木走日記

場末の時事評論

「外交崩壊」と「経済失速」の韓国になめられる日本

 今回は、韓国の外交と経済の抱える問題を検証してみましょう。



■「李大統領の崩壊した外交」(韓国・中央日報記事)

 まだまだ量的には極めて少ないのですが、韓国メディアにおいて李大統領の外交姿勢に対する冷静な批判記事が掲載されました、大変興味深い記事です。

 27日付け韓国・中央日報記事。

【中央時評】李大統領の崩壊した外交
2012年08月27日11時13分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
http://japanese.joins.com/article/266/158266.html?servcode=100§code=140

 文正仁(ムン・ジョンイン)延世大教授・政治外交学による「李大統領の崩壊した外交」という強烈なタイトルの記事でありますが、記事によれば李大統領の外交は日本だけでなく、中国・北朝鮮・米国と周辺国との関係をことごとく悪化させてきたのだと批判しています。

 まず、北朝鮮

政権発足後、李明博政権の対北朝鮮政策は硬直した原則と「北朝鮮崩壊」に対する根拠のない期待がすべてだった。南北関係は悪化の一途だった。

 続いて中国。

 韓国哨戒艦「天安」撃沈に対する韓国政府の公式発表に対し、北京は疑問を提起し、北朝鮮延坪島ヨンピョンド)砲撃を「交戦」と認識した。対北朝鮮経済制裁は中国の非協力のため所期の成果を得られなかった。その半面、朝中関係は急速に近づき、対外関係を総括する李長春中国共産党政治局常務委員は「朝中友好増進は戦略的選択」とまで述べた。韓日米3カ国協調の強化に対応した中国のこの発言は、韓中の「戦略的協力パートナー関係」宣言を色あせさせるのに十分だった。

 そして日本。

今回は日本だ。李明博政権の発足後、韓日関係は「民主同盟」に格上げされ、韓日米三角軍事同盟の土台を具体化しようという話まで議論されるほど緊密だった。韓日情報保護協定と物品・役務相互提供協定(ACSA)締結は国内世論の反対で先延ばしされたが、韓日安保協力と米国を含む軍事協調の摸索が現政権の対日政策の骨格であることには疑いの余地がなかった。

それだけに突然というしかない。8月10日の李明博大統領の独島(ドクト、日本名・竹島)訪問、「日本の国際的な影響力は以前ほどではない」「天皇が韓国を訪問したいなら独立運動をして亡くなった方たちの家族に心から謝罪しなければならない」などの強硬発言を予想した人が果たしていただろうか。今の韓日関係は1965年の国交正常化以来、最悪の水準だ。まさに外交戦争が始まった。日本が独島問題を国際司法裁判所に正式に提訴すると通知し、‘報復措置’にまで言及した今、その結果を予想するのは容易でないだろう。

 最後はアメリカ。

残りは米国か。先日まで李大統領の「韓米同盟優先主義」は揺るぎない絶対的な基調と考えたが、今ではそれさえも疑わしくなり始めた。オバマ政権の「アジア回帰戦略」のためには韓日米軍事協調が必須だが、韓日間の安保協力協定が世論に流されて座礁した今は容易ではないだろう。さらに次世代戦闘機(FX)事業までが米国の思い通りにならなかったり、平沢(ピョンテク)米軍基地の建設に支障が生じたり、弾道ミサイル射程距離の延長や原子力協定改定問題を青瓦台(チョンワデ、大統領府)が猪突的に押し通そうとすれば、‘失望した’ワシントンの反応が同盟を揺さぶることになる可能性も十分にありそうだ。

 記事は次期大統領に「相手と国民を下手に驚かさない外交、冷徹な思考と分析を通じて後続の結果を考えて取られる行動の重要性」を教訓にしなければならないと結んでいます。

大統領選挙までは4カ月も残っていない。誰が勝利しようと、次の大統領が得なければならない教訓ははっきりしている。相手と国民を下手に驚かさない外交、冷徹な思考と分析を通じて後続の結果を考えて取られる行動の重要性だ。そうしてこそ国民が安心し、国家の百年大計が堅固になるからだ。

 周辺諸国とことごとく関係を悪化させてしまって「韓国外交」は李大統領によって「崩壊」してしまったという筋書きの記事でありますが、確かに李大統領になって少なくとも北朝鮮、日本との関係は過去最悪に陥っていますし、対中国、対アメリカとの関係も決して良好とは言えません。

