木走日記

場末の時事評論

異彩放つ元旦早々から国民の対中国危機感を煽りに煽る産経の連載企画〜「日本が中国に独自で軍事的に対抗するのは不可能」


 元旦の新聞各紙の論説の中でも異彩を放ったのが、産経新聞が1面と3面で大きなスペースを割いて掲載した、新連載企画[新帝国時代 2030年のアジア]であります。

 ネットでも以下で閲覧できます。

[新帝国時代 2030年のアジア]
(1)中国の野望にくさび打て 尖閣、石垣・宮古、台湾まで…侵攻想定
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130101/plc13010114570008-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130101/plc13010114570008-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130101/plc13010114570008-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130101/plc13010114570008-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130101/plc13010114570008-n5.htm

 詳細は是非リンク先でお読みいただくとして、内容はサブタイトル「中国の野望にくさび打て 尖閣、石垣・宮古、台湾まで…侵攻想定」の通り、拡大する一方の中国の軍事力に日本としていかに対抗していくかを論じているのであります。

 簡単に記事の概略を説明しておきます、ポイントは3つです。

 一つ目のポイントは防衛省の極秘の対中国有事シナリオをスクープしていることです。

 まず記事は、「防衛省が10〜20年後の安全保障環境の変化に対応する「統合防衛戦略」の作成にあたり極秘に対中国の有事シナリオを検討している」事実に触れたのち、判明した日本にとって最悪のシナリオを中国側の出方を3つに分けて予想しています。

《シナリオ〔1〕 ○年×月×日 尖閣侵攻》
《シナリオ〔2〕 尖閣と石垣・宮古 同時侵攻》
《シナリオ〔3〕 尖閣・石垣・宮古と台湾同時侵攻》

 《シナリオ〔1〕 ○年×月×日 尖閣侵攻》はこうです。

 中国の海洋・漁業監視船は沖縄県尖閣諸島周辺海域での領海侵入を繰り返していたが、海上保安庁の巡視船と監視船が「偶発的」に衝突した。これをきっかけに中国は監視船を大挙して送り込む。

 前進待機していた海軍艦艇も展開。中国初の空母「遼寧」と新鋭国産空母の2隻が近づき威圧する。巡視船は退かざるを得ない。

 「領土・主権など『核心的利益』にかかわる原則問題では決して譲歩しない」

 中国外務省は尖閣について、譲れない国益を意味する「核心的利益」と国際社会にアピールする。

 海保の増援船艇や海上自衛隊の艦艇が展開する前に中国側は空挺(くうてい)部隊と新型の「水陸両用戦車」を上陸させる。これまでは漁民を装った海上民兵の上陸が懸念されていたが、偶発を装った意図的な衝突から一気に尖閣を奪取する事態も現実味を帯びてきた。

《シナリオ〔2〕 尖閣と石垣・宮古 同時侵攻》はこうです。

尖閣のみならず中国が石垣島宮古島にも同時か波状的に侵攻するシナリオもある。「中国は尖閣と石垣・宮古をひとつの戦域ととらえている」(自衛隊幹部)ためだ。

 中国側はまず海軍艦艇を集結させ周辺海域を封鎖する。艦艇の中心はルージョウ級ミサイル駆逐艦やジャンカイ級フリゲート艦の発展型。空からは第5世代戦闘機「J20」と新世代機が飛来。宮古島にある航空自衛隊のレーダーサイトをミサイル攻撃し、日本の防御網の「目」を奪った。

 混乱に乗じ潜入した特殊部隊は宮古空港石垣空港を占拠する。空港を奪えば自衛隊は増援部隊や装備・物資を輸送する拠点を失うためだ。自衛隊も警戒していたが、陸上自衛隊の部隊を常駐させていないことが致命的だった。

《シナリオ〔3〕 尖閣・石垣・宮古と台湾同時侵攻》はこうです。

 中国は2021年の共産党結党100周年でなしえなかった台湾統一のチャンスをうかがっていた。日米の行動を阻止するため台湾に近く、空港のある石垣島宮古島を制圧することも想定される。

