木走日記

場末の時事評論

理不尽な中国が生んだふたつのエフェクト〜世界では中国警戒論台頭、日本では世論が一気に「右傾化」

 中国外務省が尖閣諸島沖の漁船衝突事件で、日本側に謝罪と賠償を要求するなど強硬姿勢をエスカレートさせています。

 あまりに理不尽な中国のこれらの振る舞いに、重要なふたつのエフェクトが世界で、そして日本国内に波紋のような広がりを見せています。 

 ひとつのエフェクトは今回の事件で世界において中国への警戒感が一気に広がっていることです。

 28日付け読売新聞電子版記事から。

中国は領土への不満抱える独裁国家…米紙批判

 【ワシントン=小川聡尖閣諸島沖の日本領海内で起きた中国漁船衝突事件をめぐり、日本政府による中国人船長釈放にもかかわらず強硬な主張をやめない中国に対し、米メディアで批判が広がっている。

 27日付のワシントン・ポスト紙は、「ますます威嚇的な中国に直面するアジア」と題する社説を掲載。事件について、「中国が国家主義的で領土に不満を抱えた独裁国家のままであることを世界に思い出させた」としたうえで、「中国は船長釈放後もさらに(日本に)謝罪を求めている。こうした振る舞いは、国際的なシステムに溶け込もうという気のある、節度ある国のものではない」と批判した。

 ニューヨーク・タイムズ紙も同日付の記事で、米政府当局者が「日本は事態が手に負えなくなることを防ぐために重要なことを行った」が、「中国がこれ以上、何を欲しがっているのか、我々にはわからない」と、中国に不信感を示す様子を紹介した。

(2010年9月28日10時22分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100928-OYT1T00315.htm

 WPは「中国は船長釈放後もさらに(日本に)謝罪を求めている」点を重視、「こうした振る舞いは節度ある国のものではない」と批判しています。

 NYTは米政府当局者の談として日本の対応を評価した上で「中国がこれ以上、何を欲しがっているのか、我々にはわからない」との中国への不信感を紹介しています。

 また韓国では朝鮮日報が28日付け社説で「中国は法よりも力を掲げる国になりたいのか」と、中国の横暴ぶりを批判しています。

【社説】中国は法よりも力を掲げる国になりたいのか
http://www.chosunonline.com/news/20100928000034

 社説では、「中国の力」を全世界に示したが短期的には成果を上げているように見えても長期的にはどうか冷静に問うてみるべきだと中国政府に釘をさしています。

 中国は、日本との衝突の過程で政治・経済的な圧迫手段を総動員して日本を屈服させ、中国人船長を釈放させた。また米国との関係では、元安が米中の貿易不均衡を深刻化させているとして元の再評価を主張する米国の要求を、きっぱりと拒絶した。こうした姿を通じ、「中国の力」を全世界に示したというわけだ。中国は今、自分たちが米国や日本に向け駆使している戦略が、短期的には成果を上げているように見えるものの、一方でこれまで中国が主張してきた北東アジア協力モデルの実現や、東南アジア諸国連合ASEAN)加盟各国と交わした「領土紛争を平和的に解決しよう」という中国の約束を、世界に信じさせる助けになるのかどうか、考えてみなければならない。それと共に、アジアや全世界で中国の立場を確保するに際し肯定的影響をもたらすかどうかについても、冷静に問うてみるべきだ。

 日本政府による中国人船長釈放にもかかわらず強硬な主張をやめない中国に対し、世界のメディアで批判が広がっています。

 このような国際的な反中国感情と警戒感の高まりは、中国当局には当然予測の範囲内だと推測されますが、屈辱的な「外交的敗北」をきし国際的ダメージをこうむった日本政府にとり、肯定的な副産物とはなったでしょう。

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 そしてもうひとつのエフェクトは今回の事件で日本国内の中国に対する一般世論の雰囲気が一変したことです。

 中国に対して比較的温厚な印象も持っていた人々の間にも「国家主義的で領土に不満を抱えた独裁国家」(WP紙)であることを、今回の事件でいやというほど思い知らされたことでしょう。

 28日付けの新聞では対中国の点では温厚な論説を張ってきたとされる2紙が中国に対する批判と対抗策を社説に掲げているのには驚かされました。

【毎日社説】中国の強硬措置 理不尽な対応はやめよ
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100928k0000m070126000c.html
【日経社説】対中外交の巻き返しには何が必要か
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE3E7E1EAE5E1E1E2E0EAE2EBE0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8

