木走日記

場末の時事評論

経団連にだまされるな!〜TPPは大企業のみが肥え太るだけだ

 25日付け毎日新聞記事から。

TPP:交渉「途中離脱あり得ぬ」 経団連会長が批判

 経団連米倉弘昌会長は24日の会見で、日本が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に参加した後でも途中で離脱できるとの見方を藤村修官房長官が示したことについて「離脱という表現は不穏当」と批判した。その上で「交渉途中の離脱はあり得ない。日本として国益にかなうかどうかは(協定を批准する段階の)国会の議論で決めればよい」と述べた。

 さらに米倉会長は「国内農業(の存続)とTPP(交渉への参加)が二者択一のように議論されるが、両方やらなくてはいけない。日本の農作物は品質が高く、大規模化でコストを下げていくべきだ」と交渉参加の必要性を改めて強調した。

 一方、政府の国家戦略会議に民間メンバーとして参加することに関連しては「自民党政権時代の経済財政諮問会議はいろんな省庁の(利害)対立があって大変だったと聞いている。(戦略会議は)そういうことがないように国民にとって何が大切かという観点から議論したい」と表明。取り上げるべきテーマとして、成長戦略の策定や、税と社会保障の一体改革、TPP問題などを挙げた。【川口雅浩】

毎日新聞 2011年10月25日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/biz/news/20111025ddm008020126000c.html

 経団連米倉弘昌会長がTPP交渉に関して、「離脱という表現は不穏当」と藤村修官房長官の発言を批判、「交渉途中の離脱はあり得ない。日本として国益にかなうかどうかは国会の議論で決めればよい」と吼えたそうであります。

 日本としての利益ですか、どの口が国益などというのでしょう、経団連の利益のため、すなわち米倉会長率いる住友化学はじめの輸出大企業の経営者と株主の利益のため、の言い間違いではないのですか。

 一歩譲って経団連が主張するところのTPP参加が、輸出産業を中心に日本の経済にプラスに働くといたしましょう。

 仮にそうだとしてもデフレを脱却しない限り日本国民の生活はますます苦しくなっていくだけです。

 TPP参加で輸出産業に利益が生じたとして日本のGDP成長率が多少上向いたとしても、その利益は企業経営者と株主には還元されますが、その他はすべて企業内で内部留保されるだけで、国民には一切還元はされません。

 断言しますが、経団連会長は「日本のため」などまったく考えていません。

 このタイミングでのTPP参加は一部大企業だけが甘い汁をすい、国民の利益にはまったく繋がりません。

 輸出産業が牽引してGDP成長に少し成功したとしてもデフレが続く限り国民の生活はジリ貧ますます苦しくなるだけなのです。

 米倉経団連会長の「TPP参加は日本のため」発言は、ただの大嘘つきです。

 ・・・

 輸出産業の好調で日本のGDP成長率がプラスを維持し好景気とされた2002年から5年9か月の長期に及んだ「いざなぎ超え景気」、このときいったい何がこの国に起こったのか、統計数値で正確に徹底的に検証すれば、輸出産業が牽引した「好景気」とやらの虚しい実態が見えてくるはずです、経団連会長がいかにウソつきなのか事実に基づいて証明しましょう。

 確かに2002年から5年9か月の長期に及んだ「いざなぎ超え景気」で、経団連加盟の輸出産業を中心に大企業は空前の好業績をあげました。

 財務省が公表している「法人企業統計調査」によると、2006年には全産業の経常利益は前年度に比べて5・2%増の54兆3786億円と5年連続で前年を上回り、過去最高を更新いたします。

 財務省「法人企業統計調査」より経常利益推移を表にいたしました。参考までにGDP成長率も付けておきます。

■表1:企業経常利益の推移

経常利益(単位:兆円) GDP成長率(%) 備考
1996年 27.8 2.9  
1997年 27.8 0.0  
1998年 21.2 -1.5  
1999年 26.9 0.7  
2000年 35.9 2.6  
2001年 28.2 -0.8  
2002年 31.0 1.1 いざなき越え景気の始まり
2003年 36.2 2.1  
2004年 44.7 2.0  
2005年 51.7 2.3  
2006年 54.4 2.3 ☆過去最高益
2007年 53.5 1.8 いざなき越え景気の終わり
2008年 35.5 -4.1 リーマンショック
2009年 32.1 -2.4  

 たしかに、2002年から2007年に掛けて、GDP成長率は2%前後で推移、そして企業の経常利益も31兆、36兆、45兆、52兆、そして54兆、53兆と過去最高益も含めて空前の利益が計上されています。

 しかし、この期間、我々一般国民は空前の景気を実感できていたでしょうか。

 答えは「いいえ」です。

 これらの利益はすべて、経営者や株主には還元されましたが後は、企業内で内部留保されたのです。

 日本国内には還元されませんでした。

 国税庁が公表している「民間給与の実態調査結果」から、この同じ時期に民間平均給与がどう推移してきたか、表にまとめてみました。

■表2:民間平均給与の推移

平均給与(単位千円) 対前年伸び率(%) 備考
1996年 4608 0.8  
1997年 4673 1.4  
1998年 4648 -0.5  
1999年 4613 -0.8  
2000年 4610 -0.1  
2001年 4540 -1.5  
2002年 4478 -1.4 いざなき越え景気の始まり
2003年 4439 -0.9  
2004年 4388 -1.1  
2005年 4368 -0.5  
2006年 4349 -0.4 ☆過去最高益
2007年 4372 0.5 いざなき越え景気の終わり
2008年 4296 -1.7 リーマンショック
2009年 4059 -5.5  

 ご覧ください、この期間、1997年の467万8千円をピークに、民間給与は下がり続けています、唯一の例外はいざなぎ越え景気の終わりの2007年に+0.5%と下げ止まったのが一年あるだけです。

 その後のリーマンショックによる不況では前年度比-5.5%、24万も給与が急落しています。

 事実として1998年から2009年の12年間で民間給与は1年の例外(それもわずか0.5%の微増ですが)を除いて下がり続けているわけです、この期間総額で61万4千円も私たちの年収は落ち込んでいるのです。

 まとめとして、ここまでのデータを一つのグラフにまとめてみました。

■図1:企業経常利益と民間平均給与の推移

 ご覧のとおり、輸出産業を牽引役に5年以上続いた「いざなぎ越え景気」で大企業は空前の利益を生み、右肩上がりに経常利益を伸ばしていきましたが、その間も民間平均給与は右肩下がりで落ち込んでいます。

 まったくといっていいほど、この好景気は国民には還元されなかったのです。

 では利益はどこにいったのか。

 経営者の報酬、株主への配当として一部が還元され、後はすべて企業内で内部留保され蓄えられているのです。

 今日本の企業の内部留保は200兆を超える空前の規模に膨らんでいます。

 彼らの「経済合理性」ではこうです。

 デフレの状況にある日本では、年々物の価値が下がっていきます。

 だとすれば何か物に今すぐ投資するよりもお金を使わずもっていたほうが合理的です。

 またグローバル競争のためには「人件費」にお金を回すのは合理的ではありません。

 したがって企業内の内部留保金はどんどん溜まっていくのです。

 これがデフレ下の企業の「経済合理性」なのです。

 ・・・

 経団連にだまされてはいけません。

 TPPは国益などに沿うものではないのです。

 ただ大企業のみが肥え太るだけです。

 安い外国製品が大量に輸入され、庶民はますますデフレ不況にあえぎ続けるだけです。



(木走まさみず)