 防衛省がこのシナリオに踏み込むのは、米国に介入を断念させるという中国の「究極の狙い」を統合防衛戦略に反映させるためだ。

 台湾への侵攻作戦は海上封鎖や戦闘機・ミサイル攻撃、特殊部隊や水陸両用の上陸作戦が中心だ。

 この頃には、地上配備の対艦弾道ミサイル「DF21D」は第1列島線より遠方でも米空母をピンポイントで攻撃することが可能となっているとみられる。

 世界最速を目指し開発を進めた長距離爆撃機「轟10」は航続距離も長く、西太平洋全域で米空母を威嚇する。大陸間弾道ミサイル「DF31」は射程を1万4千キロに延ばし米本土全域を核攻撃の脅威で揺さぶる。

 これらにより米軍の介入を阻めば、中国は宮古海峡に加え、台湾−フィリピン間のバシー海峡も押さえられる。中国にとって海洋進出の「防波堤」は消え、東シナ海南シナ海での覇権確立を意味する。第2列島線を越え西太平洋支配の足がかりも得ることになる。

 ・・・

 記事の二つ目のポイントは、20年後を睨むと日本が中国に軍事的側面において「独自で対抗無謀」と指摘していることです。

 神保謙慶応大准教授が昨年7月、シンガポールでの講演で、05年から30年にかけての日米中3カ国の軍事費の推移を発表した内容を取り上げています。

 参加者の目は神保氏が示した図表にくぎ付けとなった。25年に中国の国防費が米国を逆転する可能性を示したためだった。

 将来の各国の名目国内総生産(GDP)を国際通貨基金IMF)などの推計をもとに算出し、GDPに占める国防費の割合をかけあわせた。中国の国防費はスウェーデンストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計や米国防総省の分析を援用した。

 条件によっては「25年に中国の国防費が米国を逆転する可能性」があるという指摘ですが、より深刻なのは将来の日中軍事力の比較です。

 この図表で神保氏が「よりリアリティーを持ってみるべきだ」と指摘するのが日中の比較だ。30年には中国の国防費は日本の防衛費の約9倍から約13倍になる可能性を予想したのだ。

 「米国から離れて日本が独自に中国と対抗しようとしても、それがいかに無謀なことかを数字は示している」

 神保氏はこう指摘する。

 ・・・

 記事の3つ目のポイントは、上記2つのポイントの流れを受けて日米とともにロシアが中国を警戒し始め日本に秋波を送り出していると指摘していることです。

 このような状況を想定してか、いま日本に秋波を送ってきている国がある。ロシアだ。

 元外務省主任分析官でロシアが専門の佐藤優氏は、昨年8月の李明博韓国大統領の竹島上陸の後、クレムリン(大統領府)にアクセスを持つ人物の来訪を受け、こう言われたという。

 「ロシアは尖閣竹島で好意的中立だ。そのことを日本はわかっているのか」

 佐藤氏はこの発言を次のように読む。

 「尖閣で発言することは、結果として中国を利することになるので避けている。東アジアで中国の影響力が拡大することを阻止したいからだ」

 実際、プーチン大統領は昨年12月26日の安倍晋三首相誕生に際し、直ちに祝電を送り、アジア太平洋地域の安定と安全保障のために日露関係を発展させていく意向を示した。28日には電話会談も行った。

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 これはなかなか読み応えのある連載企画になりそうです。

 元旦紙面一面トップから連載を開始している点からも産経のこの企画に掛ける意気込みがひしひしと感じられますが、防衛省の極秘の対中国有事シナリオをスクープしていることからもその取材の力の入れようが推察されます。

 まだ連載1回目を読了しただけですので、最終的な評価は最終回まで全て読み終えた上で当ブログとして評論したいと思います。

 ただ一回目の内容からも保守派メディアを自認する産経新聞久しぶりの面目躍如の大型連載となりそうで期待できます。

 しかし、元旦早々から国民の対中国危機感を煽りに煽るここまできな臭い軍事物をぶつけてくるとはアッパレです。

 メディアヲッチャーを自認している当ブログとしても、過去に記憶がないのです。



(木走まさみず)