 【毎日社説】は「中国外務省が発表した声明にはあぜんとさせられた」とし、「謝罪と補償を求めてくるとは何をか言わんや」と中国政府を痛烈に批判しています。

 漁船船長の帰国に合わせ中国外務省が発表した声明にはあぜんとさせられた。日本の領海内で海上保安庁の巡視船に体当たりした漁船の船長を釈放したのは日本側が対中関係を重視した結果の判断であろう。それに対し謝罪と補償を求めてくるとは何をか言わんやである。

 税関当局による対日本輸出入が滞るケースが頻発している件を「いやがらせ」と表現、挑戦的な対応をただちに改めよ、と社説を結んでいます。

 さらに、一部の税関当局が日本関連の輸出入品に対する通関検査を厳格化し自動車や家電の部品などの輸出入が滞るケースが頻発しているともいう。中国政府は指示を否定しているが、一連の経緯から見ればいやがらせとしか思えない。

 中国が本当に「戦略的互恵関係を発展させることは両国国民の根本利益に合致する」(中国外務省声明)と考えているなら、挑戦的な対応をただちに改めるべきである。

 いつもは財界の代弁者であり中国に甘い日経新聞も「対中外交の巻き返し」をはかれと、2つの策を進言していて興味深いです。

 だとすれば、菅政権がやるべきことは明確だ。まず、尖閣諸島も含めた日本の防衛のあり方についてもっと真剣に検討し、米側との連携を深める必要がある。

 もう一つは、中国軍の海洋進出への懸念を共有する東南アジア諸国や、韓国、インドと協力し、多国間で中国に自制を求める構図を築くことだ。菅首相は来月以降の一連の国際会議で、そうした首脳外交を展開してほしい。

 「尖閣諸島も含めた日本の防衛のあり方」を真剣に見直し「米側との連携」を強化、併せて「中国軍の海洋進出への懸念を共有する東南アジア諸国や、韓国、インドと協力」を強化し「多国間で中国に自制を求める構図を築く」、つまり中国包囲網を構築せよと強気です。

 社説は中国に対抗するには「日本単独ではなく、国際社会と連携」するしかないと結ばれています。

 中国の台頭が生み出すさまざまな変化に対応するには、日本単独ではなく、国際社会と連携していかなければ難しい。今回の事件をめぐる日中対立は、まさにこんな現実を突きつけている。

 私が驚くのは毎日や日経までが対中国で中国包囲網を提案するなど、かなりいわゆる「右傾化」した論陣を張り始めていることです。

 メディアやネットでの論も対中国感情という点では、ときに怒りを伴っての危険なほどの空気が渦巻いているのが感じられます、このような雰囲気は私はかつて経験していませんほどです。

 前述の朝鮮日報社説においても、中国が日本を押し込むほど日本の右傾化は加速すると中国政府に警鐘を鳴らしています。

 現在、中国との間で南沙諸島をめぐる紛争を抱えているASEAN加盟各国の対米依存傾向が浮き彫りになり始めている。また日本では、「今回の事態で中国が一方的に押し込み、日本が白旗を掲げるしかなかったのは、日本が平和憲法に縛られ戦争ができず、米国の核の傘に安全保障を委ねざるを得ないからだ」という声が上がり始めている。中国が突出した経済力と軍事力で日本を押し込むほど、日本の右傾化は加速し、北東アジアの安全保障の構図全体も不安定な状態へと流されていく可能性がある。

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 理不尽な中国の振る舞いに、重要なふたつのエフェクトが世界で、そして日本国内に波紋のような広がりを見せています。 

 ひとつのエフェクトは世界において中国への警戒感が一気に広がっていることです。

 そしてもうひとつのエフェクトは今回の事件で日本国内の中国に対する一般世論の雰囲気が一変したことです。

 世論が一気に「右傾化」し始めています。

 尖閣諸島自衛隊常駐論から自前の核保有論まで、ネットやメディアでは真剣に議論され始めています。

 あくまで議論はいいでしょう。

 議論そのものが対中国抑止効果があると思われるからです。

 日本が右傾化して軍備強化をすることは中国自身もまた韓国等の周辺各国もそして同盟国アメリカにしても、誰も望んではいません。

 日本で対中国軍備強化が熱く語られ始めること自体は、結果的に中国の行動を自制させ、周辺国やアメリカの中国への抑制行動を促す効果があるからです。

 しかし冷静さは失わないでほしいです。

 尖閣諸島自衛隊常駐論はまだしも自前の核保有論までエスカレートすると、現在日本に同情的な国際世論も一変してしまいかねません。

 我々日本人も外交に強くなりましょう。

 対中国対抗策を大いに議論を進めましょう。

 しかしあくまで冷静に。



(木走まさみず)