木走日記

場末の時事評論

軍強化のプライオリティを完全に間違えている危険な北朝鮮

●経済疲弊の中での先軍政治を継承しようとしている北朝鮮の狂気

 29日付け産経新聞記事から。

【ジョンウン大将】事実上、後継者に 党中央委と中央軍事委副委員長に選出
2010.9.29 06:22

 【ソウル支局】朝鮮中央通信は28日付で、北朝鮮金正日総書記の三男、ジョンウン氏(28)が、同日開かれた朝鮮労働党代表者会で、党中央委員と中央軍事委員会副委員長に選出されたと報じた。
 中央軍事委副委員長はジョンウン氏のために新設されたポスト。代表者会に先立ち、ジョンウン氏は人民軍大将の称号を与えられている。党指導部入りしたことで、ジョンウン氏が金総書記の後継者であることが事実上、決まった。これによって北朝鮮は、故金日成主席、金総書記からジョンウン氏まで3代で世襲されるという異例の統治体制となる。
 大将の称号に続いての党指導部入りで、ジョンウン氏の党と軍に対する権力掌握の環境が整ったことになる。
 ジョンウン氏は、母親が2004年に死去したとされる高英姫夫人で、1998年から2000年までスイス・ベルンの公立中学に在籍していたとされているが、軍や党での活動実績や私生活は謎に包まれている。

http://sankei.jp.msn.com/world/korea/100929/kor1009290624003-n1.htm

 うむ、金正日総書記の三男、キムジョンウン人民軍「大将」が新設の中央軍事委員会副委員長に選出されたそうであります。

 朝鮮労働党代表者会直前に人民軍大将に大抜擢された28才の青年が、今度は中央軍事委員会副委員長という人民軍NO2のポジションを与えられたことで、将軍様後継として晴れてお墨付きのポジションを朝鮮労働党から授かったわけです。

 これで金日成より三代続く権力委譲は間違いなく、21世紀の今日「人民民主主義」とはほど遠いあたかも金王朝のような世襲が現実化したわけです。

 労働党幹部は親族で固めまさに前時代の王朝さながら金一族に支配される北朝鮮なのであります。

 北朝鮮らしいのは、ポジションを与える直前にまず「人民軍大将」という階級を与えていることであります、これはなによりも軍事を優先するという北朝鮮独特の「先軍政治」なるものもこの先も継承されるということを意味しています。

 2300万の人民には今日をしのぐ食糧供給もままならず餓死者を出しているというのに、「先軍政治」のもと国家予算の6割を軍隊と警察にあて恐怖政治による人民支配を続けているのであります。

 この20年の金正日体制の最大の失策は、経済的には盟主中国のすすめる市場開放にかたくなに応じず「主体思想」と「先軍政治」の旗のもと、殻に閉じこもるように鎖国化し北朝鮮経済をガタガタに疲弊させたことです。

 もっとも中国に促されるまま市場開放などしたならば。恐怖政治で支えられてきた金王朝は「人民革命」による体制崩壊を招いていたことでしょう、名ばかりの人民革命政権が怒れる人民の「革命」によって倒される、かつてのルーマニアのチャウセスクような末路がまっていたことでしょう。

 経済疲弊の中での先軍政治の継承とは狂気の沙汰です。

 キムジョンウン人民軍「大将」もこの体制を継承するとなれば、本当に愚かなことで、うかばれないのは窮乏に喘ぐ人民達であります。

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●ライン・スタッフ理論

 私は本業で経営コンサルをお手伝いしていますが、昨今の不況です、赤字体質を早急に改善して財務強化したいというお客様企業の相談が増えています。

 組織論にラインとスタッフ(line and staff)という考え方があります。

 元々は軍隊の用語でしたが、会社の組織論にも最近使われています。

 おおまかに言えば、利益(プロフィット)を生み出す部門をライン部門、利益を生み出さないノンプロフィット部門をスタッフ部門と呼びます。

 製造工場でいえば、まさに工場の製造ラインを動かす工員達がライン部門であり、給与計算や庶務、人事といった直接利益に関わるのではなくどちらかといえばライン部門をサポートするのがスタッフ部門であります。

