木走日記

場末の時事評論

「日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置」(読売記事)〜日韓情報戦の様相を呈しているこの局面で、大スクープか大飛ばしか突出する読売報道

突出する読売新聞報道についてメディアリテラシー的に検証いたします。

1日に公開された経済産業省の「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」のプレスリリースの内容です。

大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて
2019年7月1日

経済産業省は、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」)に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行います。

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。

1.大韓民国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し
本日(7月1日)より、大韓民国に関する輸出管理上のカテゴリーを見直すため、外為法輸出貿易管理令別表第3の国(いわゆる「ホワイト国」)から大韓民国を削除するための政令改正について意見募集手続きを開始します。

2.特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え
7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととします。

https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190701006/20190701006.html

一点目は、韓国を「ホワイト国」から削除すること、二点目はフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目を個別に輸出許可申請を求め毎回輸出審査する対象に変更する、この二点です。

輸出で優遇していたのを止め、個別の輸出で通常の国の扱いにしただけです、別に制限をかけたのではありません。

この点で手続き上は問題がなく、WTOに提訴しても日本には勝てないという意見が韓国でも少なくありません。

(前略)

反面、手続き上は問題がないという見解もある。梨花(イファ)女子大学国際大学院の崔炳鎰(チェ・ビョンイル)教授は「これまで韓国政府をホワイト国に指定して提供した恩恵(輸出手続きの簡素化)を今後提供しないという意味なので、韓国を差別待遇するのではなく、手続き上問題はない」と説明した。ホワイト国から除外されれば輸出制限品目を輸入するたびに日本政府の許可と審査を受けなければならない。

このような脈絡でWTOに提訴しても勝訴は難しいこともあるという見解もある。KLパートナースの金範洙(キム・ボムス)弁護士は「これまで(韓国に)恩恵を与え、今回から規制することを違反というには無理があると考える」 と話した。

提訴の実効性に対する疑問もある。WTO提訴まで進むことになれば、訴訟手続きにかかる時間や2審まで続く過程までに韓国企業の損失が莫大にならざるをえないからだ。金興鍾氏は「3カ月ほど過ぎると、韓国内の半導体メーカーの部品調達が難しくなるため懐疑的」と明らかにした。

(後略)

韓国政府、WTOに日本を提訴しても…「時間が長くかかり勝訴も確実とはいえない」 より
https://japanese.joins.com/article/050/255050.html?servcode=A00§code=A10&cloc=jp|main|ranking

中央日報記事にもあるとおりそもそもWTO提訴しても結論が出るまで3年ほどかかり、あと3カ月で在庫切れしてしまう韓国半導体メーカーにとっては、即効性という点では意味を持ちません。

さて日本政府が放ったこの史上初めての対韓国への経済措置でありますが、日韓情報戦の様相を呈しているこの局面で、敵陣に放った「一矢」としては、非常に大きな影響と効果を及ぼしています。

それは一連の突出した読売新聞報道の有様にあります。

読売新聞だけは1日報道の記事から、紙面電子版ともに「禁輸」という単語を使用しています。

読売記事では「4日から実質的に禁輸となる。半導体を主要産業とする韓国経済に大きな打撃」と報じます。

韓国への「禁輸」4日から、半導体産業に痛手
2019/07/01 12:56

 経済産業省は1日、韓国に対して半導体製造などに必要な化学製品の輸出管理を強化すると正式に発表した。スマートフォンのディスプレーなどに使われるフッ化ポリイミドなど3品目が対象で、4日から実質的に禁輸となる。半導体を主要産業とする韓国経済に大きな打撃となりそうだ。

(後略)

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190701-OYT1T50101/

その後も、読売はその紙面記事・電子版記事双方で「禁輸」「大打撃」と繰り返します。

日本の禁輸措置、韓国政府がWTO提訴へ
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190701-OYT1T50182/

韓国半導体、禁輸決定に大打撃…在庫は最大1か月分か
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190701-OYT1T50298/

この日本最大・世界最大の発行部数を誇る読売による一連の「日本実質的禁輸」「韓国大打撃」の報道は、韓国政府・韓国メディアに動揺を与えます。

韓国中央日報は読売報道を受け「G20終えてすぐ刀を抜いた安倍首相…韓国向け半導体部品事実上の禁輸措置」と報道します。

記事は結びで「禁輸措置」の根拠を「読売新聞は1日付で「日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置となる」と報じたとしています。

G20終えてすぐ刀を抜いた安倍首相…韓国向け半導体部品事実上の禁輸措置
2019年07月01日11時18分

日本の経済産業省は1日午前10時、「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」という発表資料をホームページに公開した。

(中略)

