木走日記

場末の時事評論

過去8年間の無党派層の動向徹底検証

 今回は選挙結果に大きな影響を与えてきた無党派層について過去の統計を解析して徹底検証しておきたいと思います。

 ※当エントリーは2012年12月16日13:00にエントリーしています、開票結果判明前に起こしたものであることを留意ください。

 今回の検証に用いるデータは過去の時事通信社世論調査を用います。

 初めに時事通信社世論調査の特徴を示しておきます。

●RDD方式ではなく面接法を採用する時事通信社世論調査の特徴

 時事通信社内閣支持率を調査開始したのは1960年7月であります、以来50年間、毎月歴代23の内閣の支持率と、そのときの政党支持率を調査して翌月に公表してきました。

 時事通信社から委託され実際世論調査を実施している(社)中央調査社のサイトから。

「時事世論調査」の概要

(社)中央調査社は、1960年(昭和35年)以来、毎月、時事通信社が行う全国世論調査(「時事世論調査」)を実施しております。調査結果につきましては、新聞社をはじめとした報道機関に配信するとともに、時事通信社のホームページにも掲載いたします。

■ 調査の目的
 政治のことや暮らし向き、話題になっている出来事などについて、お考えをお聞かせいただきます。

■ 調査をお願いする方
 全国20歳以上の男女個人2,000人

■ 調査をお願いする方の選び方
 調査をお願いする方々は、国民全体の意見が反映されるように、以下の統計的手法を使って選ばせていただきました。まず、全国の市区町村の中から157か所を選びます。次に、そこにお住まいの方を、選挙人名簿または住民基本台帳の閲覧用リストから無作為に選びます。なお、閲覧につきましては、法律で定められている手続きを経て、各選挙管理委員会または各自治体からの許可を得て行っております。

■ 調査の進め方
 弊社の調査員が、対象者の皆様を訪問し、その場でご意見をおうかがいする方法(面接法)で行います。

■ 調査の時期
 2010年4月〜2011年3月  毎月の初旬〜中旬

■ 調査の謝礼
 図書カード(500円分)

(後略)

 時事通信社世論調査の特徴はその調査方式にあります、NHKや朝日新聞など今日マスメディアの多くが、経費や時間の節約もあって電話によるRDD方式を採用しているのに対して、「弊社の調査員が、対象者の皆様を訪問し、その場でご意見をおうかがいする方法(面接法)」を採用していることです。

 大手新聞社などが採用している電話によるRDD方式(Random Digit Dialing、コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて電話をかけ、応答した相手に質問を行なう)では、短時間で多くの人々の調査が行えること、電話だけなのでマニュアルどおり調査を実施できるのでアルバイトで可能であり経費が軽減できることなどメリットがありますが、固定電話を持っていない人が非対象となってしまう点や、電話を掛ける時間帯で対応する層(年齢、性別、職業の有無)に偏りが生じる、細かい地域の偏りを正すのが難しい等のいくつかの問題点があります。

 対して時事通信社の面接法は、「お住まいの方を、選挙人名簿または住民基本台帳の閲覧用リストから無作為に選び」だした上で調査員が、対象者を直接訪問しその場で調査する方法であり、デメリットとしては調査範囲に限界があり、「全国の市区町村の中から157か所を選」ぶ必要がある点、時間と経費(人件費や謝礼(図書カード(500円分))など)が掛かる点などがありますが、メリットとしては住民基本台帳などを基にした事前連絡の上での対面調査なのでRDD方式が抱えている時間などの要素によるサンプリングによる偏りが生じにくい点、謝礼を伴う面接調査なので回答の質が無償の電話調査に比べておおむね丁寧である点などが挙げられます。

 調査方法として統計的にどちらが精度が高いのかはここでは論じませんが、興味深いのは、RDD方式に比べ時事通信社世論調査では政権支持率が低めに現れやすいという傾向があることです。

 この傾向は不支持率に有意な差がないことから、ひとつには匿名の電話方式なら安直に支持を表明するところを、実名の面接方式による調査では支持の意思の表明に慎重になっていることがあると思われます。

 実は政党支持率にもはっきりと同様の傾向が見られます、他社のRDD方式に比べ時事の面接方式では傾向として各政党の支持率は低く、その分「支持政党無し」が高くなる傾向が見て取れます、この点も留意ください。

 ・・・

●過去94ヶ月の全体的動向

 では過去94ヶ月の自民党支持率、民主党支持率、無党派層(支持政党無し)の月別推移を図表にまとましたので見ていきましょう。

■表1:過去94ヶ月の月別政党支持率推移(2005年1月〜2012年10月)

