木走日記

場末の時事評論

検証!道路特定財源と暫定税率(2)〜増殖する行政コストと世界に前例のない官僚機構の肥大化

 このエントリーは以下のシリーズの続きです。

■[道路財源]検証!道路特定財源暫定税率(1)〜すべては「ワトキンス・レポート」から始まった
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20080324/1206348085

●はじめに

 前回第一回のエントリーでは、『すべては「ワトキンス・レポート」から始まった』と題して、「道路特定財源暫定税率」のその歴史を紐解き、そもそもこの国で道路建設財源が一般財源から切り離された歴史的経緯をまとめてみました。

 1956(昭和31)年8月8日に提出された「ワトキンス・レポート」は、その冒頭で当時の日本の道路事情を「日本の道路は信じがたい程に悪い。 工業国にして、これ程完全にその道路網を無視してきた国は、日本の他にない。」と痛烈に批判、その上で日本の道路行政のその後に大きく影響を与える主に3点の基本スキームを示しました。

1 日本において、近代的道路をつくる補助的財政手段として有料制の利用は経済的見地からも望ましいし、また、これが必要とされる高価な高速道路を早急に達成する唯一の実際的方法である。

2 ガソリン税又は自動車物品税を道路整備の目的税とし、一般の道路整備に半分、残りを高速道路の高い工費と料金収入との間のギャップを埋めるために充てるべきである。

3 現在以上に大きな責任と権限を(中央)政府に与えるように、日本の道路行政を改革すべきである。

 ここまで道路網を無視してきたこの国において、「近代的道路をつくる補助的財政手段」としては、「有料制の利用」が「高価な高速道路を早急に達成する唯一の実際的方法」であり、また、「ガソリン税又は自動車物品税を道路整備の目的税とし」、「一般の道路整備に半分、残りを高速道路の高い工費と料金収入との間のギャップを埋めるために充てる」、そのためには「大きな責任と権限を(中央)政府」に集中させるべきと勧告したのです。

 その後のこの国の道路行政は、この「ワトキンス・レポート」の勧告に従うように、法整備を進め、道路特定財源を拡充していき、中央政府建設省(現国交省)に大きな責任と権限を集中させてきました。

 また30年以上前の不況による財源対策として2年間の暫定措置として設定された、本則税率(本来の税率)のおよそ2倍の暫定税率が今日まで維持されてきました。

 結果、今日、この道路特定財源のあり方と暫定税率廃止問題が急浮上してきたことにより、旧態依然としたこのような中央集権的やり方が「制度疲労」をきたしていることが、次々に発覚する国交省ならびに天下り先独立法人による無駄遣いなどの事実によって、国民の前に明らかになりました。

 今回は、日本の道路行政がいかに抑制の効かない形でその行政コストを肥大化してきたか、具体的数字を検証していきましょう。

 題して『増殖する行政コストと世界に前例のない官僚機構の肥大化』であります。



●道路財源の推移を徹底検証しておく

 第1次道路整備五ヵ年計画が実施された1954(昭和29)年以降、この国の道路にはどのくらいの税金が投入されてきたのでしょうか、具体的財源の推移を検証しておきましょう。

