木走日記

場末の時事評論

経済立国、日本には「防衛軍」などいらないということ〜レアメタルを使わない画期的革新が続く日本技術の頼もしい底力を見よ

 これは地味ですがすばらしいニュースですね、13日付け朝日新聞記事から。

有機ELの新発光材料開発 レアメタル不要、コストも減

 【中村浩彦】スマートフォンのディスプレーなどに使われている有機ELの新しい発光材料を、九州大などの研究チームが開発した。従来の発光材料に必要だったレアメタルを使わず、材料コストを10分の1程度に減らせるという。13日発行の英科学誌ネイチャー電子版に発表する。

 有機ELの発光材料には蛍光現象やリン光現象で発光する材料が使われてきた。蛍光材料は安価だが電子を光に変換する効率が低く、リン光材料は電子をほぼ100%の効率で光へと変換できるが、イリジウムなどのレアメタルが必要で材料コストが高かった。

 九州大最先端有機光エレクトロニクス研究センターの安達千波矢センター長らは、レアメタルを使わずに高効率で発光する有機化合物、ジシアノベンゼン誘導体を開発。蛍光材料と同等の価格で、リン光材料と同様の発光効率を持つ素材という。「ハイパーフルオレッセンス」と名付けた。

 有機ELは薄型なうえ、高精細で消費電力も少なく、次世代の薄型テレビや照明などへの利用が期待されている。安達センター長は「国内メーカーと連携し、日本発の技術として早急に実用化を目指す」と話している。

http://www.asahi.com/science/update/1212/TKY201212120585.html

 低分子系発光材料とはジピリリルジシアノベンゼン発光材などの応用技術でしょう。

図1:ジピリリルジシアノベンゼン

 うむ、「レアメタルを使わず、材料コストを10分の1程度に減らせる」画期的技術です。

 安達センター長は「国内メーカーと連携し、日本発の技術として早急に実用化を目指す」としていますが、ぜひ一日も早くの実用化を目指してほしいと思います。

 パナソニックやシャープなど巨大な赤字を計上して日本の電機メーカーの衰退が言われていますが、このような基礎技術の技術革新があればまだまだ巻き返しを計ることは十分に可能だと思えます。

 レアアースの生産の独占状態であった中国は今、最大の輸出国日本の技術革新による需要減に困惑しておりますことは、当ブログで以前エントリーしたとおりです。

2012-10-25 レアアース生産停止に追い込まれた中国の誤算
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20121025

 中国がレアアースの対日輸出規制のカードを切って日本経済が大慌てした2010年のレアアースの輸入先は以下の通りです。

 通年ベースで総輸入量28564トンのうち中国が23422トン、82%を占めていました。

 実はこれでも2009年まで中国からの輸入が90%を越えていた事を考慮すると中国のシェアは落ち始めてはいますが、それでも82%です、これが一時的に輸入停止されたのですから日本企業が慌てたのも無理からぬところでした。

 あれから2年、日本は、中国以外の国からの輸入を増やすべく商社を中心にレアアース輸入国の多様化を進めつつ、自動車産業などはレアアースを使用しない代替の技術開発を驚異的なスピードで成し遂げていきます。

 今年の1〜6月の半年のレアアースの輸入実績をもとに概算した2012年の通年輸入状況(見込み)は以下の通り、激変しています。

 わずか2年のうちに、通年ベースで総輸入量28564トンが12204トンと約2/5に急減しつつ、中国の輸入シェアが82%から49%まで落ち込んでいることがわかります。

 この2年で、日本は中国以外の輸入国を増やしながら、徹底的な技術革新でレアアースの輸入量そのものを大きく減らし、中国のシェアを大きく下げることに成功しています。

 実際、数値で比較するとわずか2年で驚異的なことが起こっています、日本の中国からのレアアース輸入量に注目すると1/4に急減しているのです。

 ・・・

 日本が本気を出せばまだまだその技術力は見捨てたものではないことの何よりの証明が今回の科学記事であると思います。

 中国のレアアース輸出制限という外交カードを無効にせしめたのは、日本の技術力であります。

 資源のない日本にとって、本当の外交力とは他国に先んずる技術力をキープすることなのだと改めて思うのであります。

 経済立国、日本には「防衛軍」などいらないということです。



(木走まさみず)