韓国に対しては関連品目について包括的な輸出許可が不可能で、1件ごとに許可を受けなければならないという意味だ。

先端材料などの輸出と関連し、安全保障上の友好国と認定し輸出許可申請を免除している外国為替及び外国貿易法外為法)上の「ホワイト国」から韓国を除く措置も含まれた。韓国除外に向けた手続きを7月1日から進めていくという。

経済産業省は「外為法に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行います」と明らかにした。

(中略)

一方、読売新聞は1日付で「日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置となる」と報じた。
https://japanese.joins.com/article/030/255030.html?servcode=A00§code=A10

繰り返される読売による「禁輸」報道、「韓国大打撃」報道に影響を受けてか、韓国の報道も危機感が全面にでます。

朝鮮日報の分析は「禁輸」を前提に、「サムスン電子やSKハイニックスが持ちこたえられる期間は3-4カ月」と分析しています。

(前略)

■日本の素材供給が止まれば、「ギャラクシー」新製品の生産にも支障

 日本は素材産業の世界最強国だ。日本政府が輸出規制を変更して規制に乗り出したエッチングガス(高純度フッ化水素)、フォトレジスト、フッ化ポリイミドの3つは日本が世界市場の70-90%を占めているため、韓国の半導体・ディスプレイ産業の被害は避けられない。サムスン電子・SKハイニックスなどの韓国企業が今年1-5月に輸入した半導体材料のうち、日本製の材料の割合は、43.9(エッチングガス)-93.7%(フッ化ポリイミド)だった。エッチングガスは供給多様化で日本の比重を下げているのにもかかわらず、これだけの比重を占める。特に日本製のフッ化ポリイミドは品質が優れており、サムスンの新製品「ギャラクシー・フォールド」に搭載される「折りたたみできる画面」を作るのに必要不可欠だと言われている。ある情報技術(IT)業界関係者は「韓国が日本からこの3素材を輸入する額の合計は5000億ウォン(約466億円)前後だ。3素材を規制することにより、輸出額が昨年170兆ウォン(約15兆8400億円)に達した韓国の主力製品である半導体とディスプレイが人質に取られることになる」と語った。

 日本の輸出規制で3素材がすぐに途絶えるとしたら、持ちこたえられる期間はいくらもない。サムスン電子やSKハイニックスなどが確保している3素材の在庫量は1カ月前後だ。これに加え、半導体不況で両社の倉庫には3カ月分のD-RAMが山積みとなっている。よって、サムスン電子やSKハイニックスが持ちこたえられる期間は3-4カ月ということになる。

対韓輸出規制:韓国の急所突く「日本の報復」(下) より
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/07/02/2019070280009.html

まとめます。

読売は実質的「禁輸」と決めつけて報道を繰り返しています。

2日付け紙面では3つの記事が本件絡みで掲載されます、検証しておきます。

まず1面トップから記事タイトルで「輸出優遇 韓国除外へ 半導体材料 禁輸4日から」と「禁輸」と書かれています。

3面では、「徴用工 事態打開狙う 半導体材料 禁輸」と紙面の三分の二を占める大きな記事を掲載しますが記事タイトルから「禁輸」を繰り返しています。

さらに7面の経済面では「韓国半導体に大打撃 禁輸決定 サムスンやLG 日本へ影響拡大も」とのタイトルで「禁輸」が韓国半導体メーカーに大打撃となると報じています。

当該記事はネットでもリンクされています(会員限定です)。

韓国半導体、禁輸決定に大打撃…在庫は最大1か月分か
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190701-OYT1T50298/

今検証したとおり、2日付け読売紙面では一面トップから7面経済面まで「禁輸」「禁輸」「禁輸」と連呼されています。

日本政府が放ったこの史上初めての対韓国への経済措置でありますが、日韓情報戦の様相を呈しているこの局面で、敵陣に放った「一矢」としては、非常に大きな影響と効果を及ぼしています。

そしてそれを援護するように一連の突出した読売新聞報道のこの有様であります。

1日報道の記事から、紙面・電子版ともに「日本が禁輸」「韓国は大打撃」という報道を繰り返しています。

この読売の突出報道は韓国政府・メディアに大きな動揺を与えています。

読売は報じます。

日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置となる、と。

日本政府は輸出を許可しないと。

ただ読売はそう決めつけた報道の根拠は示してはいません。

現時点で突出した一連の読売の「禁輸」報道の真偽はつかめません。

4日から始まる今回の経産省の措置によるその運用で、日本政府が「日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置となる」かはすぐにはっきりわかることでしょう。

はたして、読売の大スクープなのかそれとも大飛ばし(大誤報)なのか、いましばらく事態の推移を見守ることとしましょう。




(木走まさみず)