木走日記

場末の時事評論

フッ化水素にみる韓国経済の脆弱性・日本依存性〜本当に謙虚になるべきは文大統領あなたの方だ

 昨年11月、ネット上でついに日本が韓国に報復開始か?という怪情報が拡散したことがあります。

 日本が戦略物資であるフッ化水素の韓国輸出にストップをかけたというのです。

 騒動を報じる当時のレコードチャイナ記事がこちら。

ついに日本が報復?フッ化水素の輸出ストップ、韓国の半導体業界に緊張走る
https://www.recordchina.co.jp/b660437-s0-c20-d0058.html

 説明いたします。

 半導体用のフッ化水素は高い純度が必要とされるため、森田化学工業やステラケミファなどの日本企業が独占生産しています。

 安定的に高い純度を生む技術を持たない韓国では生産できないのです。

 サムスン電子やSKハイニックスなど韓国の半導体製造企業はほぼすべてのフッ化水素を日本からの輸入にたよっています。

 そこで「日本政府が韓国に輸出される半導体製造用フッ化水素の一部を承認しないという事態が発生した」ことにより、韓国メディアが「韓国の半導体業界に緊張が走っている」と報道、韓国ネット民がざわつき始めたのです。

 日本企業が供給を中止すれば、韓国の半導体工場は稼働できなくなるためです。

 上記記事より韓国ネットユーザーの声を抜粋。

「これはまずい」
「韓国はフッ化水素国産化できていないのか」
半導体まで駄目になったら、赤化統一に近づく。文大統領はそれを狙っているのでは?」
「韓国の主力として作られる製品に入る核心素材の原料のうち、韓国でまともに作れるものはない。日本から基礎部品や基礎素材を輸入できなくなったら、韓国の産業は回らない。世界が日本にラブコールを送る理由が分かった」
国益を考えず一時的な感情で動く現政府の無能が作り上げた結果」
「ついに日本が実力行使に出た。文政府のせいで韓国の半導体産業は崩壊するかも」
反日もほどほどにしないと」
「韓国の露骨な挑発を受け、日本が黙っていると思った?」
「日本は韓国が半導体だけに頼っていることを知っている」
「言ったでしょ?今、日韓関係が悪化して困るのは韓国だって」

 結局この輸出は承認され、日本の報復というのは誤報ということでこの騒動はおさまりました。

 フッ化水素は戦略物質に分類されるため、輸出・輸入するには当局の事前承認が必要となります。

 従って、例えば韓国に輸出するフッ化水素北朝鮮横流しされる可能性が明確にあったりすれば、日本政府は輸出を停止可能なのです。

 さて日本から韓国はどのぐらいフッ化水素を輸入しているのでしょうか。

 統計数値で正確に検証しておきましょう。

 財務省貿易統計のサイトでは品目別の貿易統計を調べることができます。

財務省貿易統計
http://www.customs.go.jp/toukei/sankou/howto/krei.htm

 フッ化水素(品目番号:2811.11-000)の日本の輸出先国別統計(2017年)を検索した結果がこれ。

品別国別表:検索結果
http://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=01&P=1,1,,,,,,,,1,0,2017,0,12,0,2,281111,,,,,,,,,,1,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,200

 2017年のフッ化水素輸出量ですが、総量が30238279KGであります。検索結果より上位9箇国を表にまとめてみます。

■表:フッ化水素国別輸出量(2017年)

国名 輸出量(KG)
韓国 29057640
アメリ __842621
中国 __103640
シンガポール ___72094
インドネシア ___69750
台湾 ___56750
ドイツ ___35524
マレーシア _____242
英国 ______18
合計 30238279

※この表は財務省統計検索結果より『木走日記』作成

 ご覧のとおり総量30238279KG中29057640KGが韓国に輸出されています。

 円グラフにすれば96%が韓国への輸出なのであります。

■図:フッ化水素国別輸出量(2017年)

※この図は財務省統計検索結果より『木走日記』作成

 ここで中国の輸出量が103640KGと韓国への輸出量の0.35%に過ぎないからくりを説明いたしましょう。

 フッ化水素の原料である蛍石(アシッドグレード)を、日本はその8割を中国から輸入しています。

 中国政府は、2004年に蛍石の輸出入関税を設置し、徐々にその税率を引き上げていきました。

 これにより、日本の多くのフッ化水素生産企業が中国での現地生産中国企業との合弁会社設立)に切り替えたのです。
 中国は自力で高純度フッ化水素を生産する技術力はなかったのですが、技術力を有する日本企業を国内に向かい入れることで、この戦略物資を国内生産可能としているわけです。

 さすがと申せましょう、中国お得意の「海外技術を合弁会社でただで獲得する」作戦です。

(参考資料)

1.需給動向 1-1.世界の需給動向 工業的に使用されるフッ素(フッ化物)は ...
http://mric.jogmec.go.jp/public/report/2014-06/28.20140601_F.pdf

 さて韓国です。

 ぼぼ100%日本からの輸入に頼っているフッ化水素の輸入が停止されれば、韓国半導体産業には大きな打撃となることでしょう。

 繰り返しになりますが、外為法上、フッ化水素は「軍事転用が可能な品目」と位置付けられており、日本企業が日本国外に輸出するときには、経済産業省の許可を受ける必要がある、ということですから、日本政府が承認しなければ、明日にもフッ化水素の韓国への輸出は停止されます。

 ・・・

 まとめます。

 別にフッ化水素だけではないのです、韓国の多くの産業は、日本からの基礎部品や基礎素材を輸入しなければ生産が止まるという、非常に脆弱な構造になっています。

 従って韓国の対外輸出が好調になればなるほど対日赤字が増大するという、日本依存体質にあります。

 基礎部品や基礎素材をどれかひとつでも日本が輸出停止すれば、韓国経済は大騒ぎになってしまうのです。

 もちろん韓国経済界はこの事実(韓国経済の脆弱性・日本依存性)をよく理解しており、日本の経済報復を真剣に恐れています。

 韓国経済新聞社説ではすでに「経済ブーメラン」が始まっていると警鐘を鳴らしています。

韓経:【社説】最悪に突き進む韓日関係、「経済ブーメラン」として返ってきている
https://japanese.joins.com/article/229/249229.html?servcode=100§code=110&cloc=jp|main|ranking

 社説は日本が韓国政府の造船産業支援が不当だとして世界貿易機関WTO)に提訴したのは、韓国を圧迫する手段として通商問題を持ち出したのだと指摘した上で、21年前日本の資金回収により韓国がIMF救済に追い込まれた事実をあげ、日本を本気で怒らせてはならないという論調で結ばれています。

重要なのはこれが終わりではないかもしれないというところにある。韓国は素材、部品、装備の面ではまだ日本に依存している。1997年11月初め、日本は韓国から100億ドルの資金を回収していった。当時の対外債務1200億ドルを考慮すると相当な金額だった。それなりの事情があっただろうが韓国はほどなくIMFに救済金融を申請した。外交では名分も重要だがこれにばかり執着していてはさらに大きな実利を失いかねない。韓日関係の不協和音がさらに大きな経済ブーメランとして返ってきてはならない。

 文大統領は、年頭演説の記者会見で「日本はがまんしろ、謙虚になれ」と日本を突き放した言い方をされました。

 韓国経済の脆弱性・日本依存性を正しく理解しているのならば、本当に謙虚になるべきは文大統領あなたの方でしょう。



(木走まさみず)