1635 1382 1668 1606 1904 2433 20099
2002年 1170 1457 1845 1512 1555 1648 1664 1390 1691 1655 2025 2609 20222
2003年 1177 1513 1983 1614 1469 1675 1711 1392 1863 1745 2018 2853 21013
2004年 1230 1568 2218 1721 1522 2092 2172 1673 2005 1891 2390 3281 23764
2005年 1391 1689 2332 1929 1627 2120 2128 1765 2142 2059 2647 3512 25342
2006年 1570 1765 2532 2133 2054 2300 2077 1835 2349 2250 2609 3653 27127
2007年 1649 2063 2678 2281 2047 2405 2260 1961 2533 2486 2945 3771 29080
2008年 1830 2248 2837 2321 2155 2648 2646 1980 2647 2259 2573 3488 29633
2009年 1667 1920 2419 2024 1961 2548 2650 2206 2660 2602 3029 4402 30091
2010年 2130 2625 3696 2561 2298 2782 2876 2637 3318 3885 5067 5125 39000
2011年 1894 2320 2800 2212 2162 3464 3355 1942 1925 1678 1882 2540 28173
2012年 1251 1488 1839 1279 1163 1459 1251 1073 1205 1138 1199 ---- 14345

■図1:デジタル家電月別出荷数推移(単位:億円)

 毎年、3月と特に12月に出荷数が増加する傾向がありますが、この12年間のデジタル家電の出荷数の動きは2000年から2010年までは順調に出荷数を伸ばしてきたのに、上記グラフで赤丸をつけましたが、ここ2年で異常な落ち込みを見せています。

 年計で2010年の3兆9千億円から2012年には12月分が未集計とはいえ1兆4345億円まで落ち込んでいます。

 例えば10月に注目すると、2010年5067億、2011年1882億(前年同月比62.9%ダウン)、2012年1199億(前年同月比36.3%ダウン)と落ち込んでいます。 

 ・・・

 次に同時期の白物家電の出荷数と年推移を比較して見ましょう。

■表2:白物家電デジタル家電の年別出荷数推移(単位:億円)

白物家電 デジタル家電
2000年 25898 20189
2001年 25259 20099
2002年 21944 20222
2003年 20785 21013
2004年 22683 23764
2005年 22728 25342
2006年 23183 27127
2007年 22998 29080
2008年 22935 29633
2009年 21232 30091
2010年 23676 39000
2011年 22675 28173
2012年 19793 14345

■図2:白物家電デジタル家電の年別出荷数推移(単位:億円)

 うむ、確かに日経記事タイトル「白物がデジタルを逆転」はその通りなのですが、この速報値に基く過去データの検証で確認できるのは、決して通年で試算しても決して白物の出荷数が伸びているとはいえず、むしろ白物でさえ出荷数はここ2年では落ち込む傾向を示しており、このグラフで着目すべきは、そこではなくこの2年間のデジタル家電の異常なほどの出荷数の落ち込みのほうでしょう。

 2010年の3兆9千億円が2012年では1兆4345億円、通年で試算しても1兆6千億円には届きそうにありません、つまり、2年という短期間で出荷数が58%も落ち込んだという驚くべき事実です。
 この速報値は正に、日の丸デジタル家電の落日を現しているのだと思います。

 これではパナソニックやシャープ・ソニーが大赤字になるのも当然なわけです。

 日経記事は「メーカーは白物を稼ぎ頭とする戦略を打ち出し」と建設的な表現ですが、事実は「メーカーはデジタルの急落による赤字をカバーできず白物に頼るしか他に戦略がない」悲劇的な状況だと言えそうです。




(木走まさみず)