木走日記

場末の時事評論

中国軍内“クーデター”『いま戦えば勝てる』「台湾と開戦すべし」〜この夕刊フジスクープ記事は本当か?

●中国軍内で“クーデター”「台湾と開戦すべし」〜夕刊フジ

 昨日(6日)の夕刊フジにて中国で軍事クーデター勃発という記事が載っておりました。

 ネット上では夕刊フジと同じくフジ産経グループのZAKZAKニュースが同じ記事を取り上げていますのでご紹介。

中国軍内で“クーデター”「台湾と開戦すべし」

 中国の人民解放軍内で“クーデター”と呼ぶべき事態が発生していたことが6日、中国政府内部の証言で分かった。「台湾とただちに開戦すべし」と書いた血判書を北京、南京両軍区の若手軍人らが相次いで提出したのだ。互いに連携したとは考えにくく、党中央は相当高位の黒幕が背後で糸を引いたと判断、犯人捜しに乗り出した。五輪に向け、経済政策に突き進む胡錦濤政権だが、国防という足元の火薬庫から火の手が上がった。

 人民解放軍は地域ごとに7軍区に分かれているが、政府当局者によると、首都を守る北京、海峡を挟んで台湾と対峙(たいじ)する南京という最重要軍区で2月中旬、若手軍人らが「台湾とただちに開戦すべし」と自分たちの血で書いた実名の連判状を上層部に提出、軍の早急な決起を促した。

 党を最も慌てさせたのが、示し合わせたかのように離れた軍区の若手が同時に同じ上奏をしたことだ。軍が権力を握ることがないよう軍区間の連携は固く禁じられており、これを飛び越すほどの有力者の暗躍をうかがわせた。

 「台湾独立阻止のためなら武力行使を辞さず」との主張は党の方針であり、若手が勝手に暴走したといって不用意に処罰できず、中央は沈静化に頭を抱えている。

 「若手軍人がこのような暴挙に出たのには2つの土壌がある」と、ジャーナリストの富坂聰氏は分析する。

 表面化していないが、海軍の潜水艦や空軍の戦闘機は台湾軍とニアミスを繰り返しており、実戦さながらの緊張関係にあった。「現場は、『いま戦えば勝てる』という相当の自信があるのだろう」(富坂氏)

 海空軍を中心に台湾優位と言われてきたが、中国は江沢民政権時代から「台湾問題」を軍政策の柱に、弾道ミサイルやF15に匹敵する新型戦闘機を大量配備するなど急速な増強に努めてきた。

 胡政権でも対台湾作戦を経験した将校を軍首脳に大挙登用しており、米国防総省が年次報告で「中台軍事バランスは中国優位に傾いた」と指摘したほどだ。

 にもかかわらず、五輪を前に胡政権は外国世論を刺激する動きを控えるなか、台湾の陳水扁政権は今月末の総統選に合わせ、台湾名での国連加盟を問う住民投票を進めるなど独立の動きを加速。現場の軍人のいらだちがピークに達していた。

 もう1つは、軍人の地位の急速な低下だ。毛沢東が「銃口から政権が生まれる」と言ったように軍は党の力の象徴だったが、経済優先の風潮と兵器の近代化に伴う大規模なリストラのなか、職にあぶれた退役軍人らが座り込みを行うまでになっていた。暴発は実際に起きており、公安省などの統計では、銀行強盗など凶悪事件で有罪となった退役軍人は年間8500人にも上った。

 中国の今年の国防予算は6兆円を超え、20年連続2けた伸びとなったが、報道官が装備のハイテク化とともに使途に挙げた「兵士の待遇改善のための人件費」はあながちただのいい訳とはいえないほど、軍人の置かれた立場は切迫している。

 富坂氏は「党が最も恐れるのが軍人の不満が政治に向かうことで、胡政権は一歩も扱いを誤れない難題を突き付けられている」と指摘している。
http://www.zakzak.co.jp/top/2008_03/t2008030610_all.html

 ちょっとビックリのスクープ記事であります。

 情報ソースが「中国政府内部の証言」とありますが、信憑性はどうなんでしょうか、現在のところ(3月7日AM11:30)他紙が続報しておらず、気になります。

 「台湾とただちに開戦すべし」と書いた血判書を北京、南京両軍区の若手軍人らが相次いで提出とは物騒なことであります。

 ジャーナリストの富坂聰氏の分析によれば、

 「現場は、『いま戦えば勝てる』という相当の自信があるのだろう」という、台湾海峡を挟んだ中台軍事バランスが中国優位に逆転した事実、

 もう1つは、軍人の地位の急速な低下による軍人の不満が軍内部で充満している、

 この2点が背景にあるとしています。

 記事内容の真偽も含めて詳細の続報が待たれますが、この記事内容が事実だとすると、オリンピック開催を控えた胡錦濤政権にとって、看過できない緊急の事態が発生しているのかも知れません。

 ・・・

 もっとも現段階では、フジ産経グループの中でも暴れん坊メディア(失礼)である夕刊フジだけのニュースなので、夕刊紙お得意の信憑性に問題の多い一発話題ネタなのか、それとも事実に即したスクープ記事なのか、ここは慎重に続報を待って真偽を見極めたほうがよさそうです。



