木走日記

場末の時事評論

破れた秩序破壊者ホリエモン〜この国のマスメディア支配に挑戦した唯一の男

 元ライブドア社長のホリエモンこと堀江貴文被告に対する懲役2年6月の実刑判決が確定する見通しになった。

 堀江元社長はライブドアの2004年9月期連結決算で、経常利益を粉飾した有価証券報告書を提出したほか、関連会社が買収する出版社の価値を過大に評価した虚偽の業績などを発表したとして、証券取引法違反の罪に問われたわけだ。

 この事件は日本の株式市場に深い傷を残し、ベンチャー市場を敬遠する機運が生まれた。

 東京証券取引所マザーズ指数は、事件が起きた06年1月からほぼ一貫して下がり続け、現在までに8割強も下落、企業の新規株式公開は同年の188社から10年には22社へと大きく減った。

 最高裁でその罪が確定したのだから、彼の起こした犯罪について本人の言い分はともかくここではその是非は私は論じない。

 多くの企業の経営コンサルをしてきた立場から申せば、伸びゆくベンチャー企業の財務など、経営者の遵法意識の有無に関わらず大抵の場合アバウトで叩けばほこりが出るのは当然であることを知っているからだ。

 狙われたらアウトだ、ライブドアのケースでは額も派手だし目だちすぎてもいたのだろう。

 しかし事件当時のマスメディアのメディアスクラムを知る者としては、やはり「出る杭は打たれる」感は否めないのである。

 この証券取引法違反事件が検察により突如摘発されたのは2006年1月のことだが、この問題の本質は、ライブドアニッポン放送の株を敵対的買収をしフジサンケイグループと市場にて熱き戦いを演じた3ヶ月、2005年2月にさかのぼり考察しなければ見えてこないと私は思っている。

 ライブドアはなぜニッポン放送の株を狙ったのか。

 堀江氏は日本のマスメディアの最大の悪弊である「クロスオーナーシップ」の醜い状況を突いたのだ。

 当時フジサンケイグループは、そのフジテレビの筆頭株主はグループ内のいち企業で総資産規模もはるかに小さいニッポン放送であった。

 このいびつな構造、資本のねじれ現象で、ニッポン放送フジサンケイグループによって運営され、そのフジサンケイグループはフジテレビが舵取りし、そのフジテレビの親会社がニッポン放送という、でたらめさだったのである。

 つまり小さなニッポン放送を乗っ取ればフジサンケイグループを支配できたのである。

 2月8日午前8時すぎのわずか30分の間に、堀江貴文率いるライブドアの子会社「ライブドア・パートナーズ」が700億円を投じ、東京証券取引所時間外取引で発行済み株式の29.5%を追加取得、ライブドアは取得済みの株式を加えて35%を占める事実上の筆頭株主となった。

 こうして電撃的な敵対的買収行為の幕は切って落とされ、その後3ヶ月に渡り市場における両者の攻防は続くことになる。

 最終局面で両者は和解。結局フジサンケイグループニッポン放送を守り抜き、「クロスオーナーシップ」の悪弊は生き残ったわけである。

 日本のマスメディアがたちが悪いのは、日本のTV、新聞、ラジオが系列下しグループ化しているいわゆる「クロスオーナーシップ」の悪弊のために、TV局は新聞の批判を決してしないし、新聞もTV局の問題を積極的には取り上げないというマスメディア全体がチキン(臆病)になってしまっている点である。

 欧米の先進国の多くでは、言論の多様性やメディアの相互チェックを確保するため、新聞社が放送局を系列化する「クロスオーナーシップ」を制限・禁止する制度や法律が設けられてるのであるが、日本では放置されているのだ。

 その結果、読売新聞と日本テレビラジオ関東産経新聞とフジテレビとニッポン放送といったメディアの系列化が固定され、テレビが新聞の再販問題や押し紙問題を一切報じないことなどに見られるようにメディア相互のチェック機能がまったく働かず、新聞もテレビもラジオも互いの問題点を隠し合うという弊害が生じている。

