木走日記

場末の時事評論

あと何年で全原発を廃炉するのかいくつか試算してみる

・はじめに

 2012年4月9日現在、日本の実用発電用原子炉54基のうち、稼動しているのは北海道電力泊原子力発電所3号基のみであり、全原発の発電能力4884.7万kwのうち91.2万kwを発電しているのに過ぎず、原発稼働率は1.8%にまで落ち込んでいます。

 残る泊原子力発電所3号基も5月5日の停止が決まっており、実質来月にはこの国の全原発が稼動停止となります。

 その中で民主党政権関西電力大飯原発の再稼動に必死です。

 しかしながら、現在関電管轄の原発11基1076.8万kwすべてが停止しているにもかかわらず、関西電力において、電力は不足していません。

 もちろんこれから夏場において今以上に電力需要が逼迫するのは必定ですが、ではどのくらい不足するのか情報開示がないのはなぜなのでしょうか。

 過去の数値から、平年並みの気温の夏だったらこれくらい、冷夏ならこれくらい、猛暑ならばこれくらいの需要が見込まれる、原発が再稼動しないと、これこれの電力が不足だから、少なくとも何万kw分は原発を再稼動しなければならない。

 このような具体的情報がぜひほしいのです。

 そこで今回は政府が公表している正確な数値情報に基き、日本の電力供給の実情をできうる限りの検証を行い、その上でこれからの電力政策について、4つのケースに分けてシミュレーションをしたいと思います。

 読者の皆さんに本件に関してひとつの判断材料となればとの思いから試算いたしますが、本来ならば政府やあるいはマスメディアが国民に示すべき情報だと思います。

 なお、なにぶんにも一個人がエクセルやマクロプログラムで突貫で試行したシミュレーションであることをあらかじめご了承ください。

 あくまでも参考資料としてお読みください。

 ・・・



・現状分析(経済産業省資源エネルギー庁統計情報)

 現状の動力別月別の発電実績を徹底検証いたします。

 用いたデータは経済産業省資源エネルギー庁統計情報サイトでダウンロードできる各エクセルファイルです。

経済産業省資源エネルギー庁 統計情報・電力調査統計・集計結果又は推計結果
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/denryoku/result-2.htm

 ここから2年前・2010年4月から今年の1月までの動力別月別発電実績をまとめます。
 
■表1:動力別月別発電実績(2010.4〜2012.01)

年月 水力 火力 原子力 風力 太陽光 地熱 バイオマス 廃棄物 合計(単位:1000kWh)
2010.4 7811251 38350538 23516456 3000 31 217060 117986 25150 69898336
2010.5 8296524 35880131 22564874 2356 36 236205 137288 31169 66980126
2010.6 7988666 40458634 23249050 1549 29 201119 137000 15016 71899047
2010.7 9295049 49057896 25424987 1573 32 203807 129975 28739 83983344
2010.8 7631681 56258290 25495910 1226 37 213430 129594 31079 89600574
2010.9 5765970 49755684 23458728 2073 53 205172 146909 30804 79187680
2010.10 4903093 39890985 26257416 2326 230 184914 132944 19146 71238964
2010.11 4362275 41846867 25070660 2334 388 180049 143321 20535 71462573
2010.12 5045776 48794213 24673973 18839 480 218973 145634 20604 78752254
2011.1 4560123 56902873 24035068 25585 736 215049 146913 19338 85739434
2011.2 3807001 47140637 23247122 13828 778 191715 150168 11917 74401081
2011.3 4707337 48930694 21236236 18017 1701 201982 156979 18962 75095967
2011.4 5381370 40889152 17958995 18122 1873 191481 134074 17508 64440993
2011.5 8257886 41726922 14883021 14804 1360 201972 141086 22490 65085965
2011.6 8587049 47388836 12959092 9392 1509 200380 140148 14325 69146258
2011.7 8041009 56213067 12347034 9948 1908 219707 158984 3373 76832673
2011.8 7389829 60277920 9632356 7822 3228 209233 177760 25092 77520388
2011.9 7705798 54716145 7261450 8998 3008 200884 145133 24405 69896283
2011.10 5243659 53057733 6724816 12854 2991 197122 165417 21722 65239175
2011.11 4352731 54375033 7092409 14154 3427 201338 138428 18900 66039092
2011.12 4605428 65367650 5549686 23224 4319 229324 150868 18921 75779631
2012.1 3941592 70605753 3744171 21745 5078 224468 147493 18306 78542807

 グラフ化いたします。

■図1:動力別月別発電実績(2010.4〜2012.1)

