木走日記

場末の時事評論

対中国でロシアと連携を〜実はアメリカ嫌いだが日本好きのロシア人

 前回も触れましたが、米議会が22日「尖閣諸島は日本の施政下にあり、第三国の一方的な行為によってこの認識が変わることはない」と明記し「日本の施政権が及ぶ地域に対して、アメリカは日米安全保障条約の第5条に基づき、防衛の義務がある」とはっきり尖閣諸島日米安全保障条約の適用範囲内であるとうたった法案を可決したのであります。

 これは我が国にとって有り難い援護射撃ですね、中国が迂闊に尖閣に手を出すと日本だけでなくアメリカと直接対峙することに成りかねないわけです。

 さて日本としては国土はまず日本自身が守ると言う強い自覚を持たなければならないのは当然のことですが、日米同盟を軸にし、ここは対中国連携協力国としてロシアに注目したいです。

 20日付け時事通信記事から。

日本から「重要なシグナル」=北方領土問題でロシア大統領
時事通信 12月20日(木)18時44分配信

 【モスクワ時事】ロシアのプーチン大統領20日、モスクワで内外メディアを集めた大規模な記者会見を行い、北方領土問題について「(衆院選で勝利した自民党から)平和条約締結への重要なシグナルが送られている。われわれはこれを高く評価し、建設的な対話を行う用意がある」と問題解決に意欲を示した。
 ロシア国営テレビなどは衆院選直後、ロシアとの領土問題解決と平和条約締結を期待すると表明した自民党安倍晋三総裁の発言を繰り返し伝えており、これを指したものとみられる。プーチン大統領が日本での政権交代と今後の日ロ交渉に臨む姿勢に言及したのは初めて。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121220-00000119-jij-int

 うむ、ロシア国営テレビなどは衆院選直後、ロシアとの領土問題解決と平和条約締結を期待すると表明した自民党安倍晋三総裁の発言を繰り返し伝えているそうですが、「(衆院選で勝利した自民党から)平和条約締結への重要なシグナルが送られている。われわれはこれを高く評価し、建設的な対話を行う用意がある」(プーチン大統領)のこの発言は、ロシア側がこのタイミングで日本との関係を強めようとしているシグナルと見てよいでしょう。

 実は日露関係はこの10月に新たなステージに入っています、「日本国外務省とロシア連邦安全保障会議事務局との間の覚書」が署名されたのです。

 外務省プレスリリースから。

玄葉外務大臣とパトルシェフ・ロシア連邦安全保障会議書記との会談
平成24年10月23日

本23日午後6時30分から,玄葉光一郎外務大臣は,パトルシェフ,ニコライ・プラトノヴィチ(PATRUSHEV, Nikolai Platonovich)ロシア連邦安全保障会議書記と会談を行い,「日本国外務省とロシア連邦安全保障会議事務局との間の覚書」に署名した後,夕食会を行いました。概要は以下のとおりです。

1 総論
玄葉大臣から,アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化する中で,安全保障分野をはじめあらゆる分野で日露協力を進めることは日露双方の戦略的利益に合致する旨述べました。パトルシェフ書記から,安全保障分野での日露協力の重要性に同感であり,協力を通じて相互の信頼を高めなければならない旨発言がありました。

2 露安全保障会議との協力
玄葉大臣から,本会談は,総理訪露に向けた安全保障分野での日露協力深化のための重要なステップであると指摘し,パトルシェフ書記からは,ロシア連邦安全保障会議の役割について詳細な説明がありました。上記覚書の署名により,今後日本外務省と露安全保障会議の間の対話や協力を強化していくことで一致しました。

3 日露安全保障・防衛分野での協力
防衛対話・交流,海上自衛隊ロシア海軍の共同捜索・救難訓練,アフガニスタンの麻薬対策に関する日露協力など,安全保障分野における近年の日露協力の進展を歓迎し,今後こういった協力を更に進めることで一致しました。また,エネルギー安全保障の観点から,日露間のエネルギー協力についても意見交換が行われました。

