木走日記

場末の時事評論

民主党はワンイシュー選挙に持ち込め!〜民主党の取るべき3つの選挙戦術

 プチリベラルのナショナリストと意味不明の立ち位置を自称する不肖・木走ですが、自らを穏健保守派と自認しております。

 あまり党派性の強い主張は控えてきましたが、今回は自民は下野すべき、そして健全な保守政党再生のため猛省すべき、との立場をとっております。

 さて、頼りない(失礼)民主党は残りの30余日間どのような戦術で選挙戦を戦うのがベストなのか、私なりに穏健保守の立場から考察してみたいのです。

 当ブログは民主党関係者やコアな民主党支持者もご覧いただいていることは承知しておりますが、お耳触りの描写もあるかもしれませんが、「政権交代」を実現する方法論に徹した場末のブロガーの正直な(少し無礼な?)考えを開陳したいと思います。



●まず現状の世論動向と地方選の投票行動を正しく徹底的に分析しておく

 最新の選挙情勢と世論調査を伝える28日付け産経新聞記事から。

【09衆院選】民主、第一党の勢い 選挙区過半数迫る
2009.7.28 22:54

 8月18日公示・30日投開票の衆院選で、産経新聞社が総支局を通じて序盤情勢を探ったところ、自公政権への逆風は依然強く、民主党が大幅に議席を伸ばし、第一党に躍り出る勢いを見せている。民主党は300選挙区で過半数に迫っており、比例代表でも自民党を上回る見通し。守勢の自民党では、現職閣僚や党幹部も当落線上にあり、危機感が強い。
 ただ、投票日まで1カ月以上あり、流動的な部分は残っている。
 民主党は、4月の名古屋市長選以降の大型地方選挙で6連勝中と各地で勢いが続いている。7月26日投開票の仙台市長選でも、自民党は自主投票に追い込まれ、民主党が支援する候補者が当選している。
 民主党が圧勝した12日投開票の東京都議選結果をもとに衆院選をシミュレーションすると、東京都内の全選挙区の情勢は、与党の選挙協力が成功した場合でも11議席にとどまり、選挙協力がゆるめば、さらに与党が議席を減らす可能性がある。

 FNN(フジニュースネットワーク)が18、19の両日行った世論調査では、衆院選比例代表の投票先でも民主党46・0%、自民党23・7%と、20ポイント以上の差が開いており、比例での民主党優位は揺るいでいない。衆院選後に期待する政権の枠組みでも「民主党中心」が38・7%と、「自民党中心」の14・2%を大きく引き離している。
 自民党細田博之幹事長は目標を「自公で過半数」としており、自民、公明の与党両党で過半数の241議席獲得を目指している。しかし、現状では、かなり微妙な情勢だ。
 民主党は、衆院で第一党となり政権交代を果たすことを勝敗ラインとしている。鳩山由紀夫代表は18日の記者会見で「政権交代が実現できるかどうかが勝敗ライン。一番分かりやすい数字で言えば過半数だ」と述べ、連立政権への参加を見込む社民、国民新両党と合わせた過半数を目標に掲げる。
 ただ、民主党には、鳩山氏の政治資金収支報告書の虚偽記載問題で説明責任が十分果たされていないとの指摘もある。選挙戦で、自民党側が展開するキャンペーン次第では、民主党の勢いに陰りがでる可能性もある。

http://sankei.jp.msn.com/politics/election/090728/elc0907282255022-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/election/090728/elc0907282255022-n2.htm

 この記事によれば、FNN(フジニュースネットワーク)が18、19の両日行った世論調査で、「衆院選比例代表の投票先でも民主党46・0%、自民党23・7%と、20ポイント以上の差が開い」ており、ダブルスコアに近い差がでています。

 ただ一点、気になるのはこの世論調査の調査日が18、19の両日ということで、民主党の例のホテルの大広間を借り切って派手にぶちかましマニフェスト発表の前であることです、いったい民主のあのマニフェスト発表が世論にどのような影響を与えたのかは、この記事の調査結果には反映されていないわけです。

 私はまず民主党マニフェスト発表はその手段と内容が、少しばかり派手すぎてこれは「政権交代」を実現するにはかなりまずいなあと率直に危惧し始めております。

 一言で言えばこたびの民主党マニフェストは必要以上に目立ちすぎたと思っております。

 上述の産経新聞世論調査においても、現段階で民主の支持率はダブルスコアに近い大差で自民を引き離してあるのであり、極論すれば民主党マニフェストが仮に自民党政策とほとんど同じだって、実は、このまま選挙に突入すれば民主党勝利は間違いないところなのであります。