 グラフを見ていただければ一目ですが、日本の場合、水力、火力、原子力の3大動力で99%以上を占めており、残念ながら現状では風力、太陽光、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーは合計しても1%にも満たないことがわかります、つまりグラフに出現しません。

 さて3.11以前ですが、2010年8月に夏の電力のピークを示しています、この年は酷暑でした。

 この月の発電実績がよく使われていますのでチェックしておきます。

 で、3.11が発生、その月より原子力発電所が次々に検査で停止になり再稼動されず原子力発電量は右肩下がりに落ち込んでいます、それを補うように火力発電が過去最高のペースで発電量を増やしています(グラフでは補助線で現しています)。

 3.11以後ですが、興味深いのは昨年夏ではなく今年の1月が電力実績のピークになっています。

 昨年夏には全国的に節電が行われたことと、それ以降各電力会社が火力発電の能力を高めたためと考えられます。

 この22ヶ月間でこの国の電力の動力にどのような変化が起こってきたのか、別の角度から視覚的に見てみましょう。

 3.11以前の例えば2010年4月の発電実績を円グラフで見てみます。

■図2:動力別月別発電実績(2010.4)

 ご覧のように、火力55%、原子力34%、水力11%の構成比になっていました。

 それが3.11以後、今年の1月にはがらりと構成比が変化します。

■図3:動力別月別発電実績(2012.1)

 火力90%、原子力5%、水力5%と劇的に構成が変わりました。

 原子力が減るに従い水力もある割合で発電量が落ちていることに注目してください。

 これは水力の中の揚力発電が動力を原子力に頼っているために原発の停止とともにその発電が止まっていったためと推測できます。

 現状分析のまとめです。

 日本総体としては3.11以降、原子力発電の減少を、節電と火力発電能力の増大で補ってきたことが数値でも理解できます。

 今年の夏を原発抜きで乗り越えることが可能かどうかは、今年の夏が去年並みの気温ならば1月の発電実績からまず問題ないだろうと推測できます。

 問題は2010年並の猛暑だった場合です。

 現在の発電能力では(つまり夏までにさらなる火力電力の増強が無ければと仮定すると)、原発抜きでは必要な節約をしなければ乗り切れないでしょう。

 いずれにしても火力発電の割合が90%を超えている現状は、エネルギー安全保障上問題があると言えそうです。

 ・・・



・4つのケース分けで将来をシミュレーションしてみる 

 さて今後のエネルギー政策を4つのケースの場合分けしてシミュレーションして見ます。

ケース1:原子力発電を全面停止

ケース2:原子力発電を全面再稼動

ケース3:原子力発電を2/3規模に縮小しつつ再稼動

ケース4:原子力発電を1/3規模に縮小して再稼動

 まず、ケース1:原子力発電を全面停止です。

 今夏も原発抜きで乗り切れると仮定した場合、すべての原子力発電所を即刻停止可能です。

 このケースでは、火力発電に集中している動力の分散を図るために、再生可能エネルギーのさらなる促進が急いで求められるでしょう。

 原油価格急騰など国際情勢によっては深刻な危機を招く恐れがあり、エネルギー安全保障上の観点から一部の安全性の高い原発再生可能エネルギーが代価できるまでに成長する一定の期間だけでもいつでも再稼動可能な状態にしておくような、バッファを持たせた政策が必要なのかもしれません。

 このケースでは将来の原発の使用量試算のシミュレーションの必要はありません。

 次にケース2からケース4の3パターンですが、次の前提で試算することとします。

 原発の耐用年数をケース2では40年、ケース3では30年、ケース4では20年とする。

 新規の原発は建設されないものとし、耐用年数を越えた原発から延長はいっさい無しに廃炉されるものとする。

 稼動原発を縮小していく際、どの原発を稼動させどの原発廃炉にするかの選択は、地域事情や立地の危険度、多様な検討事項から本来割り出されてるべきでしょうが、ここでは耐用年数、すなわち運転開始からより時間のたっている原発から廃炉されるという単純なルールを使用します。