4 アジア太平洋地域の安全保障環境認識・日露の安全保障認識
玄葉大臣から,地域の安全保障環境は一層厳しさを増すとともに,より複雑化しているとの考えを示し,双方の安全保障認識につき意見交換しました。

5 国際情勢
アジア太平洋地域情勢,アフガニスタン情勢等について意見交換が行われました。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/24/10/1023_05.html

 実はこの会談でプーチン氏の最側近の一人であるパトルシェフ安全保障会議書記は、尖閣問題で「ロシアはどちらかの側に立つことはしない」と明言しています。

 両国がこのタイミングで「日露安全保障協力強化」で合意したのは国名こそ出ていませんが対中国で連携を深めることが目的であることは明らかです。

 ロシアにとっても特に極東では中国が戦略上の一番の脅威として台頭してきたわけです。

 さてここで日本国民の複雑な対ロシア感情についてとロシア人の対日本感情について触れておきます。

 北方領土問題もあり、日本人はロシアという国が余り好きではないわけですが、ロシア人は日本をどう思っているのでしょうか、今年の5月に英国BBCが実施した世論調査結果を検証しておきます。

 世論調査対象になった22カ国はこちらです。

■図1:BBC世論調査対象国

http://www.worldpublicopinion.org/pipa/pdf/may12/BBCEvals_May12_rpt.pdf

 で、「世界に良い影響を与えている国」ランキングで、日本が1位、ドイツが2位になったわけです、調査結果はこちらです。

■図2:BBC世論調査結果

http://www.worldpublicopinion.org/pipa/pdf/may12/BBCEvals_May12_rpt.pdf

 さて、このレポートでは日本でも読売が調査しています、日本人にとって好きな国、嫌いな国が興味深いです。

■表1:日本人の好感をもてない国ランキング(BBC世論調査

国名 好感をもつ 好感をもてない +-
北朝鮮 1 88 -87
イラン 4 52 -48
イスラエル 3 45 -42
中国 10 50 -40
パキスタン 3 34 -31
ロシア 8 30 -22
南アフリカ 16 10 +6
アメリ 32 15 +17
韓国 34 16 +18
フランス 31 4 +27
ブラジル 32 3 +29
英国 35 3 +32
日本 41 9 +32
インド 38 4 +34
ドイツ 38 2 +36
カナダ 39 1 +38

■図3:日本人の好感をもてない国ランキング(BBC世論調査

 ご覧のとおり、一番嫌いなのが断トツで北朝鮮なのですが、それはさておき、ロシアも「好感をもつ」が8ポイントで、「好感をもてない」が30ポイントと、日本人にとって好印象の国とはお世辞にもいえないのです。

 一方、ロシア人の外国に対するイメージは以下の通りです。

■表2:ロシア人の好感をもてない国ランキング(BBC世論調査

国名 好感をもつ 好感をもてない
パキスタン 12 37 -25
アメリ 24 47 -23
イラン 14 37 -23
イスラエル 25 26 -1
北朝鮮 25 22 +3
南アフリカ 19 14 +5
韓国 27 12 +15
中国 46 21 +25
ブラジル 38 4 +34
英国 47 12 +35
カナダ 43 6 +37
インド 47 5 +42
日本 54 10 +44
フランス 55 9 +46
ドイツ 62 4 +58
ロシア 72 5 +67

■図4:ロシア人の好感をもてない国ランキング(BBC世論調査

 うむ、嫌いな国の2位がアメリカなのは共産主義国の盟主だった旧ソ連としては当然なのでしょうが、好きな国トップがロシアという自国愛の強さも目立つのですが、日本に対しては「好感をもつ」が54ポイントで、「好感をもてない」が10ポイントと、ドイツ、フランスに続いて好きな外国の三番目が日本なわけです。

 ・・・

 日米同盟を機軸にしつつ、日露関係をも強化して対中国連携を目指す戦略は有効だと思います。

 台頭する中国に対し極東地域で連携を図ることでは、両国の利害が一致します。



(木走まさみず)