木走日記

場末の時事評論

古舘伊知郎が泣いた朝日新聞ジョン・ダワー記事を検証する〜ただの浮世離れした教条的憲法擁護論の典型である

 8月4日のTV朝日の報道ステーション古舘伊知郎氏が、以下のジョン・ダワーさんの言葉を紹介しながら「読んでいて涙が出てきた」と言いました。

 で、コメンテーターの立野氏は「この言葉を外国人ではなく、日本の政治家から聞きたい」と発言していました。

 ふーん。

 どんな「スバラシイ」インタビューなのでしょうか。

 これですね、4日付けの朝日新聞アメリカ人の著名な歴史家ジョン・ダワー氏のインタビュー記事が掲載されています。

(戦後70年)日本の誇るべき力 戦後日本を研究する米国の歴史家、ジョン・ダワーさん
2015年8月4日05時00分
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11897005.html

 うん、確かにこれなかなかの良インタビューであります。

 大変興味深いインタビュー記事です。

 ここに表出しているのは、いわゆる護憲派平和憲法を守れ』『九条を守れ』的な考えの人たちのひとつのテンプレ・典型的な思考パターンです。

 彼らの思考パターンを理解するにはよい記事だと評価します。

 まず戦後70年の日本の平和国家としての歩みを肯定的に捉えています。

 「繰り返しますが、戦後日本で私が最も称賛したいのは、下から湧き上がった動きです。国民は70年の長きにわたって、平和と民主主義の理念を守り続けてきた。このことこそ、日本人は誇るべきでしょう。一部の人たちは戦前や戦時の日本の誇りを重視し、歴史認識を変えようとしていますが、それは間違っている」

 ここに護憲派の論の一つのテンプレを見ることができます。

 戦後70年日本が平和を守ってこれたのは「平和憲法」「九条」のお蔭であるという論理です。

 日米安保条約並びに在日米軍・在日米艦隊の存在そして米国の核の傘に庇護されてきたことを全く無視しています。


 また「本当に偉大な国は、自分たちの過去も批判しなければなりません。」との箇所もあります。

 「本当に偉大な国は、自分たちの過去も批判しなければなりません。日本も、そして米国も、戦争中に多くの恥ずべき行為をしており、それは自ら批判しなければならない。郷土を愛することを英語でパトリオティズムと言います。狭量で不寛容なナショナリズムとは異なり、これは正当な思いです。すべての国は称賛され、尊敬されるべきものを持っている。そして自国を愛するからこそ、人々は過去を反省し、変革を起こそうとするのです」

 過去を反省することはけっこうなのですが、従軍慰安婦問題などで顕著である事実とは異なる誇張された間違った捏造された「虚構」が一部メディアや反日的な国で拡散していることにに対しては、厳しく反証すべきなのですが、その事実にはまったくふれていません。

 さらに「アジアにおける安全保障政策は確かに難題」との認識も「米軍と一体化するのが最善とは思えません」という危惧を提示しています。

尖閣諸島南シナ海をめぐる中国の振る舞いに緊張が高まっている今、アジアにおける安全保障政策は確かに難題です。民主党の鳩山政権は『東アジア共同体』構想を唱えましたが、それに見合う力量はなく、米国によって完全につぶされました」

 「だからといって、米軍と一体化するのが最善とは思えません。冷戦後の米国は、世界のどんな地域でも米軍が優位に立ち続けるべきだと考えています。中国近海を含んだすべての沿岸海域を米国が管理するという考えです。これを米国は防衛と呼び、中国は挑発と見なす。米中のパワーゲームに日本が取り込まれています。ここから抜け出すのは難しいですが、日本のソフトパワーによって解決策を見いだすべきです」

 ここで決定的な護憲派のテンプレが登場します。

 「ここから抜け出すのは難しいですが、日本のソフトパワーによって解決策を見いだすべき」とジョン・ダワー氏は提言しているのですが、「日本のソフトパワー」って何かと問われた彼はこう説明しています。

