木走日記

場末の時事評論

突出した伸び率で軍事大国化を計る中国は実は無理をしていない〜日本のメディアの分析は甘い

 5日付け時事通信記事から。

中国国防費12.2%増=4年連続2桁の伸び−尖閣・歴史で対日けん制−中国全人代

 【北京時事】中国の国会に当たる全国人民代表大会全人代)が5日、北京の人民大会堂で開幕した。全人代に合わせて公表された2014年の中央国防予算は前年実績比で12.2%増の8082億3000万元(約13兆4400億円)に達した。4年連続2桁の伸びで、昨年の10.7%増という伸び率も上回った。李克強首相は就任後初の政府活動報告で「国の領土主権と海洋権益を断固として守った」とした上で、「平時の戦闘への備えと国境・領海・領空防衛の管理を強化する」との方針を表明した。

 さらに李首相は「われわれは第2次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を守り抜き、歴史の流れを逆行させることは決して許さない」と述べ、名指しはしなかったが、靖国神社に参拝した安倍晋三首相をけん制した。政府活動報告は、沖縄県尖閣諸島歴史認識問題で日本を意識した内容となった。(2014/03/05-11:41)

http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2014030500083

 うむ、「2014年の中央国防予算は前年実績比で12.2%増の8082億3000万元(約13兆4400億円)に達した」とあります、「4年連続2桁の伸びで、昨年の10.7%増という伸び率も上回った」のであります。

 これを受け6日付け主要紙社説は一斉にこの中国全人代の方針表明を取り上げています。

【朝日社説】中国の国防費―危うい軍拡をやめよ
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=com_gnavi
【読売社説】中国国防費膨張 平和を脅かす露骨な軍拡路線
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20140306-OYT1T00018.htm
【毎日社説】中国全人代 改革すたれ軍拡栄える
http://mainichi.jp/opinion/news/20140306k0000m070173000c.html
【産経社説】中国国防費 秩序を崩すのはどっちだ
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140306/chn14030603420000-n1.htm
【日経社説】この改革で中国は安定成長できるのか
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO67828450W4A300C1EA1000/

 各紙社説とも、「中国の軍拡が止まらない」(朝日)、「中国脅威論にも拍車がかかろう」(読売)、「経済成長が鈍っているのに、国防費は12%増と群を抜く」(毎日)、「とどまるところを知らぬ中国の軍拡には警戒を強めざるを得ない」(産経)、「総額は過去最高だ。懸念を覚えざるを得ない」(日経)と、世界の中で突出して膨張を続ける中国国防費に対し強い警戒感を示しています。

 確かに「中国の国防力は防御的」との説明は全く説得力がありません。

 中国の全国人民代表大会全人代)に提出された2014年予算案の国防費は、8082億3000万元(約13兆4460億円)と前年実績に比べ12・2%膨らみました。経済成長率の目標が前年並みの7・5%にとどまる中での4年連続2桁増であります。

 しかも、中国軍事費の財源全体は、表に出ている国防費の2倍以上ともいわれています。

 とどまるところを知らぬ中国の軍拡には警戒を強めざるを得ません。特に尖閣諸島などへの海洋進出攻勢の裏付けとなる海軍力の著しい増強は、日本はもちろん、東南アジア諸国にも脅威であります。

 国際情勢の変化の軍事支出の増減に対する影響力を検証する資料として、信用性が高く評価されているデータベースとして、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計データがあります。

Stockholm International Peace Research Institute "Yearbook"
http://www.sipri.org/

 このデータベースより、中国、韓国、日本、台湾の1989年から2013年までの軍事費の推移を表にまとめてみましょう。

 なお数値は当時のレートで米ドル換算しています。

■表1:東アジア四か国の軍事費推移

Country 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
China 18336 19820 20833 25317 23454 22432 23059 25424 26335 29901 34454 37040 45422 52832 57390 63560 71496 84021 96906 106774 128869 136467 146154 157603 166107
Korea 14826 15059 15535 16439 17194 17698 18617 19620 20095 19399 18872 20031 20609 21177 21898 22859 24722 25613 26773 28525 30110 29912 30884 31484 31660
Japan 46592 47802 49399 52486 54607 56181 56827 57124 56988 57725 59430 60288 60250 60701 61460 61201 61288 60892 60574 59140 59735 59003 59572 59242 59271
Taiwan 10810 11406 11737 11865 13450 13297 12313 12703 12650 11833 11812 10384 10195 9860 9765 9782 9412 9030 9555 9729 10479 9903 9998 10513 10721

 わかりやすくグラフ化してみます。

■図1:東アジア四か国の軍事費推移

うむ、中国の軍事費の伸びが突出していることがわかります。

 1989年からのこの四半世紀で実に中国の軍事費は9倍に膨張しているわけです。

■表2:東アジア四か国の軍事費、直近25年間の伸び率

Country 1989 2013 伸び率
China 18336 166107 9.059
Korea 14826 31660 2.135
Japan 46592 59271 1.272
Taiwan 10810 10721 0.992

 この四半世紀において韓国は2倍にしておりますが日本や台湾が軍事費がほとんど伸びていない中、中国は実に9倍を越える膨張を示しています。

 各紙社説が警戒するのも無理からぬ統計数値であります。

 しかしです。

 日本のメディアの分析は甘いと申していいでしょう。

 当ブログとしてもう一歩踏み込んで統計数値を押さえておきたいです。

 統計情報は生の絶対的数値だけで分析すると起こっていることを見落としてしまうことがよくあります。

 中国の軍事費をその伸び率だけで追えばかなり無理して軍事力強化を図っている印象を与えますが、はたして実態はどうなのでしょうか。

 参照しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計データがほぼ正確な値だとして、ここで軍事費の各国のGDPに占める割合でグラフ化してみましょう。

 中国、韓国、日本、台湾に、参考までに米国、ロシア、インド、パキスタンを新たに加えてみます。

■図2:主要国の軍事費推移(対GDP比)

 うむ、たいへん興味深いことに、日本がほぼ1%で推移しているのに対し中国はほぼ2%で推移していることが見て取れます。

 これは3〜6%で推移している米国やロシヤ、3%前後で推移している韓国やインドよりも低い数値なのです。

 中国軍事費の財源全体は、表に出ている国防費の2倍以上ともいわれていますので、このグラフでもって断定的な分析は避けるべきでしょうが、ひとつだけ確信的に判断できることは、中国がその国力に比較して突出して軍事費を膨張させているわけではないということです。

 この統計数値が示す事実は、各紙社説が「とどまるところを知らぬ中国の軍拡には警戒を強めざるを得ない」(産経)という絶対的数値に対する警鐘より以上の深刻な現状を示しています。

 絶対額では世界の中で突出した軍事費の伸び率を示している中国ですが、実は国力に応じた軍事費に抑制している、決して無理をしていないという事実は、私たちは深刻に受け止めるべきでしょう。

 日本のメディアの分析は甘すぎると考えます。



(木走まさみず)