 なぜか。



●今回は有権者は「政策」などより「政党・会派」を重視している〜東京都議選出口調査を分析してみる

 ここに東京都議選出口調査を分析している東京新聞の都議選取材班の極めて興味深い分析記事があります。  

自民支持層も『民主』 都議選出口調査
2009年7月13日

 十二日投開票の東京都議選で、東京新聞は二十六投票所で出口調査を実施、千八十九人の有権者から、投票した政党などについて回答を得た。投票先の政党は民主が51・6%と過半数に達し、自民は23・6%と低迷。続いて共産11・4%、公明8・5%、生活者ネット1・3%の順だった。民主は無党派層のほか、自民支持層からも票を得ており、国政の追い風で、党派を超えた支持が雪崩を打って集まった形だ。 (都議選取材班)
 ◆無 党 派 層
 「支持政党なし」の無党派層は24・2%。このうち53・6%が民主に投票し、自民の17・5%の三倍に達した。前回二〇〇五年の出口調査では、民主の33%に次いで共産が21・4%だったが、今回は共産は14・4%にとどまり、非自民の受け皿として民主に集中した。
 また、無党派層が最も重視した投票基準は「政党・会派」が37・6%で「政策」の26・2%、「人物」の20・9%を大きく上回った。次期衆院選の前哨戦として、過去に例がないほど政党選挙の色合いが濃かった選挙戦の状況が、そのまま反映したといえる。
 全体でも「政党・会派」を重視した人は41・3%に上った。
 ◆自民支持層
 回答者の支持政党は自民28・5%、民主31・9%で、その差は3・4ポイントだった。ところが自民支持と答えた人の約三割にあたる29・4%が、民主に投票。自民へは59%にとどまり、民主を後押しする形となった。その民主は今回、支持層の88・2%を確実に押さえ、対照的な結果となった。
 告示後の今月三〜五日に実施した本紙の世論調査でも、自民は自党支持層の65%程度しか固めておらず、自民離れの現象を最後まで食い止められなかった。
 ◆次期衆院選
 「政権選択」が焦点とされる次期衆院選比例代表の投票予定先についての回答は、民主53・4%、自民22・3%、公明7%、共産6・2%の順。今回都議選の投票行動以上に、民主への傾斜が強かった。
 民主へは無党派層の56・7%が「投票するつもり」としたほか、自民支持層の26・5%、共産支持層の15・3%も投票予定先として民主を選んだ。
 また衆院選比例で民主に投票予定の人のうち、55・8%が都議選で重視した投票基準を「政党・会派」と回答。都議選の結果が、次期衆院選の枠組みに連動していく可能性を際立たせた。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/09togisen/news/CK2009071302000053.html

 注目いただきたいのは、「無党派層が最も重視した投票基準は「政党・会派」が37・6%で「政策」の26・2%、「人物」の20・9%を大きく上回った」事実です。

 さらに「全体でも「政党・会派」を重視した人は41・3%に上った」事実です。

 今回の都議会選で有権者は政策や人物よりも「政党・会派」を投票基準に行動を示したわけです。

 この傾向は来る総選挙でも大きく変化することはないと思えます。

 またこれはまさに「政権交代」をキャッチコピーにした民主党にとって好都合な有権者の行動基準であります。 

 ・・・



●そもそも自民支持だけれども投票は民主に入れた層が3割もいる事実

 東京都議選では民主党が54勝4敗と歴史的大勝をしたわけですが、その勝因を先の東京新聞出口調査で求めるとはっきりします。

 注目いただきたいのは、「回答者の支持政党は自民28・5%、民主31・9%で、その差は3・4ポイント」と大差なかったにも関わらず、「自民支持と答えた人の約三割にあたる29・4%が、民主に投票」し、逆に「民主は今回、支持層の88・2%を確実に押さえ」た事実であります。

 本来の自民支持層の約三割が民主党に投票しており、そしてその行動原理には民主党政策評価したというよりも「政党・会派」名で非自民で当選可能性がある議員という理由で「民主」と書いただけ、ということが推測できます。

 このあたりを政党支持を縦軸に実際の投票行動を横軸にして表してみましょう。

                (自民支持)
                   ↑
                   |
             A層    |    B層
                   |
                   |
民主党へ投票)←−−−−−+−−−−−→(自民党へ投票)
                   |
                   |
             C層    |    D層
                   |
                   ↓
                (民主支持)

