木走日記

場末の時事評論

国民よ怒れ!〜東電ステークホルダーたちを救済し消費者・国民にだけ責任を取らせる民主党政権の暗愚な東電救済スキーム

 6日付け朝日新聞記事から。

東電、来春から15%値上げ検討「火力発電増やすため」

 東京電力が来春から15%程度の電気料金の値上げを検討していることがわかった。福島第一・第二原子力発電所は事故などの影響で今後も停止が見込まれ、代わりに火力発電を増やすことが理由。仮に15%値上げなら、標準家庭で月7千円弱の電気料金が、1千円ほど増える。

 電気料金は毎月、燃料費調整制度で原油価格や為替の変動を自動的に反映している。今回は、これとは別の本格改定となる。値上げに必要な経済産業相の認可には公聴会の審査などで数カ月かかる。

 東電は従来、発電電力量の3割ほどを原発に頼ってきた。これが福島第一・第二の停止で、当面はほぼ半減が見込まれる。その分は液化天然ガス(LNG)の火力発電を中心に増やさざるを得ない。燃料費の増加分は年1兆円規模とされ、値上げは避けられないと判断した模様だ。

 ただ、値上げには企業や家庭に抵抗感が強く、政府は前提として東電に資産売却や経費削減などのリストラを求めている。政府関係者も「安易な値上げは認めない」としており、実際に15%程度の値上げができるかは不透明だ。

 東電は、10月中にもつくる「特別事業計画」に値上げの必要性を織り込むことを想定している。

http://www.asahi.com/business/update/0905/TKY201109050641.html

 15日付け読売新聞記事から。

増税案決定「週内に」
政府税調 法人税は3年限定

 政府税制調査会(会長・安住財務相)は14日開いた非公式の懇談会で、復興財源に充てる税目について議論し、「所得税法人税と連動する地方税」が最有力となった。(鎌田秀男)

 政府・与党は今後、全体の増税額や税率、増税の開始時期や期間などを詰める方針だ。

 懇談会では、委員から「税外収入を極力上積みすべきだ」と増税規模の縮小を求める意見や、「増税の開始時期、復興債の償還期間を遅らせる選択肢はないのか」と増税の先送りを促す声も出たが、所得税法人税の臨時増税を軸とする方向は大筋で容認された。

 懇談会後に記者会見した五十嵐文彦財務副大臣は、増税の複数案の正式決定について「今週中を目標にしたい」と明言した。

 所得税については、税額を一定の率で増やす定率増税を実施する方針だ。仮に5%増税なら、納税額が100万円の人は5万円、納税額10万円の人は5000円、それぞれ負担が増える仕組みだ。

 政府税調は「10%の定率増税を5年間」「5%の定率増税を10年間」の2案を検討している。いずれも計7兆円弱の増収となるが、税調内でも「1年ごとの負担を軽くするべきだ」との意見があり、増税幅を下げて増税期間を10年以上に延ばす可能性もある。

 法人税は、2011年度税制改正法案に「実効税率5%引き下げによる減税」と「企業向け優遇税制の課税対象拡大による増税」が盛り込まれており、差し引きで年間0・8兆円の減税となる見込みだったが、野党の反対で法案は成立していない。

 政府税調は、この減税・増税の双方を実施した上で、3年間に限って差し引きの減税分を上回らない範囲で法人税を臨時増税し、計2・4兆円程度を復興財源に充てる考えだ。企業全体でみれば、減税が3年間先送りになるものの、当面の負担は増えないことになる。

(後略)

(2011年9月15日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20110915-OYT8T00366.htm

 朝日記事によれば「東京電力が来春から15%程度の電気料金の値上げを検討している」とのことであり、その理由は「福島第一・第二原子力発電所は事故などの影響で今後も停止が見込まれ、代わりに火力発電を増やすこと」だそうです。

 また読売記事によれば、政府税調は「復興財源に充てる税目について議論し、「所得税法人税と連動する地方税」が最有力となった」模様で、所得税では「10%の定率増税を5年間」「5%の定率増税を10年間」の2案を検討、法人税に関しては「減税・増税の双方を実施した上で、3年間に限って差し引きの減税分を上回らない範囲で法人税を臨時増税し、計2・4兆円程度を復興財源に充てる考えだ。企業全体でみれば、減税が3年間先送りになるものの、当面の負担は増えないことになる」とあります。

