相当深刻な内と外で止まらない中国の「2つの軍隊」の軍備拡張
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)の李肇星報道官は4日、北京の人民大会堂で記者会見し、2012年の国防予算が前年実績比11・2%増の6702億7400万元(約8兆7000億円)になると明らかにしました。
中国の国防費8・7兆円、10年間で4倍に
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20120304-OYT1T00480.htm?from=popin
記事によれば、「中国の国防費は、胡錦濤政権の10年間で約4倍に膨れあがることになる。日本の12年度予算案での防衛関係費は前年度比1・3%減の4兆7138億円で、中国の国防予算は公表分だけでも、日本の約1・85倍に当たる」そうです。
李スポークスマンは「国内総生産(GDP)比で2%以下で米国や英国に比べても低い」と脅威論を否定したそうですが、しかし、中国の国防費は公表分以外に研究開発や武器購入には隠れた別枠があるとされ、米国防総省は実際の国防費は公表分の約一・九倍に相当すると推計しています。
このような勢いで軍備費が伸びているのは共産党政府への軍部(人民解放軍)からの圧力が常態化しており、軍に甘い予算をつけなければ誰も権力後継者にはなれないとも言われています。
統帥権を握る中央軍事委員会は十二人の委員のうち、主席は胡国家主席、副主席は習近平国家副主席の文民が兼務していますが、他の委員はすべて軍人であり、人事権を握り軍予算にも圧倒的影響力を持つといわれています。
中国の軍備拡張はもちろん日本をはじめ周辺国にとって大いなる脅威なのですが、この暴走気味の軍備拡張政策は中国自身にとってもいつまでも持続することは不可能であろう極めて危ない路線であると指摘しておきます。
米国防総省は実際の国防費は公表分の約一・九倍に相当すると推計していますが、その隠れ予算も含めて経済成長率を超える軍備拡張がここ20年常態化していますが、今後中国の経済成長率は2桁を割り込む中成長期に移行すると推測されています。
経済成長率が停滞すれば当然国家予算にも反映されますので、軍備予算だけを例外的に2桁(今年は11.2%)の伸びを続ける事は非常に困難だと思われますが、問題はそのときに中央政府が軍部の不満を抑えられるかどうかがポイントになることでしょう。
さらに中国政府の抱えている深刻な問題は国内治安に掛かるコスト増圧力です。
中国ではよく「2つの軍隊を維持している」などと揶揄されますが、対外的な軍隊である人民解放軍とは別に、対人民を強制的に治める武装警察や公安部門の予算が軍備費を上回るペースで肥大化しているのです。
中国:予算案、治安対策費11.5%増 温首相「社会管理を強化」
http://mainichi.jp/select/world/news/20120306ddm001030035000c.html
治安対策などに充てる公共安全費を前年実績比11・5%増の7017億6300万元(約9兆1200億円)としており、初めて国防費を予算額と伸び率のいずれでも上回っています。
記事によれば「公共安全費には治安対策を担う武装警察や公安部門、司法機関などの経費が含まれる。中国では土地の強制収用などに対する住民の抗議行動が各地で相次ぐほか、チベット族やウイグル族の居住区で分離・独立に向けた動きも目立つ。中東・北アフリカの民主化の動きが波及するのを防ぐため、当局は民主活動家らへの監視も強めており、増額にはこうした状況が背景にあるとみられる」と解説していますが、逆に言えば軍備費を上回る国内治安予算を計上しなければならないほど中国国内の治安は不安定であると言う事でしょう。
膨らむ軍備費と治安維持費、両者で18兆円近くの予算を割かなければならない、そして両者とも10%以上のペースで予算が毎年肥大化している、この中国政府の悩みは相当深刻であると思います。
治安維持費の伸びも軍備費と同様、過去の10%近くの経済成長が前提になっていたのですが、これから迎える中成長期の時代にはそうそう予算アップをするわけにはいかなくなるでしょう。
中成長期になればただでさえ著しい経済格差に反感を持つ多くの人民の中央政府への不満も大きくなることでしょう。
その中で公共安全費を抑制することははたして中国政府はできるのでしょうか。
中国がいかに治安維持に高コストを掛けているのか、現在ほぼ同じGDPならびに国家予算規模の日本の防衛予算・治安予算と比較して見ればその差は顕著です。
日本の場合、警察予算2700億円+防衛予算4兆7000億円ですから両者で5兆円たらずです。
GDP規模が同程度の中国がかける9兆1200億円+8兆7000億円の17兆8200億円がいかに高コストかが理解できます。
中国の軍備拡張は確かに国際的な脅威でありますが、このペースで人民解放軍と武装警察等の治安部隊の「2つの軍隊」の予算を肥大化することを持続していくことは非常に困難だと思われます。
中国政府の敵は外国だけでなく国内にもいるということでしょう。
(木走まさみず)