 この醜い現状をドンキホーテのように風穴をあけようとしたのが堀江氏であったのだ。

 当時私は市民記者をしていたがインターネット新聞に掲載された記事をここに再掲する。

 ホリエモン考〜最適化された秩序破壊者

 同業者の立場から今回のニッポン放送株買収問題をめぐるライブドアVSフジサンケイグループの抗争について評論してみたい。

●堀江氏のIT業界における成功の軌跡

 多くの読者にとって既知の情報もあろうが堀江貴文氏がIT業界の中でどのような軌跡を残して現在のポジションまで登り詰めてきたのかをまず追ってみる。
 彼が東京大学在学中にコンピュータ関係のバイトを始めた頃、バイト先で一人の女性と知り合う。長く交際をした後、彼女の父に600万円を借りて起こしたのが、後のライブドアになる有限会社オン・ザ・エッジである。
 その後、経営参加していた彼女とは経営方針でもめたこともあり袂を分かつことになるが、オン・ザ・エッジ自体のビジネスは極めて順調であり、彼は大学を中途退学し経営に専念することになる。
 やがて株式会社化した後に、現在の彼のビジネスモデルの基幹となる、自社にないノウハウを持つ会社をコンテンツも含めて丸ごと買収するようになる。
 堀江氏が当時から今までに買収してきた企業・コンテンツの数は両手の指では足らないし、その強引な手法で民事裁判沙汰になっていることも昨年来、すでに報道されていることである。有名なところで、『弥生』、『Opera』、『東京グルメ』などなど挙げればきりがないほどの買収商品・買収コンテンツが、現在のライブドアの基幹商品にラインナップされている。
 それはさておき、オン・ザ・エッジからエッジに社名変更した後、昇竜の勢いの彼が次に触手を伸ばしたのが、株式会社ライブドアだった。
 当時のライブドアは、無料プロバイダー事業としてその数年前から始まり、今アップルに行った前刀禎明氏が社長であったが、プロバイダーの選択淘汰・体力消耗の時代を自ら開き、行きづまり、最後はキャッシュアウトして会社ごと売りにでていたのである。
 そこで堀江氏は、当時もうひとつの昇竜の勢いで業績を伸ばしていた独立プロバイダー会社である株式会社ゼロの西久保慎一社長にライブドア買収の話を持ち掛けるが、最終的には西久保氏を裏切る形で、単独で5億円でライブドアを買収、ここに現在のライブドアが誕生するのである。
 余談だが、西久保氏は、足の引っ張り合いになったIT業界からさっさと足を洗い航空業界という別の業種に足を踏み入れ、現在スカイマークエアラインズの社長を務めている。
 このあたりの事情は、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所非常勤講師の吉田望氏がくわしいのだが、その吉田氏がホリエモンロビンソン・クルーソー仮説という興味深い分析をしている。ほりえもんマックス・ウェーバーの言うところのバーリア・キャピタリズム(賎民資本主義)の人であり、彼がこの無謀な航海の顛末(買収失敗)によって心を入れ替え、無人島(元々の本業)で倹約・勤勉に励むというオチを予想している。
 しかし、同業者として言わせてもらえば、おそらく停滞する現代日本の中で最も過当なサバイバル競争のただ中にあるIT業界でその淘汰に勝ち残り勝利を得てきた数少ないアクターが堀江氏なのである。彼が「倹約・勤勉に励む」ことはそのビジネス的生い立ちからして、同業者としては考えられない。

●弱肉強食のIT業界とぬるま湯の放送業界

 私がオン・ザ・エッジ時代に堀江氏のもとで働いていた人物に聞いた堀江人物評がよく彼の人となりをあらわしていると思う。
「彼は有能な経営者であり策士であり、評価されるべき人物であることは間違いないと思うよ。ひどい人間ではなくて、彼の行動の原動力、キーワードは『オプティマイズド・最適化』だと思う。最適化された環境を提供して顧客ニーズをつかむ、そのためにあらゆる手段を講じる。彼の行動は彼なりにクリティカルであり、利用できる資源を最適化しつつ活用しているんだ」
 弱肉強食・適者生存のIT業界を風雲児のように、戦い続け・勝ち続けてきた堀江氏らしい行動原理である。
 そのような彼が全く異質の放送業界になぐり込みをかけたわけである。
 インターネット市場は参入障壁が無い、厳しい自由競争ルールの世界であり、これは免許事業というぬるま湯で既得権益を享受してきた放送業界とは全く異なっているのである。かたや、明日会社が存続できなくなるかもしれない生存競争を繰り広げる業界と、かたや、ライバルもなく30才で年収1000万円を越える競争力皆無のぬるま湯業界である。
それこそ、ゴールドラッシュ当時の寒風吹きすさぶ荒野をゴールドを目指し突き進む一攫千金を狙う荒くれ集団と、宮殿でみやびにかつのんきに晩餐会を繰り広げている貴族の集団ぐらいの差なのである。

●2分される世論

 堀江氏の評価は、彼を既得権益でぬるま湯に浸かっていた日本の放送業界の悪しき秩序を破壊し風穴を開けようとしている反体制の旗手とみなすか、それとも、わがままな常識はずれの成り上がり者と見なすかで、分かれているようである。
 しかし、ビデオジャーナリスト・ビデオニュース代表の神保哲生氏ものべているように、今まで一人も反逆してこれなかった既存メディアにたいし、そして、彼らの既得権益をここまで根底から揺さぶっている人物は、今までこの日本には誰一人いなかったことだけは事実なのである。
 同業者として必要以上に彼を偶像化したくはないが、しかし既成概念にまったく捕らわれない堀江氏でなければ今回のような行動はとれなかったのだろう。
 彼は最適化した環境を得るためには、既存秩序を破壊することもいとわない破壊者である。しかもただの破壊者ではない。彼自身厳しい弱肉強食・適者生存のITサバイバル競争の中で自らを進化させ最適化してきたのである。
 堀江氏は最適化された秩序破壊者である。
 その評価は、読者がこの問題を考察する際に破壊される側にたつか、破壊する側にたつかで2分されるのであろう。

 堀江氏の功罪はしっかりと語られるべきだろう。

 だが、堀江氏がこの国のマスメディアのクロスオーナシップに最初に挑んだ(そしておそらく最後の)挑戦者だった事実は重く受け止めたい。

 私は堀江氏は秩序破壊者であったと今も思っている。

 そして、「その評価は、読者がこの問題を考察する際に破壊される側にたつか、破壊する側にたつかで2分されるのであろう」という記事の結語の思いは、今も変わらない。

 結果的に彼は日本のメディアの問題点を多くの国民に知らせてくれたのである。

 今、この国の体制はこの「ルールを守らない」秩序破壊者を刑務所に送る。

 この後も、彼らはただ既得権益を守ることに汲々し、出る杭を打ち続けることだろう。

 今日の日本経済の閉塞感に自分たちが荷担していることも気付かずに。



(木走まさみず)