木走日記

場末の時事評論

スマートフォン時代に追いつけなかったかわいそうなエルピーダメモリ

 エルピーダメモリは27日夕、会社更生法の適用を東京地裁に申請したと、発表いたしました。

 負債総額は前年度末(昨年3月末)時点で4480億円、製造業の企業としては、過去最大の経営破綻となり、今後はスポンサー企業を探して再建の道を探ることになります。

 エルピーダメモリの破綻は「日の丸半導体」の終焉などとメディアで騒がれており、ネットでもそもそもコモディティ化したDRAM市場には日本に勝機など無かったといった批判があがっています。

 まあ結果論として各論があって当然でしょうが、私のクライアント会社のクライアントがエルピーダメモリと取引していた関連で少し情報を持っていますのでそのあたりを開示しながら少しばかり角度の違った分析をしておきたいです。

 メディアなどでは今回の破綻の直接の要因は、超円高とDRAM市場価格のこの一年での暴落(一年前の1/3)、タイ洪水などの悪条件が重なったため、業績が急激に悪化したのだとの説明が主流ですが、それはそれとして本質ではないと私は考えています。

 まずPCの主記憶用のDRAM市場価格は確かにPC売上急減に伴い前年同月比で1/3にまで急落しましたが、一方のIPhoneやアンドロイド機などスマートフォン用の高性能DRAMは十分収益を上げられる価格を維持していますが、エルピーダメモリの生産ラインは一年前もそして今も過半数が旧来のPC用DRAM生産ラインのままでスマートフォンの爆発的な需要を吸収できていなかったのが一番致命的な要因であります。

 現にDRAM市場シェアトップの韓国サムスンは、主要な製造ラインをスマートフォン用の高性能DRAMに次々に設備投資して置き換え、この一年でも45%超とシェアを拡大しつつ、DRAM事業においても10%を超える収益を上げています。

 かつて日本企業がシェア8割を超えていた80年代には、大型汎用機用のDRAMが中心であり、その製造ラインではアナログ的な日本の匠の技術と厳しすぎるともいえるその製品品質管理において、世界に日本企業の敵はいませんでした。

 やがて90年代に入りパソコン普及期になると、パソコン用DRAMが中心になり韓国や台湾の企業が台頭してきます。

 この時代になると大量生産のために、製造工程のデジタル化(IT化)が計られ、DRAM製造工程において、アナログ的な日本の匠の技術は必要なくなり、どこの国でも製造できる技術となり一気にコモディティ化が進むのです。

 日本は先行優位の中で、DRAM市場の、対象ハードが大型汎用機からパソコン(高品質管理が必要ないそれよりも価格優位の市場)へと劇的変換する動きに、大きく対応が遅れたのです。

 また先行する日本企業が主導した製造工程のデジタル化(IT化)は匠の技術を不要とし、どこの国でも投資すればDRAMが生産できるというDRAM市場のコモディティ化を促し、結果として皮肉なことに日本企業のシェアダウンをもたらしたわけです。

 そして今日、DRAM市場の対象ハードが、PCからスマートフォンへと新たな劇的変換の時期を迎えて、残念ながらエルピーダメモリは完全に、対応の遅れをとってしまったのです。

 ここ数年財政難のエルピーダメモリが設備投資しづらかった面はあるでしょうが、それは言い訳になりません。

 2年前、当時の最新のipadの中身の部品は半分近くがすでに韓国製で占められていました。

 当時の当ブログでその事実をレポートしています。

2010-04-09 最新iPadの中身は半分メードインコリア
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20100409

iPadの16GBモデル、製造原価パーツ供給国別内訳表

価格
韓国 122.55ドル 48.9
台湾 51.00ドル 20.3
米国 14.75ドル 5.9
ドイツ 2.10ドル 0.8
その他(不明) 60.20ドル 24.0
合計 250.6ドル 100.0

※台湾には日系企業含みます。

 エルピーダメモリの破綻は、確かに低価格でコモディティ化した市場ではもはや日本の製造業は競争力を失いつつあることを示しているのでしょう。

 ただ、中長期的戦略の欠落が破綻に拍車を掛けただろう事実は見逃してはいけないと思います。

 スマートフォン時代に追いつけなかったかわいそうなエルピーダメモリなのであります。

 ビジネスにおいて、人も企業も「かわいそう」と評価されたらおしまいです。



(木走まさみず)