今こそ対中国包囲網・「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべき
中国国防省は23日、日本の領土である尖閣諸島の上空を含む東シナ海に、中国が防空識別圏を設定したと発表いたしました。
中国国防省が出した公告は、識別圏内を飛ぶ各国の航空機に、国防省の指令に従うことや飛行計画の提出を求めています、従わない航空機には「防御的緊急措置を講じる」としています。
また中国国防省報道官は「適切な時期にその他の識別圏も設定する」と述べ、東シナ海だけでなく今後はフィリピンやベトナムと領有権を争っている南シナ海にも防空識別圏を拡大していく意向も表明しました。
いよいよ、中国が軍事的拡張主義を露わにしてきました、軍事力によって現状変更を図ろうとする強い意図による危険な挑発行為が始まったのです。
23日付け毎日新聞記事。
中国:尖閣周辺の上空に「防空識別圏」設定 日本側抗議
毎日新聞 2013年11月23日 21時40分(最終更新 11月24日 00時34分)
http://mainichi.jp/select/news/20131124k0000m030053000c.html
今回はアメリカがすばやく反応しています、ケリー米国務長官は、中国の「一方的な行動」は東シナ海の現状変更を試みるもので、「地域の緊張を高めるだけだ」と批判。さらに沖縄県の尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲内にあることも声明に明記いたします。
中国の防空識別圏設定「深い懸念」…米国務長官
(2013年11月24日09時27分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20131124-OYT1T00200.htm?from=main4
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この重大な局面において、日本は対中国においてどのような外交戦略を取れば日本の国益に叶うもっとも有効なものとなるのでしょうか。
短期的な視座で持って日本単独で中国に日中首脳会談開催などの呼び掛けをするなどの戦略なく右往左往することは愚の骨頂と云えましょう。
中国の新たなる軍事「覇権主義」に日本一国で対処するのは避けるべきだからです。
日米同盟を基軸に、豪州・ニュージーランドとの連携、フィリピンやベトナムなど中国と領土問題を抱える国や伝統的な親日国タイなどASEAN10各国との安全保障関係強化、さらにはインドやロシアとの連携を、粛々と並行して進めるべきと考えます。
日本は、台頭する中国に対し驚異を覚えている諸国と幅広い外交を展開し、中・長期的にぶれる事ない外交戦略を取るべきでしょう。
最近の安倍政権の外交姿勢及び周辺国の動静をこの動きを念頭にトレースしておきます。
21日付け時事通信記事から。
日本の安保政策見直し支持=防衛協力協定の交渉開始−米豪
【ワシントン時事】米、オーストラリア両政府は20日、ワシントンで外務・国防閣僚会議(2プラス2)を開いた。両政府は、安倍政権が進めている日本の安全保障政策の見直しを支持すると表明した。
米豪は会議後、共同声明を発表。声明は、日米豪閣僚級戦略対話などを通じ、日本との協力を深めていくと強調し、「安保・防衛政策の見直しに向けた日本の取り組みを支持する」とうたった。日本との情報共有を進めていく方針も示した。
米豪はまた、豪州北部への米海兵隊のローテーション(巡回駐留)や合同軍事訓練・演習、人道支援活動をめぐる2国間協力について定めた協定の締結を目指し、交渉を始めることで合意した。経済面では、環太平洋連携協定(TPP)の年内妥結を目指す姿勢を再確認した。
ケリー米国務長官は会議後の記者会見で、「アジア太平洋への米国の関与を強化する上で、豪州は不可欠のパートナーだ」と強調。ビショップ豪外相は「米国が地域で一段と指導力を発揮することに期待を寄せている」と述べた。(2013/11/21-09:21)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201311/2013112100154&g=pol
米、オーストラリア両政府は安倍政権が進めている日本の安全保障政策の見直しを支持すると表明、加えて日米豪閣僚級戦略対話などを通じ、日本との協力を深めていくと強調しています。
今後、日・米・豪にニュージーランドを加えた4カ国による合同軍事訓練・演習が強化されると予測されます、もちろん対中国を睨んでの動きでありましょう。
17日付け産経新聞記事から。
ラオスが積極的平和主義支持、首相年末に対ASEAN新ビジョン