 ・・・



■「25中23の大手グループが非常経営体制」(韓国・東亜日報記事)

 一方経済状況はどうでしょう。

 実はここ数年、韓国経済は急速に貿易依存度が高まっています。

【韓国】昨年の貿易依存度、110.3%で過去最高
NNA 8月2日(木)8時30分配信

 韓国銀行と統計庁の調べで、韓国の昨年の貿易依存度が過去最高となる110.3%に達したことが分かった。貿易依存度が100%を上回ったのは2010年に続く2年連続となる。文化日報が伝えた。
 貿易依存度は、その国の経済がどれだけ貿易に依存しているかを示す指標で、一般的に輸出入の総額を国内総生産(GDP)で割った比率のことを指す。
 韓国の貿易依存度は、1990年代半ばまで50%ほどだったが、97年(63.8%)に60%を突破した。その後、06年に78.0%、08年には107.2%となり初めて100%を上回った。09年は95.8%で、多少下がったが、10年には102.0%に上昇して再び100%を上回った。
 貿易依存度が高い経済構造は、対外的要因の影響を受けやすいという弱点がある。韓国経済は、欧州財政危機や米国景気回復の鈍化、中国の成長率鈍化などによる世界の貿易量低下の影響から、第2四半期(4〜6月)のGDP伸び率が2.4%と33カ月ぶりの最低値となった。
 世界経済は下半期(7〜12月)も展望が明るくなく、国際的な投資銀行(IB)大手10行は、韓国の今年のGDP伸び率展望値(平均)を7月末現在、2.9%まで引き下げている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120802-00000011-nna-int

 対GDP比で輸出入額が100%を越えたわけですが、もちろん貿易依存度が高まること自体は経済活動が活性化している側面も有しますから悪いことではないのですが、100%を越えるとなると記事にもありますが、「貿易依存度が高い経済構造は、対外的要因の影響を受けやすいという弱点」が顕在化します。

 「韓国経済は、欧州財政危機や米国景気回復の鈍化、中国の成長率鈍化などによる世界の貿易量低下の影響から、第2四半期(4〜6月)のGDP伸び率が2.4%と33カ月ぶりの最低値」、つまり3年前の世界同時不況以来の不振に陥っていると言うのです。

 比較可能な主要国貿易依存度を「総務省統計局貿易統計」からグラフ化してみます。

図1:主要国貿易依存度(2010年)

総務省統計局貿易統計
http://www.stat.go.jp/data/sekai/09.htm

 日本(26.8%)、アメリカ(22.1%)、ユーロ圏(31.8%)と先進国で貿易依存度が20〜30%辺りにあるのは、国内市場が大きいために貿易額そのものは大きくともGDP比では低くなる傾向にあるためです。

 一方、サウジアラビアが典型ですが国内市場が小さく石油など国際競争力のある輸出製品があれば貿易依存度は高まります。

 韓国も近年家電製品などで国際競争力を高め貿易額が増加していったのですが、韓国国内市場が小規模なために、ここまで貿易依存度が高まってしまったのです。

 日本も「貿易立国」と称していますが国内市場が大きいため、韓国よりは今回の欧州財政危機や米国景気回復の鈍化、中国の成長率鈍化などによる世界の貿易量低下の影響を受けてはいないわけです。

 韓国では、「今回の危機が08年の金融危機の時と同じくらい深刻だ」、「あの時より深刻だ」と言った企業関係者の悲痛な声も報道されています。

 23日付け韓国・東亜日報記事。

25中23の大手グループが非常経営体制
AUGUST 23, 2012 07:00
http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=020000&biid=2012082379148

 記事によれば韓国企業グループの64%が「現在の危機が08年の米国発世界同時不況の時より厳しい」と見ています。

韓国経済をけん引する30大グループ10社中、6社は投資、雇用、各種費用を減らすなど、非常措置を取る非常経営体制を既に稼動中であることが分かった。22日、全国経済人連合会(全経連)が30大グループの中でアンケートに応じた25グループを調査した結果によると、ロッテ、ポスコ、KTなど、16グループ(64%)は現在の危機が08年の米国発世界同時不況の時より厳しいと見て、非常経営を実施していると話した。残りの9グループの中で7グループ(28%)も非常経営を検討中だと答えた。

16グループは、「今回の危機が08年の金融危機の時と同じくらい深刻だ」と認識している。この中で5グループ(20%)は、「あの時より深刻だ」と答えた。特に今回は輸出だけでなく、内需まで振るわずにいるという点で解決策を見出し難いという見解が多い。