 ではシミュレーションの前準備をします。

 全国54の原発を運転開始から時間のたっている順、つまり古い順・寿命の短い順に並べます。

 そして上からその原発廃炉になったら、震災前の原子力発電の能力4884.7万kwがどう減少していくか「残発電量」として計算します。

 なお、福島第一の1から4号機は廃炉が決定していますので、特別に表の先頭に並べます。

■表2:廃炉年順原子炉一覧と残発電量

電力会社 発電所 運転開始 出力(万kw) 残発電量
東京電力 福島第一 1 1971.3 46 4838.7
東京電力 福島第一 2 1974.7 78.4 4760.3
東京電力 福島第一 3 1976.3 78.4 4681.9
東京電力 福島第一 4 1978.1 78.4 4603.5
日本原電 敦賀 1 1970.3 35.7 4567.8
関西電力 美浜 1 1970.11 34 4533.8
関西電力 美浜 2 1972.7 50 4483.8
中国電力 島根 1 1974.3 46 4437.8
関西電力 高浜 1 1974.11 82.6 4355.2
九州電力 玄海 1 1975.1 55.9 4299.3
関西電力 高浜 2 1975.11 82.6 4216.7
関西電力 美浜 3 1976.12 82.6 4134.1
四国電力 伊方 1 1977.9 56.6 4077.5
東京電力 福島第一 5 1978.4 78.4 3999.1
日本原電 東海 2 1978.11 110 3889.1
関西電力 大飯 1 1979.3 117.5 3771.6
東京電力 福島第一 6 1979.1 110 3661.6
関西電力 大飯 2 1979.12 117.5 3544.1
九州電力 玄海 2 1981.3 55.9 3488.2
四国電力 伊方 2 1982.3 56.6 3431.6
東京電力 福島第二 1 1982.4 110 3321.6
東京電力 福島第二 2 1984.2 110 3211.6
東北電力 女川 1 1984.6 52.4 3159.2
九州電力 川内 1 1984.7 89 3070.2
関西電力 高浜 3 1985.1 87 2983.2
関西電力 高浜 4 1985.6 87 2896.2
東京電力 福島第二 3 1985.6 110 2786.2
東京電力 柏崎刈羽 1 1985.9 110 2676.2
九州電力 川内 2 1985.11 89 2587.2
日本原電 敦賀 2 1987.2 116 2471.2
中部電力 浜岡 3 1987.8 110 2361.2
東京電力 福島第二 4 1987.8 110 2251.2
中国電力 島根 2 1989.2 82 2169.2
北海道電力 1 1989.6 57.9 2111.3
東京電力 柏崎刈羽 5 1990.4 110 2001.3
東京電力 柏崎刈羽 2 1990.9 110 1891.3
北海道電力 2 1991.4 57.9 1833.4
関西電力 大飯 3 1991.12 118 1715.4
関西電力 大飯 4 1993.2 118 1597.4
北陸電力 志賀 1 1993.7 54 1543.4
東京電力 柏崎刈羽 3 1993.8 110 1433.4
中部電力 浜岡 4 1993.9 113.7 1319.7
九州電力 玄海 3 1994.3 118 1201.7
東京電力 柏崎刈羽 4 1994.8 110 1091.7
四国電力 伊方 3 1994.12 89 1002.7
東北電力 女川 2 1995.7 82.5 920.2
東京電力 柏崎刈羽 6 1996.11 135.6 784.6
東京電力 柏崎刈羽 7 1997.7 135.6 649
九州電力 玄海 4 1997.7 118 531
東北電力 女川 3 2002.1 82.5 448.5
中部電力 浜岡 5 2005.1 126.7 321.8
東北電力 東通 1 2005.12 110 211.8
北陸電力 志賀 2 2006.3 120.6 91.2
北海道電力 3 2009.12 91.2 0

 まずケース2、耐用年数を40年とした場合、上から7行目までの7原発はすでに廃炉決定です。

 従って全機再稼動だとしても、54−7、47基のみであり、総発電量は4483.8万kwとなります。

 このケースでは約40年間掛けて原発をゆっくり廃止していきますので、代価エネルギーが成長するまで時間が最も稼げます。

 次にケース3、耐用年数を30年とした場合、表の21行目までの原発が即廃炉となり、再稼動する原発数は33基、総発電量は現状の2/3の規模である3321.6万kwとなります。

 当然ながらこのケースでは約30年かけての完全な脱原発となります。

 最後にケース4ですが、耐用年数を20年とした場合、約2/3の原発が即廃炉となります。

 再稼動する原発は16基、総発電量は1715.4万kwとなります。

 このケースは約20年ですべての原発廃炉となります。

 図に示します。

■図4:ケース別原発発電量推移シミュレーション結果

 ・・・

 このエントリーで示したのは一つの規模的な試算であり、あくまで読者の参考になればと考えたものです。

 なお、現状では新設を続け原発を増やす、つまり使い続ける想定は排除いたしました。

 (遠い将来画期的な技術発展があって国民世論の転換があればその可能性も排除しませんが)

 このエントリーが読者の参考になれば幸いです。



(木走まさみず)