日本から見ればTPP市場はアメリカが85%である事実
TPP参加はアジア・太平洋地域の成長を取り込み、日本企業の国際競争力強化に役立つ。
(「TPP 首相は参加決断の時だ 根拠なき不安の払拭に全力を」26日付け産経新聞社説より)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111026/plc11102603010000-n2.htm
日本がTPPに参加する目的としてよく「アジア・太平洋地域の成長を取り込」むと言われていますが、実際のTPP市場はどのような規模になるのでしょうか。
まずIMF報告から2011年のTPP参加9カ国および日本のGDPを比較してみましょう。
■表1:TPP9カ国+日本のGDP比較
国名 | GDP(単位:10億ドル) |
アメリカ | 15064.82 |
日本 | 5855.38 |
オーストラリア | 1507.40 |
マレーシア | 237.96 |
シンガポール | 222.70 |
チリ | 203.32 |
ペルー | 152.83 |
ニュージーランド | 140.43 |
ベトナム | 103.57 |
ブルネイ | 13.02 |
合計 | 23501.43 |
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2011/02/weodata/index.aspx
確かに、23兆5000億ドルという巨大な市場が誕生いたしますが、実はアメリカと日本だけで9割を占めており、中国もインドも参加しないこの市場では、「アジア・太平洋地域の成長を取り込」むことはできないのは自明です。
■図1:TPP9カ国+日本のGDP比較
日本が参加すると仮定してアメリカから見たTPP市場はどうでしょう。
■図2:アメリカから見たTPP市場
ご覧のとおり、日本が69%を占めています。
日本から見たTPP市場ではもっと極端になります。
■図3:日本から見たTPP市場
日本から見ればTPP市場はアメリカが85%占めているのです。
つまり、TPPに参加してアジアの成長を取り込むことなどまったくできません。
TPPとは、実質的に日米貿易協定なのです。
そして、アメリカ、日本、豪州以外の7カ国は国内市場が小さく貿易依存が高い国が多いのです。
TPP参加9カ国および日本の貿易額と貿易依存度を表にしてみました。
■表2:TPP9カ国+日本の貿易額と貿易依存度
国名 | 輸出額(単位:10億ドル) | 輸入額(単位:10億ドル) | 貿易依存度(輸出) | 貿易依存度(輸入) |
---|---|---|---|---|
アメリカ | 1056.750 | 1605.300 | 7.0% | 10.7% |
日本 | 580.719 | 550.550 | 9.9% | 9.4% |
オーストラリア | 153.884 | 165.470 | 10.2% | 11.0% |
マレーシア | 157.484 | 123.693 | 66.2% | 52.0% |
シンガポール | 269.832 | 245.785 | 121.2% | 110.4% |
チリ | 51.963 | 41.364 | 25.5% | 20.3% |
ペルー | 26.885 | 21.006 | 17.6% | 13.8% |
ニュージーランド | 24.931 | 25.578 | 17.8% | 18.2% |
ベトナム | 57.096 | 69.949 | 55.1% | 67.5% |
ブルネイ | 106.600 | 26.000 | 818.8% | 199.7% |
グラフにしてみます。
■図4:TPP9カ国+日本の貿易額
「青」が輸出「ピンク」が輸入を表していますが、一人アメリカの貿易赤字が突出していることを留意してください。
今度は貿易依存度をグラフ化してみます。
■図5:TPP9カ国+日本の貿易依存度
アメリカや日本が国内市場が大きいため、貿易依存度(GDPに占める貿易額の割合)も10%以内ほどですが、小国ほど貿易依存度が高くなり、シンガポールやブルネイでは100%を越えているわけです。
TPPに仮に日本が参加してもアメリカ以外に輸出を伸ばせる可能性のある国はないのが実情です。
そしてそのアメリカは現在不況の真っ只中であり、オバマ大統領は今後5年間でアメリカの輸入を減らし輸出を倍増させ貿易赤字を解消することを公言しています。
以下のWSJの記事でも確認できます。
オバマ米大統領、今後5年間での輸出倍増計画の詳細示す
http://jp.wsj.com/Economy/Global-Economy/node_40942
・・・
中国やインドや韓国・インドネシア・タイなどアジア主要国が参加しないTPPでアジアの成長を取り込むことは不可能です。
日本が輸出を伸ばせる市場はアメリカ以外には見当たりません。
そしてそのアメリカは国策としてオバマ大統領が5年間で輸出を倍増する計画を立てています。
今数字で検証したとおり、TPPとは実質的に日米貿易協定なのです。
そしてアメリカの狙いはズバリ日本市場の開放にあります。
オバマ大統領の計画によれば輸出を倍増できればアメリカ国内に200万人の雇用機会を創出できるとしています。
輸出を倍増するためには、通貨ドルを徹底的に安くし、同時にアメリカ産や製品に対して海外市場をどんどん開放する環境が必要です。
通貨対策では円高ドル安に成功していますが、アメリカの真の狙いは中国通貨元の切り上げにあることは間違いないでしょう。
アメリカの戦略は円高ドル安を維持しつつTPPで日本市場を開放して対日輸出を急増、同時に経済的中国包囲網を構築し元切り上げ圧力を強めることだと思われます。
では、日本政府はどのような構想でTPPに参加しようとしているのでしょうか。
「バスに乗り遅れるな」という論調は良く聞きますが、バスの行き先を確認したほうがよろしいのではないでしょうか。
世界経済から見ればアメリカが貿易赤字解消を目指すことはけっこうなことです。
ただある国が黒字化して貿易赤字を解消するならば黒字だった国が赤字に転落することを意味します。
アメリカの日本に対する強い働きかけ、TPPとは実質的に日米貿易協定に他ならないこと、アメリカの戦略が輸出倍増であること、これらを慎重に考慮すべきです。
今TPP参加を急ぐ必要はないと思います。
(木走まさみず)