木走日記

場末の時事評論

日本の外交政策「自由で開かれたインド太平洋」構想をその名称すら使用せず「中国への牽制という目先の利益」と批判する朝日社説〜朝日新聞の論説がしばしば見せるこのような知的狭量さに辟易してしまう

今回のインド総選挙について日本のメディアがどう取り上げているか、朝日・産経・日経の社説を取り上げます。

ポイントは「自由で開かれたインド太平洋」構想というキーワードであります。

外務省は公式サイトで日本語と英語のPDFファイルを公開しています。

外交政策
自由で開かれたインド太平洋
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page25_001766.html

さて、23日、9億人という世界最大の有権者を抱えるインド総選挙(公選議席543)が開票され、結果は与党インド人民党(BJP)の圧勝の見込み、モディ氏が引き続き今後5年間首相として国のかじ取りを担うことになります。

外交はモディ氏の得意分野で、「自由で開かれたインド太平洋」構想のもと、日本や米国との協力を進めてきました。

(関連記事)

インド総選挙、与党圧勝 モディ首相、続投へ
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14027254.html?_requesturl=articles%2FDA3S14027254.html&rm=150

安倍晋三首相は23日、外国首脳として選挙後初の電話会談で早速祝意を伝え、蜜月ぶりを示します。日本の外交関係者は「今後5年の日印関係は、安全保障や経済協力など最良の期間になる」と話しました。

さて、安倍首相が唱え始め米印豪など各国に支持されている「自由で開かれたインド太平洋」構想ですが、簡単にまとめておきます。

「自由で開かれたインド太平洋戦略」という言葉は、安倍晋三首相が2016年8月、ケニアで開かれた第6回アフリカ開発会議TICAD Ⅵ)で初めて使ったものであります。

今では、アメリカもこれを主張するようになっています。それゆえ、これを米中対立の一環と捉え、また、中国の「一帯一路」と対抗するものと捉えている人も多いのです。

当初日本は「インド太平洋戦略(strategy)」と「戦略」というともすれば攻撃的排他的な用語を使っていましたが、最近では名称を「インド太平洋構想(vision)」に修正しています、「戦略」という言葉で中国を警戒させるよりも、東南アジア諸国連合ASEAN)で中国に近い国々が賛同しやすくなるためです。

(関連記事)

インド太平洋、消えた「戦略」 政府が「構想」に修正
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37648990S8A111C1PP8000/

いずれにしても日米が唱える「自由で開かれたインド太平洋」構想にとって、今回のインドにおけるモディ氏の圧勝は、構想の重要なパートナーの勝利という点で今後の構想の安定化という点で歓迎されているわけです。

日本のメディアも、この勝利を安倍晋三首相が唱える「自由で開かれたインド太平洋」構想にプラスになると歓迎しています。

日本経済新聞社説より。

安倍晋三首相が唱える「自由で開かれたインド太平洋」構想でインドは重要なパートナーである。外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の開催で合意するなど日印関係は着実に深まっている。インドは気候変動対策に消極的だが、そうした世界的な課題も含めた戦略的な対話を、今後は期待したい。

[社説]モディ首相が負った重い責任  より
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45233200U9A520C1SHF000/

産経新聞社説より。

 普遍的価値を共有する日印両国が、力ずくの海洋進出に代表される中国の覇権主義をにらみ連携するのは極めて自然なことだ。

 「自由で開かれたインド太平洋」を実現するため、欠かせないパートナーでもある。

 日印は1年ごとの首脳の往来が慣例化している。安倍晋三首相とモディ氏の間で、日印の協力は、自衛隊とインド軍の共同訓練など防衛分野にもおよび、外務・防衛閣僚協議(2プラス2)開催でも合意している。

【主張】インド総選挙 対中連携さらに強めたい より
https://www.sankei.com/column/news/190525/clm1905250002-n1.html

興味深いのは朝日新聞社説です。

「自由で開かれたインド太平洋」構想というキーワードを無視します。

逆に、そんな「中国への牽制(けんせい)という目先の利益にのみとらわれる」ことに熱心になるなと安倍首相を牽制、「幅広い国際秩序の安定に役立つ日印関係をめざ」せと主張します。

 モディ氏は日米豪との関係を強める一方、中国やロシアとも首脳会談を行うなど、偏らない外交姿勢を見せている。

 安倍首相はモディ氏と12回会談するなど関係を深めてきた。中国への牽制(けんせい)という目先の利益にのみとらわれることなく、幅広い国際秩序の安定に役立つ日印関係をめざすべきだろう。

(社説)インドの政治 13億人の公平な発展を より
https://www.asahi.com/articles/DA3S14028634.html?iref=editorial_backnumber

・・・

安倍首相が唱え始め、現在では米国も主張し、豪印ASEAN各国などに支持が広がりつつある「自由で開かれたインド太平洋」構想ですが、今回の欠かせないパートナーであるインドにおける総選挙結果に対する社説論説で、朝日新聞だけは日本の基本外交政策「自由で開かれたインド太平洋」構想を無視、日本政府とは真逆とも言える主張をしています。

中国への牽制(けんせい)という目先の利益にのみとらわれることなく、幅広い国際秩序の安定に役立つ日印関係をめざすべき(朝日社説)

安倍憎しからとはいえいくら言い出しっぺが安倍さんだからといって日本の基本外交政策「自由で開かれたインド太平洋」構想をその名称さえ論説で使わないのです、無視してしまうのです。

私は朝日新聞の論説がしばしば見せるこのような知的狭量さに辟易してしまいます。



(木走まさみず)