木走日記

場末の時事評論

産経社説に反論する〜この深刻な国家財政問題は歴代自民党政権の「負の遺産」ではないのか

 各省の来年度予算概算要求が出そろいました、総額は90兆円を超え過去最大となった模様です。



●借金が税収を上回る戦後初めての異例の事態〜各紙報道から

 16日付け日経新聞記事から。

厚労省、概算要求3.7兆円上積み 総額は過去最大の90兆円超

 2010年度予算の各省の概算要求がほぼ出そろった。厚生労働省の概算要求額は、09年度当初予算から約3.7兆円の上積みとなる28兆8894億円に膨らんだ。民主党マニフェスト政権公約)で導入するとした子ども手当などを盛り込むためだ。総務、農林水産、文部科学省も要求額が09年度当初予算を上回る。国の財政規模を示す一般会計の歳出総額は90兆円を超え、過去最大の規模になる。
 財務省は15日に概算要求を締め切った。藤井裕久財務相は公約の実現に必要な分を除き、09年度当初予算の歳出総額を下回る予算を要求してほしいと訴えてきた。だが、少なくとも4省の概算要求額は09年度当初予算を上回る見込みで、予算編成作業は早くも壁にぶつかっている。(07:01)

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20091016AT3S1502D15102009.html

 うーむ、厚生労働省子ども手当などの3.7兆円の上積みなど、民主党マニフェスト政権公約)で導入するとした制度分は聖域として盛り込むために膨らんだようであります。

 現段階では概算要求段階ですが、ここからいかに一般会計だけでなく特別会計も含めて無駄な部分を切り落とすのか、民主党の公約でもある無駄な天下り法人の整理も含めて、予算をどう削るのか、まさに正念場であります。

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 16日付け朝日新聞記事から。

税収、40兆円割れへ 国債追加発行は不可避

2009年10月16日5時4分

 国の09年度の税収(一般会計分)が、当初見通しの46兆円を大きく下回って40兆円を切り、24年ぶりの水準に落ち込む見通しになった。昨秋からの急激な景気悪化で法人税が落ち込んでいるためだ。この穴埋めのため、現時点で44兆円を見込む新規国債の追加発行は避けられない。借金が税収を上回る戦後初めての異例の事態となる。

 税収が40兆円に届かなければ、1985年度の38兆1988億円以来となる。今年度の税収をもとに見積もる10年度の税収見通しも、40兆円程度にとどまる見通し。鳩山政権の10年度予算編成では、一般会計の歳出が概算要求段階で90兆円を超えており、財政運営は厳しさが増す。

 09年度の当初税収見通しは46兆1千億円。今年4月から8月末までの税収実績は、前年同期比で2兆9千億円少ない7兆9千億円にとどまっている。うち法人税は08年度に納付した分のうち、その後の業績悪化で取りすぎになった2兆円超を還付したことから、1兆2800億円のマイナスとなっている。年度見込み額の10兆円を大幅に下回るのは確実だ。景気悪化にともなって、所得税も前年同期比8300億円減となっている。

 09年度税収で財務省幹部は取材に対し「おそらく40兆円に達しない」と見通しを示した上で、当初見通しとの6兆円以上の差額の多くについて「赤字国債で埋めざるを得ない」と述べた。補正予算後、過去最大の44兆円を予定している新規国債の発行がさらに拡大することになる。

 10年度税収見通しは、12月に固まる09年度見通しをもとに企業の業績や政府経済見通しなどを参考に決めるが、いずれも今後大幅な回復は見込めない状況だ。(磯貝秀俊)
http://www.asahi.com/politics/update/1015/TKY200910150498.html

 うーん、支出である予算は概算要求段階で過去最大規模の90兆円超となっているのに、収入である税収はこの不況で「当初見通しの46兆円を大きく下回って40兆円を切り、24年ぶりの水準に落ち込む見通し」になったのであります。

