木走日記

場末の時事評論

とんだ「逃亡者」が「来訪者」に紛れ込んでいた「ミクシィ」の悲劇

●FUGITIVE FROM JUSTICE(正義からの逃亡者)

 ワイズマン裁判長の言葉が「本件はふだんの刑法事件とは違う。逃亡犯の引き渡しという特殊なケース」と通訳された直後から、三浦和義(60)の顔がみるみる赤くなってきた。「今、おっしゃったのは逃亡犯ですか? 先ほどおっしゃられたのは逃亡犯ということですか」とそれまでの静かな口調から一変して1トーン高い声で語気を荒げた。

 ざわつく法廷の空気を察知したワイズマン裁判長から「これはあなた自身が弁護士と話す内容。忠告しますが今話したことがあなたに不利なことに使われるということを注意してください」とたしなめられ、三浦和義は「イエス」とつぶやいておとなしくなった。

 確かに三浦にしてみれば、日本で最高裁まで争われ無罪放免になってすでに10年、逃げも隠れもしていなかったという意味では、「逃亡犯」呼ばわりは納得しがたいものだ。
 だが、後の報道でわかるのだが、ロス市警がこの日、サイパン司法当局に送信した逮捕状には「FUGITIVE FROM JUSTICE(正義からの逃亡者)」と太字で印字され、さらにけい線まで引かれていたのである。

 さらに逮捕状の中には「カリフォルニア州での死刑、または1年以上の禁固刑に処せられる可能性の罪に問われているため」とまで明記されていた。

 彼の罪状は、正にFUGITIVE(逃亡者)、それもFUGITIVE FROM JUSTICE(正義からの逃亡者)なのであった。

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●日本では逆転無罪でケリがついていた「疑惑の銃弾」事件

 自国で釈放されてから10年後、日本人のビジネスマンが27年前の妻殺害容疑で2月22日金曜日に逮捕された。

 三浦和義は、米国自治領であるサイパンを旅行中、突然身柄を拘束された。

 事件を簡単に振り返っておこう。

 1981年11月の三浦一美さん殺害は、その夫であった三浦和義が二人の通り魔に銃撃されたと主張し、ロサンゼルスや米国の都市での暴力事件に対する日本特有のものの見方を強調したため、当初は国際的な騒動にまで発展した。

 週刊文春のスクープ記事「疑惑の銃弾」がきっかけとなった。

 日本の歴史上、最も衝撃的な国際殺人事件の一つであり、疑惑の目が三浦和義に向けられた時、日本のメディアは雇われた強欲な殺し屋の下劣きわまりない話としてその事件を報道した。

 銃撃された時、よくロサンゼルスを旅行していたファッション輸入業者であった三浦和義は、自分と妻はフレモントアベニューの地平線の写真を撮影する旅行者であったと言った。 三浦和義は、昼休みで混雑していた地域の真ん中で、妻が頭を撃たれたと証言した。

 三浦和義は、2人の青年が古い濃緑の米車を近くに止め、お金を要求したと警察に言った。三浦和義が躊躇すると、男の一人が車の窓から銃を向け、彼の脚を撃った。それから、彼の妻の頭を撃ち、1,200ドルを持って逃げたと言った。

 当時、28歳だった一美さんは、銃撃された後に昏睡状態に陥り、1年後に日本で死亡した。

 他国で犯した犯罪で起訴されるのを許容するという日本の法の下で、三浦和義殺人罪の疑いで日本で告発された。

 三浦和義は、1994年に有罪判決を受けて、終身刑に判決を言い渡された。 しかし、1998年、東京最高裁は、共犯者が見当たらないとして逆転無罪を言い渡した。

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●ロス市警にマークされていた「プリウス和」ミクシィの日記