 この図では、B層がそもそも自民支持で投票も自民に入れたコアな自民支持層となります。

 対極のC層はそもそも民主支持で投票も民主に入れたコアな民主支持層となります。

 で、今回の都議選の「民主大勝」の鍵をにぎったのはA層、つまりそもそも自民支持だけれども投票は民主に入れた層であり、東京新聞出口調査によれば「約三割にあたる29・4%」にのぼったわけです。

 民主党は今回の風を保つためには、何があっても自民党に投票するであろうガチの自民支持層であるB層や、逆に絶対に民主党に投票するはずのガチの民主支持層であるC層よりも、無党派層も含めてですが、自民から民主に変節(失礼)したこのA層こそををつなぎとめることがとても大切であることがわかります。

 何かしかの理由でA層が保守回帰してしまい総選挙で棄権や自民党に投票することになれば、「政権交代」の風は止んでしまうでことでしょう。

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●「Change」(変わろう)、そして「Yes,We Can」(私たちにはできる)で十分

 私が民主党マニフェストが目立ちすぎたことが有権者の選挙行動に悪影響を及ぼすのではないかと危惧している理由は2つです。

 今回、多くの有権者は「政策」よりも「政党」で投票しようとしています、政策論も重要なのは認めますが、今民主党に吹いている風の原動力は民主党の「政策」ではないことを、民主党は強く自覚すべきです。

 自民相手に「政策論」に持ち込むのは残念ながら手法としてはよろしくないと思います。

 さらに、鍵を握るA層(自民支持だったが今回は民主党に投票しようとしている層)をつなぎとめるためには、彼らの多くがもともとの穏健保守派であることを十分に考慮すべきだからです。

 彼らの多くはいま政策ではなく「政党」を重視して民主に投じようとしてくれています。

 しかし民主党が派手に自民党との政策の違いをぶちかますとすると、彼らの投票行動に悪影響が懸念されます、やっぱ自民のほうが安心かな、ととまどうわけです。

 コアな民主党支持者の中には民主党マニフェストが右傾化し始めていると警鐘を鳴らしている人もいるようですが、保守派の支持も維持するならば、いくつかの政策を現実路線に軌道修正するのは、「政権交代」するためには必要な要素だと考えます。

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 そして民主党の選挙戦術の参考になるのが昨年のアメリカ大統領選を戦ったバラクフセインオバマ大統領の選挙戦術であります。

 彼は最終的に一騎打ちになったヒラリー候補との民主党代表戦を通じて、その発言内容を当初のリベラル色の強い表現から徐々に中道寄りに修正していきました。

 ヒラリー候補に勝利するためには、黒人やヒスパニック系などの有色人種だけでなく、白人労働者層の支持が必要不可欠だったからです。

 もちろんこの彼の修正は今まで彼を支持してきたコアな支持層に深刻な動揺をあたえました。

 一部の黒人急進派グループと決別したのもこの頃です。

 しかし、結果として彼は勝利を収めるのです。

 民主党の代表戦を勝ち抜いた彼は、共和党との熾烈な大統領選を通じて、ますますその主張は穏健派になり一部共和党支持者まで取り込み、最後は地すべり的大勝利を収めました。

 大統領選後半で大変興味深かったのは、劣勢になった共和党側がオバマ候補に対して「共産主義者」まがいの強烈なネガティブキャンペーンを始めたのに対して彼の陣営がとった対策です。

 共和党ネガティブキャンペーンがかえって共和党のイメージダウンになると情勢判断した彼の陣営は、かしこくも共和党の政策を批判し返すことよりも、ワンフレーズで自身の支持を訴える方針を採りました。

 「Change」(変わろう)、そして「Yes,We Can」(私たちにはできる)と。

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民主党の取るべき3つの選挙戦術をアドバイスしてみる

 以上をまとめます。

 不肖・木走が民主党が今の風を止ませないで、「政権交代」を勝ち取るための、選挙活動で具体的にアドバイスしたいのは次の3点であります。

 1.マニフェストはあまり振りかざさなくていい。

 2.「政権交代」のワンフレーズで押しまくれ。

 3.自民党の悪口はもはや言わなくていい。(自民党には民主党の悪口を言わせればいい)

 これで十分なのだと思います。

 これでは郵政民営化に賛成か反対か論点をワンイシューにして大勝利した小泉郵政選挙と似ていないかという当然のご指摘もありましょう。

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 そうですが、なにか問題でもあるでしょうか?

 歴史上選挙によって「政権交代」を経験したことのないこの国において、このくらいの戦術を用意したほうがいいと思います、力作であることは認めますがあのマニフェストでは、これから始まるであろう自民党ネガティブキャンペーンに耐えられる保証はないと私は危惧しているのです。

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(木走まさみず)