 このままでは「現時点で44兆円を見込む新規国債の追加発行は避けられない」どころか、「借金が税収を上回る戦後初めての異例の事態となる」わけです。

 収入(税収)は40兆を割り、支出(予算)は90兆を超える、借金が税収を上回る戦後初めての異例の事態・・・

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 ふう。

 数字だけ追うとため息しか出ません、一般の民間会社の会計や家庭の家計で考えると、収入の2倍の支出など考えられません、こんな状態では遠からず財政破綻は必至ですよね。

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●概算要求 これでは財政が破綻する〜産経新聞社説

 この状態を受けて、16日付け産経新聞社説から。

【主張】概算要求 これでは財政が破綻する

2009.10.16 03:15
 鳩山由紀夫政権で初めてとなる来年度予算の概算要求は90兆円を超える過去最大規模に膨らむ。概算要求基準(シーリング)の廃止で歳出圧力に歯止めがかからなかったといえる。
 シーリングの廃止は硬直的な予算配分をやめ、優先順位に沿って政治主導で予算を編成するのが目的だった。要求額については、先の予算編成方針で政権公約の新規政策以外は今年度当初予算を下回るよう求めた。
 ところが、フタを開けると来年度分以外の新規政策や公約にない政策要求が続々となされた。今年度当初を下回ったのは公共事業くらいで、とくに社会保障費や地方交付税の大幅増が目立つ。
 年末までにこれらにどう切り込むか。その査定主体が混乱している。中心となるはずの国家戦略室と行政刷新会議は陣容が手薄で経験もない。結局は財務省頼みになろうが、権限の分担があいまいで極めて不安だ。
 子ども手当や農家の戸別所得補償など新規政策の来年度分約7兆円の財源確保さえめどが立っていないのも、こうした事情による。今年度補正予算削減で3兆円程度は確保したが、いわゆる「埋蔵金」からの捻出(ねんしゅつ)や所得税の控除見直しなどはこれからだ。
 今年度の税収は当初見込みを大幅に下回り、国債発行額と逆転する。鳩山政権には明確な成長戦略がなく、来年度も税収増は期待できない。首相らが国債増発に言及し始めたのはこのためだろう。
 消費税を4年間封印しても財源は国債増発に頼らないとした政権公約はどうなったのか。しかも、増発かどうかの基準を今年度当初予算時の33兆円でなく、補正後の44兆円に置いている。補正が景気対策という緊急避難措置だったことを考えればおかしな話だ。
 菅直人国家戦略担当相は年末の予算編成に合わせて財政健全化目標を策定するとしていたのに、これも数カ月から1年先送りするという。景気見通しが不透明だとの理由である。
 しかし、同じ条件下の先進各国は世界同時不況脱出後に向け財政面からの出口戦略として早々に目標を打ち出している。すでに日本は地方を含めた債務残高が国内総生産(GDP)比1・7倍と先進国で最悪の財政状況なのだ。
 鳩山政権が政策決定プロセスと財政規律を早急に確立しないと、財政は破綻(はたん)に向かおう。

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/091016/fnc0910160316002-n1.htm

 産経社説は、鳩山由紀夫政権で概算要求が90兆円を超える過去最大規模に膨らんだのは、「概算要求基準(シーリング)の廃止で歳出圧力に歯止めがかからなかった」ためであるとしています。

 シーリングの廃止は硬直的な予算配分をやめ、優先順位に沿って政治主導で予算を編成するのが目的だった。要求額については、先の予算編成方針で政権公約の新規政策以外は今年度当初予算を下回るよう求めた。
 ところが、フタを開けると来年度分以外の新規政策や公約にない政策要求が続々となされた。今年度当初を下回ったのは公共事業くらいで、とくに社会保障費や地方交付税の大幅増が目立つ。

 その上で、「財源は国債増発に頼らないとした政権公約」にも疑義をとなえ、麻生政権下の景気対策という緊急避難措置だった現予算における過去最大に増発した国債額44兆円を基準に置くのはおかしな話であるとします。

 消費税を4年間封印しても財源は国債増発に頼らないとした政権公約はどうなったのか。しかも、増発かどうかの基準を今年度当初予算時の33兆円でなく、補正後の44兆円に置いている。補正が景気対策という緊急避難措置だったことを考えればおかしな話だ。

 社説の結語で、このままでは鳩山政権下で財政は破綻(はたん)に向かうと警告します。

 しかし、同じ条件下の先進各国は世界同時不況脱出後に向け財政面からの出口戦略として早々に目標を打ち出している。すでに日本は地方を含めた債務残高が国内総生産(GDP)比1・7倍と先進国で最悪の財政状況なのだ。
 鳩山政権が政策決定プロセスと財政規律を早急に確立しないと、財政は破綻(はたん)に向かおう。