 日本では「突然」の今回の逮捕劇だが、実はロス市警は、逮捕までここ数ヶ月入念に三浦和義の行動をマーク、逮捕のタイミングをうかがっていたことを認めている。

 元ロス市警のジミー佐古田は、会見で三浦和義がインターネット上に書き込んでいたサイパン渡航歴などをマメにチェックして今回の逮捕につながったことを明かしている。

 捜査当局が注目したサイトのひとつが三浦のミクシィの日記だったとされている。

 三浦和義は、「プリウス和」のペンネームでミクシィに登録していたようで、2月17日付日記には、翌日から1週間サイパンに行くと告げられていた。そして、滞在後の22日、現地の空港から日本に帰国しようとした直前に現地警察に逮捕された。

 プロフィール欄を見ると、これまでも「マジェスタ和」、「エスティマ和」、「シグナス和」などと、自分の乗っている愛車をハンドルネームとして名乗ってきた模様。「以前ファッションメーカーや、輸入雑貨を扱っていた会社を経営していた者で、今は、法律や人権の本を書いたりしている貧しい作家です」と自己紹介しているが、プロフィールには自身の著書やHPも掲載されており、それを見れば、この人物が三浦和義であることは明らかだという。

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ミクシィの運営事務局の動揺がもたらした「ミクシィ」株価の暴落

 この三浦の日記の存在はミクシィの運営事務局に動揺をもたらせたようだ。

 捜査協力の狙いがあったのか、唐突にミクシィの運営事務局は規約改定を発表する。

 <ユーザーが日記等の情報を投稿する場合、ユーザーは弊社に対し、情報を無償かつ非独占的に使用する権利(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行うこと)を許諾するものとし、ユーザーは著作者人格権を行使しないものとする>

 これを受け、多数のユーザーから「人の日記で勝手に商売するのか!」「こんなバカなことは黙認できない」と批判が集中。

 ミクシィ運営事務局側は慌てて、規約改定の“追記”や“修正”で、ユーザー側の著作権を守ることを告知。

 ネット上の事態はようやく沈静化に向かっているが、この騒動を受けるかたちで株式市場では、東証マザーズに上場する「ミクシィ」の株価の暴落が止まらない。

 終値ベースでみると、2月29日に124万円だった株価は先週、売られ続け、3月7日は84万8000円と約3割も下落した。週明け10日も前週末比5万8000円安の79万円で引けた。これで6営業日連続しての下げとなった。

 兜町新興市場を担当する証券マンは先週、日を追って下がるミクシィ株の推移に驚いた。

 結果、三菱UFJ、モルガンなど証券会社は先週、ミクシィ株の投資判断を相次いで引き下げることを決定する。

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●とんだ「逃亡者」が「来訪者」に紛れ込んでいた「ミクシィ」の悲劇

 26年前の殺人事件における南の島での「正義からの逃亡者」逮捕劇が新興の日本のSNS(ソーシャルネットワークサービス)サイト「ミクシィ」株暴落を招いたという図式か。

 そうだとすれば、「ミクシィ」にすれば、とんだ「逃亡者」が「来訪者」に紛れ込んでいたわけである。



 (今日は、最近の話題の事件から、ルポ風記事をまとめてみました(文中敬称略))



(木走まさみず)



<参考記事・参考サイト>
三浦和義は、なぜ今頃サイパンで再逮捕されたのか(追記あり
http://minnie111.blog40.fc2.com/blog-entry-792.html
三浦容疑者は「逃亡犯」、死刑の可能性も(日刊スポーツ)
http://www.nikkansports.com/general/p-gn-tp0-20080228-328420.html
三浦容疑者逮捕 沈黙守る当局 なぜ今? ねらいは? (1/2ページ)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080224/crm0802241756014-n1.htm産経新聞
mixi規約騒動の背後に「ロス疑惑」があるという説(ITメディアニュース)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/10/news094.html
逆転逮捕の三浦和義mixiでは「プリウス和」名乗る
http://celebcar.blog78.fc2.com/blog-entry-288.html
mixiが馬鹿なことを言い出して、あらゆる人々を怒らせた件について
http://d.hatena.ne.jp/antonian/20080304