木走日記

場末の時事評論

末端労働者を守る気がない「連合」という名の「労働貴族」階級

 23日付け読売新聞電子版速報記事から。

「5人が一度だけ装着」と証言…線量計鉛カバー

 東京電力福島第一原発事故の復旧現場で、作業員の被曝(ひばく)線量を低く装うために線量計を鉛カバーで覆っていた問題で、元請け会社「東京エネシス」(東京都港区)は23日、鉛カバーは、下請け会社の役員らが12個作製し、役員ら作業員5人が使用したことを明らかにした。

 一緒に作業した他の4人は使用を拒んだという。

 東京エネシスによると、同社の聞き取り調査に、下請けとして作業を行った建設会社「ビルドアップ」(福島県)の役員が「鉛カバーの作製と装着を指示し、昨年12月1日に一度だけ自分を含む5人の社員がカバーを装着した」と証言。他の社員は装着したことはないと答えた。

 役員は同11月下旬、第一原発周辺にあった高放射能の遮蔽(しゃへい)に使う鉛板(厚さ3〜4ミリ)を見つけカバーに加工することを発案。役員と従業員の2人で同月末までに金づちなどを使って「コ」の字形にして12個作り、原発敷地内の移動で使う車のトランクなどに隠していた。

 昨年12月1日の朝、役員は作業拠点の「Jヴィレッジ」(福島県楢葉町)で8人にカバーを使用するように指示。免震棟で防護服に着替えたのち、役員を含め9人で車2台に分乗して作業現場の第一原発に移動した際、役員と、同じ車の計5人が車中でカバーを装着した。別の車の4人は「付けたくない」などと使用しなかった。

 この日の作業は約3時間で、鉛カバーを使用したのは30〜40分ほどだったとしている。役員は「使ってみたが、線量に変化がなさそうなのでやめた」と証言。その後、見つかるのが怖くなり、第一原発6号機近くのゴミ捨て場にすべてを捨てたとしている。役員は「悪いことをやっているという認識はあった。大変申し訳ないと思う」と話したという。

(2012年7月23日14時32分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20120723-OYT1T00568.htm

 うむ、東京電力福島第一原発事故の復旧現場で、下請け会社の作業員5人が作業員の被曝(ひばく)線量を低く装うために線量計を鉛カバーで覆っていたことが明らかになりました。

 この記事ですが、もっと大きくクローズアップされてしかるべきです、この国の末端労働者の深刻な労働環境問題が象徴的に顕れていると思われるからです。

 まずこの事故復旧作業ですが、東京電力という大企業から、やはり東京電力グループの大企業である一部上場会社である「東京エネシス」が受注し元受会社となり、その下で地場企業を中心とした多くの中小零細下請け会社が孫受けしています。

 実際に危険な現場で「被曝労働」に従事するのは中小零細下請け会社作業員が中心なのであります。

 今回下請けとして作業を行った建設会社「ビルドアップ」はホームページによれば、従業員120名の福島県の建設会社です。

ビルドアップ株式会社
http://www.build-up.co.jp/index.html

 実際作業員5名が線量計を鉛カバーで覆って現場作業を行ったわけですが、ここには大きな問題が2つあります。

 ひとつは元受会社である東京電力グループ「東京エネシス」の管理監督責任問題です。

 現場作業員が線量計を鉛カバーで覆っていても事実上チェックされなかったというきわめて杜撰な体制だったわけですが、「東京エネシス」の下請け作業員に対する安全衛生対策はどのように取られていたのか、はなはだ疑問です。

 事実、「東京エネシス」は23日付けでネット上「ポケット線量計APDの鉛カバーに関する報道について(2)」というPDFファイルを公開してこうお詫びしています。

(前略)
以上のことから総合的に判断しますと、こうした不適切な行為が継続して行われたものではないと考えられ、当該協力企業作業員の本作業も含めた年間の累積線量に与える影響は十分小さいと考えられます。
しかしながら、仮に一度だけの装着であったとしても、その行為は法令違反であり、あってはならないことであります。当該協力企業には、徹底した事実の解明と再発防止策を講じ、すみやかに報告するよう強く指示いたしました。
また当社は元請企業として、当社のすべての協力企業を対象に作業をされる方の健康確保の観点から、入所時放射線防護教育等を徹底して行うこととし、今後こうした行為が二度と行われないよう、万全を尽くします。
この度の問題で社会の皆さまにご心配をお掛けしたことを改めてお詫びするとともに、以上の通り、現段階でのご報告をさせていただきます。

(太線は木走付記)
http://www.qtes.co.jp/irinfo/pdf/2012-7-23.pdf

 「当社のすべての協力企業を対象に作業をされる方の健康確保の観点から、入所時放射線防護教育等を徹底して行うこととし、今後こうした行為が二度と行われないよう、万全を尽く」すと、今までろくに下請け企業に教育・指導していなかったことを事実上認めているのです。

 もう一つの問題点は、「線量計を鉛カバーで覆って現場作業を行った」のが下請け会社役員の発案であったという悲しい現実です。

 おそらく派遣形態だったであろうこの現場では労賃は日当時間清算であったことから、少しでも売上を立てるために下請け会社としては厳しい労働環境の中「一人の労働者を一日でも長く働かせたい」という当然のインセンティブが働いていたのでしょう。

 そのために労働者一人当たりの年間制限被曝量に達するのを1日でも遅らすよう、この愚かな行為に及んだのでありましょう。

 行為そのものは当事者である下請け会社並びにその役員の責であることは明白ですが、下請け労働者に対し杜撰な安全管理しかしていなかった東京電力グループの責任も当然追及されてしかるべきです。

 ・・・

 東京電力といえば民主党政権を支える「連合」傘下の有力労組電力総連に加盟しています。

 しかしながら、なぜかこの末端労働者に対する安全確保に電力総連は沈黙を守っています。

 自社正規社員以外、ましてや下請け労働者の安全対策など関心がないというのでしょうか。

 23日付け東京新聞紙面記事から。

連合 政権批判に背 問われる存在意義

 野田政権への批判が高まる中、民主党最大の支援団体、連合の存在意義が問われている。野田佳彦首相が消費税増税で自民、公明両党と連携しようが、反消費税増税を掲げた小沢一郎元代表を切り捨てようが、連合は政権を後押し。傘下の電力系労働組合への気兼ねか、関西電力大飯(おおい)原発の再稼働反対運動にもくみしない。連合の姿勢には疑問も出ている。 (佐藤圭)
(後略)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2012072302000109.html

 紙面では20面、21面と2面を大きく使った特集記事ですがネットでは有料記事扱いなので上記無料公開部分以外の内容の引用は避けますが、小沢グループの切捨て、消費税増税大飯原発再稼働、一連の野田政権の動きを後押ししている連合の姿勢を批判する東京新聞特集記事なのであります。

 公務員労組・民間大企業労組の連合体である組合員総数約670万人「連合」でありますが、言うまでもなく民主党最大の支援組織であります。

 全労働者の8割以上が働く中小零細企業、全労働者の3人に1人以上が非正規労働者である現在、公務員・大企業の正規社員中心の「連合」は、もはや労働者の代表とは言えず、一部からは組織全体が「労働貴族」階級に成り下がっていると批判されているわけです。

 参加の有力組合に電力総連・電機連合を抱えていますので脱原発には絶対にくみできないのは理解しますが、それにしても本来労働者を守るべき労働組合であるはずの「連合」が、末端労働者の被曝労働に沈黙を守っているのは、「貴族階級」と批判されても仕方が無いでしょう。

 「連合」という労働組合連合体の存在意義が今こそ問われているのだと思います。



(木走まさみず)