調査時期 自民党 民主党 支持政党無し
2005年 1月 24.4 10.4 55.7
2005年 2月 22.2 10.6 57.5
2005年 3月 22.0 10.3 58.9
2005年 4月 23.0 11.0 57.4
2005年 5月 22.6 09.0 58.7
2005年 6月 21.5 08.1 62.0
2005年 7月 22.9 07.5 58.9
2005年 8月 24.0 10.2 56.4
2005年 9月 31.9 14.8 42.1
2005年10月 29.2 11.4 51.3
2005年11月 30.7 09.1 51.4
2005年12月 31.5 09.7 50.7
2006年 1月 29.7 08.4 52.4
2006年 2月 25.9 08.0 57.0
2006年 3月 26.0 08.8 55.3
2006年 4月 27.0 09.1 55.1
2006年 5月 25.9 10.0 55.2
2006年 6月 24.4 12.1 55.6
2006年 7月 23.9 11.0 57.1
2006年 8月 24.9 10.2 56.3
2006年 9月 27.0 09.2 55.0
2006年10月 29.3 10.8 52.4
2006年11月 26.4 09.2 55.9
2006年12月 25.5 08.1 56.3
2007年 1月 24.2 08.3 60.1
2007年 2月 21.4 09.7 60.4
2007年 3月 21.6 07.8 62.4
2007年 4月 22.8 09.1 59.7
2007年 5月 22.8 09.5 58.3
2007年 6月 19.2 11.0 61.9
2007年 7月 19.7 12.8 59.0
2007年 8月 21.0 19.0 51.4
2007年 9月 20.3 17.1 52.3
2007年10月 23.4 16.2 51.4
2007年11月 23.4 16.3 52.2
2007年12月 22.2 15.9 54.2
2008年 1月 22.9 15.4 53.8
2008年 2月 23.0 15.1 55.9
2008年 3月 21.8 13.6 56.5
2008年 4月 22.9 13.1 56.9
2008年 5月 19.5 15.8 56.4
2008年 6月 20.3 14.5 57.2
2008年 7月 18.1 15.6 57.7
2008年 8月 20.7 15.0 55.8
2008年 9月 20.9 12.8 56.9
2008年10月 23.4 14.7 52.7
2008年11月 23.8 14.3 52.2
2008年12月 18.6 13.4 58.2
2009年 1月 18.7 15.2 56.9
2009年 2月 18.4 16.2 56.5
2009年 3月 20.8 13.9 56.9
2009年 4月 21.4 14.0 57.4
2009年 5月 19.9 14.2 58.5
2009年 6月 18.4 15.5 58.1
2009年 7月 15.1 18.6 55.7
2009年 8月 17.1 18.4 53.0
2009年 9月 16.6 26.3 47.3
2009年10月 17.7 29.4 43.9
2009年11月 15.3 28.4 46.5
2009年12月 15.6 25.0 51.7
2010年 1月 13.1 26.2 52.5
2010年 2月 14.6 22.8 53.0
2010年 3月 15.2 19.3 53.0
2010年 4月 14.2 17.2 57.5
2010年 5月 13.2 17.0 57.7
2010年 6月 13.2 20.0 54.9
2010年 7月 16.2 18.0 52.2
2010年 8月 14.3 20.0 53.5
2010年 9月 15.4 20.6 52.7
2010年10月 14.7 20.0 52.7
2010年11月 16.5 16.2 57.4
2010年12月 17.8 13.8 58.7
2011年 1月 17.2 13.5 58.9
2011年 2月 14.9 11.9 65.4
2011年 3月 15.0 12.5 64.3
2011年 4月 17.6 10.0 62.3
2011年 5月 16.5 10.2 64.0
2011年 6月 14.6 12.8 63.1
2011年 7月 15.0 10.0 67.3
2011年 8月 15.5 10.1 65.6
2011年 9月 13.6 12.4 65.1
2011年10月 15.4 12.1 64.7
2011年11月 12.6 12.8 66.4
2011年12月 13.1 10.1 67.2
2012年 1月 13.3 11.6 67.2
2012年 2月 12.3 10.1 68.2
2012年 3月 11.7 09.2 70.0
2012年 4月 13.4 09.5 67.9
2012年 5月 11.9 09.0 70.1
2012年 6月 13.1 08.1 69.7
2012年 7月 12.5 06.7 71.4
2012年 8月 13.3 06.9 69.3
2012年 9月 12.8 07.4 69.0
2012年10月 16.8 07.3 64.8

■図1:過去94ヶ月の月別政党支持率推移(2005年1月〜2012年10月)

 ご覧の通り、過去8年間の無党派層の動向は大きくは50%台前半から60%台後半へと増加傾向にあることが見て取れます。
 また、自民党支持率はこの8年間で右肩下がりで落ち込んでおり、今年に入っても長期低落傾向が数ヶ月前まで続いていたことが見て取れます。