2013.11.17 20:08 [安倍首相]【ビエンチャン=山本雄史】安倍晋三首相は17日(日本時間同)、ラオスのトンシン首相と会談し、外務・防衛当局間の安全保障対話を創設することで一致した。トンシン首相は安倍首相が提唱する「積極的平和主義」への支持も表明した。ラオス訪問で安倍首相は就任から約11カ月で東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟の全10カ国の訪問を終えたことになる。
首脳会談後の記者会見で安倍首相は「ASEANは世界経済の牽引(けんいん)役として、日本経済再生に欠かせない友人だ」と述べ、12月に東京で開かれる「日・ASEAN特別首脳会議」で対AESAN新ビジョンを表明する意向を示した。
首脳会談では、アジア太平洋地域の平和と繁栄の維持、海洋安全保障の重要性を確認し、北朝鮮の非核化を求めることでも一致。安倍首相は、首都ビエンチャン国際空港ターミナルの拡張計画に対する約90億円の円借款供与、ベトナムからラオス、タイを横断する「東西経済回廊」などの交通インフラ整備支援を表明した。
日本の首相のラオス訪問は多国間の国際会議を除けば平成12年1月の小渕恵三首相以来13年ぶりとなる。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131117/plc13111720110012-n1.htm
今回のラオス訪問で安倍首相は就任から約11カ月で東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟の全10カ国の訪問を終えたことになります。
とりわけASEAN諸国の中でカンボジアとともに親中国国であるラオスにおいて、外務・防衛当局間の安全保障対話を創設することで一致、さらにトンシン首相が安倍首相が提唱する「積極的平和主義」への支持も表明したことは、大きな外交的成果と評価できます。
21日付け「ロシアの声(日本語版)」記事から。
天皇陛下 初のインドご訪問
21.11.2013, 15:43天皇皇后両陛下は11月30日から12月5日、インドをご訪問される。インド外務省が明らかにした。
インド外務省公式声明では、「天皇皇后両陛下はインドを初めてご訪問される。今回のご訪問はインドと日本の世界的戦略協力関係を大きく拡大および強化するものである。」とされている。
インドと日本の関係は歴史的に友好関係であり、現在、インドが毎年首脳会談を行っているのは日本とロシアのみ。
インド外務省公式声明で、「天皇皇后両陛下はインドを初めてご訪問される。今回のご訪問はインドと日本の世界的戦略協力関係を大きく拡大および強化するものである。」と発表されました。
この動きに対してインドと伝統的に軍事的結びつきが強いロシアのメディアが注目している点が興味深いです。
記事の結びの「インドと日本の関係は歴史的に友好関係であり、現在、インドが毎年首脳会談を行っているのは日本とロシアのみ」との表現が、ロシアとして天皇陛下の初のインドご訪問を好意的に受け止めているのだと感じます。
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さて、当ブログでは3年前のエントリーで「「パックス・シニカ」中国の覇権主義に対抗するには、アメリカとの日米同盟を要(かなめ)とした反中国諸国同盟による対抗勢力の構築、いわば「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべき」と主張しています。
2010-12-28 ”Pax Anti Sinica”の薦め〜アジアを赤く染めないために
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20101228
主張のコア部分を再掲します。
「パックス・シニカ」(Pax Sinica)というラテン語の歴史用語があります。
「パックス・シニカ」とは中国の覇権により維持された中国国内と近隣諸国の平和状態を指し、唐の時代にその全盛期を迎えています。
中国こそ文明の中心であるという「中華思想」のもとで漢民族は周辺のさまざまな民族を吸収し一大帝国を築きます。さらに後進的な近隣諸国に対しては「朝貢」を要求し、中国の属国であることを認めさせています。
さて過去の歴史用語であった「パックス・シニカ」でありますが、どうもこの21世紀の現在に、中国経済の急成長とともに急速な軍備強化を伴い復活しつつあるようです。
一方。世界でソ連崩壊後のアメリカ一極体制いわゆる「パックス・アメリカーナ」がリーマンショック以来の世界不況によりその力の衰退が明白になりつつあります。
アメリカの衰退で生じる力の空白を突いて中国がその勢力圏を膨張させる、東アジアにおいて「パックス・シニカ」、中国による覇権が復活しようとしてるとの分析は、興味深いです。
我々日本は衰退していくが価値観は共有できる「パックス・アメリカーナ」と最後まで迎合するのか、あるいは危険で粗暴だが勢いのあるこの21世紀に復活した「パックス・シニカ」に迎合するのか、2者択一を迫られているとも言えましょう。