 ここに国交省の公式資料があります。

財源構成の推移

年度 国費特定財源 国費一般財源 国費計 地方費特定財源 地方費一般財源 地方費計(単位億円)
昭和29 206 14 221 31 338 369
30 260 2 261 77 266 343
31 343 △3 340 103 284 387
32 504 38 542 170 341 511
33 567 69 636 216 466 682
34 803 88 891 284 485 770
35 964 28 992 361 567 928
36 1,399 103 1,503 520 797 1,317
37 1,746 138 1,884 635 1,020 1,655
38 1,918 372 2,290 755 1,312 2,067
39 2,325 447 2,772 989 1,451 2,440
40 2,528 546 3,074 1,115 1,637 2,751
41 2,806 838 3,644 1,332 2,026 3,358
42 3,379 839 4,218 1,572 2,350 3,922
43 3,907 494 4,401 2,261 2,472 4,733
44 4,411 614 5,024 2,853 2,988 5,841
45 5,189 712 5,901 3,230 4,266 7,496
46 6,025 1,590 7,615 3,530 5,715 9,246
47 6,956 3,056 10,012 4,262 6,788 11,051
48 7,591 2,886 10,477 4,747 7,266 12,013
49 8,717 1,709 10,425 5,568 6,953 12,521
50 10,004 410 10,413 6,053 6,286 12,339
51 11,490 49 11,539 7,422 7,785 15,207
52 14,544 243 14,787 8,318 11,081 19,399
53 16,287 1,470 17,757 9,376 13,474 22,850
54 17,743 1,886 19,629 11,300 13,549 24,849
55 18,683 697 19,379 11,375 14,874 26,249
56 18,795 306 19,101 11,687 15,666 27,352
57 18,992 9 19,001 11,993 16,427 28,420
58 19,021 114 19,136 12,962 16,233 29,195
59 19,119 66 19,185 13,054 17,273 30,327
60 20,966 49 21,014 13,444 20,628 34,072
61 21,750 20 21,771 14,280 22,423 36,703
62 24,018 1,402 25,420 15,661 26,921 42,582
63 22,536 3,460 25,996 17,061 28,482 45,543
平成元 23,696 2,930 26,626 18,997 32,087 51,084
2 25,639 1,583 27,222 20,325 35,575 55,900
3 27,124 1,687 28,811 20,992 38,140 59,131
4 28,815 5,301 34,116 21,060 48,948 70,008
5 29,218 11,289 40,507 21,567 55,329 76,896
6 30,231 3,006 33,237 23,976 45,580 69,556
7 30,658 12,815 43,472 24,813 53,488 78,300
8 32,333 4,908 37,241 25,684 49,374 75,058
9 34,302 1,972 36,274 24,484 47,129 71,613
10 34,153 15,881 50,035 23,496 54,877 78,373
11 34,452 9,841 44,293 23,079 45,787 68,866
12 35,159 7,693 42,852 22,647 42,657 65,305
13 36,172 6,676 42,848 22,372 39,204 61,576
14 36,073 3,135 39,208 21,785 35,955 57,740
15 34,762 1,172 35,934 22,175 28,885 51,060
16 34,943 1,653 36,596 22,658 24,069 46,726
17 36,234 1,556 37,790 22,420 21,974 44,394
18 36,033 362 36,395 22,321 18,390 40,711


(注) 1. 国費は17年度までは最終実施計画、18年度は当初予算
2. 地方費は、特定財源のうち17年度までは譲与実績又は決算。
18年度は地方財政計画による見込み値
一般財源は16年度まで決算、17年度以降は推計値
3. 特定財源には貸付金償還金等を含む
4. 四捨五入の関係で、合計が一致しないところがある

http://www.mlit.go.jp/road/zaigen/data3.html

 この昭和29年から平成18年までの53年間の道路予算の推移に基づき、見やすいように国・地方の財源をまとめて、特定財源一般財源をまとめてみます。

年度 特定財源 一般財源 合計(単位億円) トピック
昭和29 237 350 587 道路整備五ヵ年計画始まる
30 333 268 601
31 446 281 727 「ワトキンス・レポート」提出
32 674 379 1,053 「国土開発縦貫自動車道建設法」公布
33 783 535 1,318
34 1,087 372 1,459
35 1,325 595 1,920
36 1,919 900 2,819
37 2,381 1,158 3,539
38 2,673 1,684 4,357
39 3,314 1,898 5,212
40 3,643 2,183 5,826
41 4,138 2,864 7,002 石油ガス税創設
42 4,951 3,189 8,140
43 6,168 2,966 9,134 自動車取得税創設
44 7,264 3,602 10,866
45 8,419 4,978 13,397
46 9,555 5,120 14,675 自動車重量税創設
47 11,218 9,844 21,062
48 12,338 10,152 22,490
49 14,285 8,662 22,947 本則税率(本来の税率)のおよそ2倍の暫定税率を適用
50 16,057 6,696 22,753
51 18,912 7,834 26,746
52 22,862 11,324 34,186
53 25,663 14,944 40,607
54 29,043 15,435 44,478
55 30,058 15,571 45,629
56 30,482 15,972 46,454
57 30,985 16,436 47,421
58 31,983 16,347 48,330
59 32,173 13,120 45,293
60 34,410 20,677 55,087
61 36,030 22,443 58,473 この年の後半よりバブル景気始まる
62 39,679 28,323 68,002
63 39,597 31,942 71,539
平成元 42,693 35,017 77,710
2 45,964 37,158 83,122
3 48,116 39,827 87,943 年初(2月)にバブルはじける(以降経済は長期低迷)
4 49,875 54,249 104,124
5 50,785 66,618 117,403
6 54,207 48,586 102,793
7 55,471 66,303 121,774
8 58,017 54,282 112,299
9 58,786 49,101 107,887
10 57,649 70,758 128,407
11 57,531 55,628 113,159
12 57,806 50,350 108,156
13 58,544 45,880 104,424
14 57,858 39,090 96,948
15 56,937 30,057 86,994
16 57,601 25,722 83,323
17 58,654 23,530 82,184
18 58,354 18,752 77,106