 門を守る守衛さんや食堂の職員もスタッフですね。

 スタッフ部門にも新商品開発など将来の利益に繋がる大切な分野もありますし、会社によっては会計部門をライン部門に組み込んでいる業態もありますが、とにかく利益をもたらす部門をライン、そのラインをサポートするのがスタッフというわけです。

 で、赤字体質の会社がまずやるべきは黒字の頃と同じ陣容のスタッフ部門の合理化から始めるべきです。

 スタッフ部門は一円の利益も生み出しませんから、そこを徹底的にプライオリティを付けて切っていきます。

 単純に言えば私の最近のコンサル内容は、スタッフ部門の合理化提案、まず最初はこれだけです。

 何の役にも立たない先代の会長などがいる中小企業が多いのですが、そういう人ほど高額の役員報酬をもらっていたりしますが、このあたり同族経営が主流の中小企業が自ら手を付けることは非常に難しいですよね、赤の他人の私はそれが仕事ですから容赦なく無駄を省くことを提案できます、べつにうらまれるわけでもないです(苦笑)。

 最低必要な陣容にまでスタッフ部門を切りつめてから、初めてライン部門に手を付けます。

 現状の売り上げ規模に見合う適正な陣容に合理化します。

 黒字の伸びゆく会社はライン部門を増員し、売り上げを伸ばしたらスタッフ部門の増員が初めて可能になるように、赤字に苦しんでいる会社はその逆にまず無駄なスタッフ部門を合理化し財務体質を強化、少しでも体力を回復した上でその後でライン部門を合理化する手順を踏むのが普通です。

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北朝鮮は恐怖政治も核開発も止めれない

 北朝鮮が真に「先軍」の目的、つまり強力な軍隊を持ちたいならば、プライオリティを完全に間違えています。

 強力な軍隊を持つ一番確実なそして歴史的王道は経済の繁栄であります。

 強力な経済の繁栄あればこそ初めて強力な軍隊を維持できるのです。

 ラインとスタッフの考え方は国家にも当てはまります。

 国家にとって納税者(会社も含みます)国民がライン部門、納税者国民をサポートする行政がスタッフ部門であります。

 国家の利益を生むのはラインである国民です、ラインが利益を生み出しやすいように各種のサポートをするのがスタッフである行政です。

 行政には、教育や医療、消防や警察など治安維持といったものがありますが、これらは国に直接利益をもたらすことはありません。

 スタッフである行政の分野で一番特殊なのが軍隊です。

 軍隊自体は国に直接利益をもたらすことはありませんが、消防・警察と同様ラインを守る役目を持っているわけです。

 国家がその行政を充実させたいならば当然利益をもたらすラインつまり国民を活気づけることが先決になります。

 十分な利益を得て初めてスタッフ部門を充実させることが可能だからです。

 軍隊も同様、北朝鮮のようにライン(人民)を疲弊させながらスタッフ(軍隊)を肥大化させるなど、組織論で言えばまさに恐怖政治体制でもなければこのような馬鹿げた組織が維持できるはずはありません。

 このラインスタッフ理論による考察を無視して軍備を強化できる唯一と言える方法が、まさに北朝鮮が手をつけた核兵器開発だと言えましょう。

 脆弱なライン(経済)でも核開発は可能でありそれはスタッフ(軍備)を大幅に強化する効果を持つわけです。

 この先6者会議をいくら開いても北朝鮮は核開発を止めることはないでしょう、よほどの経済改革が成功しないかぎり、現体制を維持するには他の方法がないと思われるからです。

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 経済疲弊の中での先軍政治を三男に継承しようとしている北朝鮮であります。

 これでは恐怖政治も核開発も止められないことでしょう。

 彼らがプライオリティを完全に間違えているのは、北朝鮮の国力を弱体化させていますので、日本にとって安全保障面では幸いな面もあります。

 ただそれにより、核兵器開発に邁進するしかないこと、国情が極めて不安定であること、いつ暴走するかわからないこと、きわめて危険な国で有り続けることでしょう。

 日本は、三男の時代となっても北朝鮮への警戒を怠っては決していけません。



(木走まさみず)