たしかに同盟国アメリカの衰退は特に経済力において顕著であります。
またアフガン・イラクで米軍は疲弊仕切っており、新たに東アジアで軍事衝突が起こるとき、その対処能力には疑問を持つ専門家も多いのが現状です。
このような視点で考察する限り、日本はアメリカだけでなく、インド・オーストラリア・東南アジア諸国等の日本と同じ海洋諸国であり民主主義という価値観も共有でき、なおかつ対中国で利益を共有する地域諸国と力を合わせて「パックス・アメリカーナ」の衰退によるこの東アジア地域の力の空白をカバーする、それが新たなる「パックス・シニカ」東アジアの「中国圏」化を阻止する唯一の方策であろうと思います。
つまり「パックス・シニカ」中国の覇権主義に対抗するには、アメリカとの日米同盟を要(かなめ)とした反中国諸国同盟による対抗勢力の構築、いわば「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきです。
「パックス・アンチ・シニカ」の概念は、これまでの「パックス・ブリタニカ」(大英帝国)や「パックス・ロマーナ」(ローマ帝国)などに代表される一国による覇権というよりも、冷戦時代に表現された「パクス・ルッソ=アメリカーナ(Pax Russo-Americana )」(ロシアとアメリカ)と同様、複数国による平和維持になります。
もちろんこのような反中国的名称で勢力結集を図ることは外交的には愚策でしょうから、現実には中国のいらぬ警戒心を煽らぬように構築されるべきでしょうことは言うまでもありません。
21世紀に復活した中国によるむき出しの覇権主義、新たなる「パックス・シニカ」に、どう対峙するのか、日本政府は今歴史的決断を求められているのであります。
私は、アジアを赤く染めないために、日本は静かに冷静に「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきだと考えています。
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この重大な局面で機は熟したと言えるでしょう。
今こそ、日本は動じることなく静かに冷静に対中国包囲網・「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきでしょう。
13億の人口と成長を続ける世界第二位の経済規模をバックに急速に軍備拡張を続ける中国がついにその軍事覇権主義の意思を明確に国際社会に顕した現在、日本は単独で中国と対峙するのは愚策であります。
日米同盟を基軸としてしかしアメリカのみを頼ることなく中国を驚異と感じている多くの諸国と連携していくことが必要です。
24日付けサーチナ記事によれば、中国メディアの米爾網は24日、「尖閣諸島をめぐって日中が開戦した場合、中国を援護してくれる国はパキスタンと北朝鮮の2カ国しかない」と報じています。
日中が開戦した場合、わが国を援護してくれる国は2カ国のみ=中国
尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐり、日中関係の悪化が続いている。中国は23日、尖閣諸島を含む東シナ海に「防空識別圏」を設定したと発表したが、これによって日中の東シナ海をめぐる対立に新たな火種が持ち込まれたことになる。
中国メディアの米爾網は24日、「尖閣諸島をめぐって日中が開戦した場合、中国を援護してくれる国はパキスタンと北朝鮮の2カ国しかない」と報じた。
対インドという点で利害が一致している中国とパキスタンは2005年4月に軍事や安全保障、経済、政治などの分野において「善隣友好協力条約」を締結している。
中国の李克強首相が13年5月にパキスタンを訪問した際、パキスタン側は中国が抱えるすべての問題において中国と同じ立場を取るとし、「中国に対する主権侵犯はパキスタンへの主権侵犯と同様である」と主張した。
また、中国のもう1つの盟友は北朝鮮だ。中国と北朝鮮は1961年に「中朝友好協力相互援助条約」を締結しており、一方が武力攻撃を受けた際にはもう一方が即時かつ全力の軍事援助を提供することが定められている。
近年、中朝関係は悪化の一途をたどっているが、それでも北朝鮮は中国にとっての「盟友」と言っても差し支えないだろう。(編集担当:村山健二)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=1124&f=national_1124_010.shtml
中国の軍事力に対抗するために日本一国で軍事的に対峙することは困難です。
軍事力だけでなく、日本国としての信頼度・ソフトパワーによる国際連携を深め、国際社会において圧倒的数的優位を構築し、もって日本の安全保障強化につなげるべきと考えます。
静かに冷静に対中国包囲網・「パックス・アンチ・シニカ」(Pax Anti Sinica)を指向すべきです。
(木走まさみず)