 まず特定財源の推移に注目してみましょう。

 平成9年のピーク値、5兆8,786億に至るまで、昭和29年から毎年増額されてきています。

 その間、対前年度比で減額になったのは、昭和63年だけであり額もわずか82億減であります。

 平成9年以降は、5兆8千億前後で安定的に推移して現在に至っております。

 一方の一般財源の推移ですが、ほぼ右肩上がりに増加しそのご安定した特定財源の推移とは対称的に、ときの景気や政策によりかなり乱高下をしていることが見て取れます。

 例えば、平成3年にバブルが崩壊したときの一般財源は3兆9,827億ですが、翌年の4年には5兆4,249億と1兆4000億も跳ね上がり、その後のいわゆる「空白の10年」において、ピークの平成10年の7兆0,758億まで、景気を下支えするために、特定財源を上回る予算が一般財源から道路建設に投入されていることがわかります。

 そして先ほどの表と照らし合わせてみれば、例えばピークの平成10年の一般財源7兆0,758億のうち、実に5兆4,877億が地方財源から捻出されていることが理解できます。

 この「失われた10年」の期間に、国策としていかに地方で無理をして道路を作り続けたか、この推移を検証しただけでも、極めて視覚的によく、理解できます。

 その当時の借金が地方自治体財政を極度に疲弊させてしまい、その後、地方は緊縮財政を余儀なくされ、平成10年度以降、一般財源は年々減少、平成18年には1兆8,752億にまで押さえられていることがわかります。

 ・・・

 第1次道路整備五ヵ年計画が実施された1954(昭和29)年以降、この国の道路には53年間で実に261兆もの膨大な税金が投入されてきました。

 その間、この国の道路事情は高速道路網の整備など確実にインフラ整備がなされてきましたが、安定的な道路特定財源の中央集権的予算集中は、世界に前例のない官僚機構の肥大化、膨大な数の天下り先法人を生むことになりました。



国交省直轄公益法人588の設立時期を徹底検証しておく〜世界に前例のない官僚機構の肥大化

 地方に移譲される一般財源は、当然ながら議会の審査を経たりして比較的透明に使用されてきましたが、特定財源のほうは、本則の2倍近い暫定税率のまま、中央政府建設省(現国交省)に大きな責任と権限が集中、事実上国交省の独占的予算として使われてきました。

 倍々ゲームで安定的に供給される特定財源という税金を国交省は湯水のように消費していきます、そこには国策として道路を作り続けるわけですから民間のような収支の計算など全く不要でした、無駄も当然放置されていきます、業者との契約も予算がだぶつくのを防ぐためにほぼ随意契約が黙認されていきます。

 結果、この国では1m当たりの道路建設費用が世界で一番コスト高となってしまいました、また膨大な数の国交省管轄の財団法人・社団法人が国交省の「下請け」業者として乱立してしまいました。

 現在国交省管轄の財団法人・社団法人の数は実に1153団体を数えます。

 ここに総務省公益法人データベースが閲覧できます。

総務省 公益法人データベース
http://www.koeki-data.soumu.go.jp/

 公益法人データベースで調べてみると、現在国交省管轄の1153団体ですが、このうち国交省本省直轄の法人は588団体を数えることがわかります。

 さてこの588の財団法人・社団法人ですが、海運関係なども含まれていて全ての法人が道路関係ではないことは留意いただきたいですが、その多くが言うまでもなく国交省OB天下り先なのですが、50年以上安定的に供給され続けている道路特定財源という国交省の独占的予算により、膨張してきたいわゆる「道路法人」であることは、データベースで少し調べていただければすぐに明らかになると思います。