 まず15%程度の電気料金の値上げの件ですが、原発を稼動できない分、火力発電を増やすので燃料費がかさむとの理屈は理解します。

 どの道これだけの規模の放射能汚染事故です、膨大な賠償金や汚染土壌の除染費を考えればいずれ利用者負担は避けれないでしょう。

 また復興増税に関しても未曾有の規模の大震災であり国難と表現してもいいでしょう、東北地方の復興のための増税世論調査によれば過半数の国民が理解を示しています、期間限定で所得税を定率増税をするのも、逆進性の強い消費税増税よりは現実的な案でありましょう。

 しかしちょっと待っていただきたい。

 大震災からの被災地復興と原発事故による放射能汚染問題への対応は明確に区別すべきです。

 広く平等に利用者や国民が負担するとするこれらの記事には、恐ろしいモラルハザードが隠されています。

 「広く平等」に責任を取ることで免れてようとしている当事者たちの重い責任の問題です。

 原発事故による放射能汚染で生じている被害に対する賠償費用や原状回復に掛かる費用は、ひとえに当事者である東京電力が責任を取ることは当然であるにもかかわらず、民主党政権は「国」の責任で東電をつぶれぬように守り必要に応じて国費を投入するというとんでもない暗愚の東電救済スキームを作ってしまいました。

 「国」の責任、国費の投入、これすなわち血税による国民への責任転嫁に他なりません。

 一般に企業が問題を起こした場合、その企業の利害関係者、いわゆるステークホルダーの責任が問われます。

 経営陣、投資家(株主)、債権者、従業員(社員)、顧客(消費者)、取引先、広義には、地域社会、社会、政府・行政・国民
が含まれます。

 現時点で電力値上げという形で東京電力の顧客(消費者)、増税という形で政府・行政・国民の負担が「平等」という美名のもとで決められようとしていますが、消費者・国民より当然より重く負担すべきはずの肝心の経営陣、投資家(株主)、債権者、従業員(社員)たちの責任はどこへいったのでしょうか。

 今回の電気料金値上げで東京電力は半減した社員の賞与を元の水準に戻すことを検討しているとの情報もあります。

東電ツラの皮厚すぎ〜!国会、報道、原発作業員に噴飯対応
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110914/dms1109141147008-n1.htm

 また清水正孝前社長は引責辞任のかたちにはなってはいますが、約5億円の退職金を受け取ったとされているうえあらゆる問題は放置のままです、責任放棄のただの敵前逃亡でしかありません。

 経営陣、投資家(株主)、債権者、従業員(社員)は、当然ながら国民よりも重い責任を有しているはずです。

 東京電力は破綻するべきです。

 投資家が所有する東電の株券は紙切れになりましょう、債権者である金融機関は債権放棄となります、これら東電で利益を得てきたステークホルダーたちがリスクを負うのは当然なのです。

 破綻処理をして資産を整理縮小、人件費も圧縮、1円まで搾り出しその金額は賠償費用に当てさせればいいのです。

 経営陣、従業員も応分の負担を負うべきです。

 その上で、それでも足らない分をはじめて消費者・国民が広く負担するべきです。

 そんなことをしたら日本経済が混乱する、電力の安定供給ができなくなるといった意見が経団連などからありますが、JAL破綻の前例があります、経済は混乱しませんし、飛行機の運用も何も支障はでませんでした。

 今問われているのは、原発事故を起こし広範囲の放射能汚染により国土に取り返しのつかないキズを付け、海洋汚染を含め国内外からの膨大な賠償請求が予想されるこの重大な問題を起こした企業の、その責任を消費者・国民以外のスーテクホルダーが誰一人責任を負わず逃げおおそうとしていることです。

 また原発事故で放射能を撒き散らした企業をその責任追及もなさずただ国が延命するという行為は内外に間違ったシグナルを送っていることを政府は気づくべきです。

 「放射能を漏らしてもつぶれない」「責任を問われない」ということがあってはなりません。

 そして復興増税による財源確保はよしとしても、その中で純粋な地震津波からの復興支援策と、放射能事故由来の土壌洗浄等費用は明確に仕分けする必要があります。

 放射能事故由来の費用に関してはあくまでも第一に東京電力負担という原則を曲げてはいけません。

 その費用に税を投入する前に、責任をしっかり取らせる必要があります。

 あらためて、電気料金値上げや税投入の前に、東京電力は破綻するべきです。

 東京電力の経営陣、投資家(株主)、債権者、これら重要なステークホルダーの責任追及無しに、消費者や国民が平等に負担する、このようなモラルの無い不平等を認めてはいけません。

 民主党政府によるこの東電救済スキームは愚かで間違っています。

 この不平等に国民は怒るべきです。



(木走まさみず)