木走日記

場末の時事評論

日本の不幸〜矢面に立たないリーダー達

 23日付けブルームバーグ(日本語版)記事から。

原発作業員、震災後初の温かい食事−小名浜港停泊の「海王丸」で

 3月23日(ブルームバーグ):東京電力福島第一原子力発電所で復旧作業にあたっている数十人の技術者が、航海練習帆船「海王丸」(全長110メートル)の船上で、震災後初めて温かい食事を口にし、ベッドで睡眠をとった。海王丸は21日、津波の被害を受けた小名浜港に入港した。
海王丸の一等航海士、外谷進氏は40人以上の乗組員とともに、食料がなくなるまで停泊すると語った。小名浜港福島第一原発から南約50キロメートルに位置する。
 原発で作業にあたっている52歳の男性エンジニアは23日朝、海王丸で一夜を過ごした後、「皆、本当に頑張っている。迷惑をかけて大変申し訳ないが、状況は回復しつつある。早く日本の皆が安心できるように全力を尽くす」と語った。
  5、6号機でオペレーションを統括する東電勤務30年の同エンジニアは、地震発生時は自宅にいたが、地震後すぐに原発に向かったという。
22日は計21人の作業員が海王丸で休んだ。現場の作業員は、震災以降、食事はカップめんなどの即席食品、睡眠は原発の床の上という日々が続いていた。
外谷氏によると、21日には作業員20人が海王丸で休息、23日も約20人が到着する。
22日の海王丸での食事はカレーと新鮮な野菜。外谷氏は、「私達の一番のミッションはこの地域の人々と、眠らずに働いている原発関連の方々に少しでも休んでもらって、温かい食べ物をとってもらうこと。力になりたい」、「仕事の話は聞かないようにしている。ただでさえ過酷な現場。そこから解放されることが大切」と話した。
原題:Exhausted Nuclear Workers Find Bed, HotFood on Japan Schooner

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920008&sid=a.wW.S20HPYc

 「皆、本当に頑張っている。迷惑をかけて大変申し訳ないが、状況は回復しつつある。早く日本の皆が安心できるように全力を尽くす」(52歳男性エンジニア)

 過酷な現場にて、ほとんど眠らずに働いている原発関連の方々には本当に頭が下がります。

 決死の作業を続けているにもかかわらず、「迷惑をかけて大変申し訳ない」と国民に謝罪するこのエンジニアのコメントには、その気遣いに感じ入るとともに、彼らが謝る筋合いではない、本当に国民に謝罪すべきは東京電力の社長をはじめとする幹部達だと、思わずにはいられませんでした。

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 スタジオジブリ宮崎駿さんが初めて監督をしたアニメ「風の谷のナウシカ」(1984年)はご存知の通り大ヒットしたわけですが、映画の制作を終えたとき宮崎さんは「もう二度と監督はやりたくない」と親しい人に愚痴を言ったそうです。

 理由を聞かれて「友人を半分失ったから」と答えたそうですが、リーダーの厳しき責務をよく現すエピソードだと思います。

 一般論ですが、全ての部下から好かれるリーダーなど見たことはありませんし、おそらくはそんな甘いリーダーでは組織は持たないでしょう。

 組織全体の利益を守るためにはリーダーはときに部下に厳しく接しなければなりませんし、必ずしも部下達の意とは反する指示を出す必要も必ずあります。

 まして宮崎駿さんのような叩き上げ技術屋のような職人タイプがリーダーになると作品に対する妥協は絶対にしないだろうし、自身の基準を部下にも厳しく守らせようとしたでしょう、当然ながら何人かは反発をしそれまで良好だった人間関係がぎくしゃくしたのでしょう。  

 アニメ映画作品作りは興行収入という結果が全てでありその責はすべて監督が負うのですから、成功すべく監督が全精力を傾けて組織を引っ張っていくのは当然です。

 もし宮崎さんが部下に嫌われまいとなあなあで妥協をしていたならば、あの名作は生まれていなかったことでしょう。

 結果を出すためには、組織のリーダーは全責任を背負う覚悟のもとで部下を統率しなければなりません。

 そこには妥協の余地はない。

 結果、リーダーはえてして組織内で孤独なのであります。

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 昔プロ野球のある監督経験者が「勝ち試合は選手がヒーローであり、負け試合は全て監督の責任」と喝破されていましたが、これこそが組織論からみた理想のリーダー像であります。

 組織論で言わせてもらえば、順風のときのリーダーは黙って部下を統率していればいいのであり外に対して別に目だつ必要はないけれど、危機の時には全責任を負い組織を守るために外に対して前面に立たねばならないのです。

 逆風に晒されてしまったときこそ全責任を負って前面にたつのがリーダーのつとめであります。

 東京電力清水正孝社長。

 どうした? どこにいった?

 この大惨事に、当事者である東京電力の社長が国民に対峙しないのはなぜなのか?

 震災が起きて2週間、最初で最後の会見になった13日の会見から12日間、なぜなにも語らないのか。

 驚くべき責任回避であります。

 リーダー失格であります。

 日本国のリーダーである菅直人内閣総理大臣も最近見ませんが、2回ほど語った「国民へのメッセージ」はその後どうした?

 危機のとき、矢面に立たない、前面に立たないリーダーなどリーダー失格であります。

 これは日本の不幸です。



(木走まさみず)