木走日記

場末の時事評論

フッ化水素などの日本企業の優位性について検証〜文在寅大統領だけが事態の深刻さをいまだ理解していない

日本は7月4日から、半導体製造に関わる、有機ELパネル製造に必須の感光材(レジスト)、エッチングガス(フッ化水素)、ディスプレイ用樹脂材料(フッ化ポリイミド)の3材料を韓国に輸出する際、個別に許可を求めることとしました。

日本経済新聞によれば、韓国はレジストでは91.9%、フッ化水素では43.9%(中国が46.3%)、フッ化ポリイミドでは93.7%を日本から調達しています。グローバルでみてもこれらの製品は日本企業のシェアが大きいのです。
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さて、今回はこれらのフッ化化合物について、その基本的な製造工程を押さえつつ、どのあたりに日本企業の優位性があるのか、整理しておきます。

少し長めのエントリーとなります、お時間のある読者はお付き合いください。

さてフッ化水素であります。

水素とフッ素とからなる無機化合物で、分子式が HF と表される無色の気体または液体で、水溶液はフッ化水素酸あるいは無水フッ酸とも称されます。

無水フッ酸の生成には、蛍石(ほたるいし)と硫酸を使用します。

■図1:フッ化化合物の製造過程1
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※『木走日記』作成

上図※1における化学反応としては下の式のとおり、弱酸塩・蛍石(CaF2)に強酸・硫酸(H2SO4)を反応させ、強酸塩(CaSO4)が生成する過程で無水フッ酸(HF)も同時に生成されます。

■図2:無水フッ酸の生成式f:id:kibashiri:20190719103707p:plain
※『木走日記』作成

ここで生成されるフッ化水素ですが、毒物及び劇物取締法の医薬用外毒物に指定されています。

ここで99.99%以下の低純度製品は海外でも製造が容易ですが、純度が非常に高い、超高純度のモノはエッチングガスと呼ばれています。

2019年7月時点で99.999%以上の超高純度のエッチングガスは日本企業のみが製造可能です。

高純度フッ化水素が製造出来る日本企業はステラケミファ、森田化学、ダイキンの三社でこの三社て世界シェア100パーセントであり、森田化学が9割ほどです。

日本勢が圧倒的シェアを握る高純度フッ化水素の生成はノウハウが詰まっています。

日経記事より抜粋。

樹脂の生産に使う場合は不純物を1000分の1以下に抑えれば済むが、高性能な半導体製造向けは1兆分の1以下の水準が求められる。芝浦工業大学の田嶋稔樹教授は「ヒ素などの不純物は温度による分離だけでは取り除くことが難しく、特別な方法が必要だ」と話す。

フッ化水素は毒性や腐食性が高く、取り扱う設備にも安全性が求められる。田嶋教授は「特殊合金などを使った設備が必要になる。日本は1970年代から半導体生産に取り組み各社が独自のノウハウを持つ」と話す。

韓国、半導体材料の代替検討 高品質の日本勢にリスク  より
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47455320X10C19A7EA2000/

日経記事中の「高性能な半導体製造向けは1兆分の1以下の水準」ですが、これは99.9999999999%という日本企業のみが有する高純度技術であり、9が12個並ぶことから「トゥエルブナイン」と呼ばれています。

さてフッ化化合物の製造工程に戻りますが、生成した無水フッ酸に各種の有機塩化物を加えることでフルホロカーボンが作られます。

■図3:フッ化化合物の製造過程2
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※『木走日記』作成

フルオロカーボン (英: fluorocarbon) とは、炭素-フッ素結合を持つ有機化合物の総称で、化学反応がおきにくく、温度を変化させても安定であり、冷蔵庫やエアコンにおける冷媒や、精密電子部品の洗浄剤などとして用いられます。
このグループは俗称として「フロンガス」とも呼ばれます。
例えば上図※2で生成されるフルオロカーボンの例としては、メタンは水素原子1つがフッ化してフロン41になります。

■図4:フルオロメタン(フロン41)
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※『木走日記』作成

さらに水素原子全て4つがフッ化してフロン14になります。

■図5:パーフルオロメタン(フロン14)
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※『木走日記』作成

さてフッ化化合物の製造工程に戻りますが、生成したフルホロカーボンや各種中間体から、最終工程として重合などの化学反応を利用して、繊維処理剤やフッ素樹脂などの最終製品が作られます。

■図6:フッ化化合物の製造過程3
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※『木走日記』作成

さてここで特筆すべきは上図※3において「6FDA」という中間体が生成されることです。

「6FDA」は非常にユニークな構造を持っています。

■図7:6FDAの分子構造
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※『木走日記』作成

これこそがフッ化ポリイミドの原料となりますが、純度の高い「6FDA」は日本のダイキン工業しか作成できません。

日経記事より抜粋。

ダイキン工業はフッ化ポリイミドの原料である「6FDA」というフッ素化学品を製造し、国内の化学メーカーに供給する。フッ素は他の物質とくっつきやすい性質があるが、ダイキンは不純物を除去し純度の高い化学品をつくる技術に強い。フッ化ポリイミドは今回の規制対象だが、ダイキンの原料は対象外だ。

韓国、半導体材料の代替検討 高品質の日本勢にリスク より
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47455320X10C19A7EA2000/

まとめます。

「フッ化化合物の製造過程」をまとめておきます。

■図8:フッ化化合物の製造過程(まとめ)
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※『木走日記』作成

いま検証したとおり、日本のフッ化化合物製品の製造ノウハウは長期にわたり蓄積されており、その精度において中国や韓国などのメーカーにより、すぐに置き換えることは困難であると思われます。

今見たとおり、脆弱な基盤のうえで成り立つ韓国半導体産業は、日本の高精度材料に大きく依存しているのです、代替は当分の間不可能なのです。

しかるに文在寅大統領はこうした韓国の基本的な位置付けを理解していません。

現在もその発言は必要以上に日本を刺激しています。

残念なことですが、文在寅大統領だけが事態の深刻さをいまだ理解していないようです。



(木走まさみず)