 一方民主党支持率ですが、2009年9月の選挙をピークに山型が形成されています、最近の支持率下落は政権を取る前より落ち込んでいることがわかります。

 これらの傾向は各政党支持率の年平均を取るとよりはっきり理解できます。

■表2:過去8年間の年別政党支持率推移(2005年〜2012年)

調査時期 自民党 民主党 支持政党無し
2005年 25.5 10.2 55.1
2006年 26.3 09.6 55.3
2007年 21.8 12.7 56.9
2008年 21.3 14.4 55.9
2009年 17.9 19.6 53.5
2010年 14.9 19.3 54.7
2011年 15.1 11.5 64.5
2012年 13.1 08.6 68.8

■図2:過去8年間の年別政党支持率推移(2005年〜2012年)

 今年になって無党派層が70%を越えるまで増加していました、これは「時事世論調査」の52年の歴史の中でも初めての現象です、それだけ国民の政治不信が深化している証左でも有りましょう。

 今回の総選挙のポイントはこの一時7割を越えるまでに増加した無党派層、彼らの投票動向にこれまで以上に左右されることでしょう。

 ・・・



●過去の総選挙前の無党派層の動向

 過去8年間で、2005年と2009年2回総選挙がありました、今回は3度目です。

 そのいづれにも無党派層の動向に興味深い傾向が見られます、ご覧ください。

■図3:総選挙前の無党派層の動向

 選挙半年前ほどからそれまで高かった支持政党無しが急速に落ち込む現象が確認できます。

 2005年の詳細を確認します。

■表3:総選挙前の無党派層の動向(2005年6月〜2005年9月)

調査時期 自民党 民主党 支持政党無し
2005年6月 21.5 08.1 62.0
2005年7月 22.9 07.5 58.9
2005年8月 24.0 10.2 56.4
2005年9月 31.9 14.8 42.1
増減 +10.4 +6.7 -19.9

■図4:総選挙前の無党派層の動向(2005年6月〜2005年9月)

 2005年の総選挙では直近の4ヶ月で無党派層は62.0ポイントから42.1ポイントと19.9ポイントも減少し、そのぶん自民党支持率と民主党支持率が10.4ポイント、6.7ポイント増加しているのがわかります。

 2009年の総選挙の詳細を確認します。

■表4:総選挙前の無党派層の動向(2009年6月〜2009年10月

調査時期 自民党 民主党 支持政党無し
2009年5月 19.9 14.2 58.5
2009年6月 18.4 15.5 58.1
2009年7月 15.1 18.6 55.7
2009年8月 17.1 18.4 53.0
2009年9月 16.6 26.3 47.3
2009年10月 17.7 29.4 43.9
増減 -2.2 +15.2 -14.6

■図5:総選挙前の無党派層の動向(2009年6月〜2009年10月)

 ご覧のとおり、やはり総選挙前半年で無党派層は-14.6%減少し、それがほとんど民主党の支持率急増につながっていることがわかります、この間の支持率増減は自民2.2ポイントダウンに対し、民主は15.2ポイントアップしています。

・・・



●まとめ

 過去二回の総選挙においての無党派層の傾向は、選挙の半年ほど前から無党派層は減少しはじめその間政党支持率を最も高めた政党が総選挙を圧勝するということが続いておきました。

 さてこの傾向は今回どうなるのでしょうか。

 直近六ヶ月の詳細を図表にしました。

■表5:総選挙前の無党派層の動向(2012年7月〜2012年12月)

調査時期 自民党 民主党 支持政党無し
2012年7月 12.5 6.7 71.4
2012年8月 13.3 6.9 69.3
2012年9月 12.8 7.4 69.0
2012年10月 16.8 7.3 64.8
2012年11月 ??? ??? ???
2012年12月 ??? ??? ???

■図6:総選挙前の無党派層の動向(2012年7月〜2012年12月)

 残念ながら現時点で11月と12月の世論調査結果は公開されていません。

 それを踏まえた上で過去二回と比較してみますと、過去に比べて無党派層の割合が異常に高く、同様に自民・民主両党の支持率が異常に低いことが特徴であります。

 過去2回の圧勝ケースでは圧勝した自民・民主の最終支持率は30%を越えました、そのとき無党派層は50%を割って40%台前半まで減少しました。

 今回自民が30%を越えるには10月時点の16.8%から13.2ポイントも支持率を上昇させなければなりません。

 同様に無党派層が50%を割るには10月時点での64.8%から14.8ポイント以上の減少がなければなりません。

 自民党が圧勝するかどうか、無党派層の動向が鍵を握っていることは間違いないでしょう。

 このエントリーが読者の参考になれば幸いです。

 ※選挙結果が判明してかつ11月12月の世論調査結果が公開されたら本検証の続編をエントリーする予定です。 



(木走まさみず)