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 ふう。

 「年末までにこれらにどう切り込むか。その査定主体が混乱している。中心となるはずの国家戦略室と行政刷新会議は陣容が手薄で経験もない。結局は財務省頼みになろうが、権限の分担があいまいで極めて不安だ。」なのは、多くの国民も共有いたしておるでしょう、「政策決定プロセスと財政規律を早急に確立」すべきなのはその指摘自体はまったく同感です。

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●産経社説に反論する〜この深刻な国家財政問題は歴代自民党政権の「負の遺産」ではないのか

 産経社説に反論します。

 産経社説の鳩山政権に「政策決定プロセスと財政規律を早急に確立」すべきと指摘するところは正しいと思いますが、国家財政問題で起こっていることをすべて現政権に起因する問題に限定して述べている点、時系列で因果を捉えていない点は、問題があります。

 この深刻な国家財政問題は歴代自民党政権の「負の遺産」の側面もあります、いやむしろ現政権はこの不況下で歴代政権の「後始末」をしなければならないというやっかいな難題を抱えているのであります。

 まず、産経社説は社説冒頭で「鳩山由紀夫政権で初めてとなる来年度予算の概算要求は90兆円を超える過去最大規模に膨らむ。概算要求基準(シーリング)の廃止で歳出圧力に歯止めがかからなかったといえる。」と、あたかも自民党時代の政官なれ合いの概算要求基準(シーリング)が廃止されたから、鳩山政権になって概算要求が90兆円を超えてしまったような印象操作をしていますが、これは事実とは違います。

 今年の8月の段階で、つまりまだ自民党政権の時に、すでに来年度の概算要求は92兆という過去最大の数字が出ていました。

 別に民主党政権に変わらなかったとしても自民党政権でも来年度予算概算要求は過去最大だったのです。

 8月31日付け朝日新聞記事から。

10年度概算要求、最大の92兆円 民主、やり直し明言

2009年8月31日16時6分

 10年度政府予算の概算要求で、一般会計の総額が09年度当初予算比約3兆5800億円増の約92兆1300億円に上る見通しになった。社会保障費や国債の元利払いが増え、概算要求額は初めて90兆円を超えて過去最大となる。ただ、民主党は概算要求のやり直しを明言しており、予算編成の見通しは不透明だ。

 概算要求は毎年、各省庁が来年度の必要額をまとめ、財務省に提出するもので、今年は31日が締め切り。

 一般歳出の総額は、すでに同9400億円増の52兆6700億円に膨らむことが決まっていた。加えて、国の借金の元利払いにあたる国債費の要求額が、10年度の想定金利を2.5%と高めに見積もったことなどから、同1兆6721億円増の21兆9158億円となった。地方交付税交付金も地方の税収見通しが厳しく、同9695億円増の17兆5428億円に膨らんだ。

 例年なら概算要求を受けた財務省が年末の予算編成に向けて査定を始めるが、菅直人民主党代表代行は30日に「(首相の)麻生さんは概算要求を止めるべきだ」と言及している。

http://www.asahi.com/politics/update/0831/TKY200908310208.html?ref=reca

 考えてもみましょう、収入(税収)が40兆しかないのに、その半分以上(22兆円)を今までの借金返済(国債費)にあて、また地方交付税に17兆5000億が必要なんです、税収だけでは国債費と地方交付税で消えてしまうのです、それだけで国家予算はゼロになってしまう深刻な財政状況なんです。

 このような財政破綻状況でしかも不況対策政策も織り込むとなれば、実は自民党だろうが民主党だろうが誰が予算編成するにしろ、赤字国債依存は避けられません。

 概算要求90兆超え、この問題は産経社説がいう「概算要求基準(シーリング)の廃止で歳出圧力に歯止めがかからなかった」などという鳩山政権由来の軽い問題ではないのです。

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 なんでもかんでも鳩山政権のせいにしてはいけません。

 現在の国家財政が極めて深刻なのはその通りですが、それは歴代自民党政権の無策のいわば「負の遺産」であることは、この問題を時系列で考えれば自明であると思います。



(木走まさみず)