木走日記

場末の時事評論

この国を弱体化しかねない自民党の「国土強靱化計画」

 20日付け東京新聞記事から。

首都高50年 老朽化深刻 ひび割れあちこちに

 東京を中心に張り巡らされた首都高速道路が二十日、開通から五十年を迎えた。昭和の経済成長の一翼を担った大動脈はいま、深刻な老朽化に直面しており、大規模改修や建て替えに向けた議論が活発になっている。一部路線の地下移設案も浮上するが、巨額の費用の財源にめどは立たず、将来像は定まっていない。

(後略)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012122002000099.html

 うむ、開通から50年を迎えた首都高速道路が深刻な老朽化に直面していることを報じているのですが、記事によれば「完成から四十年以上たった区間は三割に上り、橋げたや橋脚などあちこちに損傷がみられる」、「二〇〇九年時点で九万七千カ所の補修が必要で、〇二年の三倍近くに増えた」という深刻な事態なのであります。

 記事は、杉山雅洋早稲田大名誉教授(交通経済学)の「維持更新をどう進めるかは、首都高にとどまらない全国共通の深刻な問題だ」という発言で結ばれています。

 中央自動車道笹子トンネル事故を受けて全国的規模で「インフラの老朽化」が注目されているわけですが、『平成21年度国土交通白書』によれば、建設後50年以上経過する社会資本の割合は今後2029年度までに急速に増加していきます。

■表1:建設後50年以上経過する社会資本の割合

http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h21/hakusho/h22/index.html

 表に示すとおり老朽化するインフラは道路だけではありません、河川管理施設、下水道、港湾岸壁など多岐に渡り今後老朽化が進行するわけです。

 これらインフラ設備には長寿命化・老朽化対策が施す必要があるのですが、しかしながら現状ですら老朽化対策の進捗率は大きく遅れています。 

■表2:施設ごとの長寿命化・老朽化対策の進捗率

http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h21/hakusho/h22/index.html

 『平成21年度国土交通白書』によれば、地方公共団体によっては、資金、技術力、人材の不足、あるいはそれらの複合要因により、インフラの点検すら進んでいないところもあると指摘しています。

 国土交通省の試算によればこのままでは2037年には新規のインフラを作る予算は枯渇しそれどころか維持管理・更新を放棄せざるを得ない設備が発生してしまいます。

■表3:維持管理・更新費の推計(従来通りの維持管理・更新をした場合)

 国土交通省所管の社会資本を対象に、過去の投資実績等を基に今後の維持管理・更新費を推計したものである。今後の投資可能総額の伸びが2010年度以降対前年度比±0%で、維持管理・更新に関して今まで通りの対応をした場合は、維持管理・更新費が投資総額に占める割合は2010年度時点で約50%であるが、2037年度時点で投資可能総額を上回る。2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費は約190兆円と推計され、そのうち更新できないストック量が約30兆円と試算される。
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h21/hakusho/h22/index.html

 極めて深刻な状況であります。

 少子高齢化を向え、過疎化の進む限界集落などのインフラから維持管理・更新が放棄され出すことでしょう、どのインフラ設備を生き残させるか、政治的に大変困難な「選択と集中」の決断が迫られることでしょう。

 さてこのようなときに自民党は「国土強靱化計画」を掲げ「10年で200兆円」の予算を投じて日本のインフラを新たに整備するという公約を実行しようとしています。

国土強靱化基本法案 概要
〜 長期間にわたって持続可能な国家機能・日本社会の構築を図るために 〜

3 国土強靱化に関する基本的施策

1) 東日本大震災からの復興の推進
2) 大規模災害発生時の円滑・迅速な避難・救援の確保(避難路・避難施設・緊急輸送道路整備)
3) 大規模災害に対し強靱な社会基盤の整備等(建築物耐震化、密集市街地対策、国家機能代替性確保)
4) 大規模災害発生時の保健医療・福祉の確保(救急医療体制整備)
5) 大規模災害発生時のエネルギーの安定的供給の確保(自然エネルギー利用促進、原発安全確保)
6) 大規模災害発生時の情報通信の確保(多様な通信手段確保、行政機関の業務継続用情報システムの整備)
7) 大規模災害発生時の物資等の供給の確保(危険分散のための工場等移転の支援)
8) 地域間交流・連携の促進(全国的高速交通網の構築、日本海国土軸・太平洋国土軸等の相互連携)
9) 我が国全体の経済力維持・向上(国際競争力強化のための社会資本整備、アジアとの貿易・交流・連携)
10) 農山漁村農林水産業の振興
11) 離島の保全等(海岸等の保全、周辺海域の警備強化、住民の生活基盤の整備)
12) 地域共同体の維持・活性化(隣保協同の精神に基づく自発的防災活動に対する支援)
地方公共団体の施策→ 上記国の施策を勘案し、区域の諸条件に応じた施策を実施

http://www.nikai.jp/library01/kyoujinka/seisaku-118.pdf

 気になるのは、「緊急輸送道路整備」や「全国的高速交通網の構築」など新規にインフラを増設する提案が並んでいることです。

 これから老朽化が一気に進行しそのメンテナンス予算の目処が立っていないインフラ設備が増加しているこの深刻な状況で、将来新たにメンテナンス費用が発生するような新規インフラをこのタイミングで増やすことはあってはなりません。

 自民党政権は、年金、社会保障など、将来設計の出鱈目な見通しのない制度をこれまでもたくさんこさえてこの国に膨大な負債を負わせてきました、

 新規インフラは極力絞り込み、現状インフラのメンテナンスに予算を厚くすべきではないでしょうか。

 同じ過ちを繰り返さないでほしいと願います。

 このままの「国土強靱化計画」はこの国を弱体化しかねません。



(木走まさみず)