 ここ核心部分ですので、少し長いですがそのまま引用。

 ――では、日本のソフトパワーで何ができるでしょうか。

 「福島で原発事故が起き、さらに憲法がひねり潰されそうになっている今、過去のように国民から大きな声が上がるかどうかが問題でしょう。今の政策に国民は疑問を感じています。安倍首相は自らの信念を貫くために法治主義をゆがめ、解釈によって憲法違反に踏み込もうとしている。そこで、多くの国民が『ちょっと待って』と言い始めたように見えます」

 「繰り返しますが、戦後日本で私が最も称賛したいのは、下から湧き上がった動きです。国民は70年の長きにわたって、平和と民主主義の理念を守り続けてきた。このことこそ、日本人は誇るべきでしょう。一部の人たちは戦前や戦時の日本の誇りを重視し、歴史認識を変えようとしていますが、それは間違っている」

 「本当に偉大な国は、自分たちの過去も批判しなければなりません。日本も、そして米国も、戦争中に多くの恥ずべき行為をしており、それは自ら批判しなければならない。郷土を愛することを英語でパトリオティズムと言います。狭量で不寛容なナショナリズムとは異なり、これは正当な思いです。すべての国は称賛され、尊敬されるべきものを持っている。そして自国を愛するからこそ、人々は過去を反省し、変革を起こそうとするのです」

 迫りくる中国の軍事的脅威に対して、日本のソフトパワーによって解決せよ、と言います。

 それは、世論を盛り上げて安倍政権に反対して『平和憲法』を守り、また自分たちの過去もしっかり反省することだと、要はこのように言っているわけです。

 でました。

 ここなのです。

 護憲派の主張の典型です。

 目の前の安全保障上の脅威に対して具体的な策がまったく示されないのです。

 「憲法第9条だけ唱えていれば、日本だけは平和になる」、まるでこのように主張しているようなものです。

 この冷徹な現実を前に日本だけが「九条」を念仏のように唱えれば平和が確保できるなどそれこそ平和ボケ外交音痴な戯言(ざれごと)です。

 この状況下で、防衛、外交方針を具体的に打ち出す保守派に対して、護憲派は数十年前から更新されない言葉で教条的かつ精神論的な憲法9条擁護論を繰り返すだけで、現実に存在する国民の不安に対応しようとしません。

 多くの護憲派メディアおよび論者は「戦争法案反対、憲法を守れ」と安倍首相をバカにするわけですが、こうした指摘自体が一歩譲って仮に妥当だったとしても、護憲派勢力はこうして相手をバカにするだけで自分たちは具体的な、現実的な処方箋を出せていません。

 これで国民の支持を得れるはずがありません。

 護憲派は国家に軍事力が必要であることも、中国の軍事的膨張の脅威や近隣諸国の反日ナショナリズムの問題も一通り認めなければなりません、その上で、保守派の掲げる論以外の現実的な選択肢を提示することこそすべきなのです。

 保守派の主張以外の手段を講じた方が、国防に結びつくというアピールがまったくないのです。

 もっとも問題なのは、護憲派勢力のある種の大衆蔑視ともいえる自己陶酔です。

 保守派は現実に起こっている変化に何とか対応しようと具体的に政策を打ち出しますが、護憲派は教条的憲法擁護論に拘泥し、自らの主張に酔い反対意見を机上で論破することのみに執着し、現実の日本を取り巻く状況に対して何ら具体的政策を国民に訴えることを放棄して、そこで自己満足しているのです。

 現実に社民や共産などの護憲政党の長期凋落傾向を持ち出すまでもなく、護憲派リベラルの浮世離れした教条的憲法擁護論だけでは、すでに国民の支持を失っていることを強く自覚すべきでしょう。

 冷徹な現実を見つめよ、ということです。 



(木走まさみず)