 ここでこの588の国交省系法人の設立年度に注目してみましょう。

 公益法人データベースに基づいて設立年度5年幅別に時系列で国交省系法人の設立時期をカウントしてみました。

時期 設立法人数 累計
明治期 3 3
大正期 5 8
昭和1〜20(戦前・戦中) 19 27
昭和21〜25 23 50
昭和26〜30 39 89
昭和31〜35 27 116
昭和36〜40 72 188
昭和41〜45 59 247
昭和46〜50 69 316
昭和51〜55 59 375
昭和56〜60 50 425
昭和61〜平成2 78 503
平成3〜7 60 563
平成8〜12 19 582
平成13〜17 6 588
平成18〜 0 588

 注目したいのは、昭和36年から平成7年までの35年間、つまり420ヶ月の間に、447団体、月に1団体以上という驚異的ペースで国交省系法人が作られていることです。

 ピークはやはりバブル期に当たる「昭和61〜平成2」で、この60ヶ月の間に78の団体が設立されています。

 この78の団体の中で、主立った「道路」法人だけを上げてみても次のとおりであります。

建築・設備維持保全推進協会
建築設備技術者協会
公共用地補償機構
コンクリートパイル建設技術協会
首都高速道路補償センター
住宅都市工学研究所
先端建設技術センター
全国建築コンクリートブロック工業会
全国コンクリート圧送事業団体連合会
国鉄筋工事業協会
都市づくりパブリックデザインセンター
都市文化振興財団
都市緑化技術開発機構
土地情報センター
道路管理センター
道路空間高度化機構
道路保全技術センター
日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団
日本建築構造技術者協会
日本公園施設業協会
日本鋼構造協会
日本鋼索交通協会
日本支承協会
日本地図調製業協会
日本添乗サービス協会
日本デジタル道路地図協会
阪神高速道路補償センター
阪神有料道路サービス協会
東日本不動産流通機構
北海道地域総合振興機構
民間都市開発推進機構
雪センター
リバーフロント整備センター

 これらの「道路」法人の多くは、国交省OBの天下り先となっており、また少なからずの道路特定財源が今現在も使われているわけです。

 ・・・



●まとめ

 本当の政治とは、国民を幸せにするためには、税金を何に、どのように使うかを考え、配分を決めることであります。

 行政コストには、常に膨張圧力が働いていますから、本来政治は、この膨張圧力を常に抑止していく必要があります。

 そして抑止する働きは、国家理念にあります。

 戦後の日本の国防費が好例ですが、国家理念が、国防費を抑止し、戦前のような形で財政が逼迫するのを防いできたのはよき好例でありましょう。

 しかるに、残念ながらこの国の道路行政は、過去50年、国家理念としての膨張圧力を抑止する装置は機能してきませんでした。

 というか膨張圧力を抑止する装置自体、国民からは極めて不透明な道路特定財源という特別会計の中では、存在しなかったのであります。

 ブレーキのきかない行政コストの無分別な肥大化がまねかれました。

 経済合理性を無視した特別扱いの税制で担保された安定的財源、道路特定財源が50年以上も供給され続けた結果、そこには恐ろしいほどの非効率な官僚機構とその甘い汁に群がる道路法人達がピラミッドを構成し、無駄な行政コストを無尽蔵に作り出し、結果この国の道路コストを世界一高額に押し上げてしまっています。

 既得権益化すると自分の金でないのに、自分の金のように思えてきます。

 反面、自分の金ではないから、自分の懐が痛むわけでもなく、損失が出てもその人個人が損をするわけでもない、そうなると予算を使い切る一方で損失には、鈍感になるのです。

 ・・・

 53年間で261兆もの税金が投入されてきた我が国の道路建設でありますが、現在、その旧態依然の中央集権的スキームそのものが「制度疲労」を起こしています。

 国交省並びに関連法人による一連の報道で明るみになってきた民間では考えられない税金の無駄遣いならびになれ合い随意契約マッサージチェアやカラオケセットに一泊9万円の丸抱え職員旅行、ちょっとした調査報告になれあい随意契約で1億円という法外な高額予算、等々、すべては上記で検証したとおり50年間にも及ぶ安定的な道路特定財源国交省独占で使われてきた結果なのであります。

 旧態依然の中央集権的スキームそのものが、世界に前例のない官僚機構の肥大化を招いたのです。

 ・・・



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■[道路財源]検証!道路特定財源暫定税率(1)〜すべては「ワトキンス・レポート」から始まった
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20080324/1206348085