●中国の軍備増強 日本の防衛力は大丈夫か〜産経社説

 あけて今日(7日)の産経新聞本体の社説から。

【主張】中国の軍備増強 日本の防衛力は大丈夫か
2008.3.7 03:38

 「中国の軍備増強は東アジアの軍事バランスを変え、戦略能力はアジア太平洋地域を超えつつある」。これは米国防総省がまとめた2008年版の「中国の軍事力」報告書の一節だ。

 こうした懸念を裏付けるのが5日発表された中国の国防費だ。20年連続で2けたの伸び率となる前年度比17・7%増の約4099億元(約5兆9600億円)を計上した。

 日本の防衛費4兆7426億円を抜き、アジア1位だ。しかも中国の国防費には装備購入費や研究開発費は含まれておらず、米国防総省の報告書は公表額の3倍と分析している。実質的な国防費は世界2位と推定される。   温家宝首相は「脅威に対する軍隊の対処能力と任務の完遂能力を高める」と語ったが、急激な軍事力近代化への懸念は払拭(ふっしょく)されない。一昨年発表された中国国防白書も主要装備調達計画などの記述がなく、透明性を欠いている。意図的といわざるを得ない。

 米報告書は軍備増強の背景について台湾海峡有事に加え、領土や資源をめぐる紛争に備えていると警告している。地域内外の平和と安定への脅威になるということだ。中国は説明責任を果たさなくてはなるまい。

 問題は日本の防衛力整備である。防衛費は1997年度の4兆9414億円を頂点にほぼ毎年、減り続けている。08年度は前年度比0・8%減だ。

 基本的には財政再建路線のためだ。効率化・合理化を図りながら実効性ある防衛力の構築に努めたが、現実の防衛力は縮小を余儀なくされている。

 04年末に閣議決定された5年間の防衛力整備を定めた防衛大綱によると、陸自の編成定数は前大綱時の16万人が15万5000人、約900両の戦車が約600両、海自の護衛艦約50隻は47隻、空自の約300機の戦闘機は約260機に減らされる。

 この結果、彼我の差はほとんどなくなっている。主力戦闘機のF15に対抗できる中国の第4世代戦闘機が三百数十機に達しているのは一例だ。

 では日本はどうするか。日米安保体制を強化することで地域の軍事バランスを取るべきだろう。米国が領土紛争に関与しない可能性もあるが、米国との信頼の絆(きずな)をいかに強めるか。日本の存立の基盤はここにかかっている。

http://sankei.jp.msn.com/world/china/080307/chn0803070339000-n1.htm

 うーむ、「米国との信頼の絆(きずな)をいかに強めるか。日本の存立の基盤はここにかかっている」ですか。

 たしかに5日発表された中国の国防費ですが、20年連続で2けたの伸び率となる前年度比17・7%増の約4099億元(約5兆9600億円)を計上、日本の防衛費4兆7426億円を抜き、アジアNO1なのでありますし、公表されたこの数字は実は実態に即しておらず、米国防総省の報告書は公表額の3倍と分析しているわけです。

 産経社説はこの急膨張する中国軍事力に対し、財政再建路線のため逆に縮小を余儀なくされている日本の防衛力を憂いています。

 社説の結語。

 では日本はどうするか。日米安保体制を強化することで地域の軍事バランスを取るべきだろう。米国が領土紛争に関与しない可能性もあるが、米国との信頼の絆(きずな)をいかに強めるか。日本の存立の基盤はここにかかっている。

 一にも二にも「日米安保体制を強化」すべしと主張しているわけです。

 ・・・

 毎年2桁の規模で膨張している中国の軍事予算でありますが、各国が不安に思っているのは不透明なその金額もさることながら軍拡の目的そのものでありましょう。

 今回の全人大でも、「江沢民(前総書記)の国防および軍隊建設思想を導きとし、胡錦濤同志の新たな情勢下での国防と軍隊建設に関する論述を真剣に貫く」と言ってますが、どういう戦備を想定しどういう戦略・戦術を目的とした国防と軍隊建設を目指しているのか、外国には分かりにくいわけです。

 産経社説が指摘するように、米報告書などは「軍備増強の背景について台湾海峡有事に加え、領土や資源をめぐる紛争に備えている」と警告しているわけです。

 ・・・

 前述の中国軍内で血判状で決起“クーデター”「台湾と開戦すべし」という夕刊フジ記事と、この台湾海峡有事も備えての中国軍備膨張を危惧する産経新聞本体社説を併せて読み解くと、なにやらとてもきな臭い事態が突発的に発生する危険性が増してきているのかも知れません。

 オリンピックを控えた党中央の抑制が効かなくなるほど、軍内部の不満が充満しているのでしょうか。

 しかしなあ、『いま戦えば勝てる』「台湾と開戦すべし」ですか。

 物騒なことであります。

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 現段階ではフジ産経グループの中でも暴れん坊メディアである夕刊フジだけの記事なのであります。

 冷静に、ここは続報記事を待ちましょうか。



(木走まさみず)