■「竹島摩擦の向こうの減速韓国」(日経新聞記事)

 欧州財政危機に端をはっした今回の世界貿易不振が、貿易依存度が異常に高い韓国経済を直撃していることは20日付けの日経新聞でも滝田洋一編集委員が記事にしています。

竹島摩擦の向こうの減速韓国
編集委員・滝田洋一
2012/8/20 7:05
http://www.nikkei.com/markets/column/globaloutlook.aspx?g=DGXNASDF1600A_17082012000000

 記事によれば輸出急減により「7〜9月期はゼロ成長も」という失速ぶりです。

 「輸出急減…7〜9月期はゼロ成長も」と韓国紙・中央日報(電子版)は伝える。現に7月の輸出額は前年同月比8.8%減の446億ドルにとどまった。

 韓国経済研究院は今年の実質国内総生産(GDP)の成長率予測を2.6%と、5月時点の3.2%に比べて0.6ポイント引き下げた。韓国の実質成長率は2010年が6.2%、11年が3.6%だったから、減速ぶりは明らかだ。

 欧州債務危機の影響で中国が減速し、それが韓国に波及してきたのである。11年の韓国の輸出全体の24%が中国であり、対中貿易で478億ドルの黒字を稼いできただけに、中国減速の影響は大きい。

 韓国のGDPに占める輸出額(輸出依存度)は04年の37.4%から11年には49.7%に高まった。世界経済が拡大しているうちは輸出のレバレッジ(テコの原理)が働くが、失速しだすと逆回転が始まる。

 記事の結びは、経済重視の日経新聞らしく、経済制裁などで韓国を追い詰めるとますます韓国は中国よりに走ってしまうぞ、と警告して終わっています。

 期限の延長問題は粛々と対応した方が良い。韓国の外貨準備の相当部分は、経営難にあえぐ米住宅金融公社に投資されており、事実上の不稼働資産だ。貿易収支悪化は、国全体でみた資金繰り悪化をもたらす不吉な兆候。そんななかで、中国とも通貨スワップを結んでいる韓国を、ますます中国の側に走らせるのは得策ではないように思われるからだ。

 日経記事は日本の経済制裁の手段によっては脆弱な韓国経済に相当の悪影響を及ぼすことを警戒しています、「韓国経済が失速すると日本からの対韓輸出も減少し、日本側にも負の影響が及ぶ」と。

 これは一部事実です。

 韓国は部品、素材の中間財や製造設備といった資本財を、日本に依存しています。

 そこで韓国では製品輸出が伸びれば伸びるほど中間財などの日本から輸入が拡大し対日赤字が拡大すると言う歪んだ状況が続いています。

図2:過去の日韓貿易の推移と韓国側の収支

財務省貿易統計
http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time.htm

 ここ10年では年間2兆〜3兆円ほど対日赤字が続いていることがわかります。



■まとめ

 まとめです。

 こうして韓国の報道や統計資料を検証してみると、李大統領の竹島不法上陸がいかに無謀で浅はかな行動だったか、あらためて考えさせられます。

 今の韓国は外交的にも経済的にも日本との関係を悪化させて何も得るものはない(大統領の支持率は少し回復するのでしょうが)にも関わらず、「日本の国際的な影響力は以前ほどではない」「天皇が韓国を訪問したいなら独立運動をして亡くなった方たちの家族に心から謝罪しなければならない」、なぜここまで日本を刺激したのでしょうか。

 今回だけは日本政府が厳しい対抗処置を設けることを支持いたします。

 私は実行に移すかどうかは状況しだいだとしても、日本として実行可能な経済制裁措置をリストアップし検討を開始することを支持いたします。

 日経記事が指摘している通り制裁をすれば、輸出減となり日本が返り血を浴びる内容も含まれるでしょうが、現在の韓国経済が置かれている状況を考えれば、日本より韓国にとってはるかに痛手になることは自明です。

 日本は国際紛争を武力で解決することは封印されています。

 ならば経済大国として経済制裁を検討することは日本の数少ない対抗手段です。

 日本の外交は今まで経済と外交は別であると経済制裁は論外との財界の意向を守ってきましたが、その結果が今日の状況をもたらしたともいえます。

 日本はなめられすぎました。

 ここまでされて今回も何も対抗処置を取らないとすれば、日本は韓国だけでなくロシアや中国や世界中の国から蔑まれることでしょう。


 

(木走まさみず)